日本の暦ではまさしくひな祭りの日にあたった3月3日、ひな祭りイベントがデトロイト美術館(DIA)で行われた。JCD(Japan Cultural Development)が企画運営したイベントで、朝から青空が広がり、10時の開館と同時のイベント開始にはややゆっくりだった出足も、午後からは多くの来場者でにぎわった。

数々の入場者体験型プログラム、姉妹州県滋賀の紹介、レクチャーホールでのパフォーマンス、展示、ガラポンゲーム、紙芝居、日本ギャラリーツアーが行われた。特筆すべきことは、今年は「Re-birth(再生)」をテーマにした参加型インスタレーションアートと和紙アートの展示がGreat Hallで行われたこと。2013年7月のデトロイト市財政破綻から丸10年が経過した。10年間でデトロイト市は市街地やダウンタウンの再開発で整備が進み、Amazonの物流センターの誘致など自動車産業以外の進出企業を歓迎していることも再生につながった。その中で日々この街に生きる人々がともに再生を歩んできたことは言うまでもない。インスタレーションアートは、藤井京子氏、山﨑信子氏、大竹紗央氏が担当。「一年前からこの企画を温めてきた。10年前の破綻時にはDIAにも危機があり、そこから再生した」(藤井氏)、「初めてのコラボで楽しく制作できた」(山﨑氏)と、再生の新たなスタートとなる新鮮な企画について語った。チューブと針金、そして巻きつけたフェルトの同作品について大竹氏は「(モチーフのピンクの)ミミズは体を収縮させながら前進する生物。忍耐強さ、コンスタントに頑張っていく様子が、再生と同じと感じた」と述べた。Great HallはWoodward Avenueからの入り口にあるので、そのインパクトの大きさは圧巻。この作品には、実は中に入っていくことができる。近くのテーブルで折り紙のだまし船、風車を折り、メッセージを書きつけ、つるしびなのようにメッセージをつるしていく、という趣向だ。「(折り紙に書かれた)人の願いを見てみたい、というのは日本的な心理。他者のメッセージを読むことで、他者とのつながりを持てることも考えた」と大竹氏は言う。再生、デトロイト、そしてこの美術館に足を運んだ人々は思い思いのメッセージを書きつけ、アート空間を楽しんでいた。

続くRivera Courtでは、ボランティアが大活躍。ひな祭りにちなんだ折り紙を来場者に楽しんでもらうOrigami Workshopが終日行われていた。同じフロアーでは、生け花、着物、雛段飾り、神輿の展示も行われていた。見事な雛段飾りの前では、子供連れやグループで来場した人々が記念写真を撮る様子も見られ、伝統的な日本の工芸・文化を楽しんでいた。OrigamiWorkshopの対面は生け花の展示。Ikebana InternationalのDetroit Chapter #85のLeslie Ann Rosinskiさんは「コメ、小花、水で春の到来をイメージした」と、日本文化のモチーフの中の静を表現していた。

Miyabiは1997年に発足、琴・尺八を文化イベントで演奏披露をするサークル。この日
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は6人で琴を演奏。13の弦が紡ぎだす音色に来場者は魅了された。現代音楽、『となりのトトロ』のテーマ曲、そして映画、ブロードウェイのミュージカルでも知られる『Fiddler on the Roof』 (邦題:「屋根の上のバイオリン弾き」)の劇中歌「Sunrise, Sunset」を演奏した。ジブリのアニメはアメリカでも有名だが、最近の世代はトトロの曲をあまり知らない人が増えてきているそうだ。帝政ロシア下のユダヤ教一家とコミュニティーを描いたこのミュージカルの劇中歌は世代や国を越え知っている人も多く、このひな祭りイベントでは演奏者を観客が大きく囲み、奏でる音に聴き入っていた。

ステージ上に茶室空間を作り、茶道のお点前を披露したのは表千家と裏千家の皆さん。桃の花が咲くころの季節感を床の間に架けられたひな祭りの掛け軸、花で演出した。お点前のあとには、先着限定名の参観者にお茶と春の茶菓がふるまわれた。デトロイト近郊からこのひな祭りに来た、という日本人と現地の親子連れの方は「何年か前にもこの祭りに来た。今日は久しぶりにPlay-Dateとしてこのイベントを選んだ。茶道は普段見ることはできないのでよかった」と伝統文化をともに楽しむ機会となったことを語った。

今年度、初めての企画としてDIAのボランティアによる「Japanese Gallery & Friendship Doll Tours」も行われた。DIAには2017年に創設された日本ギャラリーがある。仏像、兜、現代陶磁器作家の作品の展示、能舞台の説明のビデオ、茶室・茶道具の説明のシミュレーションなどがある。最近展示を衣替えし展示が始まった円山応挙の1781年の作、「龍と虎」の屏風を前にして、作者の意図的な空間の配置を15名ほどのツアー参加者に解説をした。その後、ツアーは6月5日まで行われている「Japanese Friendship Dolls」の展示場所へ移動。日米関係が悪化する中、1920年代にアメリカから日本に贈られた約12000体の人形へのお礼として、日本から市松人形が贈られた。答礼人形である。その58体の市松人形の一体であるMs. Akitaと1930年代に作られたAkita SugioはDetroit Children’s Museumが所蔵。2018年に作られたTomokiはDIAが所蔵している。昨年12月からの特別展示で、Ohio History Connectionが所蔵しているMs. Osakaとともに、現在DIAにこれらが展示されている。小学生のお子さんとツアーに参加したアメリカ人の男性は「日本の文化が静寂と伝統を大切にしている、という印象を受けた。素晴らしい。答礼人形については初めて知った。友好と平和を表しているとわかった」とツアーと展示についての感想を話してくれた。お子さんもこのイベントの折り紙を楽しんだそうだ。ひな祭りに来場したきっかけはDIAの会員に配信されるメッセージ。文化を通してDIAと日本の相互理解が着々と根付いていっていることを取材を通して感じた。

「ひな祭り」はJBSDの下、JCDが企画実行に当たった。2013年のデトロイト市財政破綻ののち、DIAは一時閉館された。再建のためJBSDは320万ドルの寄付金を集め、日系コミュニティーは地域の文化活動再生に大きな貢献を果たした。JCDはDIAと日系コミュニティーを文化でつなぐ活動推進のために2016年に設立された。 (JNC)

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