
新年明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
「ひと月1作品」、今月は2011年に発表された映画”Seven Days in Utopia”をご紹介します。ゴルフのプロツアーを目指す若者が、人口375人の小さな町Utopia, TXで過ごした7日間を描いた映画です。
PGAツアーの予選と位置付けられたテキサスのローカルな試合で、17番ホールまで1位リードしながら18番で14を叩き、本戦出場のチャンスを逸したルーク・チズム。18番ホールのフェアウェイでルークとキャディのお父さんは口論になり、お父さんはバッグを置いてそのまま歩き去ってしまいます。ルークは試合を終え、怒りに任せて車を走らせているうちに運転をあやまり、農園のフェンスを壊して牛の肥溜めに突っ込んでしまいました。そこで助けてくれたのは、地元の老人ジョニーでした。ジョニーは昔わけあって引退したツアープロでした。「もしこのユートピアで僕と一緒に7日間過ごしたら、ゴルフが変わるよ」とジョニーはルークに優しく話しかけます。翌日からジョニーのユニークなゴルフレッスンが始まりました。
1日目、ジョニーはルークに革の手帳を渡し、「君はグリップをどうしてそう握るのか、スイングはどうしてそう振るのか、セットアップからフォロースルーまでの全て何をどうしてそうするのか、君の『信念』をこの手帳に書きなさい」と言いました。プレイ中に誰が何を言っても、何が起こっても、自分を失わないためには信念がはっきしていないといけないのだと、ジョニーは言いました。
2日目は、川へ行きボートの上に立ってフライフィッシングをするよう命じられます。魚がルアーに食いつくのはお腹が空いているからではなく、水面をちょんちょんと跳ね回るだけで水中に入ってこない義餌に腹が立つからである、相手が怒れば怒るほど自分は冷静に。重要なのはリズム、バランス、忍耐、そして感情のコントロールである、とジョニーは言いました。なるほど。
3日目は、グリーン脇で絵を描きます。もし木の陰にボールが飛んでしまったら、真横のグリーンに乗せるにはどうしたらいいのか。何ヤード飛ばして土手に当てて、などと頭で考えるのではなく、絵を描くかのようにただ客観的に景色を見なさい。あとはボールが行くルートを頭に描くだけ。うーむ…深いです。
4、5、6日目と進むにつれて、ルークはスコアメークに大事なものはスキルではないこと、そして人生にはスコアよりももっと大事なことがあることに気付き始めます。そして最終7日目のレッスンは、お墓の前でした。まっさらの墓石の前に掘られた穴の中には小さな箱が入っていました。箱の中には、1本の鉛筆、2枚の便箋、ジョニーからの手紙と聖書が入っていました。
無事に7日間のレッスンを終えユートピアを離れる際に、スポンサーの特別枠で目標にしていたテキサスオープンに出場できることになったと、ルークはジョニーから告げられます。さあ果たしてルークは本番でどんなパフォーマンスを繰り広げるのか、喧嘩別れしていたお父さんとの関係は…。まあなんとなく想像はつくと思うのですが、なんと映画の中でも試合で最後のパットが入ったかどうかは、教えてくれていないのです。ジョニーはキッパリと言います。「パットが入ったか入らなかったかよりも、人生はもっと深いものなのだ」と。
PGAの全面協力のもと、試合のシーンではKJチョイやリッチ・ビーム、リッキー・ファウラー、スチュワート・シンクなど当時の本物の選手が登場します。そして作中、最後のシーンに映ったのはこのURLでした。didhemaketheputt.com。
美しい景色、ユニークな展開、ロバート・デュバルの名演技が光る素晴らしい作品でした。機会があればぜひご覧ください。
(参照:”Seven Days in Utopia”©︎2021Utopia Films, LLC. By Matt Russell)
<プロフィール> 東京都出身、慶応大学法学部卒。駐在員の妻としてミシガン滞在中にゴルフを始め、ゴルフ好きが高じて2009年にPGAメンバーとなる。「もっと遠くの、狙った場所へ」をモットーに、Links of Noviでレッスンを行なっている。
(sonya_nomura@pga.com / www.crazygolfersworld.com)