
ミシガンらしい美しい夏の日々が続いていますね。青い空と緑の芝生、小鳥がさえずり、そよ風が肌を乾かし…最高です。こんなお天気 が永久に続けばいいのに、とラウンドするたび に思います。「ひと月1作品」、今月は2002年に 発表されたエッセイ「さいとう・たかをのゴルフ 13」をご紹介します。
さいとう・たかを氏はニッポンの漫画家で、不 朽の名作「ゴルゴ13シリーズ」の著者です。主 人公はデューク東郷。性別は男性、国籍や年齢 は不明、世界を股にかけて暗躍する職業スナイパーです。一回の報酬は数十万ドルと言わ れ、成功率は99%以上。どんなに困難な依頼でも承諾に値すれば引き受けます。常に冷 静沈着、いかなる時も隙を見せません。毒物や薬品の知識に優れ、射撃・格闘技は無敵で す。引き金を引く右手を人に預けることになるため握手を拒み、背後から攻撃されないよ う壁や木に背中をつけて立ちます。彼の出生や経歴を調べようとした者は、間違いなく消 されます。私の実家には単行本が全て揃っていまして、昭和43年の連載当初は、若気の至 りか自分の感情を言葉に出すことがよくありましたが、ここ30年ほどは「……。」というセ リフ(?)が多く、無駄話は一切しません。彼はとにかくすごい人で、私にとっては人生の師 匠でもあります。
さいとう氏は生前「ゴルフの合間に仕事をする」と宣言していたほどゴルフ好きで、60歳 でゴルフを始め80台を出すまでに腕を上げたそうです。そんな彼が大真面目に、デューク 東郷に学ぶゴルフ術を書いた「さいとう・たかをのゴルフ13」を出版しています。もちろん これも我が家の本棚に並んでいます。作中に散りばめられた格言に私なりの解釈を加え ながら、ゴルゴとゴルフの共通点をここにご紹介したいと思います。
「自分のスタイルを確立しろ」:デューク東郷氏には、美学とも言える彼なりのルールが あります。暗殺を依頼する時には依頼主自身が東郷氏と顔を合わせて話をする必要があ ります。代理人はもちろんダメ、本人でも電話やカーテン越しの依頼は受け付けません。 依頼の背景や理由を包み隠さず正直に伝えなければ、依頼主が標的にされます。ゴルフ も然り。自分の持ち球を打ち続けて自分のスタイルを貫いてください。ラウンドでいつもと 違う打ち方を試すのは大ケガの元です。スライスでもフックでも全く問題なし、再現性が 高い人の方がスコアをまとめやすくなります。
「自分の腕となる道具を持て」:ある依頼を受けて国連暫定軍から銃を調達した際、東 郷氏は最新式の高性能銃ではなく愛用のM16アーマーライトを選びました。ゴルフも然 り。今持っているクラブとじっくり向き合って、使いこなせるようになるまである程度時間 をかけて練習をする必要があります。使い慣れた道具だからこそ、自信を持ってショット を打つことができるでしょう。
「信じるのは自分一人」:東郷氏に仲間はいません。人物調査や銃改造のために協力者 を雇うことはありますが、仕事は常に1人で遂行します。ゴルフも然り。ナイスショットも ミスショットも全て自分のしたことです。自分の鍛錬・上達が即結果につながります。東郷 氏も実戦を通して強くなったはずです。斜めのライや固いバンカーなど、難しいショットは コースで失敗と成功を繰り返し、自分で得た経験をスキルアップにつなげましょう。
さいとう氏自身のゴルフに対する考え方や心構えなども書かれていて、なかなか興味深 い一冊です。ぜひ話のネタに読んでみてください。ところで、もしデューク東郷氏がゴルフ プロを目指すとしたらどうでしょう。彼の身体能力と精神力を持ってすれば、すぐに実技テ ストに受かると思います。しかし証拠が残ることを嫌ってトーナメントの中継カメラを片っ 端から破壊してしまうでしょうし、うかつに背後に立った同伴者が居ようものなら、クラブ で暴行を加えて即引退に追い込まれるかもしれません。うーん、やっぱり本業に専念して いただきましょう。
(参照:“さいとう・たかをのゴルフ13” ©︎リイド社 著者:さいとう・たかを)
<プロフィール> 東京都出身、慶応大学法学部卒。駐在員の妻としてミシガン滞在中にゴルフを始め、ゴルフ好きが高じて2009年にPGAメンバーとなる。「もっと遠くの、狙った場所へ」をモットーに、Links of Noviでレッスンを行なっている。
(sonya_nomura@pga.com / www.crazygolfersworld.com)