心臓病治療の最前線
心臓病治療の最前線
 ミシガンも暑い日が続いていますが、お元気でお過ごしでしょうか?
 循環器科開業医としての私は、総勢七人の循環器科医グループの一員として、外来を週に2日半、病棟回診及びカテーテル検査及び治療を週に2日半行っています。週末は交代で休みをとりますが、3つの病院をカバーしなければならないため、週末は二人で当直となります。3つの病院は互いに10マイル以内の距離にあります。こうして、平均月に3日程度(土日プラスもう1日)、週末当直となります。週末当直の忙しさは、日によって大きく違い、たくさんの入院患者さんがいたり、新規の患者さんが多く入ってきたり、複雑な病態を抱えている患者さんがいるときなどは、朝から回診を始めても、夕方一杯までかかる時もあります。サントジョン病院は通常最も多くの患者さんを抱えているため、循環器の上級看護師さん(アメリカではナースプラクチショナーと呼ばれています。)と協同で回診します。
 さて、今日は、そのような週末当直の日の出来事についてお話しします。その日は、2つの病院の掛け持ち当直で、しかも、そのうち一つの病院では、緊急当直と、新規入院当直、心電図当直、心エコー当直、負荷試験当直なども兼ねていましたので、忙しいことは覚悟ができていましたので、まず、朝7時から、当直に当たっていない病院に行って患者さんを診て、幸い病態が安定している患者さんばかりでしたので、一時間以内にそこを終え、次の病院に出かけました。次の病院に着くと、コンピューター上で七人の新規入院の患者さんがおり、先にその患者さんたちのデータを集めてから、一人ずつ病室を訪問して診てゆきました。昔は、電子カルテがなかった頃は、患者さんの話からの情報だけでカルテを作ろうとすると、患者さんがうろ覚えであったり、忘れていたりしていて、その話の正確性を他の情報源と併せて、裏をとって、確認する作業は大変でした。昔は、古いカルテを事務の人に倉庫から引っ張り出してもらったり、胸部写真を引っ張り出してもらったり、本当に大変でした。10年ほど前にオバマケアが導入された際、飴と鞭を使って、全米で電子カルテの導入が進み、今では、入院患者さんのすべてに、古いカルテや、胸部写真、血液検査の結果などが10年ぐらい前まで遡って(データがあれば)病棟の全てのコンピューター端末で検索できますので、新規患者さんを見るときの情報の大きさ、その収集の簡便さとスピードは、昔と比べ物になりません。また手書きのカルテは、日本でもアメリカでも、読めないことで有名でしたが、電子カルテとなってから、他科の先生が書いたカルテが読めるということだけでも、大きな進歩です。もっとも、当初のオバマケアの目標はもっと野心的で、アメリカ中の全ての医療機関が患者さんの医療情報を共有できる(個人のプライバシー保護をした上で)ことが最終目標でしたが、現在同じ病院系列の病院間では、情報共有がなされていますが、病院系列が違うと、それがなかなか難しく、結局不完全な情報で落ち着かざるを得なかったり、重複検査をせざるを得ないことが、なきにしもあらずです。
 コンピューターによる情報検索を行う時に注意しなければいけないのが、その正確性の担保をどのように行うかということがあります。一旦コンピューターに入力されてしまうと、その情報や診断名が一人歩きを始めて、次々に間違いが複製され、拡大してしまう可能性を孕んでいます。また昔行われた診断名についてその時は正しいと思われていたがのちの情報によって違う診断名となったものもあります。間違いが再生されるのを防ぎ、最新の、できるだけ正確な診断名に行き着くためには、それぞれの診断名について、患者さんと会話をしながら、他の診断名との整合性、時系列で意味が通っているか、現在の身体所見や服用薬と整合性があるか、今回の病態にどの程度関与しているかどうか、その診断名にどの程度の信用性があるか、根拠は何か、裏が取れているのか、などを考えながら、カルテを完成させ、検査や治療方針を決めていきます。一人の新規患者さんにかかる時間は、その病態の複雑性にもよりますが、古いカルテ検索から、患者さんとの面談及び診察、新規カルテの完成とオーダーの入力で、約30分から45分ほどです。新患でない患者さんについては、前日のカルテがありますから、それを参考にして、追加所見とオーダー(もし必要があれば)を付け加え、また修正の必要があればそれをした上で、その日のカルテを完成させます。新患でない患者さんについては、病態が落ち着いていれば、5分から10分ほどで新規カルテが完了します。
 こうして全ての患者さんを一応診終わってから心電図の読図にかかります。最近はコンピューターが仮読図をしてくれているため、それに問題がなければ、クリック一つで読図が完了します。最も悩ましいのが、リズムの解析で、患者さんにパーキンソン病の既往があったりすると、心電図上では、心房粗動のように見えてしまうことがよくあります。また、心房性の期外収縮が頻発していると、場合によっては心房細動との鑑別が難しいことがあります。ST部の上昇や下降、Q波の存在、QTの遷延、PR間隔の延長、などについては、コンピューターはほぼ見落としがないと感じています。コンピューターが読み間違えをしていないかに気をつけながら、その日その病院の1日分、200件余りの心電図の読図を完了しました。一つの心電図読図にかかる時間は、平均して5秒から10秒程度です。
 次は心エコー(超音波検査)です。心エコーは、ほとんどの場合、エコー専門の技師さんが検査を行い、仮読影をしてくれていますが、一つ一つの動画を見ながら、壁運動異常はないか、弁膜機能や形態に異常はないか、大動脈や心嚢膜に異常はないか、異常な瘤や構造物は存在しないかなど、確認しながらの読影となりますので、結構時間がかかります。一つの検査を読影するのに、平均5分から10分かかります。昔は、心エコーの記録媒体は、VHSのビデオテープでしたので、巻き戻しや初期出しに時間がかかり、また、読影は、そのVHSが保管されている部屋でなければ読影ができず、非常に不便でした。今はデータは全てクラウドを通じて病院中のコンピューター端末でいつでもどこでも読影ができますので、これも大きな進歩です。1日分30件余りのエコーの20数件ほどの読影がすんだ頃、救急室から緊急コールが入りました。
 ”80歳の女性、めまいと軽い精神混濁。軽度の胸痛もあり。救急室の心電図で、3度の房室ブロック。心室心拍数は30/分。血圧120/75。服用薬の中にはベータブロッカーやカルシウム拮抗剤などを含まない。
 ”直ちに、ペースメーカーの適応有りと判断したので、たまたま病院内にいた電気生理学の先生にお願いして、救急の処置を行なってもらうことにし、急いで残りの心エコーの読影を片付けてしまおうとしたところに、二回目の救急室からの緊急コールが入りました。
 ”73歳の女性、胸痛と呼吸苦を訴えて来院、緊急CT検査にて両側性の騎乗型肺塞栓症。SaO2=83%と低酸素血症があり、CT上で右室/左室比が1.5。脈拍数120。血圧110/80。緊急治療を要します。
 ”この時電気生理学の先生から最初の患者さんについての報告が入り、胸痛があり、虚血性の房室ブロックの可能性があるので、緊急カテが必要だと思いますとの話でした。まさに盆と正月が一緒に来たような状況で、これは、両方緊急カテで解決するしかないと腹を括り、心エコーの読影はひとまず後回しにして、緊急カテの立ち上げをオーダーしました。緊急性の順番を考えて、虚血の診断治療が優先すると考えたので、最初の80歳の女性を先にすることにし、待つこと半時間、カテ室緊急チームが到着しました。ここで時計を見ると午後5時半。
 最初の患者さんは、まず、鼠径動静脈にシースを入れ、鼠径静脈から、右心室に、臨時のペースメーカーを留置しリズムを安定させ、心拍数を確保しました。その後鼠径動脈からカテをして冠状動脈造影をしてみると、冠状動脈狭窄はなく、虚血性の疾患は除外されたので、手技は完了し、鼠径動静脈シース及び臨時ペースメーカーを手術用の針と糸で確保し、集中治療室に送りました。患者さんは翌朝埋め込み式ペースメーカーの治療を受けられ、翌々日元気に退院されました。
心臓病治療の最前線 2番目の患者さんは、肺塞栓をINARIという道具を使って経皮的に吸引除去する事とし、緊急INARIチームを立ち上げ、鼠径静脈から、両側の肺動脈に吸引装置をすすめ、そこにあった大量の血栓を除去することに成功しました。血栓除去の直後に、血行動態は著明に改善し、酸素飽和度は正常化し、患者さんの胸痛と呼吸苦も完全に改善しました。(図1)
 2例の緊急カテを終え、心エコーの読影も終了して、帰途に着いたのが午後9時。緊急当直なので、次の日の朝までは、緊急電話の応対もあり、長い1日で疲れましたが、満足感もありました。患者さんの命を救い、苦痛を取り除くという医師の仕事は、忙しいですが、達成できた時の満足感は、何者にも変え難いものがあります。
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筆者 プロフィール:
山﨑博
循環器専門医   日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
Roseville Office
25195 Kelly Rd
Roseville,  Michigan  48066
Tel: 586-775-4594     Fax: 586-775-4506

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