近お世話した患者さんの話をします。プライバシー保護のため、細部は少し変えてあります。

症例1:

70数歳の男性。18年ぐらい前、他州で心臓バイパス手術をおこなったが、その後、別の州に引っ越し、最近ミシガン州にやってきた。本人によると、バイパスは三枝に対して行われたと記憶しているが、詳細は不明、手術記録も残っていない。左前腕部に手術の跡があり、左橈骨動脈が、おそらくそのバイパスの一つとして使われたものと思われた。数ヶ月前から、階段を登ったり、少し歩くと、胸がキューッと締め付けられるような感じがするようになってきた。かかりつけの医者にニトロの製剤をもらって、飲んでいるが、最近胸の圧迫感の頻度も重篤度も増してきており、先週には、胸痛で夜中に目が覚め、冷や汗が出ることがあったので心配になり、私の外来に来られた。心電図は正常、身体所見も特に異常なし。タバコ喫煙の既往もなく、糖尿病もなく、血圧のコントロールも良好であった。新エコーで、左室躯出率は保たれており、局所的な壁運動異常は認められなかった。軽度の大動脈弁不全と僧帽弁不全症が認められた。症状から不安定狭心症の診断をつけ、鼠径部から、心臓カテーテル検査を行った。造影をしてみると、左内胸動脈から左前下降枝へのバイパスは、良好な状態で、問題はなかったが、他のバイパスは全て完全閉塞していた。左回旋枝は、比較的細い動脈で、多少狭窄があったが、症状を説明できるようなものではなかった。右冠動脈を造影してみると、中位部から遠位部にかけて、90%以上の狭窄が、直列的に多数存在しており、これが症状の原因と考えられた。この病変に対し、フェローの若い先生と共に、直ちにステント治療を行い、良い結果を得た。所要時間は1時間程度であった。(図1及び2、治療前と治療後)

 私が循環器医になった頃は、このような病変は、難治病変と考えられており、たとえ風船治療を行っても、短期及び長期の成績は悪いと考えられていました。しかし、最近のステント技術の発達により、このような病変が、比較的簡単に治療ができ、しかも薬剤溶出性のステントの登場で長期的な開存率も飛躍的

に改善したため、今では、外科手術を行うことなしに、経皮的に比較的容易に治療を行うことができます。

症例2:

70歳半ばの女性。現在喫煙中。最近、左頸動脈狭窄症が見つかり、その検査及び治療のため右脚鼠径部から、頸動脈造影を行なったが、その際、両側の腸骨動脈(大動脈から分岐して両足に行く大きな動脈)の狭窄及び閉塞が見つかった。左総腸骨動脈は完全閉塞、右総腸骨動脈は高度狭窄しており、本人に後から話を聞くと、両脚のけだるさと痛みがあり、特に左脚は、慢性の、軽度の蜂窩織炎を伴っていた。足が痛いのは、”歳のせい”と考え、放置していた。左の腸骨動脈の閉塞は、その起始部から始まって、外腸骨動脈、総大腿動脈に及ぶ長い閉塞で、経皮経管治療のみによっては、治療困難が予想されたので、外科治療とのハイブリッド治療を行うことにした。右の鼠径部から、逆行性に風船を入れ、風船を膨らませて、ある程度下ならしを行った後、直径10ミリの自然拡張性のステントを置き、良好な成績を得た。(図3及び4、治療前と治療後)

 この後は、血管外科の先生にバトンタッチをし、右鼠径動脈から左鼠径動脈に人工血管のバイパスをつけてもらうことで、両脚の虚血が解除されることになります。このハイブリッド治療の良い点は、経皮経管治療の良い点と外科手術の良い点を組み合わせて、最も侵襲が少ない方法で両脚の虚血の治療ができる点です。外科手術だけだと、腹部大動脈から両側の大腿動脈へバイパスをつけることになり、腹部大動脈が深いところにあるため、手術の侵襲度が飛躍的に高まります。鼠径から鼠径へのバイパスだと、下腹部の皮下にゴアテックスの管を通すだけなので、手術の難しさも、侵襲度もはるかに軽度です。

閑話休題:

 南アフリカ発のオミクロン変異の出現で、コロナの見通しはまた不明になってきていますが、日本では、最近劇的にコロナの陽性率、発症率、入院率、死亡率が激減しているようで、大変良いことだと思っています。それに比べて、しばらく小康を保っていたミシガンのコロナの感染状況は徐々に増加する傾向を見せており、予断を許さない状況になりつつあるのはあまり気分が良くありません。私の勤務する病院でも、コロナの入院総数は、しばらく10人から20人程度の横ばいを保っていたのですが、一昨日になって、コロナの入院総数が59人(うちワクチン未接種者43人)、最近24時間以内のコロナ診断での入院者12人(そのうちワクチン未接種者11人)と、じわじわと患者数が増加し始めているのが気にかかるところです。アメリカでは、ワクチンを打つか打たないかが、政治信条と絡まって語られることが多く、ある党の信奉者の中に強硬なワクチン反対派がいたりすることで、ワクチン接種が頭打ちになっているのは残念なことです。またインターネットで偽情報を流す人がいるのも問題です。

 11月19日、アメリカFDA及びCDCは、モデルナとファイザーの両方のワクチンについて、18歳以上の成人の全てに対して、ブースターショットを認める決定を下しました。今までは、65歳以上の高齢者か、ハイリスクの人に限られていたものを、18歳以上の成人の全てに広げたものです。2回目のワクチンを受けてから6ヶ月以上経っている方、是非、ブースターショットを受けられることをお勧めします。また今まで不幸にしてコロナに罹られた人も、ワクチン接種が再感染のリスクを下げることが確かめられています。ワクチンはコロナによる重症化や死亡率を下げます。コロナワクチンは無料で近所の薬局などで受けられます。前に受けた接種証明のカードを忘れずにご持参ください。

 

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筆者 プロフィール:
山﨑博
循環器専門医   日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
Roseville Office
25195 Kelly Rd
Roseville,  Michigan  48066
Tel: 586-775-4594     Fax: 586-775-4506

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