喧喧諤諤 ケンケンガクガク
喧喧諤諤

4月、日本では国や地方行政府、多くの企業の新年度、学校では新学期の月で心機一転、新たなスタート、新たなチャレンジにはもってこいのタイミングですが、私のように米国生活が長くなると日本の季節感、毎年恒例の行事やイベントに縁遠くなり今ひとつピンときません。まあ、加齢によるチャレンジ精神の減退を自己弁護するただの言い訳に過ぎませんが。(汗)

今回は先にスポーツの話題を少々。
日本代表侍ジャパン、やってくれました!-見事優勝、世界一!!-先月号でも触れましたが、3月最大関心事(少なくとも日本人の私にとっては)のスポーツイベントWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の決勝戦で地元米国チームを破って2006年の第1回、2009年の第2回大会に続いて14年ぶり3度目の栄冠です。異論はあったものの今回のメンバーは史上最強と言われ、東京で行われたグループリーグ戦の1次ラウンド、準々決勝の2次ラウンド、舞台を米国マイアミに移した決勝ラウンドの準決勝と決勝まで7戦全勝の完全優勝で異論を封じ込めました。おそらく皆さんも実況中継やビデオ、ネットニュースなどで追いかけていらしたと思いますが、特に準決勝の対メキシコ戦と決勝の対米国戦は凄い試合でした。最後の最後までハラハラ、ドキドキの連続で痺れました。特にメキシコ戦は先発が佐々木投手、第2先発が山本投手という日本球界が誇る二人のベストエースの豪華リレーで栗山監督のシナリオとしては相手に得点を許さず、先に得点、先行して試合を有利に進める筋書きだったと思うのですが、残念ながらやや当たり損ないの不運なヒットなどもあって4回表に佐々木投手が3ランホームランを打たれて逆に先行されました。日本の攻撃も5回の裏には岡本選手のレフトへのホームラン性の当たりをフェンス越えでジャンピングキャッチされたりで再三チャンスがありながら(残塁数が2度の満塁を含む11もありました)あと1本が出ず6回終了時点までゼロが並び3点のビハインドのまま。ようやく7回裏に2死1、2塁からこの日4番に入った吉田選手がインコース低めに落ちる難しいボールを体が少し泳ぎながらも上手くすくい上げてライトポール側に起死回生の3ランホームランで同点。「さあ、これから」と意気込んだのも束の間、続く8回表メキシコの攻撃で山本投手が連続2塁打を打たれて失点、更に救援した湯浅投手もランナー2、3塁からレフトにタイムリーヒットを打たれこの回2点目。3点目のホームを狙った走者はレフトの吉田選手の好返球で3アウト(これも結果的に大きかったです)。8回の裏に1死2、3塁から山川選手の犠牲フライで1点を返し、4−5の1点差で迎えた最終回9回裏日本の攻撃で先頭の大谷選手がツーベースで出塁し2塁上でベンチに向かって「カモン!」のジェスチャーでチームを鼓舞。続く吉田選手はボールをしっかり見極めてフォアボールで無死1、2塁。ここで打席に立ったのが東京ラウンドまで打率1割台と大不振でこの日は5番に入った村上選手。この試合もそれまで3連続三振を含む4打席凡退と元気がありませんでしたが、フォアボールで1塁に向かった吉田選手が村上選手をちょっと指差して「次はお前の番、打てよ!」とばかりに無言のジェスチャーで激励。私も「ここでヒットを打てば、これまでの不振は帳消し。打ってヒーローになれ!」とTV画面の彼に向かって声援を送りましたが、見事真ん中高めからやや外に流れていくボールをジャストミートしてセンター越え一直線でフェンスに当たる逆転タイムリーヒット!-吉田選手の代走として入った周東選手が1塁から疾風のような激走で前を走る大谷選手(彼も俊足なのですが)に追いつき、追い越しそうな勢いでホームイン。6−5の劇的勝利でした。1塁を回った所から戻る村上選手をベンチ総出で出迎え、ハグの連続、歓喜の輪ができました。後でニュースビデオを見て分かったのですが、ベンチから飛び出そうとした吉田選手が飛び越えようとしたフェンスに引っ掛かって転倒したとか、今回大谷選手専属でなくチームの通訳担当として同行していた水原一平さんが我を忘れて選手と一緒に歓喜の輪に駆けつけて、ふと我に返ってベンチ方向に引き返したとかのエピソードのおまけ付きでした。

決勝の対米国戦では、途中はさておき、最終盤8、9回をダルビッシュ投手、大谷投手の超豪華リレーで繋ぎ1点リードで迎えた9回表米国最後の攻撃で先頭打者をフォアボールで出しましたが、続くMVP経験者のムーキー・ベッツ選手をセカンドゴロでダブルプレーに仕留め、2死走者なし。迎えたバッターがチームキャプテンでこれまたMVP3度経験者のマイク・トラウト選手。大谷選手とはエンジェルスのチームメイトでMLBのレギュラーシーズンではどちらかが移籍しない限り対戦しない顔合わせで、これ以上ないワクワク、ドキドキの見せ場となりました。結果はカウント3−2からの6球目大谷選手が投げた渾身のスライダーがホームベース幅をインコースからアウトコースまでストライクで横切る鋭い切れ味で空振り三振、ゲームセット。二人とも国の威信をかけて正々堂々全力で投げ、全力でスイングした男と男の勝負でした。大谷選手はグラブと帽子を投げ捨て勝利の感情を爆発。チームメイトが次々マウンドに駆け寄ってまたまたハグの連続、歓喜の輪。事後のインタビューでトラウト選手が「第一ラウンドは翔平の勝ち」とコメントしていましたが、これは負け惜しみでも強がりでもなく素直なコメントだと思います。野球に少しでもご興味のある方ならご存知のようにバッターは3回に一度ヒットを打てば3割超の好打者として評価されます。公平に見て1打席だけの勝負ではピッチャー有利、バッター不利ですね。3打席勝負してどうなるかが正当な評価でしょう。トラウト選手は「野球をやってこんなに楽しかったことはない」ともコメントしていますので、既に3年後のWBCにも参加の意思表示で捲土重来を目指しているようです。是非また対決をみたいですね。

少々のはずが長くなってしまいました。本当はこれを本題にしてもっと書くつもりでかなりの時間をかけて色々と試合のデータ、監督・コーチ・各選手の性格や特徴、大会前後と大会中のエピソードやコメントなどを調べて確認し原稿を半分程書いてあったのですが、私のミスでそれをセーブし損なってしまったようで、作業を再開しようとしたところどこにも原稿のファイルが見つからず真っ青になり、今更同じ手順で同じ時間をかけて作業する時間がなくなった所にトランプ絡みのビッグニュースが入りメインをそちらに切り替えて『WBCの余韻とトランプ・ウィルスの行方』というタイトルにしてやっとこ納期遅れの原稿を完成した次第です。日米とも既にレギュラーシーズンが開幕しましたが、WBCの余韻に浸りながら新たなビデオクリップや後日談、未発表のニュース、ブログなどを発見、発掘しては楽しんでいます。

スポーツ以外の海外の話題では、フランスで持続可能な年金制度構築の狙いで憲法の特例条項を使って国民議会の採決なしに年金支給開始年齢を段階的に62歳から64歳に引き上げる改革案を強行採決。それに猛反発する野党や労働組合を中心とする反対派は一般民衆も含めて100万人を超える大規模デモやストライキでインフラや日常生活に必要な生産活動、物資供給が停滞し、政府は改革案の実施を一時保留し、同国憲法院が法案の合憲性を今月14日に判断を下すと発表されています。否認されれば改革案は廃案となりますが、歴史的に法案の全てが否認されることは稀であるため基本部分が条件付きでも承認されると混乱が続くと予想されます。

一方イスラエルでは、過去に自身が有罪判決を受けているベンジャミン・ネタニヤフ首相が司法省に対する政府権限強化=司法省の権限弱体化を目指した司法改革案を巡ってこちらでも大規模デモや国防相の解任を受けて国防軍予備役まで参加した全国的なゼネストが実施され公共交通網は断絶、あらゆる生産・サービス活動も機能しなくなり、国防や国の安全保障すら危うくなった窮状に首相と連立政府は法案を急遽凍結せざるを得ず、連立政権の存続や首相の政治生命にも影響しかねない状態です。同改革案の見送りを薦めたバイデン大統領に対してネタニヤフ首相が公然と反発コメントして長らく強い友好関係にある両国の関係にもヒビが入る恐れもあります。

また、先月末にはロシアで取材中のウォールストリート・ジャーナル紙の記者がスパイ行為の現行犯で逮捕されるというニュースもありました。逮捕理由が曖昧で米国政府や同新聞社の関係者のコメント、政治・外交専門家の見解ではウクライナ侵攻以後の米国との冷戦復活状態の延長で主にロシア国内在住または滞在中の米人を標的にして米国に勾留・拘束されているロシア人スパイや政治犯などの犯罪者との有利な条件での交換を目指した人質作戦ではないかと目されています。ジャーナリストだけでなく企業活動や慈善団体のボランティア活動でロシアに入国する人たちでも今後同じような事件が起こり得るため、米人のみならずNATO加盟国、西側諸国からのロシア訪問者の身の安全が大いに危惧されています。

米国内では、当番制になっている国連安全保障理事会の議長国を皮肉な巡り合わせで今月一日のエイプリルフールの日からロシアが務めることになっており、同理事会や国連総会でウクライナ侵攻をめぐって大半の加盟国から猛烈な非難を浴びながらどんな顔をしてどのように安全保障をテーマに議長役を務めるつもりなのか?と大いに疑問視されています。外交、国際政治、安全保障関係の専門家の中には「最大、最悪のエイプリルフールだ」と揶揄する人もいました。

もう一つ米国内のニュースとしては、先月末この原稿を書いている時にいきなりビッグ・ニュースが入ってきました。ニューヨーク、マンハッタンの大陪審が犯罪容疑でトランプ前大統領の起訴を決定したというもので、起訴するという噂は2月ごろからずっとあったものの3月最終週前半の時点では同大陪審のメンバーが集まってもトランプ関連の打ち合わせなしであったり、審議した日でも最終決定投票まで至らずであったりで、今月第1週まで持ち越しかという憶測が多かったですが、30日夕刻に突然起訴決定の速報が流れました。実は後出しジャンケン的になりますが、私はガッツ・フィーリング(直感、第六感)でその憶測が外れているような気がしていました。丁度各地で学校が春休みに入り子どものある家庭では親子で小旅行したり、子どものスプリングキャンプをアレンジしたりで忙しいのと議会が休会になる直前の週末に「今週の起訴はないな」とトランプ支持派も糾弾派もやや緊張が緩んだタイミングで不意をついて意識的に狙った可能性があります。大陪審のメンバーも大方が予想し衆目が集まって緊張が高まる週明けよりも起訴を決定してからゆっくり自分達の家族と週末を過ごしたいという個人的な思いもあったかもしれません。

起訴内容の詳細についてはトランプ本人が自発的または強制的に(身柄拘束・逮捕されて)出廷時に直接言い渡されるため公表されていませんでしたが、30以上の起訴項目があると言われ、それまでの同大陪審の動きから数年前に起きたトランプのセックス・スキャンダルに関する不正会計処理が中心であるのは間違いないようです。皆さんも何度か耳にしたと思いますが、アダルト・フィルム・アクトレス(日本で言うポルノ女優)で通称ストーミー・ダニエルズとの不倫を隠すため当時トランプの個人弁護士であったマイケル・コーエン(既に偽証罪などで有罪判決を受け刑務を終了して今はフリー)が仲介して前々回大統領選直前の2016年10月に秘密保持契約書の合意・署名と同時に口止め料としてコーエンが立て替え払いした13万ドルを後日トランプがコーエンに返済処理。そのお金の出どころがトランプの選挙キャンペーン資金から支払われ、会計費目が法定費用として処理されていたことが選挙活動資金管理法違反及び不正会計処理と判断されたようです。当然ながらトランプは不倫の事実はないと否定し続けていますが、秘密保持契約書にトランプの署名がありますし、コーエンに口止め料を分割返済した際に振り出し自筆サイン済みチェックの証拠写真もあるので今回もウソがバレバレです。

現在進行中のトランプの犯罪容疑調査及び訴訟審議案件は2020年大統領選挙の際にジョージア州での選挙投票に不正があった、自分が正当な当選者であったといまだに主張し続けているトランプが自ら同州選挙管理人や州政府関係者に直接電話して投票内容を自分有利に変更するように依頼した行為や大統領就務中及び退任時に多数の国家機密文書を事前許可手続きなしに勝手に持ち出し、フロリダ州マララーゴの私邸にいい加減な管理状態で所有し、米国国立公文書記録管理局からの再三の返還要求やFBIからの同文書所有確認依頼などを無視または軽視して所有し続けていたことが犯罪行為にあたるとして継続捜査・審議中の案件が複数あり、そちらの方が先に起訴手続きされるのではないかと推測されていましたが、このセックス・スキャンダル絡みの不正会計処理の方が先になりました。

予想された通り起訴内容詳細が公表される前からトランプ自身が非難のツイートをし、お抱え弁護士や大半の共和党下院メンバーとリンジー・グラハム共和党上院議員など(ミッチ・マコーネル同党上院院内総務からはノーコメント。次期大統領選のライバル視されておりトランプやキャンペーン支援者から攻撃されているデサンティス・フロリダ州知事も起訴を非難)からも即座に、事実無根、次期大統領選出馬を妨害する政治的暴挙であるとか、トランプ支持派・擁護派や極右・保守・過激派からは本件担当のマンハッタン地区地方検事アルビン・ブラッグ氏に対する人種的偏見や有名投資家のソロス氏から政治的財政援助を受けているとする個人的批判など有る事、無い事ゴチャ混ぜで非難轟々となっています。

現職または前・元大統領が起訴された前例がなく今回が史上初めてのケースのため(故ニクソン元大統領、クリントン元大統領の二人は紙一重で起訴を免れましたが)、米国内の政界だけでなく金融・経済、一般社会、外交、国際政治面でも波及的影響が予想されるため、できるだけ大きな騒動にならないように同大陪審では十分時間をかけて、大量の証拠資料、関係者証言の事実関係を精査し極めて慎重に審議を重ねた結果、最終的に犯罪行為があったと判定して起訴決定に至ったものと思われますが、やはり静かに物事が進みすんなり収まる状況ではありません。直近のニュースではトランプは腹を括って週明け4/3(月)にマララーガからシークレット・サービスの警護付きでニューヨーク市内のトランプタワー内事務所に移動し、翌日4/4(火)の午後2時にマンハッタン地方裁判所に自主的に出頭し、その場で起訴事実の確認、逮捕される予定とのこと。起訴対象が暴力犯罪ではないので、手錠を掛けられて収監されることはなく保釈金なしで釈放される見込みのようですが、通常の犯罪容疑者と同様に指紋採取と通称マグショットと呼ばれる顔写真撮影がなされ個別の認識番号が与えられることになります。彼の移動経路沿いや裁判所周辺などニューヨーク市内や首都ワシントンではトランプ支持派の抗議集会・デモや暴力行為に備えて既に警官隊や警備隊が厳重な警戒態勢を敷きつつあるとのことですが、何せ前例のない史上初めての出来事なので、何をどれだけ準備してどう対応処理すればいいか誰も確かでないため、当日だけでなくその後も大きな混乱なく済むかどうかです。

本来ならもっと時間をかけて調査・確認した上で本稿にしたかったのですが、原稿締切り直前の突発的な事態で関連ニュース、ネット記事、ブログ、専門家やトランプ支持・擁護派と糾弾派双方関係者のコメント、一般人の反応など半日や1日では(いくらでも新たなものが出てくるのでどれだけ時間があっても終わりはないですが)とても閲覧、視聴、確認チェックできず、かと言って何も触れないわけにもいかず、原稿締切り直前に私が拾って、分かっている範囲の限定的な情報を基にとりあえず書いた次第です。万一誤解や勘違い、説明不十分な点がありましたら、悪しからずご容赦願います。

最後にもう一つだけ付け加えますと、私が今後の展開で一番心配しているのは、トランプの大統領就務中にあった2度の大統領弾劾議会裁判の時と同様にトランプ支持・擁護派の共和党下院メンバーを中心に一部上院メンバーと合わせて共和党が一致団結して挙党態勢でトランプ擁護に走り、その結果起訴猶予、訴訟裁判なし、無罪放免となり、その勢いで次期大統領選の共和党予備選から全国大会での本選で勝利、正式候補者指名受理となって(大統領就務中の中間選挙、前回大統領選、昨年11月の中間選挙に敗れ3連敗で)死にかけていた身が不死鳥のように政治の表舞台に復活してしまうことです。更に民主党指名候補者との選挙戦でも勝って再度大統領になったりしたら、前回以上に自分勝手な酷いことをすることが容易に予想され考えるだけでもゾッとします。トランプの集金力、集客力を利用して相乗りで議席を増やし、自分達の思い通りの政治をしようと企んでいた共和党の面々は「軒を貸して母屋を取られる」結果となり、実質的な政治活動よりもトランプの顔色を伺い、おべっかを使い、ゴマスリして機嫌をとり、トランプの気ままな言動の擁護や尻拭いに多大の時間を費やす羽目になった苦い経験を思い出して、本来の共和党の信条とあるべき姿、まともな政治活動に戻れるように今こそ縁を切る最後のチャンスかもしれません。それに気づいて舵切りして欲しいと願うのは私だけではないでしょう。

WBCの楽しい余韻に浸りながらも、1日でも早いトランプ・ウィルスの終焉を待ちかねています。

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。

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