9月になりました。先月はミシガンとしてはかなり暑い日が続きましたが、皆さんお変わりありませんか?今もまだコロナ騒ぎが続く中、Labor Dayの連休明けから州内の多くの学校では新年度・新学期が始まりますが、ワクチン接種認可対象外の12歳未満のお子さんをお持ちのご家庭では通学、対面授業時の安全確保が大いに気になりますね。幸にしてミシガン州政府は学校でのマスク装着を義務付けており、教職員はもちろん、装着しない学生・生徒は登校も授業受講も許されませんので、その点少しは安心感があります。もちろん、マスクは100%の感染予防を保証するものではなく、先生・生徒はもちろん学校職員・関係者、各家庭の保護者は個々に自覚と責任を持って適切な対応を継続しなければなりません。特にデルタ変異株が猛威を奮っている今は一層の注意が必要ですね。

 母国東京ではオリンピックが先月幕を閉じ、続いてパラリンピック開催中ですが、ほとんどのチームがバブル環境のオリンピック選手村と各競技場で過ごした各国の代表選手・役員団のメンバーにはコロナ感染、病気・怪我など大きな災厄がなかったことは幸いでしたが、一般国民の間では既に開催直前から拡大・増加傾向にあったコロナ新規感染者数が開催中、閉会後も増えるばかりで緊急事態宣言都市の数も大幅に増えました。医療関係者・有識者からの警告・警鐘があったにもかかわらず、国家レベルでの事前対策が不十分なまま開催したツケが回ってきたもので因果関係は明らかです。国民の健康と安全よりも自分のメンツとキャンセルした場合のペナルティー支払い義務回避を優先したと批判されている菅首相ですが、日本選手団の活躍によるメダルラッシュと数多くのボランティアの方々の日夜にわたる献身的な奉仕活動のおかげでかろうじて首相としてのメンツを保ち、国民の耳目をコロナ騒ぎから逸らせることに成功したものの、その効果は一時的なもので長続きせず、結果としてコロナ感染の急増・拡大、医療機関の対応能力、企業の事業運営、国民の日常活動、強いては国の経済活動全般の制限・制約と言う負の財産を残してしまい、直近の内閣支持率は26%と超低空飛行。今月下旬に予定されている次期自民党総裁選挙は大混戦の様相を呈してきており、早ければその前に国会解散、衆議院選挙が実施される見込みもある中で強気の自民党の優位がどこまで維持できるか判然とせず、太平洋を挟んで対岸にいる我々も成り行きを注視せねばなりません。

 一方、当地米国では大統領就任後の半年余り積極的なコロナ対策と経済復興・雇用拡大政策が功を奏して過半数の国民の好感と支持を得てきたバイデン政権に逆風が吹き始めています。発端は皆さんも既にご存じのようにアフガニスタン派遣・駐留米軍の最終的撤退にまつわる想定外の混乱です。

 ちょうど20年前の2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロ事件の首謀者でありタリバン政権下で保護されていた反米組織アルカイダのリーダーであったビンラディン容疑者(当時)を追跡し、テロリストの巣窟を一掃するために米軍を派遣駐留開始してから4人の大統領、足掛け20年にわたる『アメリカの最も長い戦争』に終止符が打たれ、米国中央軍のマッケンジー司令官は本稿脱稿直前の先月8/30付で撤退完了を宣言しました。去る4月にバイデン大統領が今月11日の追悼記念日前に完全撤退完了の意向を表明後、8/31を具体的な目標日とし、アフガン政府軍や国際協力諸国軍と慎重に事前協議と準備をした上で先月上旬から徐々に米国人や駐留米軍の協力者を優先して撤退作業を始めたはずでしたが、具体的な撤退開始と同時に驚異的なスピードでタリバン反政府軍が国内の複数主要都市に侵攻し始め、米軍が期待していたアフガン政府軍の抵抗もほぼ皆無のまま次々と主要都市が制圧され、先月中旬には首都カブールもタリバン軍に制圧されてしまいました。

 今月号のテーマはそれに関連して『つまずくバイデン政権と悩める民主党』です。

 アフガニスタンからの米軍撤退の話はバイデン政権が初めてしたわけではなく、歴代の大統領が現職就任中の継続的課題で「アフガニスタンの支援、テロリスト対策は上手くいっている」という趣旨の軍関係者、歴代政権幹部が繰り返す報告や発言を受けて「それなら莫大な費用がかかる駐留米軍を引き上げたらどうか?」と言う世論の圧力が増し、トランプ前政権当時にトランプ自身が「米軍は無駄なお金のかかるアフガニスタンから撤退すべきだ」と明言し、昨年2月に米国とタリバン間で和平合意に至り、同年9月には当時のポンペイオ国務長官がアフガン政府軍とタリバン反政府軍の戦闘が続く中でカタールの首都ドーハにてタリバン交渉団とアフガニスタン政府交渉団の和平交渉の仲介をするとともに、反対意見もある中で実際に一部駐留米軍の撤退、人員削減を実施しておりました。

 バイデン政権はその流れに乗ってタリバン反政府軍と和平状態を維持しながら、多少のリスクは想定内として速やかな米軍撤退完了を目指していたはずですが、タリバン反政府軍の動きが予想以上に速く、政府軍の抵抗が見られないまま瞬く間にアフガニスタン主要地区を制圧してしまい、米軍撤退作業の唯一の空路出口である首都カブールのハミド・カーザイ国際空港が孤立状態になってしまったのは全くの計算外だったと思われます。タリバン側は4月の米軍撤退表明以降綿密な侵攻計画を立て着々と実行準備をし、米軍の撤退開始と同時に動き始めたのは明白で、米軍側がそれ程速くタリバン側が動くと思っていなかったこと、動きがあってもアフガニスタン政府軍が防御壁として少なくとも米軍撤退が完了するまでの短期間は安全確保と時間稼ぎに貢献できると見込んでいたことが大甘で計算外れ、期待外れに終わったと言うことでしょう。

 複数のテロリストグループの誕生・存続の原因となっていたアフガニスタンの内戦停止、米国に対する国際テロ活動阻止を主目的に20年にわたる米軍及び米国政府によるアフガニスタン政府軍への軍事支援・指導・訓練に注ぎ込んだ830億ドルとも850億ドルとも言われる軍事支援費を始め、日本を含む諸外国の国際協力体制で民主主義政権と国民の経済・生活支援に供与した何兆ドルもの巨額な支援金はアフガン政権内外での不正・腐敗で横領・詐取され政治・経済の底上げ、国民の人権擁護・生活改善への効果が減殺され期待通りの成果に繋がらなかったり、米国の後ろ盾があって成り立っていた政権幹部が米国の意に沿わない自分勝手な路線を取り始めたりで、実情は米国内の報道や米国民向けの報告とは大きく異なり、決して上手くいっていなかったようです。

アフガニスタン政府軍は長年の内戦や外国軍または国外グループの攻撃などが複雑に入り混じり、正規軍として長期継続安定した軍隊でなく、まともな軍隊教育・訓練を受けた軍人がどれだけいたのか、今もいるのか?国を守るとか国家のために戦うと言う強い意志・忠誠心が本当にあるのか?も疑問です。政府軍とは言っても多くは雇われの傭兵(ようへい)のような立場の兵士で個人の生計を立てるための職業として選んだだけで、国を守る意志や国家への忠誠心は薄いのではないかと思います。政権が変われば新政権の政府軍として再雇用されたり、反抗勢力に加担したりする兵士がいても驚きません。丁度日本の江戸時代末期に武家社会が崩壊し、主家への帰属意識や主従関係が崩れ禄を切られた下級武士たちが浪人となり食いを求めて一時的、短期的に新たな主人や雇用主を探して渡り歩いていたのと似ています。

 更に、撤退作業進行中の先月26日には空港付近で自爆テロがあり、米軍兵士13名、アフガニスタン人170名もの犠牲者が出ました。事件後、従来から米軍、米人だけでなく一般人まで標的にしている通称I S I S-Kと呼ばれるイスラム系過激グループが犯行声明を出しましたが、米軍情報部、米国政府国家安全保障関係者からは米軍撤退作業に関連して帰国を希望する米人とその家族や国外退避を求めるアフガニスタン人が許可を求めて密集する空港内・周辺でのテロ活動の恐れを事前に警告していましたが、それが現実となってしまいました。その後も空港近くの住宅街で別の爆発(米軍の情報ミスによる誤爆の可能性あり)や小型トラックの荷台にロケット発射装置を取り付け空港敷地内にロケットを数発打ち込んだ改造車を米軍が空爆して破壊した事件が続き緊急対応が迫られる中で期限内に撤退・退避作業完了することが最重要・最急務となりました。

在米の退役軍人、軍事専門家や外交・国際関係の専門家からは「撤退開始のタイミングが遅過ぎる、もっと早く始めるべきだった」とか「大半の撤退・退避作業が完了しても少数の米軍部隊をアフガニスタンに残し、少数(200人程度?)残留米人や国外退避を希望するアフガニスタン人の安全な脱出支援と現地でのテロリスト活動の情報収集にあたるべき」と言う声もありますが、バイデン大統領自ら「今回の決断は間違っていない。そのために発生した問題は私の責任であり、帰国を希望する全ての米人の安全な帰国を保証する。万一期限の8/31までに作業が完了しない場合、完了するまで米軍は居残る。」と明言したのですが、実際は作業が長引くほど新たなテロ攻撃を受ける恐れが大きく、タリバン側も「期日までに米軍が撤退完了するなら米軍や関係者には手出しをしない」と言う意思表示があったため、期限を伸ばすわけにはいかなかった事情があります。

 現地時間の8/30(月)深夜午後11:59に駐留米軍の最後の一人がC−17軍用輸送機に乗り込み、カーザイ国際空港を飛び立ち期限より1日と1分早く駐留米軍撤退が完了しましたが、勝利宣言したタリバン側が現在関係者以外の空港立ち入りを禁じており、今後軍用機ではなく民間航空会社の特別チャーター便を手配しても帰国を希望する残留米人や国外退避を希望するアフガニスタン人の脱出をタリバン側が許可するのか、I S I S-Kからのテロ攻撃のリスクを抑えて空港での安全な離着陸を責任持って保証するのか、今現在はっきりしません。タリバン内部にも派閥があり、必ずしも内部意見が一致するわけでなく時と場所、条件によっては行動が異なったり、以前の約束や前言が翻る可能性もありバイデン政権で記者会見などメディア対応しているカービー報道官は「タリバンは信用できない」と公言しながら、タリバン内部強硬派の協力拒否もあり得る中でその相手に対してバイデン政権から米軍撤退完了まで手出しをしないように、帰国希望の残留米人や国外脱出希望のアフガニスタン人の妨害をしないように要求(お願い)する限定的信頼ベースをあてにせざるを得ない矛盾した状況です。米国以外の諸国からの外交関係者、経済支援者の安全な帰国手続きについても空路か近隣国を経由しての陸路での帰国になるのか明確な指針がありません。

 また、米軍撤退を受けてアフガニスタン国民の多くが「我々は協力したのに感謝もされず米国に見捨てられた、裏切られた」と言う悪感情を持っている事実があり、その一部が今後反米化してタリバン軍や更に過激なI S I S-Kに合流する恐れも十分あります。加えて、民主主義を認めずイスラムの教条主義を押し通し、音楽や女性の権利を認めずミュージシャンや女性の権利擁護者、人権活動家を厳しく処罰するタリバン制圧下で生命の危険を感じている人々も多く、毎日不安と恐怖を抱えながら身を隠し、脱出する機会をうかがっています。米国に移民・帰化したアフガニスタン人で家族や親類がアフガニスタンにおり、移民申請手続きしたもののまだ認可が下りていない在米の人たちも自分の命が危険にさらされているのと同じで気が気でないと思います。

 このような状況になったのは、バイデン政権と米軍幹部の十分な事前情報収集・分析、タリバン反政府軍やI S I S-Kなど反米組織・グループの動き予想、アフガニスタン政府軍や国際協力諸国との連携協力しながら予想リスクの回避・防御策を盛り込んだ撤退・実施計画立案の不備、判断・想定ミス、過剰期待、見込み違い、計算ミスがあったと言わざるを得ません。バイデン大統領と政権幹部、現役軍関係者は米軍撤退の決断は間違いではない、米国内での国際テロ再発防止と言う当初の任務、主目的を達成した上で駐留米軍は最善を尽くし無事に撤退を完了したと自認・自賛しており、諸外国の政治家、軍事専門家やアフガニスタン駐留経験のある退役軍人も含めて賛否両論分かれていますが、やはり計画にがあった事実は順調に来ていたバイデン政権のつまずきと言え米国民の評価と支持に味噌をつけてしまったと言えます。今後米国内での国際テロ活動根絶のための手立ては本当にできたのか?以前より安全になったと言えるのか?などなど一番肝心で最も気になる疑問が残りますが、悲惨な事件、悲しいニュースを見聞きしないで済むことを願っています。

 前後して先にホワイトハウスと両党上院議員有志間で事前協議、予備交渉で合意していた総枠3.5兆ドルの超大型インフラ予算案の下院通過手続き方法に関して下院で合意決議され、今月下旬に正式可決通過する目処がつき、続いて上院でも可決通過する見込みとなり、来年の中間選挙に向けてバイデン政権の評価、支持率が大きく落ち込む心配はないものと期待していたのに、このつまずきは共和党に突かれる弱点として大きなマイナスですね。

 タイミング悪く先日ルイジアナ州に16年前のハリケーン・カトリナの上陸日と同じ日に過去最大規模のハリケーン・アイダが上陸し、百万人以上に影響する大停電がひと月以上続く可能性もあるとのニュースがありました。この救済、復旧支援にも政府として速やかに善後策を講じる必要があり負担は増えるばかりです。被害に遭われた方々には誠にお気の毒で、心よりお悔やみ申し上げます。

 アフガニスタン絡みでつまずいたバイデン政権の擁護と火消しに走りながら、共和党主導で前回民主党が勝利したブルーステートも含めて大半の州で強力に進められている投票権制限・制約法案の立法化に対抗して州法や市条例を無力化するための連邦レベルの投票権保護法案の上下院議会通過を現在進行中のインフラ予算案と抱き合わせで同時にまたは前後して目指している悩める民主党にとっては新たな悩みが増えた感がありますが、それが上手くいかないとトランプ支持層や過激極右白人至上主義団体・グループ、偽情報・誤情報を撒き散らし続けている保守偏向メディアの陰謀プロパガンダに乗せられて共和党支持に変心する有権者が増えて来年の中間選挙で共和党が議会(特に上院の)過半数を占めたりすると、民主党が継続してやりたい政策議案が議会通過できず、立法化も実行もできず存在価値がなくなってしまいます。そうならないことを祈るばかりです。

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。

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