家庭計画・避妊方法について

 

 先月号では、アメリカにおける妊娠中絶に関する問題について書きました。アメリカでは州によっては人工妊娠中絶は違法ですし、現在合法となっている州でも、いつ違法扱いになるかわかりません。日本では中絶は可能といえ、自分のお腹に宿った小さい命ですから、殺すことになることがわかっているなら、又は、子供を産んで育てることが大きな問題になることがわかっているなら、妊娠しないようにすることがベストです。
 日本では、かかりつけ医制度がそれほど確立していないこと、かかりつけ医が必ずしも避妊についてカウンセリングをしない事、多くの避妊法が保険適応にならない事、などの様々な理由から、避妊についての教育やカウンセリングを受ける機会が少なく、コンドーム以外の方法についてはほとんど知られていないのが現状です。
 アメリカでは、妊娠・出産が保険適応になるのと同様に、避妊も保険適応になることが多く、かかりつけ医に定期検診に行くと、妊娠をしたいかどうか聞かれ、したくない人は確実な避妊をするように勧められます。生理がある人は誰でも妊娠可能なのに、日本人は、40歳を過ぎると妊娠しないと思っている人も多く、日本では45歳以上の中絶率はとても高くなっています。日本では10代の中絶率もとても高く、若い世代への避妊の教育がされていないことが大きな理由と思われます。文部科学省の規定で、学校では性交渉について教えない決まりになっていることも、知識不足による未成年の妊娠につながっています。日本では、わざわざ避妊ピルを処方してもらうために産婦人科にかかる人はとても少ない上、保険が効かないことも問題です。本来、ティーンエージャーに教育するべき両親に知識がないと教育することは難しいので、大人も子供も、避妊については知っておくことが必要です。
 日本では、コンドームが一般的に使われていますが、コンドームは射精の直前に装着したのでは遅すぎる場合があり、また、破れたりすることもあり、失敗率が高いことが問題です(100人中15-30人が1年間に妊娠する)。膣外射精は、避妊とはみなされないほど失敗率が高く(100人中20人が一年間に妊娠)、また排卵日を避けるなどの方法も確実な避妊とはなりません。
 避妊ピルを毎日服用する方法は、飲み忘れがない限り避妊効果は高いですが、飲み忘れた場合には効果が下がり、妊娠の原因になります。ただ、毎日薬を飲むことが問題なくできる人にとって避妊ピルは便利で、月経量が多い、生理痛、生理前症状が強いなどの場合、これを飲むことで症状は軽減されますし、生理の頻度を減らすこともでき、このような症状がある場合は保険適応になることもあります。子宮内膜症やチョコレート嚢胞などがある人は、避妊ピルを服用することで病気が改善するので、一石二鳥のこともあります。ただ、月経に問題がなく、避妊が主な木庭な場合は、日本では保険適応になりません。また、日本では薬の処方を継続して受けるために頻繁に受診しなければいけないことも多いですが、アメリカでは1年分が薬局へ処方できるため、薬局に3か月に一度受け取りに行けばいい仕組みになっています。また、保険が避妊ピルをカバーしなくても1か月分で4ドルから9ドル程度の値段で買うことができます。
 アメリカでは、避妊ピルの代わりに、週一度皮膚に貼るパッチや、膣内に挿入してホルモンが徐々に放出されるNuvaRingという器具もあり、毎日薬を飲むのを忘れがちな人にはお勧めです。これも、薬局に処方箋が届き、薬局から受け取る形になります。また、3か月に一度、クリニックで注射をうける、Depo Proveraという方法もあります。どの方法も、月経の量も痛みも軽くなります。
 子宮内避妊具、(Intra Uterine Device = IUD)は日本にもアメリカにもあり、両方で使用されています。「リング」という名前で聞いたことがある人が多いかもしれません。その種類は大きく分けて2種類あり、ホルモンが徐々に放出される「ミレーナ」(Mirena, Inter uterine system=IUS)と、ホルモン治療ではなく、銅でできていることによって着床を阻害する「銅付加IUD」(Paragard)があります。卵胞ホルモンが持続的にでるIUDは、生理が軽くなり、ほとんど生理がなくなる人もいます。生理痛がひどい人や出血量が多い人には最適で、7年間留置できます。銅付加IUDは、生理は軽くなりませんがホルモン剤が入っていないため、体調の変化もありませんし、10年間継続して留置できます。妊娠する可能性はどちらも1%未満で、確実な避妊法です。挿入後も妊娠したい場合は医療機関で簡単に取ることが出来、妊娠しやすさは元通りになります。アメリカでは保険適用になることがほとんどですが、あらかじめ確認することが必要です。日本では、生理痛や月経過多などの症状がある人は、ホルモン放出型のIUDは保険適応になることがあります。日本でも行われているため、アメリカで挿入してから日本に帰国しても、日本の産婦人科で診てもらえるので安心です。
 アメリカでは、上腕の内側の皮下に挿入するホルモン放出型のインプラントもあり、ミレーナ同様、生理が軽くなります。これは、3年で入れ換えることになっています。日本にはないので、日本に帰る予定の人は他の方法がいいかもしれません。
 このような様々な避妊法のうちで、どれが自分に合っているか等を相談するのは、かかりつけ医との年一度の検診の時にするのが最適です。アメリカでは、ほとんどのかかりつけ医が、家族計画や避妊方法について話し合う用意があります。時々、妊娠はしたいか、したくないか患者さんに聞くと「わからない」という答えが返ってくることがあります。「できたらできたで」という回答をよく聞きますが、妊娠したら嬉しいのか、できればしない方がいいのか、ご自身とご家族と、よく話し合って決める事がベストです。
「できたら嬉しい」という人はきちんと葉酸を飲んで妊娠に備え、妊娠したら困る、という人はきちんと避妊することをお勧めします。生理がある人は誰でも妊娠可能なので、妊娠したいと思っていない人は、是非避妊をして中絶をしなくていいようにしましょう。
 では、最後に、妊娠したくないけれど、避妊をせずに性交渉してしまった、コンドームが破れた、ピルを飲み忘れたのに性交渉してしまった、などの場合は、どうすればいいでしょうか。アメリカでは、緊急避妊薬( Moring after pill)は処方箋なしで薬局で購入できます。性交渉後72時間以内に服用すれば、ほとんどの妊娠は予防できます。ただ、40ドル程度するので、毎回それに頼るのは、経済的にも望ましくありません。日本では、緊急避妊薬は、現在のところ処方箋が必要なため、処方をしてくれる産婦人科医にすぐに受診する必要があります。
 避妊のために体の中に器具を入れたり、薬を飲んだりすることに抵抗がある人も多いと思います。また、まさか自分が希望しない妊娠をして中絶をすることになる、とは思いもよらないという人も多いと思います。以前に不妊だったとしても、妊娠することもありますし、今まで10年間避妊しないで妊娠しなくても、45歳で妊娠することもあります。中絶は、体にも心にも傷を残すことがあり、できればきちんと避妊をすることで、予防をすることをお勧めします。
筆者プロフィール:
医師 リトル(平野)早秀子(ひらのさほこ)
ミシガン大学医学部
家庭医学科助教授
リボニア・ヘルスセンター
1988年慶応義塾医学部卒業
1996年形成外科研修終了。
2008年Oakwood Annapolis
Family Medicine Residency 終
了後、2008年より、ミシガン大学
家庭医学科で日本人の患者さんを診察しています。産科を含む女性の
医療、小児医療、皮膚手術、創傷のケアに、特にちからを入れています。

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