Sunday, July 21, 2024
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アメリカ医療のトリセツ # 23

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アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP) – 最終回

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2年間ほど連載をさせていただきました「アメリカ 医療のトリセツ」も、今回が最終回となります。主 に日本からアメリカに引っ越してきたばかりの皆様への アメリカ医療についての解説を目的として記事を書い てまいりました。少しでも皆様のアメリカ生活の助けに なりましたら、幸いです。

最終回の記事は、アドバンス・ケア・プランニング (Advance Care Planning: ACP)です。しばらく前に、日本 でも「人生会議」という名前が付き、ニュースやポスター などで広報がされていましたが、皆様はどう受け止めら れたでしょうか? 多くの方は、ACPと聞いても「何をすれ ばいいのか、全くわからない」または「ACPは人生の終末 期に延命治療をするか、どうか決めること」という状況 ではないかと思われます。また、この様な話は高齢者の 方々がするべきもので、若い人たちには必要ない、と感じ る方もおられるかと思います。実際には、年齢に関係な く、考える価値のある事柄ですので、解説をしていきたい と思います。

1.アドバンス・ケア・プランニング (Advance Care Planning: ACP)とは

ACPの必要性が見えてきたのは、1980年代後半から アメリカで盛んに使われ始めた、アドバンス・ディレク ティブ(事前指示書Advance Directive: AD)が当初の想 定に反して、上手く機能しなかった反省からでした。医 療技術が進み、人工呼吸器や経管栄養などにより、時 には本人の意思に反して延命治療が行われることが問 題視されたことからADが生まれました。「自分の人生 の最後を、自分の希望した形で迎えたい」と考えた人た ちはADの書類を準備し、その時に備えたのですが、実 際にその時になると医師たちと話をするのは本人では ないことが多く、患者本人の希望が反映されないまま 延命治療が続けられる、または逆に中止されるという ことが起きていました。その原因として、書類を作るだ けで、本人と家族(特に本人が医師と話ができない時に 代理意思決定者となる人)、医療関係者が事前に適切 な話し合いをしていないことが問題だとわかってきまし た。この反省から、ADの書類作成を含めて、自分の人生 観・価値観を考え、人生の最終段階に差し掛かった時 に、どの様に過ごしたいかを家族や大切な人たちと話 し合うこと(ACP)が薦められる様になりました。

2.ACPで何を話せば良い?

ACPが大切なことであるとは、多くの方が感じておら れるかと思います。が、何をどうしたら良いのか、分か りにくいこともあり、その話をする機会を見出せないこ とも問題であると言われています。ACPで話をする内 容は、特定の項目を必ず網羅しないといけない、という ものではなく、その話し合いをすること自体が特に重要 と考えられています。とはいえ、道案内が無くては、第 一歩を踏み出すこともままなりませんので、ここでは一 般的な事柄をThe Conversation Project (対話プロジェクトhttps://theconversationproject.org )のガイドを 参考に解説します。  まず、ACPの話をする時に大切な事柄は、人生の最終 段階に到達した時、つまり自分に残された時間が限られ ている時、自分にとって何が大切か、を考えることです。 この大切なことが、なるべく守られるように自分の治療 やケアの希望を考えていくからです。そして、自分の大切 なことを家族や大切な人に伝えておくことが重要です。

また、自分の余命が限られてきたような時に、患者と して、どの程度医療情報を知りたいか、治療の決定に関 わりたいか、ということも考えてみましょう。もし、自分 が治療のことなどを自分でしっかり聞いて決断したいタ イプの場合にはその旨を家族や医師に伝え、さらに、も しも自分が話をできない状態になってしまった時に、ど の様な治療やケアをしてもらいたいか(あるいは、して もらいたくない)事前に伝えておくことをお勧めします。 もし、自分の病気の進行具合などを知りたくない、医師 と話をしたり、治療方針を決めたりするのは家族や代 理意思決定者 (Durable Power of Attorney for health care: DPOA-HC)に任せたい、という場合も、やはりそ の旨を家族や代理意思決定者に伝えておく必要があり ます。この様な場合、実際に家族たちが治療方針などを 医師たちと話し合うときの参考となる様に、自分にとっ て大切なことは何か、わかる範囲で「受けたい治療・ケ ア、受けたくない治療・ケア」を前もって伝えておくと、家 族たちの精神的負担が軽くなります。代理意思決定者 (Durable Power of Attorney for health care: DPOA-HC) は医療に関することを患者が医師と話し合いをすること ができない状態の時に、代理人として話を聞き、患者の 価値観を伝え、医療の方針を決める人です。これは家族 でも、そうでない人でも大丈夫ですが、事前にADの書面 で指定しておかないと、ミシガン州では一番近い関係に ある家族が自動的に代理意思決定者になります。その 優先順位は、配偶者、成人した子供、両親、兄弟姉妹、 という順番になっていきます。もし、近しい家族がいな い場合、配偶者ではなく子供など一番近いわけではな い家族を指名したい、あるいは気心の知れた親友に代 理意思決定者になってほしい、などの希望がある場合に はADの書類でその人物を指名し、正式に代理意思決定 者(Durable Power of Attorney for health care: DPOAHC)にしておくことをお勧めします。

自分の受けたい治療やケアについて、何を伝えてお いたら良いのかわからない、というときは、具体的な治 療内容について話す必要はありません。その時には、自 分にとって大切なこと・生きがいとはなにか、自分が楽 しみにしていること、気掛かりなこと、そして「この様な 状態になったら、生きている意味がない」と考える状況 などがあれば話をしておきましょう。

3.いつACPの話し合いをするべき?

私たちの人生観や価値観は生活環境や年齢によって変わってくるものです。ですので、ACPも時々変更がな いかどうか確認をすることをお勧めします。話し合いを するタイミングは、年齢に関係なく、以下の様な時が考 えられます。 健常時: 毎年の健康診断の時。結婚や離婚をした時、子供が産まれ た時など家族の環境が変わった時も良いタイミングです。 慢性疾患や進行性の病気にかかった時: 新しい病気を診断された時や手術などの治療で病院に入 院することなどがあった時もACPを見直す良い機会です。 余命が1年以内など、時間が限られてきたと思われる時 は特にACPが大切になってきます。家族や身近な大切 な人たちに自分がどの様に限られた時間を過ごしたい のか、伝えておきましょう。

4.事前指示書(Advance Directive)

ACPの話し合いをし、自分の代理意思決定者(Durable Power of Attorney for health care: DPOA-HC)や希望 する(または希望しない)治療・ケアの考えがまとまっ たら、上述のAdvance Directive(AD:事前指示書)とい う書類を作成し、かかりつけ医の電子カルテに登録し てもらうことをお勧めします。実際には書類をスキャン してファイルとして記録するとともに、内容を電子カル テに反映させる作業が行われます。それにより、ADの 書類を持ち歩いていなくても、何かがあって病院に入 院するようなことがあっても、必要な時に代理意思決 定者に連絡され、自分が前もって示してある医療に関 する希望を尊重した形でケアを受けることができます。 ちなみに、もし書類を作成した後に気が変わった場合 には、いつでも、どの様な形にも変更可能です。その際 は、病院の担当医にその旨伝えれば問題ありません。 その際には、可能であれば速やかに、ADの書類を新し く作り替えましょう。ADの書類はかかりつけ医のクリ ニック、病院などに用意してあります。

参考: The Conversation Project (日本語ガイド) https://theconversationproject.org/wpcontent/uploads/2017/10/ConversationProjectConvoStarterKit-Japanese.pdf

 

筆者プロフィール:
医師 清田礼乃 (きよたあやの)
ミシガン大学医学部 家庭医学科助教授 
千葉県出身。聖マリアンナ医科大学卒業。University of Pittsburgh Medical Center Shadyside 家庭医学研修、Detroit Medical Center / Wayne State University ホスピス・緩和医学フェローシップ、University of Hawaii 老年医学フェローシップ、およびUniversity of Hawaii医学教育フェローシップ修了。2016年よりミシガン大学医学部家庭医学科に所属しLivonia Health Center, Chelsea Retirement Community, 及びミシガン大学病院にて家庭医学、老年医学、緩和医療の診療をしています。

アメリカ医療のトリセツ # 22

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家庭内暴力・小児虐待について

日本でもアメリカでも、国にかかわらず、残念 ながら家庭内暴力や小児虐待は起こってい ます。ただ、それに関する法律や対処の仕方はアメ リカと日本では大きく異なるので、知っておくこと が大切です。

日本で時々、児童虐待によって幼い子供が死亡 したという悲しいニュースをみますが、日本では 周囲の人や児童相談 所の職員が虐待を疑ってい ても、なかなか子供を親から引き離すことは困難 です。アメリカでは状況はかなり違います。アメリ カでは虐待を少しでも疑った場合は、証拠がなく ても、州のカウンティの児童保護サービス(Child Protective Service; CPS)に通報することが義務 付けられています。CPSは報告を受けると、状況に よっては警察官を派遣することもありますし、CPS の職員が自宅を訪問することもあり、更にはその 場で子供が両親から取り上げられることもありま す。今いる環境が安全であるとみなされない限り は、子供はその環境から離されて里親に預けられ ます。この処置は日本と比べてかなり厳しく、疑わ しくても親のサポートをすることで子供を救おう という日本の児童相談所のアプローチとは大きく 異なり、疑わしければ子供の安全を最優先する、 というのがアメリカのアプローチです。アメリカで は日本よりも里親の謝礼金の支払いが高く、登録 されている里親の数も多いようです。

体罰は、以前は躾の一部とみなされることもあ りましたが、虐待・体罰・躾の境界線ははっきりせ ず、現在は日本でも、学校・家庭共に体罰は禁止 されています。子供を叱るときに、言葉でいっても わからないときに叩く、というのは時々聞きます が、基本はすべきではありません。アメリカの学校 で、親に叩かれた子供が友達や先生にそのことを 話すと、話を聞いた大人はCPSに報告する義務が あります。その場合は児童虐待とみなされる場合 もあります。また日本人の感覚では全く虐待に相 当しそうでなくても、報告されることもあります。 例えば、家族でハイキングやキャンプに行って転ん で顔に傷がついた場合、顔の痣を見た隣人や先生 はCPSに報告するかもしれません。蒙古斑をみた 保育所が殴られた痣だと思ってCPSに連絡した例 もあります。

では、子供が実際に虐待を受けていると家族が 感じている場合はどうでしょうか。例えば、父親から子供への虐待を、母親が心配している場合など です。母親は心配しているので、かかりつけ医に相 談するかもしれません。相談された医師は、報告義務があるので、CPSが関与して、父親は刑務所に 入ることもあります。父親が刑務所に入らない場 合は、子供が里親に送られる場合もあります。この 場合、母親が父親と離れるという選択をしない限 りは、母親も子供には会えなくなります。アメリカ は小児虐待には厳しく対応するシステムが出来上 がっています。ですから虐待はもちろん、体罰・躾 目的など、どのような理由があっても、子供に対し ては殴る・蹴るなどの暴力はすべきではありません し、それが知られると大問題になります。

以前に私が日本で研修医だった頃、救急外来で 額に傷ができた子供を処置したことがあります。 この両親は夫婦喧嘩でお茶碗を投げ合っていたの ですが、父親がお茶碗をよけた後ろに、子供がい て、母親が父親めがけて投げた茶碗が子供の額に 当たって怪我をしました。この両親は子供を傷つ ける気が全くなかったのは明らかで、子 供がけが をしたことであわててそろって救急外来に子供を 連れてきたわけですが、これがアメリカだったら、 子供のいる環境は危険ということで、両親からは 引き離され長い経過観察を経て、安全と確認され て初めて親元に戻される、という経過をたどるこ とになったでしょう。このように、子供に対する虐 待・暴力に対しては、アメリカの制度は日本より ずっと厳しくなっています。

では、大人の間での家庭内暴力、虐待はどうで しょうか。例えば、夫婦間で言葉や身体的暴力を パートナーから受けている、というような場合で す。暴力が起こっているときには、警察を呼べば、 警察が来て暴力をふるっている人を逮捕してくれ ることもあります。注意で済むこともあれば、留置 所に行くこともありますが、長く拘束されることは なく、また暴力は続きます。暴力を受けている大人 が、自分で判断して行動できる能力がある場合、 その対処は本人がするべき、とされています。つま り、子供の虐待とは異なり、虐待者から逃げるの は被害者の意思でする、という考え方です。家庭 内暴力ホットライン(800-799-7233)などに相談 すると、どうやって逃げるかなど具体的に協力し てくれます。一般的には、セイフハウスと呼ばれる 共同宿泊施設を紹介してくれます。セイフハウスに は、虐待者に居場所を知られないで子供と一緒に 住むことができます。ただ、そこに移る決断をする のは被害者ご本人しかできません。経済的な理由 などにより、虐待されていても一緒にいることを 選ぶ人も多く、その場合は、子 供が暴力を受けて いない限り、本人の意思で虐待されている環境に とどまることも自由です。

大人でも、自分で判断や行動ができない人の場 合は、状況が多少異なります。例えば、知的障が い者、認知症のある高齢者など、自分では逃げた くても逃げられない立場の人たちには、成人保護 サービス(Adult Protective Service; APS) が関与 してくれます。高齢者や知的障碍者が十分な食事 を与えられていない、必要な世話をしてもらえな い、などのネグレクトは暴力・虐待と同等と考えら れます。自分がそういう目にあっている、または、知っている人 がそういう扱いを受けていると思 う、という場合には、州カウンティの成人保護サー ビス(Adult Protective Service; APS)または、家 庭内暴力ホットライン(800 -799-7233)https:// www.thehotline.org/ から相談できます。

このように、日本とアメリカでは、家庭内暴力・ 虐待に対する制度が大きく違いますので、知って おくことが大切です。

筆者プロフィール:
医師 リトル(平野)早秀子(ひらのさほこ)
ミシガン大学医学部
家庭医学科助教授
リボニア・ヘルスセンター
1988年慶応義塾医学部卒業
1996年形成外科研修終了。
2008年Oakwood Annapolis
Family Medicine Residency 終
了後、2008年より、ミシガン大学
家庭医学科で日本人の患者さんを診察しています。産科を含む女性の
医療、小児医療、皮膚手術、創傷のケアに、特にちからを入れています。

 

アメリカ医療のトリセツ # 21

アメリカ医療のトリセツ
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家庭計画・避妊方法について

 

 先月号では、アメリカにおける妊娠中絶に関する問題について書きました。アメリカでは州によっては人工妊娠中絶は違法ですし、現在合法となっている州でも、いつ違法扱いになるかわかりません。日本では中絶は可能といえ、自分のお腹に宿った小さい命ですから、殺すことになることがわかっているなら、又は、子供を産んで育てることが大きな問題になることがわかっているなら、妊娠しないようにすることがベストです。
 日本では、かかりつけ医制度がそれほど確立していないこと、かかりつけ医が必ずしも避妊についてカウンセリングをしない事、多くの避妊法が保険適応にならない事、などの様々な理由から、避妊についての教育やカウンセリングを受ける機会が少なく、コンドーム以外の方法についてはほとんど知られていないのが現状です。
 アメリカでは、妊娠・出産が保険適応になるのと同様に、避妊も保険適応になることが多く、かかりつけ医に定期検診に行くと、妊娠をしたいかどうか聞かれ、したくない人は確実な避妊をするように勧められます。生理がある人は誰でも妊娠可能なのに、日本人は、40歳を過ぎると妊娠しないと思っている人も多く、日本では45歳以上の中絶率はとても高くなっています。日本では10代の中絶率もとても高く、若い世代への避妊の教育がされていないことが大きな理由と思われます。文部科学省の規定で、学校では性交渉について教えない決まりになっていることも、知識不足による未成年の妊娠につながっています。日本では、わざわざ避妊ピルを処方してもらうために産婦人科にかかる人はとても少ない上、保険が効かないことも問題です。本来、ティーンエージャーに教育するべき両親に知識がないと教育することは難しいので、大人も子供も、避妊については知っておくことが必要です。
 日本では、コンドームが一般的に使われていますが、コンドームは射精の直前に装着したのでは遅すぎる場合があり、また、破れたりすることもあり、失敗率が高いことが問題です(100人中15-30人が1年間に妊娠する)。膣外射精は、避妊とはみなされないほど失敗率が高く(100人中20人が一年間に妊娠)、また排卵日を避けるなどの方法も確実な避妊とはなりません。
 避妊ピルを毎日服用する方法は、飲み忘れがない限り避妊効果は高いですが、飲み忘れた場合には効果が下がり、妊娠の原因になります。ただ、毎日薬を飲むことが問題なくできる人にとって避妊ピルは便利で、月経量が多い、生理痛、生理前症状が強いなどの場合、これを飲むことで症状は軽減されますし、生理の頻度を減らすこともでき、このような症状がある場合は保険適応になることもあります。子宮内膜症やチョコレート嚢胞などがある人は、避妊ピルを服用することで病気が改善するので、一石二鳥のこともあります。ただ、月経に問題がなく、避妊が主な木庭な場合は、日本では保険適応になりません。また、日本では薬の処方を継続して受けるために頻繁に受診しなければいけないことも多いですが、アメリカでは1年分が薬局へ処方できるため、薬局に3か月に一度受け取りに行けばいい仕組みになっています。また、保険が避妊ピルをカバーしなくても1か月分で4ドルから9ドル程度の値段で買うことができます。
 アメリカでは、避妊ピルの代わりに、週一度皮膚に貼るパッチや、膣内に挿入してホルモンが徐々に放出されるNuvaRingという器具もあり、毎日薬を飲むのを忘れがちな人にはお勧めです。これも、薬局に処方箋が届き、薬局から受け取る形になります。また、3か月に一度、クリニックで注射をうける、Depo Proveraという方法もあります。どの方法も、月経の量も痛みも軽くなります。
 子宮内避妊具、(Intra Uterine Device = IUD)は日本にもアメリカにもあり、両方で使用されています。「リング」という名前で聞いたことがある人が多いかもしれません。その種類は大きく分けて2種類あり、ホルモンが徐々に放出される「ミレーナ」(Mirena, Inter uterine system=IUS)と、ホルモン治療ではなく、銅でできていることによって着床を阻害する「銅付加IUD」(Paragard)があります。卵胞ホルモンが持続的にでるIUDは、生理が軽くなり、ほとんど生理がなくなる人もいます。生理痛がひどい人や出血量が多い人には最適で、7年間留置できます。銅付加IUDは、生理は軽くなりませんがホルモン剤が入っていないため、体調の変化もありませんし、10年間継続して留置できます。妊娠する可能性はどちらも1%未満で、確実な避妊法です。挿入後も妊娠したい場合は医療機関で簡単に取ることが出来、妊娠しやすさは元通りになります。アメリカでは保険適用になることがほとんどですが、あらかじめ確認することが必要です。日本では、生理痛や月経過多などの症状がある人は、ホルモン放出型のIUDは保険適応になることがあります。日本でも行われているため、アメリカで挿入してから日本に帰国しても、日本の産婦人科で診てもらえるので安心です。
 アメリカでは、上腕の内側の皮下に挿入するホルモン放出型のインプラントもあり、ミレーナ同様、生理が軽くなります。これは、3年で入れ換えることになっています。日本にはないので、日本に帰る予定の人は他の方法がいいかもしれません。
 このような様々な避妊法のうちで、どれが自分に合っているか等を相談するのは、かかりつけ医との年一度の検診の時にするのが最適です。アメリカでは、ほとんどのかかりつけ医が、家族計画や避妊方法について話し合う用意があります。時々、妊娠はしたいか、したくないか患者さんに聞くと「わからない」という答えが返ってくることがあります。「できたらできたで」という回答をよく聞きますが、妊娠したら嬉しいのか、できればしない方がいいのか、ご自身とご家族と、よく話し合って決める事がベストです。
「できたら嬉しい」という人はきちんと葉酸を飲んで妊娠に備え、妊娠したら困る、という人はきちんと避妊することをお勧めします。生理がある人は誰でも妊娠可能なので、妊娠したいと思っていない人は、是非避妊をして中絶をしなくていいようにしましょう。
 では、最後に、妊娠したくないけれど、避妊をせずに性交渉してしまった、コンドームが破れた、ピルを飲み忘れたのに性交渉してしまった、などの場合は、どうすればいいでしょうか。アメリカでは、緊急避妊薬( Moring after pill)は処方箋なしで薬局で購入できます。性交渉後72時間以内に服用すれば、ほとんどの妊娠は予防できます。ただ、40ドル程度するので、毎回それに頼るのは、経済的にも望ましくありません。日本では、緊急避妊薬は、現在のところ処方箋が必要なため、処方をしてくれる産婦人科医にすぐに受診する必要があります。
 避妊のために体の中に器具を入れたり、薬を飲んだりすることに抵抗がある人も多いと思います。また、まさか自分が希望しない妊娠をして中絶をすることになる、とは思いもよらないという人も多いと思います。以前に不妊だったとしても、妊娠することもありますし、今まで10年間避妊しないで妊娠しなくても、45歳で妊娠することもあります。中絶は、体にも心にも傷を残すことがあり、できればきちんと避妊をすることで、予防をすることをお勧めします。
筆者プロフィール:
医師 リトル(平野)早秀子(ひらのさほこ)
ミシガン大学医学部
家庭医学科助教授
リボニア・ヘルスセンター
1988年慶応義塾医学部卒業
1996年形成外科研修終了。
2008年Oakwood Annapolis
Family Medicine Residency 終
了後、2008年より、ミシガン大学
家庭医学科で日本人の患者さんを診察しています。産科を含む女性の
医療、小児医療、皮膚手術、創傷のケアに、特にちからを入れています。

アメリカ医療のトリセツ # 20

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

アメリカでの妊娠中絶について

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アメリカ医療のトリセツ # 19

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

アメリカでの妊娠・出産について

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アメリカ医療のトリセツ # 18

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

予防接種(ワクチン)について

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アメリカ医療のトリセツ # 17

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

日本とアメリカの健康診断(ヘルスメンテナンス)の比較

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アメリカ医療のトリセツ # 16

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アメリカ医療のトリセツ

歯医者や眼医者のかかり方について

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アメリカ医療のトリセツ # 15

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

メンタルヘルスケアの受け方

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アメリカ医療のトリセツ # 14

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アメリカ医療のトリセツ

患者ポータルサイト・オンライン診療について

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アメリカ医療のトリセツ # 13

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

患者さんの医療情報について

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アメリカ医療のトリセツ # 12

アメリカ医療のトリセツ
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薬局の使い方3 処方箋なしで買える薬について

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アメリカ医療のトリセツ # 11

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

薬局の使い方2(Tier system, prior authorization, Good Rx, scheduled drugについて

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アメリカ医療のトリセツ # 10

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

薬局の使い方1(処方箋、薬局の種類、リフィルとは)

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アメリカ医療のトリセツ # 09

アメリカ医療のトリセツ
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6. なぜアメリカの医療費は高いのか?

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アメリカ医療のトリセツ # 08

アメリカ医療のトリセツ
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5.アメリカの健康保険

(3) 保険のプランで何がカバーされるのか?

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アメリカ医療のトリセツ # 07

アメリカ医療のトリセツ
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5.アメリカの健康保険

(2) 保険のプランを選ぶのに必要な用語について

  アメリカの健康保険は日本と違い保険会社の数もプランの種類も多いうえ、転職や転勤の直後に じっくり考えたり相談する時間がない中で選ばないといけないことも多く、よく理解しないまま プランを選んでしまったことで、思わぬ出費につながることもよくあります。前回は、保険の種類を大ま かに説明しましたが、今回は、健康保険のプランを選ぶ際に知っておいたほうがいい用語の意味につい て説明します。

  保険のプランがいくつか提示されて選ぶ際に、つい、毎月の支払の少ないものを選びがちです。 ただ、今まで健康で特に医療機関にかかる必要がなかったとしても、この先今までなかったような 思わぬ事態が起こる可能性は十分あります。例えば、交通事故でケガをしたり、急に具合が悪くなって 救急外来受診をしたり、などの起こりうる状況を考えて、プランを選ぶ必要があります。

1. Deductible

  プランを選ぶ際にはDeductible に注意しましょう。日本語訳は、「控除対象」ですが、自動車保険でも健康保 険でも、deductibleというのは、その額までは自分が負担する、という意味です。自動車保険でdeductible $1000 というのは、1000ドルまでの出費は自分が負担し、それを超える分は保険会社が払う、という意味です。健康保 険でも、例えば、deductible $4000 という保険に入ると、4000ドルまでは、すべて自費で、それを超えたら保険が カバーする、という意味です。自己負担であるdeductibleを超えたら、保険がカバーしてくれるのは100%なのか、 80%なのか、ということも確認する必要がありますが、最低限その額に達するまでは保険は一切支払われない、と いうことを意味します。Deductibleが高い保険に入ると、医療を受けた場合の自費分が増えますが、入院や手術な どの高額な医療を受ける際には、一定額以上は保険が支払ってくれるので、何万ドル以上の医療費を支払わなくて はならない可能性は、かなり減らせます。また、deductibleが高いプランは、deductibleの低いプランと比べると、 月々の支払いは少ない仕組みです。

  D e d u c t i b l eが 高い 保 険も、予 防 的な検 診( p r e v e n t i v e c a r e)は10 0 %支 払わ れるプランが 多い です。そのため、毎年のがん検診や、健康診断で勧められる検査は概ね支払われ、本人に請求が来ることはほ とんどありません。ただ、具合が悪くなって受診した場合の受診料は、このdeductibleの額に到達するまでは、自 費となります。風邪をひいたくらいでは、医者にかかる必要はありませんが、ひどい腹痛が起きれば、救急外来に 行くこともあるかもしれませんし、その請求が2000ドルを超えることはまれではありません。  普段健康で、病院にかかることはめったにないから、毎月の支払いが安い、deductibleが高いプランを選ぶこ とはよくあります。それで、高額が請求が来る例をあげてみます。

<高額請求が来る例>

例1. 大腸癌検診のためにやった大腸カメラで、将来癌にな る可能性があるポリープが見つかり、カメラの時に同 時に切除された。一度に取ってもらったことはよかっ たが、3000ドルの請求書が来た。

☞ 解説:ポリープを見つける前までは検診でも、将来癌になる ポリープを取り除くという治療は検診ではなく、病気の治療とみ なされるので、自己負担が発生します。

例2. 乳がん検診のマンモグラムを受けたら、怪しいとこ ろがあるから、詳しいマンモグラムを受けるように勧 められ、詳しいマンモグラムと超音波を受けたら、 800ドルの請求が来た。

☞ 解説:詳しい検査は、検診ではなく、問題を診断するための 検査なので、自己負担が発生します。さらに、乳癌が疑われれ ば、生検(組織を一部取る精密検査)が勧められ、このような検 査も治療も、deductibleに達するまでは、保険が支払われない 契約になっています。癌検診をする目的は、早期に癌または前 癌病変をみつけて治療することなので、もし、癌かもしれない病 変が見つかった場合に、その検査や治療を支払わない保険は、 保険としての役割をあまり果たしていませんし、deductibleが高 い場合、その額に達するまでは、個人で払わないといけない、と いうことを理解しておく必要があります。

例3. 腹痛で救急外来を受診し、急性虫垂炎と診断さ れ、盲腸を取る手術をうけて3日間入院した。入院 費は4万ドルだったが、自己負担分はdeductibleの 5,000ドルだった。

☞ 解説:こういうdeductibleが高いプランを、catastrophic planとも呼びますが、これは、「とんでもないことが起こったとは、 多額の負債にはならないように、一定額以上は保険が払う」という意味です。保険がまったくないのに比べると、緊急入院や 手術などになった場合の医療費による、高額の負債のリスクを減らしてくれます。

  Deductibleは、1年間に個人でいくら、家族でいくら、というように決まっていることが多いです。例えば、妻が入院 してdeductibleをすでに払った場合、その年内で夫が検査や治療を受ける場合、すでにdeductibleに達しているとみな されて、保険が支払われることが多いです。保険の年度は、benefit periodといい、多くの場合は1月から12月ですが、保険 によっては違う場合もあるので確認が必要です(4月から3月、等)。例えば、年度初めにdeductibleに達すると、その 年のうちに別の検査をしても保険が払ってくれます。そのため、もし必要な検査が高額だから伸ばしていたような場合 は、deductibleに達した年のうちにやっておくと保険が支払ってくれるので、いい機会と思って受けるといいでしょう。 逆に、年末にせっかく自費分を払っても、年度が替わると、昨年度の自費分はdeductibleには加算されず、またゼロか ら払わないといけなくなります。

2. Copayment または Copay

  Copayment または Copayとは、一度に払う患者 負担分、という意味です。例えば、医者を受診する際 に、保険が効くことはわかっていても、かかるたびに Copayを払うことが決まっていることも多いです。プ ランに明記されているはずですが、主治医にかかる Copayが20ドルの場合、3回かかると、60ドルを診 療所に払う計算になります。また、アージェントケア (Urgent care)にかかる場合のCopayや救急外来に かかる場合のCopayもそれぞれ異なります。また、 かかる医療機関がネットワーク内か外かによっても、 Copayは違うことが多いので、自分がかかる医療機関 がネットワーク内なのか、外なのか、知っておくほう がいいでしょう。理学療法(リハビリ)なども、保険が カバーしても、Copayが25ドルとすると、10回行くと 250ドルの請求が来る計算になります。

  このように、健康保険のプランを選ぶ際には、注意 すべき点がいくつかあります。毎月の支払いだけでな く、万が一の事も考慮して、最もご自身やご家族に適 したプランを選びましょう。

  例えば、deductibleが高いプランと低いプランを比 べた場合、deductible が5000ドルのプランが、毎月 の支払いが500ドル少ないとすると、年間で6000ドル 節約できるので、その分、多少自己負担分を払って も、概ね節約したことになり、たとえ何かあって5000 ドル払っても、十分おつりがくる、という計算になりま す。ただ、アメリカの医療費は高いので、全体の20% を自己負担する、というようなプランは極力避けるこ とをお薦めします。

筆者プロフィール:
医師 リトル(平野)早秀子(ひらのさほこ)
ミシガン大学医学部
家庭医学科助教授
リボニア・ヘルスセンター
1988年慶応義塾医学部卒業
1996年形成外科研修終了。
2008年Oakwood Annapolis
Family Medicine Residency 終
了後、2008年より、ミシガン大学
家庭医学科で日本人の患者さんを診察しています。産科を含む女性の医療、小児医療、皮膚手術、創傷のケアに、特にちからを入れています。

アメリカ医療のトリセツ # 06

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

5.アメリカの健康保険

(1) 日本の保険との違いと、保険の種類について

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アメリカ医療の ト・リ・セ・ツ # 05

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

5. 医療通訳について

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アメリカ医療の ト・リ・セ・ツ # 04

アメリカ医療のトリセツ
アメリカ医療のトリセツ

4. 救急救命室(ER)または、アージェント・ケアの利用の仕方

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