
コロナ禍を乗り越えて恒例のオープン大会を開催、再会を楽しむ(デトロイト剣道道場 小方哲夫)
例年二月に開催されるデトロイトオープン剣道大会は北米での剣道シーズンスタートを切るポピュラーな大会となっている。多くの参加者を惹きつける要因の一つがデトロイト剣道道場を率いる田川順照範士八段の指導力と北米剣道の発展に尽力してきた情熱にある。田川氏は昭和四十九年に米国剣道普及のために渡米、以来米国剣道の普及・発展に貢献してきて、現在では世界剣道連盟副会長の重積を持ちながら、毎週三回行われる道場での稽古にも欠かさず指導を続けている。もう一つの要因が毎回素晴らしい特別ゲストを日本からお招きすることで、大会前日のセミナーも魅力の一つとなっている。
そんな大会も令和二年の開催直後に世界中を襲ったコロナ禍で開催できなくなり、再開を皆が待ち望んでいたがようやく本年二月十九日に第二十五回大会を持つことができた。北米でも令和二年三月からコロナが猛威を振るい始め、集まっての稽古もできなくなった。オンライン稽古、屋外での稽古を経て日本と同様にマスク、ソシアルディスタンス等の対策を入れての接触の無い稽古に移行し、防具をつけての稽古、地稽古へと漕ぎつけ、ワクチンの普及、コロナの軽症化もあって、ようやく昨年から小規模な地方大会を実施できるまでに至った。入場者全員の検温、マスク着用等の万全の対策を施しての大会となった。それでも待ちに待った大会に全米各地、カナダから三百五十名を超える剣士が集い久々の再会を喜んだ。今大会の特別ゲストには、剣道の強豪高校で、数々の名選手を輩出している九州学院剣道部監督、剣道教士八段の米田敏郎先生にお出で頂いた。全米剣道連盟からも会長の前田忍教士七段、副会長のBrandon原田教士七段らをお招きした。剣道界以外からはデトロイト総領事の進藤ご夫妻、デトロイト商工会長の佐々木氏をお招きした。
例年と同様に、大会の前日の十八日に特別ゲストによるセミナー、四段までの昇段・昇級試験が行われ、翌十九日(日)に早朝から夕方までトーナメントが実施された。今回は幸いにも天候に恵まれ、厳しい寒さのない大会を迎えることができた。
十八日の米田先生のセミナーを心待ちにしていた剣士約三百名が参加、貴重な機会を活かそうと真剣さと熱気に溢れていた。セミナー前半では基本を中心とした内容の稽古をご指導いただいた。手の内に始まり、足さばき、踏み込み法など、改めて基本の大切さを学び、その深さを思い知らされた。もちろん参加剣士のレベルに応じて理解できる程度も違うが、各自が貴重なアドバイスを聞き逃すまいと真剣に聞き入っていた。基本の全ての要素について分り易く説明を頂いたが、短いセミナーの中では習得には至らず、今後の稽古で意識し改善して行くようにというお言葉を頂いた。その後防具を付けての稽古に移り、参加した剣士はセミナー後の段・級位審査や翌日の大会に米田先生より学んだ事を少しでも活かそうと皆大きな声で真剣に励み、汗を流した。
セミナー終盤では米田先生が子供たちの打ち込みを受け、その後、七段の先生方との模範稽古を行い、最後まで学びの連続でセミナーが締めくくられた。
前日の興奮の余韻を持って、十九日の早朝から大会が始まった。恒例の日本、カナダ、アメリカ、の国歌斉唱に続き、田川氏の開会の挨拶があった。その中で、本大会がアメリカでの剣道活動の復活の大事な一歩であると力強く宣言された。それから進藤総領事、佐々木デトロイト商工会長の来賓挨拶、選手宣誓、ルール説明と続き、デトロイト剣士による日本剣道形が披露された。その後審判会議を経て、いよいよ大会が始まった。三百五十名を超える剣士が六コートで熱戦を繰り広げるのを陰で支えたのが父母会や近隣の大学等のボランティアの皆様で、ひと月以上の練習をされた成果で円滑な大会運営ができた。誌面をお借りして心から御礼申し上げたい。
試合は少年(十歳以下)、同(十五歳以下の無段者)、壮年(五十歳以上)、女子、大人(無段者)、初段、二段、三段、四段、五段以上、少年団体(十歳以下、十五歳以下)、大人団体の部に分かれて行われた。最初から各コートで熱戦が繰り広げられ、自分の道場を応援したり、久しぶりに再会した他の道場を応援したりと、皆思い思いに楽しんでいた。田川氏のモットーの一つである『剣道をしているものは皆大きな家族』という思いが浸透しており、「交剣知愛」の精神のもと、真剣な気迫のこもった試合が終わった後に対戦者同士が日本語で『ありがとうございました』と挨拶して握手をする微笑ましい光景があちこちで見られた。大会のクライマックスは大人の部の団体戦、五段以上の部の個人戦の決勝で、すでに自分の試合を終えた参加者が熱い声援を送る中、団体戦:ニューヨーク剣心会チーム、個人五段以上:デトロイト剣道道場吉川弘剛(五段)が栄冠を手にした。
最後に表彰式が行われ、九州学院剣道部監督の米田先生の講評で大会の幕を閉じた。その後は特別ゲストの米田先生や田川氏らと記念写真の撮影や他道場の人たちとの別れを惜しむ人たち、皆が笑顔で和やかなひと時を過ごして散会となった。また来年会えることを楽しみにして。