
10月(神無月)。日本では全国の八百万(やおよろず)の神々が出雲に集まり、土地神様が不在になる各地では神無月。逆に出雲だけは神様全員集合の神在月(かみありづき)です。出雲以外の住人は今月神頼みしても声が届かず、願いは叶わないかもしれません。逆に出雲の住人が「神様が大勢ござる。」とあれこれお願いしても聞いてもらえるとは限りません。何処にいても先ずは自助努力ですね。私もですが(汗)。ミシガンは秋のお彼岸が過ぎた途端に朝晩かなり涼しくなり暖房のスイッチが入る日が出てきましたが、新型コロナとその変異株だけでなくインフルエンザの流行も予想される冬場に向かう季節の変わり目は、お互い体調管理に気をつけましょう。
コロナと言えば、日本では9月30日付で19都道府県の緊急事態宣言および8県の蔓延防止法が一斉解除されましたが、その週末いきなり都市部で人出が急増したとの報道があり、直ぐにまた逆戻りにならないかハラハラします。解除後3〜4週間の新規感染者数の動きを注視する必要があります。菅前首相退任に伴い先月末誕生した岸田自民党新総理・新首相の重要政策はコロナ対策と経済復興という従来路線に貧富の差・二極化を是正する『富の再分配』を掲げているようですが、従来以上にはっきり目に見える効果と成果を見せてほしいものです。岸田新首相は外務大臣経歴があり、外交面では知識・経験がありますが、従来露出度が少なく存在感は薄いため内政、外交とも安倍・菅政権時代から続いている基本路線に大きな変化は期待できなさそうです。
本号では定番のスポーツ関連コメントは割愛し、本題に入ります。拙稿作業時にはまだMLBのレギュラーシーズンが終了しておらず、プレーオフ出場チームも確定していないため、大谷選手関連だけでも書きたいことが沢山ありますが、次号のお楽しみに願います。
さて、今回のテーマは「居座るコロナ、秋風吹くバイデン政権、混迷する民主党」です。
先のCDC発表によると、米国では9月末時点でコロナワクチン接種有資格者の77.5%が少なくとも1回は接種済み、65%が接種完了済みとのこと。いまだに3割前後の有資格者が未接種ということになりますが、ワクチンが異例の早さで開発・認可され有資格者は誰でも無料で接種を受けられるにもかかわらず、まだこれほどの未接種者(約7百万人)がいるのは驚きです。そのため同じく先月末の統計データでは、全米で世界の19%にあたる約4,350万人の累計感染者数、また14%にあたる約70万人の累計コロナ死亡者数となり、これは第1次世界大戦下の1918年から1920年にかけて世界中で大流行したスペイン風邪パンデミック時の米国内総死亡者数を上回る惨状と悲劇です。いずれも世界最悪の数字でトランプ前大統領が掲げたアメリカ・ファーストが別な意味で実現してしまい、これがMAG A(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)の悲劇的結末でもあります。
当地ミシガンでも学校の新年度、新学期が始まり、幸い今のところコロナ絡みでクラスター感染発生など大きな問題は出ていないようですが、油断禁物ですね。カリフォルニア州ではワクチン接種有資格者で対面授業受講の学生・生徒に対して全米初のワクチン接種を義務化。同様に人口密度が高く校内・クラス内でも密になりやすい他州もこれに追随するとより安心ですが、拒否・反対派も多くどうなりますか?新たなニュースとして先月末には薬品製造大手のマーク社が開発したコロナ治療飲み薬が入院・死亡のリスクを1/2に軽減する効能があり、FDAに実用化を緊急承認申請する予定との報道もありましたが、これはあくまで感染・発症後の事後対応処理であり、リスク軽減効果も1/2でありゼロにはなりません。事後対応処理よりも事前の予防であるワクチン接種が現存する最善・最強の対策であることに変わりありません。つい2ヶ月ほど前には全米でワクチン接種率第1位で州知事もTV会見で誇らしげだったウェスト・バージニア州が9月末には接種率が全米50州で唯一50%未満の最下位、死亡率はワーストワンと天国から地獄へ急降下。州知事がTV会見で今度は必死の形相で州民に即ワクチン接種を促していたのが気の毒でした。
バイデン政権はワクチン未接種の一般国民への説得策、指導策の一環として連邦政府の省庁や各部署の職員を始め出入りする取引業者の社員に対しても先月からワクチン接種を義務付けましたが、多くの病院や医療・診療所、顧客との接触機会が多い航空会社やWOKE(ウォーク=目覚めた)と呼ばれて社会現象や風潮に敏感で社会正義や人道的意識の高い民間企業でも社員にワクチン接種を義務付け、未接種のままだと事前の接種猶予許可がない限り解雇や退職勧告の対象となるため、90%以上の接種率を実現しているようです。
しかしながら同時に他方ではワクチン拒否・反対派も根強く、医療現場の最前線で患者と毎日のように接触する医療従事者の中にも患者や周囲に対する説得努力どころかワクチン接種拒否・反対する人が少なからず存在するのは驚きでしかありません。ワクチン接種すれば自分自身の感染予防はもちろん、患者や同僚、家族や周囲の人に感染させるリスクや重症化、入院、死亡のリスクを遥かに軽減できるにもかかわらず、偽情報、誤情報を恥も外聞もなく継続拡散している偏向報道メディアや悪意ある洗脳・扇動的SNSメッセージの悪影響を受けてワクチン接種すると妊婦は流産や胎児に異常が起きたり、体が磁気を帯びるなどとのデマを鵜呑みにしたり、接種してもブレークスルー感染する人がいるとか、接種後に体調不良や不快感を訴える人がいたり、死亡したケースもあるなどと、確率が1%未満の極めて稀な例外的ケースを言っているようですが、肝心のワクチン未接種の人と接種済みの人の感染率、重症化率、入院率、死亡率の比較や未接種の場合のリスクが何十倍とはるかに大きい事実が看過され科学的な事実・データに基づく説明や真剣な議論が十分になされていないのが残念でなりません。
また、フロリダ州、テキサス州、ネバダ州、ミズーリ州、ミシシッピ州、サウスダコタ州など州知事が率先して個人の選択の自由を理由に公共の保健衛生を無視した言動を押し通そうとしているワクチン拒否・反対派はマスク装着も反対のまま具体的で有効なコロナ対策の提示も指導もなく「企業や商店は営業しろ」「学校は対面授業再開しろ」とゴリ押ししていますが、では一体どうやって顧客、社員、店員、学生・生徒、教師・教員、一般州民をコロナ感染から守るのか?安全と健康を保証するのか?という点が事実と科学的データを基に理路整然と説明されているのを聞いたことがありません。ラッキーを神頼みし、サイコロ博打のような有り様で情けないですね。
しつこく居座るコロナのせいでワクチン未接種者がその95%以上という新規感染者数、入院患者数、死亡者数に歯止めがかからず、最前線の病院・医療機関の受入れ病床数、医療スタッフ数は全く余裕がなくなり、医療従事者は連日連夜の勤務で疲弊し、州や都市、市町村によっては患者をトリアージ(選別・優先順位付け)せざるを得ないとか、州内では受け入れ先が見つからない場合は近隣州・都市や隣接市町村に転送せざるを得ず、たらい回しの転送中に患者が死亡する悲報もありました。ニューヨーク市内の病院、医療機関などではワクチン接種の義務化を頑固に拒否するスタッフが退職または解雇され、ただでさえ不足しているスタッフの人員不足に拍車がかかるケースもあり、ワクチン接種してもしなくても悩みは尽きません。この煽りを受けて、世界的な半導体不足、物不足、人手不足、物流サービスの供給不足と大幅遅延など複数のマイナス要因により8月まで回復・拡大基調が続いていた景気動向、経済指標、雇用創出にも陰りが出て、史上最高値を更新していた株価も先月には急落し一時の勢いがなくなりました。先日認可されたファイザー社の3回目のブースターワクチン接種を含めて全米のワクチン接種数・接種率が上がらないとこの先、更に景気の落ち込み、株価の続落につながるかもしれません。
バイデン大統領就任後、当初の6ヶ月はプラス効果の高い政策実施で比較的順調に推移し、国民の支持率も常に5割以上6割前後あったものが、ここにきて急落し統計的にただでさえ分の悪い来年の中間選挙に向けて逆風が強まってきました。8月末で作業完了が正式発表されたアフガニスタン派遣・駐留米軍の最終的撤退にまつわるゴタゴタや先月突然表面化したメキシコ国境のテキサス州の橋梁下に集まったハイチ人を主体とする何千人もの移民・難民の取り扱い対応、メキシコ湾岸を襲ったハリケーン・アイダの残した爪痕(直撃を受けたルイジアナ州ではもう1ヶ月以上も停電が続き仮設避難所で耐乏生活を強いられている人が多数)、テキサス州で立法化された新たな中絶禁止法、既に上院では事前可決・承認されているものの下院民主党内の意見の対立で遅々として進まない新規インフラ投資予算案及び総枠3.5兆ドルのリコンシリエーション(財政調整)法案の議会通過・承認・実施など早急に対応処理、解決せねばならない問題が山積みで、バイデン政権に秋風が吹き込んでいます。この対応を誤ると共和党が多くの州で立法化に走っている有権者資格・投票権の制限・制約強化法と相まって、現状でも民主党が僅差マジョリティーの下院、同数の上院(同数投票の場合は副大統領のタイブレーク投票権で民主党が紙一重マジョリティー扱い)の力関係が逆転し、大統領は民主党でも共和党マジョリティーの上下院では法案議決権を自力でコントロール不可能になり、就任前に国民に約束した公約や民主党の重要政策の具体的実施の道筋が閉ざされてしまい、更なる国民の不満、支持率の低下、2024年の次期大統領選で共和党に政権奪取される恐れが大となってしまうので、これ以上失点が許されない今が踏ん張りどころと言えます。
ワクチン接種率向上とともに現政権の挽回策の強力手段の一つが、上院では超党派で事前承認され現在下院で懸案となっている1兆ドルのインフラ投資法案と総枠3.5兆ドルの財政調整法案の議会通過・承認・実施ですが、共和党の非協力とあからさまなバイデン政権・民主党引きずり落としの動きも継続悪化を続け、民主党内の意見対立で両法案の上下院可決・通過も予断を許さず、予算審議時に常に話題となる米国国家財政の債務上限引き上げが通例両党共通責任事項として超党派で可決承認される慣行を破って共和党のマコーネル上院院内総務は「米国として債務不履行があってはならない」と言いながら共和党は投票しないと宣言し、民主党単独議決の責任を押し付けました。上記二つの予算案の審議と並行して債務上限引き上げが実現しないと今月半ばには国家財政上の債務不履行、カスケード的負の連鎖のリスクが再浮上し、国家の信用は台無し、米軍関係者や連邦職員への給与支払い、定年退職者への年金支払い中断、金融取引、国内経済や貿易、海外投資など国際取引も破綻し、世界中を巻き込んで大混乱になります。インフラ予算投資法案に関しては、先月下旬の時点では民主党のペロシ下院議長が9月30日には投票実施したい意向でしたが、民主党内の意見の食い違いで混迷が続き、もう一つの3.5兆ドル財政調整法案を同時審議可決(同時でない場合はインフラ投資法案に賛成投票しない)を主張する民主党前進派の言い分が通り、先送りとなりました。その財政調整法案に関してはバイデン大統領とホワイトハウス幹部が目指す総枠3.5兆ドルの超大型予算構想に対して保守派のジョー・マンション、キルステン・シネマ両上院議員が膨大な予算額が財源の確保不安とともに国家債務を更に悪化させる恐れありと難色を示し、マンション議員は上限1.5兆ドルに固執しており、絶対に譲れないと公言しております。逆に前進派は3.5兆ドルの予算が少しでも削られてしまうと、それぞれの予算割り振り使用分野の活動に不十分となり、期待する成果が得られないとこちらも一歩も譲れない態度です。両予算案の可決・承認・実施を急ぎたい大半の中道派の議員の中には折衷案として2.7兆ドル程度の予算金額打診で妥協を目指している動きもあるようですが、バイデン大統領とペロシ議長のイライラを横目にまだしばらく民主党内の混迷は続きそうです。
ここにきてバイデン大統領の党内求心力とリーダーシップの弱さが目立っていますが、先の大統領選で出だし複数州の予備選で他候補者の後塵(こうじん)を拝し元気のなかった彼を強力な支援で盛り上げた民主党のクライバーン下院議員のおかげでノース・カロライナ予備選で大量の黒人票を集めて勝利した後一気に勢いがつき、とにかくトランプ外しを最優先して民主党勝利実現に集中すべく対立候補が次々と辞退して挙党体制でバイデン支援に協力した結果当選した経緯があり、自力でなく他力に寄るところが大きかった負い目があり、選挙時には自分の言い分を抑えてバイデン支援に回った民主党の前候補者や前進派、中道派、保守派がそれぞれの主張を言い始めて、今回大型予算の金額、使途割り振り、原資の捻出方法などに関しても有権者に対して自分たちの存在を顕示するため「一言物申す」の態度になった結果、民主党内の意見の食い違いで挙党体制とならず下院の単純過半数確保すら危ない混迷状態が続いている経緯がありと思われます。
ここは「対立グループの融和や意見の相違調整は可能」と自ら公言していたバイデン大統領の腕の見せ所です。当初の志を忘れず国家の持続的繁栄と国民のための善政を目指して老体に鞭打って陣頭指揮、率先垂範でペロシ議長と力を合わせて党内をまとめ上げ、両法案の議会通過・承認・実施を何がなんでも実現して欲しいものです。ちょいと態度が大きいかもしれませんが、頑張れバイデン!!
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。