
2月になりました。米国では元々日本の正月気分は味わえず、年明け早々に仕事始めとなり、学校の新学期も始まってパンデミック下での日常生活が再開しましたが、皆さんは順調な新年のスタートを切れましたでしょうか?「1年の計は元旦にあり」と言いますが、私の新年の抱負はここ数年あいも変わらず「家族の安全と健康」です。そのために自分で何か特別努力するのでなければ、抱負と言うより『願掛け』ですね? 長年ミシガンに住んでいながら寒さが苦手な私の冬場のプライベートな楽しみ(慰め?)としては、週末テニスの他にTVやオンラインでのウィンタースポーツのプレーオフ、映画、イベント鑑賞くらいですが、読書や音楽好きの方は特に不平・不満はないかもしれませんね。恥ずかしながら最近はほとんど読書をしていませんが、以前は気に入った本なら夜更けから明け方近くまで読み続けて最後まで一気に読み切ったのが夢のようです。小説にしろ随筆にしろ、はたまた新聞や雑誌、オンライン記事やブログ、メールにしても長文を読むのがだんだん苦痛になってきました。決まり文句のような「時間がない」、「目が疲れる」を言い訳にしていますが、時間管理、自己管理が出来ていないだけで「これではいかん!」と反省しております。
さて、そのウィンタースポーツの話題ですが、年末年始にかけて一足先にプレーオフが終了したカレッジフットボール王座決定戦では準決勝で久しぶりに大舞台に出た地元ミシガン大に圧勝したジョージア大がプレーオフの常連であるアラバマ大を33−18のスコアで破って41年ぶりに全米王者となりました。前半こそロースコアの接戦でしたが、後半第4クォーターに3タッチダウンをあげたジョージア大が攻守に圧倒しました。個人的にはまたアラバマ大が優勝かと予想していましたが、とにかくジョージア大が凄かったですね。(脱帽)
プロフットボールNFLプレーオフでは、1/23(日)にたまたまタイミング良くNFC及びAF Cのディビジョンラウンドの試合を続けてチラ観する機会がありました。前者はベテランQBトム・ブレイディ率いる昨年のスーパーボウル覇者タンパベイ・バカニアーズ対デトロイト・ライオンズから今シーズン移籍したQBマシュー・スタフォード率いるロスアンジェルス・ラムズ。こちらもまたバカニアーズ勝利を予想していましたが、試合開始からラムズが攻守に圧倒し、前半あのブレイディをFGの3点のみに抑え20−3とリード。後半も先にタッチダウンで加点し一時は最大27−3の点差。バックスが1FGで3点は返したもののまだ3TD差があり、「これは勝負あったな」とTVから離れようと思ったところで次のラムズ攻撃時にいきなりボールファンブルによるターンオーバーがあり、バックスが1TD加点で14点差に。QBがブレイディなので「ひょっとするとミラクル・カムバックがあるかも?」「いやあ、いくら彼でも無理だろう」と自問自答していましたが、残り時間4分少々の時点から相手の再度のファンブル、ターンオーバーを挟んで2TDを加点し残り1分を切ったところで遂に27−27の同点。OTになるかという場面でラムズのスタフォードも最後の意地を見せてギリギリの連続パス攻撃を成功させ、時間切れ直前最後のプレーでFGをものにし紙一重の勝利。どちらを応援していたわけではありませんが、ハラハラ、ドキドキの凄い試合でした。
これ以上のスリリングな試合はないだろうと思いましたが、その直後のカンザスシティ・チーフス対バッファロー・ビルズの試合がそれ以上の2転3転の内容でまたまた驚かされました。既に長くなりましたので詳細は割愛しますが、この試合は最終盤残り時間1度でも得点するのが難しい2-minutes warningを切って(1分54秒でしたか?)から両チーム壮絶な点の取り合いとなり、何と3TD(2ポイントコンバージョンが1回)+1FGで25点もスコアが動き、36−36の同点でOTに突入しコイントスで先攻となったチーフスが攻撃権を譲らず劇的なTDをものにして勝利しました。両QBがそれぞれ4TDパスを成功し300ヤード以上を投げ、自ら70ヤード近く走り、パスインターセプトやファンブルによるターンオーバーはゼロ。他のプレーヤーのランプレーを含めると合計500ヤード近く、二人合わせると1,000ヤード弱もボールを前に進めたことになり、本当に信じがたい、あり得ない、クレージーでアメージングな試合でした。上記2試合にご興味のある方は、「論より証拠」、“Seeing is believing.”でオンラインの録画かストリーミング配信でビデオクリップをご覧ください。
久しぶりにアメフトの試合を観たため前書きが長くなり過ぎましたので、ここらで本題に移ります。
今回のテーマは『バイデン政権の苦悩と苦境』です。
バイデン大統領と政権誕生から先月でまる1年が経過しました。ご承知のように前半6ヶ月は積極的なコロナ対策と中小企業・個人商店のビジネス継続支援や一般国民のための生活保護・経済復興策が功を奏し、大統領の好感度、支持率が55〜60%近くでしたが、後半6ヶ月はアフガン駐留米軍の引き上げによる混乱、移民・難民受け入れ緩和策によるメキシコ国境での入国管理問題、半導体を始めとする物・部品・資材・原材料不足、港湾における輸入品の受け入れ、通関手続きの遅れ、輸送・配達サービスの不足と遅延、それに伴う急激なインフレ・物価高騰、史上最低レベルの失業率で仕事はあるにもかかわらず働き手がいない人手不足、コロナ変異株(デルタ、オミクロン)の感染拡大、頑固なワクチン未接種者や接種対象外低年齢層の存在によるワクチン接種率の頭打ち、全米各州・都市・市町村での大企業、医療機関、学校などでマスク装着、ワクチン接種の義務化を巡る論争・対立・混乱、前回選挙後の国民間、2大政党間の融和が進まず、相変わらず分裂・対立・憎悪が蔓延し、犯罪件数とともに悪化していること、昨年議会を通過し立法化されたインフラ投資・雇用促進関連予算に続くはずの総枠3.5兆ドルのリコンシリエーション(財政調整)と投票権保護法案(正式法案名はBuild Back Better Act、及びVoting Right Protection Act)の議会通過・承認・立法化が民主党内の意見不一致で遅れ、遅れになっていること、更に直近ではウクライナ東部国境にロシア軍の大部隊が集結し、突然越境・侵攻の恐れがにわかにクローズアップされている等々、大統領と連邦政府に対する批判、不平・不満が続出し、現時点では支持率45%、不支持率50%前後と逆転しています。ただでさえ通常不利な11月の中間選挙に向けて大統領の支持率低下は民主党の苦戦に更に重荷となってしまいそうです。
原因・理由は歴史的なもの、地域的なもの、人種・階層差別的なもの、政党間の過半数議席追求的なもの、国家安全保障上の地政学的なものなど色々あり複雑ですが、共通する悪の根源(元凶)として全てに影響している一番大きなものは新型コロナウィルスによるパンデミックだと思われます。
即ち、感染急拡大で罹患者が急増し、人が集まる会社、事務所、工場や作業現場、販売店、飲食店、スポーツ・娯楽施設などは営業停止・制限・制約で在宅勤務やリモートワーク以外は通常のビジネス活動ができなくなり、特に消費財や部品、資材、原材料の製造メーカーはモノづくりができないか大幅に制限されて生産量が大幅減となり国内生産品も海外からの輸入品も需要に供給が追いつかない状態が発生。パンデミック下でも比較的制限・制約が緩かった建設業界では鉄骨材、建材などがかなり早い時期から品不足でそれらの値上がりと連動して新築物件や既存物件の増築・改装コストも上昇し、戸建てや集合住宅の価格も上昇しました。
産地と消費地を繋ぐロジスティック(輸送・倉庫保管・配達)も運転手不足、稼働トラック・トレイラー不足、輸送用コンテナー不足で物不足に拍車がかかり、スーパーの陳列棚に物が空っぽとか、入荷しても即売り切れて次の入荷がいつになるか分からない時もありました。需給のバランスが崩れれば価格変動が起こるのは自明の理ですが、食料品や生活必需品など生活に毎日必要な物は品不足で値段が上がっても買わないわけにはいかず、昨年1年間の物価上昇率や今年初めの前月比の物価上昇率が30年ぶりとか40年ぶりというレベルのインフレでした。車がないと動けない米国ではガソリン価格の急騰も喉に刺さった魚の骨のように毎日気になり不自由を感じる頭の痛い問題です。米国の音頭取りで日本を含む主要国が国家石油備蓄の一部を市場に緊急放出して一時的にガソリン価格は下がりましたが、先月半ば過ぎから再度また上昇トレンドとなっており、冬場は暖房用に使われる石油量も多いためこの傾向はまだしばらく続きそうです。
また、あらゆる電子製品のコア部品である半導体が世界的に供給不足となり、自動車やパソコン、スマホ他の電子機器など極めて多くの関連製品が生産量大幅カット、供給不足になりました。近年特に電子部品の塊のような自動車の生産・供給不足は顕著で昨年実績で前年比5割超減のメーカーも多く、グローバルリーダーのメーカーでも計画比で4割減を余儀なくされました。私自身も車の定期点検で立ち寄ったディーラーで待ち時間の間に「今はどんな車が展示されているのかな?」とショールームを覗いてビックリした経験があります。いつもなら少なくとも5〜6台は展示されていたのに全くゼロ、1台もなかったのです。セールスマンも姿が見えず、点検の係員に聞いたら「今はオーダーしてから平均6ヶ月待ち。特殊な車体色やオプションを希望したらいつになるか分からない。次に入荷予定の車も輸送用のトレーラーに載せられた時点で既に買主が決まっている」とのことでした。
『産業の米』である半導体の生産・加工工程は長く複雑で1箇所では全て処理できず、グローバル規模で役割分担して作業しており、顧客も容易に発注から入荷まで自分の思い通りにコントロールできないようです。自動車用の電子部品は一般的に軍需産業や航空宇宙産業向けの最新・最先端の電子部品は不要でどちらかというと汎用タイプの電子部品で用が足りるようですが、数年前から世界的な設備の過剰投資で生産能力過剰だったところにパンデミック騒ぎとなり、多くの製造メーカーは更に需要が落ち込むと予想して設備削減、生産量削減を続けていましたが、勤務形態が在宅勤務やリモートワークに移行したり、既にやり始めていた所はそれが加速したりでパソコン、ノートパッド、スマホなどの半導体需要が急増するという予想と逆目となり、品不足に拍車が掛かったようです。需要予測は、特に特異な状況下では難しいですね。
それもこれも、突然国外で発生し米国に侵入してきた新型コロナがトランプ前大統領とその政権幹部の甘い読みと科学的知識・データを無視した杜撰で拙速な対応で国としての初動が遅れ、米国内の急拡散を招き、その後の対策(らしき動き)も株価維持の情熱ほど力が入らず、マスク装着や身体間距離確保、ビジネスの営業制限・制約にしても徹底せず、連邦レベルの感染拡大防止策が的外れでタイミングも後手後手となり、前回の大統領選挙では「このままでは皆トランプに殺される!」恐怖感と「国が滅亡する!」危機感からどっち着かずだった中間日和見(ひよりみ)層と一部の共和党支持層もトランプ降ろし=バイデン支持に回って大統領・政権交代に至ったわけですが、もしトランプが再選され今も大統領だったとしたら米国内1月末で7,600万人超の感染者数、91万人超の死亡者数はもっとずっと多くなっていたと確信します。恐らく昨年中冬のホリデーシーズン前に既に死者は100万人を超えていたと想像します。今現在バイデン大統領の支持率が下がり国民の不平・不満が聞こえる問題のほとんどは現大統領・政権の責任ではなくトランプ前政権から引き継いだ負の財産(コロナ対策不備と国際的信頼喪失)の後始末が根本原因で、とばっちりを受けている現大統領が気の毒です。
トランプはワクチン開発が過去に前例がないスピードで完成したのを自分の手柄にする発言もしておりましたが、前回選挙前に開発の進捗度を把握もしておらず、完成後の生産・輸送・配布・接種計画など政権内で誰も考えてもいなかったのに選挙キャンペーンに利用できなかったことを悔しがっていましたが自業自得ですね。自分はこっそり内緒でいち早くワクチンを接種したのに自らは公言せず、トランプ支持派、支持層の有権者はその後もマスク装着反対・拒否、ワクチン接種反対・拒否のままでずっと来ておりますが、最近のニュースでは幾つかの集会で「ワクチンは打った方がいい」とか「ブースターを打ったのに打ったと言えないのは臆病者だ」などと暗にひょっとすると2024年次回大統領選挙候補のライバルになるかもしれないデサンティス・フロリダ州知事を皮肉る場面もあり、毎度のことながら勝手なものです。
コロナのせいで営業できない、できても人が確保できない、モノが作れない、作れても動かせない、配達できない連鎖で世界中どこも物不足となり物価高騰の大幅で継続的インフレとなっています。また、地球温暖化、気候変動の影響でこれも世界規模で大規模な自然災害、異常現象が続出し、その被害も1件数十億ドルから数百億ドル規模と甚大で被災地や被災者救出・緊急支援のために緊急物資・設備輸送、緊急人員派遣など予定外、予想外の突発需要と緊急出費が重なり、当然その調達費や輸送費、人件費は通常の何割増しとか何倍かになりますので、それが更に物価やサービスコストを引き上げ、インフレが拡大します。
最後に直近の緊急懸念であるウクライナ問題ですが、NATO陣営の切り崩し、米国の世界的な政治・経済コントロールと権威失墜、旧ロシア帝国またはソビエト連邦並みのロシアの覇権回復を目指しているプーチン大統領が何をどこまでやろうと本気で考えているのかですが、彼は元KGB出身のスパイ。非常識な世界で生きてきてトップに返り咲いた人物なので、世間一般の常識的な考えや行動はしません。敵や狙う相手の弱みを突き、無警戒か警戒が薄い時に秘密裏に(最近はしばしば半ば公然と)突然行動を起こすのがスパイの常識。バイデン大統領と米国政府はウクライナやNATO諸国首脳と連携を取りながら対抗措置を準備または取りつつありますが、必ずしも全ての関係者が同じページ、同じ考えになっていないように見受けられます。当のウクライナにとっては国家存亡の死活問題で万一ロシア軍が侵入すれば、既に過去の衝突で軍関係者や一般人で1万5千人もの死者が出ている上に更なる犠牲者が出ることは避けられなくなります。腐敗政治が問題であった専制的前政権に代わって現政権が民主主義路線を取り、西側諸国と協力・協働して国力と経済振興を目指している中で戦争状態となれば、外国からの要人や企業、投資グループが国外逃避し、将来的な希望が全くなくなってしまうため、ロシアに対抗するにしても米国やNATO諸国の意地や思惑優先でウクライナの運命を決めて欲しくないことは明白です。米国にもロシアにも慎重な配慮と行動が望まれます。
私見では、中国の習近平中国共産党総書記・国家主席に対する配慮でプーチンは中国が国家の威信をかけている北京冬季五輪開催中は動かないと思いますが、過去にもソチ冬季五輪直後の2014年3月にクリミア侵攻・併合、2008年北京夏季五輪と同時期にグルジア(現呼称ジョージア)侵攻の歴史があり、五輪閉幕後が一番危ないと感じています。バイデン大統領と政権幹部には何としてでもこの苦悩と苦境を乗り越えて欲しいと願っています。
May the Force be with you!!
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。