
秋の紅葉がきれいな季節となりましたが、この原稿が皆様のお手元に届くのは、もう紅葉も終わっている頃かもしれません。それと共に朝晩の冷え込みも厳しくなってきており、もうすぐ来る冬の訪れを感じさせるようになりました。
冬といえばインフルエンザのシーズンです。インフルエンザには米国で毎年約3500万人が罹患し、38万人が入院を必要とし、総死亡原因の1.6%を占めていると言われています(USstatista)。
アメリカ心臓病学会は、インフルエンザウイルスに対するワクチン接種を、強く推奨しています。JAMA※本年4月号に掲載された論文によれば、インフルエンザのワクチンを接種した人は、心臓血管系の重篤心事故を非接種者に比べて、34%減少させ、また、最近急性冠状動脈虚血症候群(心筋梗塞や不安定狭心症など)に罹った人のうちでは、45%減少させたことが判明しています。(注1)
アメリカ心臓学会では、インフルエンザのワクチン接種を、禁煙、コレステロール低減薬のスタチン、及び血圧コントロールなどと並ぶ、重要な治療・予防法として推奨しています。(注2)
糖尿病や喫煙歴、心臓や慢性肺疾患などの既往歴のある人、免疫不全症、高齢者や、乳児、妊産婦、慢性腎疾患、悪性腫瘍などの基礎疾患がある人はもちろん、そのような疾患のない人でも、接種の利益と危険を比較すれば、ワクチン接種は勧められます。近くの薬局やプライマリーケアでインフルエンザの予防接種は気軽に受けられます。アメリカでは、インフルエンザのワクチンの事をフルーショット(Flushot)と言います。Flushot希望といえば、すぐにしてくれるはずです。インフルエンザにかかってから、解熱剤、鎮痛剤、鎮咳剤、抗ウイルス薬を飲むのも間違いではありませんが、手洗いやマスク、混雑を避けるなどと共に、ワクチンによる予防は最良の防御策だと思います。
アメリカでも日本でも、COVID19の流行は、やっと下火になりかけているようですが、医療従事者の目からすると、まだまだCOVID19の患者さんはおられます。私たち医者にとっては、これらの患者さんのお世話をすることは、義務であり、避けられないことでありますので、病棟に入院されれば、相変わらず防護ガウンを身に纏い、マスクと手袋をして、完全防御の態勢で、患者さんを診ることになります。ただ、2020年の、世界大流行初期に比べると、患者さんの症状が遥かに軽い印象があります。もちろん、中には重症になっている患者さんもいますが、総体としては、ずいぶん違ってきている印象を受けます。どちらかといえば、軽い風邪症状に近いものになってきている印象があります。これは、これまでに一度コロナに感染しているか、ワクチンを接種している人が増えて、重症化や入院、死亡などのリスクに対する免疫力が高まっている人が増加しているため、コロナの症状が全体として軽症化していることも大きな原因となっていると思います。
10月14日、アメリカ食品衛生局は、ファイザー社(5歳以上)と、モデルナ社(6歳以上)のオミクロン株対応の二価ワクチンを、接種可能とすると発表しました。二価ワクチンは、元々の、武漢発祥のオリジナルのウイルスと、それから派生し、現在主流となっているオミクロン派生型の両方に対応するワクチンです。二価ワクチンは、これまで既にコロナワクチンを受けたことのある人を対象に、ブースターとして接種されます。これまで使用されてきた一価ワクチンは、ブースターワクチンとしては使用できなくなりました。(注3)
JAMA10月18日号には、デルタまたはオミクロン株に罹った1199人のCOVID19の患者さんを対象に、直近の150日間に二回目か三回目のブースターショットを受けたかどうかで層別化して調べたところ、ブースターショットを受けた人は統計学的に有意に症状が軽く、罹病期間が短く、医療機関にかかる割合が少なく、体内のウイルス量が少ないという研究結果が発表されています。(注4)
また、JAMA10月11日号には、ノースカロライナ州の1060万人の人口を対象に、興味深い比較研究結果が発表されており、COVID19プライマリーワクチンを受けたか受けなかったか、また、ブースターワクチンを受けたかプライマリーのみか、さらに、COVID19にかかった事があるかないか、の三つの比較をしたところ、いずれも、前者が、後者に比べて、統計学的に有意に、COVID19新規感染、入院、及び死亡のリスクを下げているという結果が出ました。この効果は、時間が経つにつれて弱くなり、とりわけ、新規感染に対する効果が減少するとの結果でした。(注5)
こうした結果から考察すると、COVID19に対するワクチンは、有効であり、ハイリスクの人には特に勧められます。予防は最大の防御という格言は、インフルエンザだけでなく、新型コロナウイルスにも当てはまります。
適切なワクチンを接種されて、健康で快適な冬を過ごされることをお祈りしています。
<参考文献>
※ JAMA: Journal of the American Medical Association
注1) Association of Influenza Vaccination With Cardiovascular Risk: A Meta-analysis, April 2022. JAMA open. DOI:10.1001/jamanetworkopen.2022.8873.
注2) Influenza Vaccination for Primary and Secondary Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Disease: Efficacy/Effectiveness of Vaccination and Disparities in Vaccine Coverage in the US. Oct 13, 2020 ACC expert analysis.
注3) FDA NEWS RELEASE Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Authorizes Moderna and Pfizer-BioNTech Bivalent COVID-19 Vaccines for Use as a Booster Dose in Younger Age Groups. October 12, 2022
注4) Association of mRNA Vaccination with clinical and virologic features of COVID19 among US essential and frontline workers. JAMA 2022, 328(15): 1523- 1533.
注5) Association of primary and booster vaccination and prior infection with SARS-COV-2 infection and severe COVID-19 outcomes. JAMA 2022; 328(14): 1415-1426
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筆者 プロフィール:
山﨑博
循環器専門医 日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
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