
9月3日、日本の菅総理は、今回の自民党総裁選挙に立候補しないという声明を発表され、事実上の退陣を宣言されました。コロナワクチンの積極的な導入と普及を始め、数々の良い施策を次々に実行し、成功されたのにも関わらず、地味な人柄からか、国民からあまり高く評価されなかったことは大変残念で、これからまだまだやり残したことが多くありそうですが、次の首相へバトンタッチされることとなりそうです。菅政権の功績は数々ありますが、なんといっても、首相就任直後のアメリカ訪問でバイデン首相と真っ先に首脳会談を開くとともに、ファイザー社の社長と直談判で、1億本のワクチンの日本への供給の約束を取り付けたことは、特筆にあたります。その後も国内での数々の困難を押し切って、当時日本の誰もが不可能と考えていた一日100万本のワクチン接種を公約し、実行し、超過達成したことは、なんといっても菅総理の業績でした。やっと日本国内のコロナ新規感染者数が低下し始めているのは、菅総理の努力に負うことが多いと思っています。私の日本在住の家族、友人たちに代わり、厚くお礼を申し上げます。菅首相ありがとうございました。
その他、菅総理の功績としてあげられるのは、東京五輪、パラリンピックの開催および成功、デジタル庁の創設、福島原発処理水の海洋放出決定、“従軍慰安婦”表現不適切との閣議決定、重要土地利用規制法の制定、不妊治療への保険適用、携帯料金値下げ、日本学術会議の見直し、台湾外交の進展、などこれまで懸案となっていたにもかかわらず、火中の栗を拾う勇気のあるリーダーがいなかったために先送りされてきた懸案を次々に解決、実行されてきた点にあります。国民のためになると自分が信じることには、不人気となるのを覚悟で実行するのがリーダーの条件で、菅総理は、まさにそのリーダーとしての役割を立派に果たされたと思っています。
JAMA(アメリカ内科学会雑誌)9月2日号に興味深い記事が載っていました。それは、2020年の7月から、2021年の5月まで、毎月、アメリカ全国で行われた1,443,519献血者の検体の血液について、コロナウイルスのS抗体とN抗体が存在するかどうかを検査し、それを、採血場の郵便番号地域での性別、年齢、人種などによって補正したものと照らし合わせて、時時刻刻の累積感染者の数と比較した結果について報告したものです。N抗体は、過去のコロナ感染のみによって陽性となり、S抗体は過去のコロナ感染かワクチンの接種により陽性となります。これにより、SもNも陰性であれば、ワクチンも、感染も起きていない人、Sだけ陽性であればワクチンを打った人、NもSも陽性であれば、その人に過去にコロナの感染が起きたことの証明になります。このN陽性の人の中には、ワクチンを打ったのちに感染した人、感染が起きた後ワクチンを接種した人、ワクチンを打たず、感染が起きた人の全てが含まれます。この図1のグラフを見てみると、アメリカ全土で、なんらかの経緯で新型コロナに対する抗体を持っている人は、2021年5月現在、80%を超えています。そのうち、なんと約4分の一は、新型コロナの自然感染によって、抗体を獲得していることがわかります。しかも、図2によれば、時々刻々の感染状況と比べてみると、疫学的な“感染者(=発症報告者)”に比べて、抗体陽性者(=感染者)数は、約2.1倍から3.1倍となっていることがわかります。つまり、新型コロナの感染者のうち約半数は、無症状か、ごく軽い症状で、コロナ感染の自覚がない人だということがわかります。従って、感染者=発症者ではなく、発症報告者がいればそのおよそ倍の人数の感染者がいるということがわかります。
また、感染者:発症者率が2020年7月の3.1から2021年5月の2.1に下がった原因としては、PCR検査の普及などにより、新型コロナ検出率が向上したことが関与しているかもしれません。また、図1によればワクチンが導入された2020年の12月以降のS抗体陽性率の急上昇は、その大部分が、ワクチン接種のおかげだということがわかります。
最後に、8月19日付のオレゴン大学病院の入院者数、集中治療室入居者数、および呼吸器装着患者数をコロナワクチンを接種したかどうかで層別化した図(図3)をお示しします。ワクチンはコロナによる重症化を防ぎます。ワクチン未接種の人は、どうか、これらのデータを見た上で、賢明な判断をしていただけるようお願いします。
図・出典:JAMA (アメリカ内科学会雑誌)
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筆者 プロフィール:
山﨑博
循環器専門医 日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
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