デトロイトりんご会補習授業校は、新年度の4月より、文科省派遣教員として田中孝校長を迎えた。同校の借用校舎であるノバイ・メドウズ校にてお話を伺った。(JNC)

田中先生は日本国内だけではなく、在外教育施設(トロント補習授業校、教頭としてのシンガポール日本人学校)のご経験、ご自身のお子さんも帯同しての海外での教員生活を送っていらっしゃる。その経験豊かな38年の教員生活は埼玉県の中学校の国語科教諭からスタートした。ご出身は新潟県の佐渡だそうだが、大学進学を機に首都圏に出て、埼玉県で教員生活を送られた。なぜ教員を志したのかについての問いに、子供に向けるまなざしの温かさが返ってきた。子供とのかかわりに楽しさを感じた、という。教壇に立ってから数年後。巡り巡って、在外教育機関で教えることを希望して試験にも挑戦。赴任が決定し、行き先は「トロントだ」と告げられた。30秒で返答。広い世界を見てみよう、人生は1回しかないので、このチャンスにチャレンジしたという。

カナダ・トロント補習授業校に赴いたのは1989年から1992年。40歳以上の方はこの当時は、激動の世界情勢だったのをご理解いただけるだろう。中国の民主化運動に対して人民解放軍が介入した1989年の天安門事件、続く東欧革命によるベルリンの壁崩壊、1991年の湾岸戦争、ソ連邦解体、日本の自衛隊PKO協力と、日本にとって世界の大きな動きが「遠い世界ではない」という時代だった。その時にトロント補習授業校に赴任になり、2つの学校に通う生徒たち、ご自身もカナダの人々に助けてもらったご経験を持つ。現在のデトロイト補習授業校と同様に当時のトロント補習授業校は800人超の大規模補習校。トロントにある土曜日の補習校のために、アメリカ国境に近いWinsorから仕立てたバスに3時間かけてトロント補習授業校まで乗って通うご家庭もあったという。現在はアメリカとカナダの国境は「世界で最も安全な国境」と言われ、カナダから毎週デトロイト補習授業校に通うご家庭もある。お話を伺って、隔世の感だ。田中先生のおっしゃるように、小学1年生もこの土曜日だけのバスに乗って補習校に通っていたのは、やはり「日本語の補習校に通わせたい」という保護者の熱い思い。その“国境越えの思い”は現在もデトロイト補習校に対する保護者の思いとつながる。

激動の世界情勢から帰国し、埼玉県の川越市に戻る。日本の中学校の教員としての最初の10年間は、校内暴力との闘いだったが、帰任してみると一転して生徒たちの大暴れは少なくなっており、ポケベル(どの年代までご存じ?)、塾通い、ガングロ、ルーズソックスが席巻していた。そして2011年の東日本大震災ののち、「子供たちがおとなしくなった。外にエネルギーを発散しなくなった」という。思い返すと、約40年間の教員生活で、「10年ごとにエポックがあった」と。埼玉県の教員として最初に担当したのが、中学3年生。「みんな、いい大人になっている」―。

田中先生の教師生活は海外で学ぶ児童・生徒たちにとっては心強い。埼玉県の教員を定年の後、1年間初任者研修の指導に当たられ、続く3年間、この3月までシンガポールにて2度目の在外教育機関・日本人学校の教頭としてご活躍になり、この4月からデトロイト補習授業校の校長となられた。教育への熱い思いは気力、体力もやはり大切なことになる。「まだいける」、そのお考えから、続けて在外教育施設への派遣希望につながった。トロント時代に帯同しカナダで生活した田中先生のお子さんは、偶然にもこのミシガンに駐在なさったという。3度目の派遣も、「子供たちがお世話になったので恩返し」とご謙遜なさるが、それ以上に海外で学ぶ子供たちへの深いご理解を感じ、りんご会の保護者も頼もしく感じることだろう。

赴任してデトロイト補習授業校の様子で印象に残ったのは、中・高等部始業式、という。式の代表生徒の話だけではなく、話す人のことを立ってしっかりと聞く生徒の姿だとおっしゃる。当たり前のことをちゃんと行うところが学校のゆえんたるところ、温故知新という言葉どおり、デトロイトりんご会には今までのものを大切にしている積み上げられた歴史がある、それが大切にされているから未来がある、とおっしゃる。

お話を伺ったのは来米して3週間目の時だった。「街並みが美しく、広大な土地、空が青い」という印象をお持ちになったそうだ。3月まで赴任していたシンガポールは常夏だったが、トロントと同じように一夜にして緑一面に萌える四季の豊かなミシガンの街並みの美しさが印象に残ったそうだ。

就任後、デトロイトりんご会補習授業校の現在地を確認し、これから向かう方向を示したグランドデザインを提示した。次の50年に向けた学びの一歩として、9月以降の校舎移転を新たなチャンスととらえ、さらなるチャレンジ精神をもって学校経営にあたっていく。幼稚園部から高等部まで一貫教育の強みをさらに子供たちの学びに生かしていく。

エピソード

中・高等部の入学式で宮澤章二さんの「流れの中で」という詩を引用。“聞けるときにきいておかないと 決して聞けないコトバがある“から始まる詩。”しるせるときに しるしておかないと 二度とは記せない記録がある“。「自分だけが書く、自分しか書けないメッセージを書こうよ」。田中先生は難しい言葉を使わずに、児童・生徒たちにメッセージを届けていくそうだ。

 

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