喧喧諤諤 ケンケンガクガク
喧喧諤諤

今年も半年過ぎ、下半期になりました。巷(ちまた)では、パンデミック前の数字を上回る人の動きがあるであろう独立記念日の連休があります。その後は落ち着きを取り戻すのではないかと思いますが、皆さん良い思い出をつくれるよう願っています。例年ならば、樹木や芝生の緑と多くの河川、湖沼、池に囲まれて屋外で気持ちよく過ごせるはずのミシガンですが、今年は北の方からカナダの山火事の煙と有害微粒子という招かざる客が訪れて想定外の邪魔をされています。カナダでは今年前半雨が少なく空気も山林も例年より乾燥しているため史上最悪という200件以上の大小の山火事が次々と発生しジェット気流や気圧の差でパスポートも無しに国境を越えて米国に侵入し世界最悪レベルの大気汚染をもたらしています。汚染レベルが酷い日には警報が発令され健康な人でも外出時にはコロナ対策にも使われたPM2.5以下の微粒子を除去可能なN95規格レベルのマスク着用が推奨されました。喘息など呼吸器系の疾患のある人は外出せず屋内で空調管理がきちんとされている環境で過ごすように注意報が出ていました。National Weather Service(米国気象局)の予想ではこの煙害は日によってレベルの上下はあるものの今夏中居座り、ミシガンの住民を悩ます厄介な存在であり続けるようです。カナダと国境を接するミネソタ、ウィスコンシン、イリノイ、ニューヨーク、ペンシルバニアなど複数の州でも同様の被害に遭っており、高いビルの上半分が霞んで見えなかったり、太陽がオレンジ色に見えたりする日もあり、文字通り『近所迷惑』となっています。地表に近い大気中のオゾン量が増加し、健康被害が予想されるオゾン・アクション・デーと合わせて、ミシガンの住人は毎日の天気予報・警報・注意報に気をつけなければなりません。では、スポーツの話題を少々。

先月号でも触れましたが、男子テニスの錦織選手が股関節手術、足首の捻挫による1年8ヶ月の戦線離脱から実戦に復活し休養明けワイルドカードで出場したプエルトリコでの初戦ATPチャレンジャートーナメントで5試合を戦い抜き見事優勝。休養中に保有ポイントを全て失い、ポイントなしでチャレンジャーイベントで優勝したのは彼が初めての快挙。本人もそこまで良いプレーができこの結果が出るとは期待していなかったと思うので、怪我から復活してテニスができた上に優勝した喜びはひとしおで自信もついたことでしょう。復活優勝おめでとう!!ビデオで一部プレーを観ましたが、打球の強度や鋭さはATPの最上位ツアーレベルには戻っていないにしてもエンドラインより後ろに下がらず、前で早いタイミングで打ち合う彼のプレースタイルは同じでしたし、コート上の動きやポジショニング、左右・前後に散らして相手を揺さぶるショットメーキングもかなりできていたので嬉しかったです。逆に一度相手に先に振られてぎりぎり間に合って打ち返した場面では、最後の一歩を思い切って踏み込めない感じがしましたが、復活初戦で無理して怪我が再発してはいけないと本能的に体が反応したのかもしれません。久しぶりの実戦でしかも5試合プレーしたのでかなり体に負荷がかかり疲労も溜まったと思いますが、今月3日から当地で開催予定の次戦チャレンジャーイベントCranbrook Tennis Classicでも怪我なく良いプレーができることを願っています。その翌週にはシカゴのトーナメントに出場とのことですので、今週、来週と会場近辺にお住まいでご興味とお時間のある方は是非応援に駆けつけてあげてください。もう一つスポーツの話題は、連日メディアを賑わしているMLBロスアンジェルス・エンジェルスの大谷選手です。6月に入ってから正に鬼のような活躍で先月中旬のア・リーグ週間MVPに選ばれ、日本人ではイチローさんと並ぶ最多5回目の受賞です。6月の投打にわたる超人的な数字の詳細は省きますが、ひょっとすると月間M V Pも取れるかな?と期待されます。今月初めのオールスターゲームにもDHとしてファン投票1位で選出され、同じくファン投票で選出された僚友マイク・トラウト選手と共に先発出場予定です。原稿作成時点で、今年はホームランダービーには出ないようですが、出て欲しい気持ちと出ないで欲しい気持ちが両方あります。今年はホームラン、打点でタイトルが狙えそうですし、ひょっとすると打率も加えて三冠王まで狙える可能性があるので、ホームランダービーで打撃フォームを崩して後半戦調子を落とさないように自重するのがベターと思います。オールスターゲームで再び二刀流で投打に活躍し、トラウト選手とホームラン揃い踏みのトラウタニ弾が観られれば最高ですね。

では、本題の「パイオニア精神とリスク管理」に移ります。

皆さんも既にご存じのように、先月下旬に突然入ったニュースで深海探索・開拓・観光事業会社のオーシャンゲート社保有の潜水艇タイタンが映画にもなった処女航海で氷山と接触・沈没し多くの犠牲者を出した豪華客船タイタニック号の沈没現場観光に向かって同社オーナーのストックトン・ラッシュ氏他計5名を乗せて潜水開始して間も無く交信が途絶え行方不明になってから数日後に爆縮(外側に向かって破裂する爆発ではなく、強大な外圧で内側に押しつぶされる現象)していたことが判明しました。行方不明が続いていた数日間、報道される残存酸素量が残り数日分から数十時間に刻々と減る中、米国他カナダ、フランスからも空と海の両面で捜査隊が出動する騒ぎになりましたが、最悪の結果になりました。犠牲者のご家族、ご友人、関係者の皆様に深くお悔やみ申し上げます。(合掌)後で分かった情報では米国沿岸警備隊の極秘水中音響探知機が潜水艇の出航開始数時間後に爆縮音を探知していたことが分かりましたが、軍事に関わる機密情報のためカナダの捜査隊指揮官とは情報共有したものの他から確認情報が入るまで一般公表を差し控えていたとのことで、タイタニック号の沈没現場に到着するかなり前に降下途中で遭難したようです。先月末のTVニュース報道では爆縮した潜水艇の残骸と思われる大きな部品(前部と後部の金属部品など)数個が回収され、原因究明が始まりました。また、おそらくミリセカンド(1000分の1秒)単位の瞬間に起きた凄まじい爆縮のため犠牲者の体は跡形もなく爆裂・飛散し遺体は残っていないようですが、乗員のものと思われるD NAが検知されたとのことで、本人確認は可能なようです。

原因究明にはまだまだ時間が掛かると思われますが、海洋専門家、潜水事業者、技術者、作業者など関係者や潜水経験者からのいくつかのコメントにある推測原因によりますと、潜水艇タイタンの船体中央部(前・後部は金属製)に使われたカーボンファイバー(炭素繊維)材は内圧には強いが外圧に対する強度は十分でなく、大きな外圧を受ける深海潜水艇には不向きというのがこの業界での共通認識になっている由。オーシャンゲート社のCEOで共同オーナーの一人であり今回の船長兼操縦士でもあったストックトン・ラッシュ氏は金属に代わる新素材としてのカーボンファイバーに対する思い入れが強く、それを用いた新技術・新構造の潜水艇を話題にしたかったようです。実際に4年前の2019年に既に完成していたタイタンの潜水試乗テストに立ち会ったホンジュラスに本社を持つ深海探索会社を運営するカール・スタンレー氏はテスト中に何かがひび割れるような大きな音(クラッキング・サウンド)を耳にし、テスト後直後にEメールで(書面で記録に残す意味だと思われます)ラッシュオーナー宛に「ひび割れ音がしたことは同潜水艇のある部位に何らかの問題か不具合があると示唆しており、それが何であるか分かるまでは専門家もそれが船体の機能にどのように影響するか言及できない。」と書き、更にラッシュオーナーが要望していた7回ではなく大幅に多い50回の潜水テストをするように要請せざるを得なかったとのことです。

しかしながら、この提案要請はラッシュCEOが実行すると思われていたテスト回数より厳しいものだったため、彼からの返事は「50回の潜水テスト提案は(強制ではなく)任意のもの。潜水専門家はオーシャンゲート社のタイタンに関する分析内容を知るすべを持っていないので、君の意見は自分だけに止めておくように。(要するに余計なことを喋らず黙っていろ!ということ)」とのつれないものだったようです。潜水艇の完成後既に4年が経過し、巨額の先行コストを回収し収益を上げて採算のとれる事業になるように早く商業化したい焦りと先にも述べたカーボンファイバーの潜水艇への実用化を話題にして世間の注目を集めたい強い願望が疑わしい問題点の確認、解決、安全第一の原理・原則を軽視して必要な回数の潜水テストを行わずに顧客を乗せた本番潜水実施に走らせた結果の悲劇のようです。新規事業のパイオニアやカリスマ的リーダーまたは新技術、新材料、新製品の発明家や天才と呼ばれる人たちに往々にして見られることですが、世間の常識や従来の枠組みに捉われず(時には無視して)誰も思いつかなかったアイデア、やったことのない新たな取り組みをして成功すれば天才、偉人として歴史に残り、失敗すればただの変人か狂人として扱われ見捨てられ、忘れ去られる身となります。「天才と狂人は紙一重」と言われますが、当時の主流であった天動説に対して地動説を唱えて狂人、罪人扱いされたガリレオ・ガリレイ(提唱者のコペルニクスは印刷発行用校正原稿完成前に他界して難を逃れました)を初め多くの天才たちが世間から狂人、変人扱いされたりしています。ラッシュオーナーCEOが天才だったかどうかは分かりませんが、起業家精神に溢れる新規事業のパイオニアであり自信と野心満々だったのでないかと想像します。自分の限られた経験も含めて自信と過信が紙一重のこともありますが、彼も自信が強かった分他人から批判されたり忠告されたりすると、余計にムキになって自分の考えを性急に推し進めようとしたのでないかと思われます。ご家族にはお気の毒ですが、Last nameが Rush(急いで突進する)だったのも皮肉な巡り合わせでした。

今回のケースや会社経営、事業運営にも共通することですが、会社やグループのリーダーたる者は自分のエゴから野心や欲望、願望の実現にガムシャラに走るのではなく、第三者的視点から冷静に実現するためにはどのようなリスクがどの程度あり、それを予め回避したり解決してから進める方法はないか?と事前に調査、確認、分析して、もしリスクが現実化して問題が発生した場合でも実現可能な解決方法をできれば一つではなく複数準備しておくのが理想です。「そんな理想通り行けば誰も苦労しないよ。」と仰る方もおられると思いますが、少なくとも最善の努力をしないといけないと思います。特に今回のように問題が発生したら人命に関わるとか、取り返しがつかない、やり直しが効かない、解決不可能という場合は尚更です。アカデミー賞他数多くの賞を受賞した大作映画タイタニックの制作・監督をしたジェームズ・キャメロン監督が今回の件でTVインタビューされた際に言っていましたが、「不運にもタイタニックと同じ場所で事故が起きてしまった。避けられる事故だったと思うので非常に残念。自分自身も何十回も他の潜水艇に乗り込んで潜水した経験があるが、潜水する度にここで何か問題があったら誰も助けられないな、助けは来ないな。」と思ったとのこと。経験者の偽らざる実感と感想だと思います。今回の事故はパイオニア精神溢れるラッシュオーナーCEOのエゴと野心が優ってしまい、専門家の意見、警鐘を無視して慎重なリスク管理を怠った悲しい結果だと思います。

話は少し変わりますが、最近は電子ゲーム普及の影響なのか、ゲーム感覚で現実の仕事や私生活に向き合い軽薄な発言、無責任な行動をする人が多くなりました。ゲームならば、ゲームオーバーになってもまたリスタートしてやり直し可能ですが、実際のビジネスや実生活はそうはいきません。人命が失われるのは最悪ですが、歴史的な遺物・遺跡、建造物や創作物、文化、古典芸能なども再現、再制作、修復不可能なものが山ほどあります。今回ラッシュオーナーCEOがゲーム感覚で行動したとは言いませんが、冷静な自己コントロールと慎重なリスク管理ができず尊い命を犠牲にしてしまったのは大変残念です。

大小の規模に関係なく、現在会社や団体・グループのリーダーの立場にある方、将来リーダーを目指している方、なる可能性のある方には、クリエイティブなアイデアを発想・実現するパイオニア精神も大事ですが、リスク管理を決して無視したり軽視したりしないようにこの場を借りて、切にお願い致します。

追記:この事故の直後に、ロシアのために長年シリアやアフガニスタンで代理戦争を戦い、その存在価値と影響力を強めていた民間軍事会社ワグナー(またはワグネル)グループのプリゴジン氏率いる私設軍隊がロシア南部ロストフ他2都市の空港及び軍事施設を占拠。戦車や陸送トラックを含む武装部隊はロシア正規軍の抵抗もなく首都モスクワまで二百数十マイルまで進軍しプーチン政権に反抗する内乱か武装蜂起か、はたまた政権転覆を図るクーデターか?と米国初め西側諸国は突然の事態にとりあえず静観の態度で注視し、少なくとも米国や西側諸国はこの一件に一切関与しておらずロシア国内独自に起きた出来事であることのみ明言していました。その後の展開で、ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介・説得でワグナーグループは進軍を止め、部隊は踵(きびす)を翻して帰還するか一部ロシア正規軍に包含・従属する手続きがなされ、身の危険を感じて数日姿を見せなかったプーチン大統領が政見発表し、珍しく街頭に出て一般国民とも直接握手したり、支持者にキスまでして触れ合う映像を意識的に流したりして、一旦政情不安は収まったように表面上は取り繕っていましたが、米国CIAやロシアの反プーチン政権活動グループからの極秘情報によれば、ワグナーグループリーダーのプリゴジン氏は進軍停止を仲介・説得したベラルーシのルカチェンコ大統領の元に亡命したという噂はあるものの実際の移動実績や姿が確認できておらず、安否が分かりません。ロシア側ではプーチン大統領から反逆者としてプリゴジン氏の暗殺命令が出ているとの尤もらしい情報もあります。また、ロシア正規軍の前ウクライナ攻撃作戦の総指揮官で事件当時は副総指揮官であったセルゲイ・スロビキン将軍もワグナーグループのVIPメンバーとして以前から登録されていた秘密文書が明るみに出て大統領周辺や主催行事に姿を見せず、同じく安否が気遣われています。他にも数十名ロシア軍幹部の名前も含まれているようで舞台裏でプーチンお得意の暗殺・粛清の嵐が吹きまくっている可能性も大いにあります。

更にその後先月末ぎりぎりに米国最高裁が先の中絶手術や中絶促進剤は違法との判断に続き、ハーバード大学やノースカロライナ大学など有名な入学難関校が国のAffirmative Actions政策に従って黒人優先の入学許可を出しているのは逆人種差別で憲法違反であるという訴えに対して、訴え通り憲法違反であると判断。更にまたバイデン大統領と民主党政権が前回中間選挙と次期大統領選、上下院議員選挙を睨んで目玉としていた学生ローンの返済免除・猶予(借入金額によって一定額まで返済免除または猶予)の政策に対して、本来議会が立案・決定すべき国家予算であり大統領が議会承認なく勝手に政策を打ち出すのは越権行為であり違憲と判断を下し、共和党保守派やクリスチャン、保守支持層は大歓迎、民主党急進派・中道派やその支持層は猛反対と国を二分する議論の嵐が弾き荒れています。もう一つおまけに、コロラド州の法廷で争われていた同性カップルが依頼したウェブデザイン制作を業者が宗教上の理由で拒否した一件も拒否は憲法が保障する表現の自由に当たり、差別を禁止したコロラド州法でそれを制限することはできないとの判断を下し、現最高裁の判事構成が保守対リベラル=6:3になっている現状をそのまま反映しリベラルな流れに激しく逆行する超保守派の政治的判断が続いています。

バイデン大統領と民主党政権は直ちに善後策の検討に入っていますが、この最高裁判断が今後の政局と次期大統領選、上下院選挙にどのように影響するか目が離せません。とても紙面と時間が足りませんので、これにて御免。ご容赦願います。

 

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。

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