世界を本当に動かしているのは一体誰なのか。仕掛けられ脅され踊らされ、AIによる容赦ない監視も世界の多様な社会的背景から起こる制約や圧迫も当たり前となり、否応なく「仕方なし」と片付けねば何も前へ進めることが出来ないよう、粘り勝ちされてしまった感がございます。あらゆる方角から日々投げかけられる大きな釣り針や身に降りかかる失敬の数々に辟易しながら薄々勘付き始めてはいるものの、あまりのスケールの大きさと根の深さに声も上げられずおります。人々の不安に乗じて屁理屈を振りかざし、みだりに私腹を肥やす者。己の視野の限りに気づかずこれぞ正義とよそ様の思慮や文化、歴史的背景を平気で踏みにじる者。辻褄の合わぬことを指摘されれば他に責任を転嫁する為翻り、恥も道徳も無知も知らず、ただ悪戯に大衆を扇動せんとする者たち。増えすぎた人類の困った風潮と愚かな波の寄せ返しに揉まれながら、一般人は身の回りと自分自身の平和を守る事だけで精一杯。大きな犠牲がその都度払われながら世界は回ってゆきます。これが先人の描いた豊かな人類の未来なのだとすれば、もう取り返しのつかぬ地点へ来てしまったのか。それでも一縷の望みに灯を見出し冷静に世を見据え、自分なりに現実を社会科学し哲学するべく、魂の栄養と精神の健康の為に今自分に何かしてあげられることはないかと、年末は気分転換の小旅行へ出かける事に致しました。

 全くの思い付きで目指した先は州内グランドラピッズにあるフレデリックマイヤーガーデンズ。グランドラピッズはビッグ・ラピッズの愛称で親しまれ、ジェラルド・フォード大統領はじめ多くのレジェンドを輩出した土地であり、その魅力ある基盤は、財力と人々の支持により大切に守られ続けています。例年秋に開催される”ArtPrize“では、多額の賞金にも後押しされた創意工夫のアートのお祭り騒ぎに、展示を鑑賞して歩く幅広い年齢層の人々と屋内外の芸術作品が一体となりアートミュージアムと化す、活力ある大都市。その東寄りに位置し”ALWAYS GROWING. ALWAYS BEAUTIFUL. ALWAYS NEW.“との魅惑の三拍子を謳うFrederik Meijer Gardens & Sculpture Parkは、年362日オープンしています。一人自由奔放に思いを巡らせながら運転を続ければ、雑多な思考が整理される頃には無理なく到着できるはず。鹿を撥ねませんように、と祈りながら水のボトル2本だけを持って、家の者には「文化に触れに行ってきます」とだけ残して、発ちました。

 案内の地図だけで立派な小冊子が出来るほどの広さのそこで、何をどこまで鑑賞するかは訪れた方ご本人次第。植物と光に囲まれた温かで美しい建物内部では、家族連れや年配のご夫婦が行き交っておりました。世界各地それぞれの装飾と解説付きの美しいクリスマスツリーの展示、日本の門松の紹介。立派なガラス張りの温室の中にはミニレールに電車も走り、ボランティアの方々が展示のガイドを務めていました。植物と芸術、その興味深いつながりとそれが日々の暮らしに齎してくれるもの、その理解とケアの大切さをも説かれ、それをこの場所を去った後もそれぞれが少しずつ育んで行けるよう解説を加え励ましていらっしゃいました。来訪者がそれぞれのペースで散策を楽しめる屋外の広大な彫刻公園、日本庭園、ミシガンの農場ガーデン、チルドレンズガーデンなどを舞台に、私も豊かな情報とアートとの相互理解のチャンスを与えられ、随所での新発見に微笑んでおりました。夏の雰囲気とは別物のこの季節、落葉樹は皆丸坊主ですので先が見やすく彫刻やアート作品のスポットは容易で、寒さ対策と安全な歩きやすい靴の備えさえあれば鑑賞は無理なしと存じました。まだ諦めちゃいけない、人類はそう捨てたもんじゃない、あるところにはある。未来への気持ちをそう明るく持ち直せ、質の高い人間教育の持続と、こういった施設の存続の大切さをも併せて、考えさせられました。

 昔の親たちは子供たちにツリーを見せる前の最後の飾りつけとして、ピクルスを吊るしたそうです。緑の枝の中に隠れてしまうそのオーナメントを見つけた子供は「観察力に優れている」ことを褒められ、その意表を突く発見にご褒美としておまけのプレゼントが与えられたとか。こんな楽しい注意力の導き方もあるのですね。英国、アメリカ、ヨーロッパに400もの庭園を造ったGertrude Jekyll (1843-1932) は、”A garden is a grand teacher.  It teaches patience and careful watchfulness; it teaches industry and thrift; above all, it teaches entire trust.” という言葉を残しております。芸術や数々の植物が教えてくれることは静かで力強くタイムレスな真実であり、その調和をデザインするには真実の声をきき心を真摯に紡がねばなりません。自然の豊かな表現力にふれることで、自分を含めた身勝手な人間たちの無駄の多すぎる暮らしや工夫の足りなさが、少しでも改善されるよう祈ります。歴史に学び芸術にふれ草花を育てながら、次の世代へ何を残してあげられるのかを悩み、考えます。激動する世界に絶望と無力感で隅へ押しやられそうな時には、美しいミシガンの魅力の再発見に心癒され創造の楽しさに心躍らせ参ります。慶春。  

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