
2月如月(きさらぎ)となりました。本稿作成時点で引き続き喪中につき月遅れで「おめでとう」とは言えませんが、本年もよろしくお願い申し上げます。
年明け早々から国内、国外ともに色々な事件、出来事があり、米国に居ますと静かな日本の正月と違って世間は騒がしい感じでしたが、皆さんは新年良いスタートを切れましたでしょうか?前回1月号の本欄を休稿させていただいたため怠け癖がついたわけではないですが、今回の原稿作業はネタ探し、情報収集・確認、選択から執筆までなかなか思うように捗りませんでした。重い筆で書き綴りますので何か不調法な点がありましても平にご容赦願います。
改めて振り返りますと寅年の昨年年男だった私の1年は残念ながら余り良い事がありませんでした。特に後半は運気が一気に下降し、8月下旬にはハイウェイI−275走行中に右後輪のタイヤバースト事件、9月下旬には本欄でも公表したEメールでの『なりすまし詐欺』被害、10月中旬には別の車で同じハイウェイを走行中に追突される被害、11月上旬には日本の実姉が急逝したとの訃報と続き散々でした。日本に居ればそれほど信心深くなくても「お祓いしてもらった方がいいな」と思うような状況でしたが、こちらではそういうわけにもいかず、外出・運転時、インターネット操作時の注意レベルアップで凌ぐしかありませんでした。I−275で鬼門のような不運、災厄が続いたので、当時(現在も)工事中でもあったことから出来れば避けて移動したかったのですが、南北移動の基幹経路であるためそうもいかず走行時には普段よりかなり緊張して運転していました。
穿った見方かもしれませんが、その後は姉の服喪で外出や言動を慎むことになり更なる不運、災厄に見舞われるリスクを回避、軽減できたのは家族思い、弟思いであった姉の「陽ちゃん、気をつけてね」という最後の優しい心遣いのお陰かもしれません。(合掌)
では、スポーツの話題を飛ばして本題に移ります。今回のテーマは「卯年に跳ねる!?」です。
新年早々の米国内の話題は1月3日に開催された昨年11月の中間選挙で新たに選ばれた新議員を含む下院の初登院、新議長選出投票でした。中間選挙で大勝ならずとも僅差で過半数政党となった共和党内の事前予想では2019年から院内総務となっていたケビン・マッカーシーの議長当選・就任が大方既定路線のように報道されていましたが、一方ではマット・ゲーツを中心とする過激派・超保守強硬派5人+数名の議員が反対投票する可能性も報道されていました。いざ投票となり蓋を開けて見れば、早々に別候補者への投票も含めて反対票が上限の4票を超えてしまいマッカーシーの初回得票は下院議員総数枠436(投票時は空席1で435)の1/2である218票に届かず、民主党院内総務のハキーム・ジェフリーの方が得票で上回る始末。結局初日は3回の投票とも同じような結果となり、翌日に持ち越し。閉会後舞台裏では共和党内の反対派説得・調整工作が続いたと思いますが、2日目、3日目、4日目も反対票が5名を超えてしまい、説得・調整役はマッカーシー本人が反対派に信用されていなかったため彼推しの主流派代表が代理で交渉を続け、議長の不信任案提出・改選規定、下院議員の任期制限、下院の個別各委員会のメンバー構成、今後提出・審議予定の対象、優先順位などかなり譲歩した結果、5日目の1月7日に丁度100年前の1923年の投票回数9回を大幅に上回る15回目の投票で決着。最終投票時の有効投票数428票の内マッカーシーが過半数の216票で当選、ジェフリーが212票、無投票が共和党強硬派と見られる6名でした。
T V実況中継やニュース報道、ビデオハイライトなどをご覧になっていた方もおありと思いますが、毎回余り代わり映えのしない内容で見飽きてうんざりした感じでした。私が観ていなかった最終日実況中継の一幕では親トランプ派でマッカーシー推しだった何かとお騒がせ女性議員のマージョリー・テイラー・グリーンが会場で誰かと話していた携帯電話を反対派の一人マット・ローゼンデールに手渡す映像があり、ビデオでその携帯の拡大映像を見ると話し相手のイニシアルらしきアルファベットでD Tと表示されており、巷ではそれがドナルド・トランプ前大統領のイニシアルであり、彼が議長選挙にも介入し、自分が推していた彼の忠僕マッカーシーに投票するように説得しようとしていたものとみなされています。トランプのことですから、何か甘い釣り餌を交換条件に出したか、「言う通りにしないと酷い目に遭わすぞ」と脅したかであろうことは容易に推測できますが、その甲斐あってやっとのことで当選したマッカーシーは直後の会場インタビューの末尾で感謝の意味でトランプ礼賛のコメントをしていました。何度も繰り返した投票中の態度や前後のインタビューでは楽観、強気の体を装っていましたが、内心はヒヤヒヤもので大恥をかく瀬戸際でした。
スタートで躓いて望み通り議長になったものの引き続き反対派は存在し、彼を当初から支持・支援していた主流派の中には説得・調整交渉過程で反対派の要望にかなり譲歩したことが気に入らないメンバーもいて、議長としての信用、党内をまとめるリーダーシップ、更に今後の具体的な政策、法案提出・審議や個別の各委員会活動にも大きく影響しそうで前途多難です。中間選挙前にマンション、シネマの両議員の抵抗で思い通りの政策・法案が計画通り予定したタイミングで議会審議・通過できなかった民主党の党内分裂以上に共和党内の分裂・混乱、パワープレー紛争は避けられそうもなく、既に次期大統領選に立候補声明したトランプや有力対抗馬として立候補の可能性を囁かれているロン・デサンティスフロリダ州知事他の動きと併せて来年11月の大統領選と上下院の本選挙に向けて民主党に少なからぬ希望と楽しみを与えることになりました。
残念ながら直後に副大統領時代のバイデンの事務所から中間選挙前に国家機密文書が見つかって弁護人が国家公文書管理局に返却し司法省にその旨報告していたことが判明し、その事実と公表したタイミング遅れをトランプの機密文書持ち出し、返却拒否についてはコメントを避けていた共和党の面々から責め立てられて希望と楽しみが一気に半減しました。更にバイデン大統領の私邸でも別の機密文書が見つかり共和党がここぞとばかりに口撃仕掛けたところ、今度はペンス前副大統領の自宅で機密文書が見つかり、勢いに水を注されました。我々一般人からすると前大統領、現職大統領兼元副大統領、全副大統領と立て続けに機密文書の保有が暴かれる事態となり、米国国家の最高位職と次位職にある者がその部下や関係者も含めて国家機密文書の取り扱いをミスするとは管理能力が疑われても仕方ありません。私でも他の歴代大統領や副大統領は大丈夫なのか?と思っていたら、国家公文書管理局が歴代の彼らに国家機密文書を持ち出したまま保有していないか確認依頼書を出すことを検討していると報道がありました、実際にしたかどうかは未確認ですが。
新議会のスタート前の昨年末に下院の1月6日議会乱入事件合同調査委員会も最終報告書の提出、司法省へのトランプ前大統領の4種の犯罪行為疑惑指摘、公職への復帰防止を勧告・提言して解散し幕を閉じました。これを受けて司法省が既に先行しているジョージア州やニューヨーク州でのトランプ絡みの犯罪調査とは別に具体的な犯罪調査・立件に動くかどうか分かりませんが、来年の大統領選の数ヶ月間までに少なくとも1件何処かで有罪判決が出て公職復帰を阻止して欲しいものです。最終結審が共和党寄りの保守派判事多数で構成される最高裁まで持ち込まれると直ぐに2〜3年は延びるので実現にはハードルが高いですが、何とかして欲しいですね。
一般国民への影響が大きく、関心が高いのはやや沈静化の様子はあるものの継続するインフレと景気減速から不況化、失業者急増による家計圧迫、生活苦ですが、毎年恒例の連邦予算案の議会審議・可決通過と暫定的な連邦負債上限引き上げ承認問題で年金支給・メディケア補助などの予算削減、累積負債削減を目指す共和党と予算削減交渉は一切認めない民主党は共に譲らず具体的な目処が立っていません。バイデン政権のイエレン財務長官が特別緊急措置をして6月までは連邦負債上限引き上げ、最終予算承認がずれても国内外で財政、経済パニックが起きないように手を打ちましたが、今のまま両党が平行線を辿りたとえ一時的にでも負債支払い不能状態になると世界中で全ての財政・金融・経済活動から一般国民生活まで一大パニックとなります。今まで何度も同じパターンの繰り返しでぎりぎり何とかなるケースがほとんどでしたので、今回もまた『オオカミ少年』の脅かしだけでそうならないと楽観している人たちもいるようですが、万一そんなことになったら一番パニクって慌てることになるでしょう。
米国内で銃取締規制が最も厳しいカリフォルニア州内先月だけで3件の銃撃事件が続き、6歳の学童がクラスで教師を撃った事件や5歳の幼児が父親所有の実弾入り短銃をオモチャにしているビデオ映像が流れて大騒ぎになったりと相も変わらず銃に関わる事件、悪いニュースが後を断ちませんが、直近では複数警察官による黒人運転手に対する通行停止から殴打・過剰暴力行為による致死事件のビデオ映像が公開されて抗議デモが連日続く中、現場で直接行為に及んだ警察官5名が殺人・誘拐容疑などで起訴されましたが、他にも追加で出そうな雲行きです。
他にも下院新議員に関する話題としてニューヨーク州ナッソー選挙区選出のジョージ・サントスの嘘だらけの履歴・経歴や選挙違反や違法所得税申告も疑われる突然の巨額選挙キャンペーン資金の出所、過去の悪事、悪行、醜聞の数々は知れば知るほど開いた口が塞がらない呆れかえる内容で、既にニューヨーク州の共和党議員連や下院共和党議員複数がとても一緒に議員活動できないと辞職勧告しましたが、マッカーシー下院議長は「有権者が決めたこと」と有権者が偽情報で騙されて投票したことを意に介さず、辞職勧告しないと同時に二つの異なる個別委員会のメンバーとして参加するとしていましたが、先月末日のニュースで本人から今の騒動が収まるまで取り敢えず委員会メンバーを辞退する旨の声明があり、それが暫定でなく最終決定であることを強く願っています。
国外のニュースでは、日本で新型コロナ第8波の影響で感染者数、死亡者数が昨年12月以降急増し、直近の1ヶ月余りで死亡者が1万人を超えたことが大きな驚きです。世界中でワクチン接種率がトップクラスで最もマスク装着が常習化、常態化している日本で何故?というのが率直な疑問ですが、N H Kの公開資料を閲覧して死亡者の年代別内訳を見ると10歳未満と10代〜40代までの各年代は全て全体の1%未満なのに対して50代から1%を超え、60代は5.08%、70代は17.10%、80代は41.17%と最も多く、絶対人数が少ない90代以上では33.89%となっていました。この数字から推察する限り、コロナ感染の防止策としてワクチン接種、マスク装着も100%有効ではなく感染する人もいればそれが引き金となって死亡する人もいるという事実です。根の原因は高齢者や高高齢者は加齢とともに自然免疫力が落ちて、ワクチンを打っても健康な若者よりも免疫力強化レベルが上がらず、一旦感染・発症すれば重症化して死に至るケースが増加すると言うことでしょう。コロナ以外の何らかの既往症があって既に体力、免疫力が低くなっている場合は尚更そのリスクが高くなり、死亡者数に占める割合も高くなるということですね。米国でもいっとき全国集計でワクチン接種者の死亡者数が未接種者のそれより高い数字が出たことがあり、「ワクチンを打ったせいで死んだ」とまたまた偽情報、誤情報が飛び交った時もありましたので、これは日本に限ったことではありません。日本政府は分類変更など名目上の政策でなく、実効性の高い緊急施策で目下世界一高齢化が進む日本の新規感染者数・死亡者数で別のありがたくない世界一が続くのを1日でも早く断ち切って欲しいものです。
欧州では、今月24日でまる1年となるロシア軍のウクライナ侵攻が新局面、新展開を迎えています。簡単に成功すると思って自分が始めた戦いであり絶対に勝たねばならない、一時的・局所的な劣勢すら認められないプーチン大統領の面目に賭けても絶対に負けられない使命を帯びたロシア軍は正規軍のみならず予備役の緊急招集、アフリカなど国外からの義勇兵、傭兵募集などで増員・増強した援軍をろくな兵器や装備、訓練も与えずに派兵して、一旦ロシア軍に占拠された後ウクライナ軍が取り返した南東部都市で激戦が続き、ウクライナ軍だけでなく明かに発電所、病院などの公共施設、アパート、学校などの民間施設、民間人を標的にした遠距離からのミサイルやドローン攻撃を受けて被害が増したウクライナ軍が撤退を余儀なくされましたが、先月下旬に米国およびドイツ、ポーランドなどN A T O加盟国からの戦車供与決定が公式発表され、東南部における対リシア軍地上戦で有利な展開になるかどうか?です。ウクライナ軍や国民は朗報と歓迎していますが、侵攻当初にロシア軍の戦車や装甲車が侵入してきた際にウクライナ軍が米国から供与されたジャブリンなどの歩行携帯ロケットなどの対戦車兵器で反撃し、複数で操作するロシア軍戦車の破損や乗員兵士の死者・負傷者数が急増した前例があるので、逆にロシア軍から類似の対戦車兵器やイラン製カミカゼドローンなどで攻撃された場合に同様の被害が出て必ずしも地上戦で有利な展開にならないケースを懸念します。まあ、素人がもの言うより軍事専門家に任せるのがベストですが、仮にウクライナ軍が地上戦ではっきり有利になった場合でも、ロシア側から過去に何度も威嚇発言があったように窮地に追い詰められたプーチンが戦術的・局地的核兵器を本当に使ってしまう懸念もあります。絶対にそんなことにならないことを祈ります。
私は今月19日の誕生日を迎えますとまた一つ齢(よわい)を重ねますが、誕生日が1日違いだった姉のことをまた思い出すと同時に、自分でコントロールできる事はもちろん、出来ない事も併せて去年より良い年にしたい、良い年になって欲しいと願わずにはいられません。
今年は卯年ですので、悲惨な事件、嫌な出来事、悪いニュースで驚いて跳ね起きるのではなく、楽しいイベント、嬉しい出来事、良いニュースに喜び飛び跳ねたいものです。皆さんも公私にわたり干支のウサギの如く元気に跳ね回れるといいですね。月遅れになりましたが、今月からでも「卯年に跳ねる!?」素晴らしい1年になりますように祈念して筆をおくことにします。
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。