
ハロウィーンを終えて霜月11月となり、朝霜が降りてもおかしくない寒い日が多くなりました。ミシガン州のアッパー・ペニンスラでは先月既に吹雪も経験していますが、ミトン型のローワー・ペニンスラでもいつ雪がチラついても不思議はない時季です。ハロウィーンと言えば、今年はキャンディーやコスチューム、ディスプレーに使われた金額が過去数年よりかなり多かったとのこと。パンデミックの酷かった間子供たちが(大人も?)ホリデーシーズン前の年中行事として楽しみにしているイベントを自重・自粛していた反動とインフレによる物価高の影響で販売数量の単純増加以上に金額が増えたものと思われます。ハロウィーンを挟んで世間を騒がせていた大きな話題は11/8(火)実施の米国中間選挙をめぐるキャンペーン活動と関連報道でした。この件に関しては、本号のテーマとして後述したいと思います。その前に一つご報告しておきたい事があります。
先月号で恥を忍んで書き連ねましたフィッシング・メールによるなりすまし詐欺に関する続報ですが、幸にしてその後継続被害、2次被害はないようです。一度味をしめた犯人グループは2匹目の『柳の下のドジョウ』を狙って、あの後にも被害者本人である私宛に2度、3度と同様のフィッシング・メールを送って来ました。全く商売熱心な連中で、その勤勉さと頭脳をまともな仕事と世間に役立つ事柄に使えばポジティブな評価と感謝をされるのに残念な事です。まあ、決まった時間に決まった場所に出勤する必要がなく、在宅勤務で楽にお金が稼げるので「やめられない、止まらない」のでしょうね。皆さんの中には同じようなメールを受信されても私と同じミスをして被害に遭った方がいないことを願います。
スポーツの話題では、米国M L Bは2009年以来8回目の出場となるフィラデルフィア・フィリーズとプレーオフ常連で2年連続5回目の出場となるヒューストン・アストロズが頂点を争うワールドシリーズの真っ最中ですが、一足先に日本のN P B日本シリーズはオリックス・バッファローズが2連覇を目指したヤクルト・スワローズを下し26年ぶり2回目(合併前の阪急ブレーブス時代を含めると5回目)の優勝を飾りました。1996年の初優勝時にはイチローさんもいたチームを故仰木監督が率い、長嶋監督率いる読売ジャイアンツを4勝1敗で退け、本拠地地元神戸で胴上げを実現し、その前年1月に発生した阪神淡路大震災で壊滅状態となり絶望状態にあった神戸市民を「がんばろうK O B E」を合言葉に大いに力づけました。34年間務めたオーナー職を今季で退く宮内オーナーにとっては、初優勝時の喜びと記憶が蘇ると同時に忘れられない最高の花道となりました。優勝おめでとうございます!!
国際政治関連では、9月に就任したばかりのU Kのリズ・トラス首相が過去最短のわずか44日間で退任し、同国200年の議会史上最も若く初の有色人種である保守党所属のリシ・スナク氏が新首相に就任しました。退任理由は引き当て財源のないインフレ対策の強行が対立政党の労働党のみならず身内の保守党内でも不評を買い、議会で吊し上げられて弁明に窮し協力者もなくては挽回の余地なしと判断した結果のようですが、7週間で何と3人目の首相という醜態です。古き良き大英帝国の栄光と威厳を70年以上もの間維持し続けてご逝去された故エリザベス女王2世はこの情けない状況を今天国でどう思っていらっしゃることでしょう?トラス前首相の就任式を病状悪化の中で私邸で亡くなる直前に完遂された故女王陛下のご存命時代に起きなくて良かったと思ってしまいます。
また、今年2月24日に始まったロシア軍のウクライナ侵攻が新たな局面を迎えています。和平交渉が進展しないまま一進一退を繰り返し、先の見えない長期化、泥沼化しています。先月ウクライナ軍の敏速かつ大規模な反攻によりウクライナ南東部を占拠していたロシア軍の特殊部隊が壊滅したり、大半が国境付近や正規のロシア領まで撤退する事態に陥り、クリミア地区との重要な交通・軍需輸送の要衝である橋梁が破壊され兵站(兵站)確保が極めて困難となり、プーチン大統領の自尊心と面目丸潰れとなりました。
ショイグ国防相が身代わりとなって国内強硬派からは弱腰の悪者扱いされていますが、退任とはならず新たにウクライナ特殊軍事作戦の総司令官としてアフガン戦争、タジキスタン内戦、第2次チェチェン戦争、シリア内戦で参戦介入経験のあるセルゲイ・スロビキン将軍が任命されました。プーチンの意を受けた超タカ派の彼がどんな動きをするかです。
ショイグ国防相は先月末の会見で先にプーチン大統領が発令した予備役30万人の部分緊急招集が完了し、その内4万人がウクライナ戦線に派遣されたと発表しましたが、真偽は定かでないもののロシア軍関係者や当の新規派遣兵の内部告発によると彼らに対する事前訓練は正規のベテラン教官が不足しており極めていい加減で、与えられる軍服もバラバラ、兵器も旧式で戦闘能力に劣り、N A T O諸国から近代兵器を供与されているウクライナ軍に対抗出来ず、ただ死を待つのみ、との悲観的(絶望的?)な声が上がっています。
ロシア軍の退却、劣勢を認めず苛立ちを隠しながら強気な姿勢を崩さぬプーチン大統領の会見では、ウクライナ軍はロシア併合4州の住民に対してダーティー・ボム(核爆弾ではないが、爆薬の周りに内包されている放射性物質が爆発と同時に飛散し、広範囲にわたり放射能汚染を引き起こし、長期間日常生活が不可能となる大打撃)攻撃を計画しているという根拠のないデマ情報を流し、その対抗措置として住民保護と自己防衛のために戦術的核兵器の使用もあり得る発言をしておりましたが、先の併合州におけるマーシャル・ロー宣言、住民避難勧告と併せて、考えるだけでも恐ろしい戦術核兵器の使用を正当化するための準備工作と思えて仕方ありません。私の取り越し苦労になることを切に祈っています。
他方、極東・東アジア地区では先月突然再開された北朝鮮による複数回の弾道ミサイル発射や直近の中国共産党大会にて習近平共産党総書記、国家主席の3期目継続就任と権力の1点集中強化が大きな懸念材料となっています。党大会開催中のビデオに胡錦濤前総書記が係員に腕をつかまれて途中退席させられた映像もあり、その後の所在がいまだに確認できないこともショッキングな事実です。
余談になりますが、ウクライナ、ロシア絡みの動きで最近O P E C+諸国が原油の大幅減産を発表しましたが、最大の輸出国であるサウジアラビアがこのドタバタ騒ぎで大いに潤い、資産を増やしていることをご存知でしょうか?余り話題にならず私も聞いて驚いたのですが、サウジはN A T Oや西側諸国から非難を浴びながらロシア産原油を国際的購入制限による市場価格下落やルーブルの一時的為替レート下落で安く買って国内消費に使う一方で、自国産の原油を高値で輸出して巨万の富を得ています。増産して原油価格を下げるよりも減産して価格維持もしくは高騰した方が収益は増え、西側諸国の政治力、経済力を弱めて国際市場や政治面でプレゼンスと発言力も増す狙いもありそうです。
7月中旬にバイデン大統領が中東訪問した際の目玉がサウジのM B Sことムハンマド・ビン・サルマン皇太子との会見でした。バイデン大統領が前回選挙期間中の不用意な発言で大統領就任後も両者の関係が冷え込んでいましたが、原油価格高騰の緩和・解消のための増産要求や中東地区の緊張緩和、安全保障確認目的のため人権侵害やワシントンポスト紙の反体制政治記者カショウギ氏殺害関与疑惑が濃厚な同皇太子と会見しフィスト・バンプまでして関係修復を目指したのを裏切られ体面を失った感じです。
今回の減産措置も米国経済を混乱させ国力を奪い、国民の不満を煽ってバイデン政権と民主党を窮地に追い込み、自分達に都合の良い共和党主導の米国議会、更にトランプ(もしくは彼の意で動く候補者)の再出馬・再選を目指す裏工作があったのではないかと疑いたくなります。
余談が長くなってしまいましたが、同じく政治に関する今回のテーマ「米国中間選挙の結果は如何に?」に移ります。
現職大統領の当選後2年が経過した時点で実施される中間選挙は上院議員の1/3と下院議員全員が改選となり、同時に多くの州で州知事、州務長官、市長など州政府や自治体の重要な公職ポジションも改選されるため、その結果次第で連邦政府、州政府、自治体の政権・議会運営、行政、法令などが大きく変わることもあり、一般国民や市民の日常生活にも影響する節目の一大イベントです。本号が皆さんのお手元に届く頃には選挙が終わり、次々と開票速報から最終結果が報道されていると思います。
歴史的に中間選挙は現政権及び与党の過去2年間の政策の評価を反映するため、選挙前の期待が大きいほど与党(今は民主党)に厳しい結果が出ることが多く、第2次世界大戦後に行われた19回の中間選挙で当時の与党が上院で議席数を増やしたのは5回、下院では2回のみ。与党が上下院とも議席数を増やしたのは米国同時多発テロ事件のあった翌年2002年の中間選挙の一度のみで、今回も民主党には強い逆風が吹いています。
有権者の主な関心事として、民主党、共和党支持者に共通するのは長引くインフレーション対策です。後者には最大の関心事ですが、前者には妊娠中絶禁止法の復活・厳罰化、多数州での共和党主導の投票権・投票機会の圧迫・制約・制限立法化、銃規制強化も大きな関心事です。
残念ながら下院議員改選の結果予想では民主党が現職議員の引退・再出馬断念などもあって14〜15席を失い、共和党が過半数を占める可能性が高く、上院で現状と同じ同数または過半数を確保できるか否かが現政権・与党の生命線となります。鍵を握るのは接戦が予想されるアリゾナ、ジョージア、ノースカロライナ、ペンシルバニア、ウィスコンシン、ニューハンプシャー、ネバダの諸州と思われます。同時に改選されるアリゾナ、ミシガン、ノースカロライナの州知事選やニューヨーク市長選も結果がどうなるかで政局が大きく変わると思われます。
本選挙前の予備選で最も驚いたことは、出馬した候補者の中に前回2020年の大統領選挙結果をいまだに否認・否定する者(Election deniers)が何と345名もいたことです。共和党の立候補者がほとんどで、実に半数以上の62%に相当しますが、まる2年近くが経過した今も「死んだ子の齢を数える」ごとく「選挙に不正があった、トランプが当選していたはずなのに盗まれた、バイデンを大統領として認めない」と確かな根拠もなく言い続けています。彼らと連動して誤情報、偽情報を散りばめた報道でそれを扇動し煽り、増幅し続けている偏向メディアに乗せられて、騙され、誤信して支持・支援し続けている多くの人たちがいることも信じ難いことです。事実を認めず自分たちの野心と歪んだ考えをゴリ押しする彼らがトランプ派と反トランプ派、民主党と共和党、保守派とリベラル派、白人と有色人種間の対立、反感・憎悪、分裂を増幅し、トランプ派が暴力容認の力ずくでも相手をねじ伏せようとする動きが激化しており、直近ではナンシー・ペロシ下院議長の自宅に深夜暴漢が押し入り、就寝中のご主人がハンマーで攻撃され頭蓋骨骨折、手・腕の怪我で緊急入院手術となり、幸いにも一命を取り留め完全回復の見込みとのことですが、人権と民主主義政治を脅かすとんでもない犯罪です。反トランプ派の常識人や一般人に対する恐喝、暴力事件は前回大統領選挙でトランプが落選後に顕著となり、更に昨年1月6日の議会乱入テロ事件前後から一層悪化して、当事者だけでなくその家族や友人たちの生活や生命まで脅かす危険な存在となっています。民主主義社会でこのようなことがあってはなりません。
既に一部の州では本選挙の事前投票、不在投票が始まっており、何百万票もの数になっていますが、「前回選挙でメール・イン投票は不正の根源で信用できない」とメール・イン投票を無効にする訴訟を起こして敗訴したり、今後のメール・イン投票を禁じる法案を提出したアリゾナ州とお膝元ミシガン州の共和党議員連が今になって突然共和党支持者に事前投票をドロップ・ボックスに入れるかメール・インで早くするように促しているドタバタ劇はお笑いとしか言えません。
また、アリゾナ州知事選に立候補しているトランプ推薦のカリ・レイク共和党候補者はC N Nレポーターの「選挙結果を認めるか?」という質問に対し、「私が選挙に勝つ。その結果は認める。」と返事。続けて「選挙に負けた場合も結果を認めるか?」という質問に対しても同じ返事で答えになっていませんでした。選挙に勝てば結果を認める、負ければ結果は認めない、という本音が見え見えで呆れます。知名度優先かトランプ崇拝で選ばれた同じ考えのトランプ推薦共和党候補者がウジャウジャいて予備選で前回選挙結果を認めまともな考えの共和党の現職候補者や対立候補者を退けて予備選を勝ち取り、共和党の正式候補者になっているケースが9割程度にもなっています。「選挙結果は勝ったら認める、負けたら認めない」というのでは選挙ではなく『暴挙』です。
皆さん、想像してみてください。もし、こういう候補者が本選挙でまともな考えの民主党や無党派・無所属の候補者を打ち破り当選して米国の上下院の議員に就任したら、次期大統領選挙でトランプが再出馬または他の共和党候補者が出馬して選挙に敗れても、その結果を認めず否定するのが目に見えていて、前回選挙で米国憲法を遵守したペンス副大統領の常識と勇気ある行動で1月6日の議会乱入テロ事件の最中でもギリギリ救われた議会での正式承認手続きが不可能になる恐れがあります。考えただけでも恐ろしいことです。これは大統領選挙だけに留まらず、全てのレベルの選挙で共和党に不利な結果が出た場合にも当てはまるでしょう。これでは民主主義政治は成り立たず、議会も国家も破滅へ一直線です。
以前在米生活の長い日本人の友人との茶飲み話で、なぜ選挙権のない我々日本人が米国の政治や選挙について米国有権者より真剣に考え、悩み、心配しているのだろうとね、と話していました。前々回大統領選挙でトランプ前大統領を選ぶというとんでもない間違いを犯してしまった米国有権者に同じ間違いを2度と繰り返さないように切にお願いしたいです。再発防止ができるでしょうか?米国中間選挙の結果は如何に?神頼み、仏様頼みを続けます。
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。