
凍てつくような日々が続くのも、あと少し。霜柱を靴底に砕く音を聞きながら周囲と自身を励まし、開花の便りと優しくあたたかな春の日差しを待ち侘びております。騒々しい人類関係の世界ニュースをしばし脇へ置きます事と致しますれば、夕刻の闇の訪れが確実に遅くなっている事実に気付いて微妙で繊細な風の変化を肌で感じております。
あと何年か経ちもう少し諸々の情勢が安定し、且つまとまった休暇がとれるようになりましたら、1988年にGreat Lakes Commission (Ann Arbor, MI) が打ち立てたという風光明媚なサークルツアールートの、五大湖に境を接する全8州(と、カナダのオンタリオ州)を通り抜ける6500マイル走破を夢見ております。全米の表流水の90%の源である “des Grands Lacs” の最寄りにご縁あり居を構えることになったのですから、その荘厳な自然の厳しさと美を、より近くで感じ鑑賞する旅に出てみたいと思っております。
五大湖はじめ、地球の尊い財産である名所や希少な生物の数々が、深刻な環境汚染や心無い生息地破壊により深刻な危機を迎えていることは今更私が申し上げるまでもございませんが、私の身近にある話題で、アメリカのワシントン州からカナダにかけての西海岸で環境汚染に起因する鉛中毒により飛べなくなった白鳥が、なすすべもなく無力のまま死に至る事例が確認され続けているというものがあり、その白鳥らを何とか救うことが出来ないかと知人が海岸線をボランティアとして奔走し、尽力し続けております。
現実が落とす暗い影につい沈みがちな心を奮い立たせるため、レンギョウの枝を買ってまいりました。厳しく暗く長い冬が明けた頃に目に飛び込んで来る黄金色の花。これを生垣に仕立ててある御宅の前を私はのんびり散歩するのを毎春の楽しみに致しておりまして、今年は一足早く同じ景色を見たくなったのです。もう40年近く桐箱の中に入ったままであった染付の壺を出してきて固い蕾の付いたその枝を投げ入れ、外は雪と氷に覆われた如月の半ばに、それがゆっくりと一週間をかけ開花してゆく様を愛でておりました。レンギョウの英名はイギリスの植物学者名に因みForsythia、一般名はGolden Bells 又はYellow Bells で親しまれており御好みの方も多いかと存じます。「希望」の花言葉を持ち、ここミシガンではデッキの上に鉢で越冬させても春に必ず開花してくれる、寒さに強く丈夫な植物です。子どもに観察画など描かせたらきっとそれぞれの感性で独特の良い絵を描いてくれることでしょう。写真では決して残ることの無い、絵画の人間味溢れるあたたかさを私は好みます。切り花として長持ちする Limonium の可憐な小花や Moluccella (Bells of Ireland) の新緑色と取り合わせて洋風の印象に生けたり、他に春花の球根など室内で水栽培しその香りを楽しむのもこの季節の楽しみのひとつです。
久しぶりに松谷みよ子氏の赤ちゃん向けの絵本「のせて のせて」に再会するチャンスに恵まれました。まこちゃんの自動車にのせてほしいうさぎ、くま、ねずみの一家、みんなをのせてまこちゃんのじどうしゃは突然真っ暗なトンネルに入ってしまいます。でも最後のページでは「でた!おひさまだ!さあ いくぞ びゅーん」で、挿絵のまこちゃんと動物達はいっせいに笑顔で万歳をしている姿が載っています。屋内で開き始めた蘭や鉢植えのお花たちにも気持ちを支えられ、無駄を極力抑える暮らしや身の回りに配慮する考え方を次世代の子供たちに伝え、美しい地球へ恩返しせんと努めております。