2019年の年末ごろ中国武漢に発生した新型コロナウイルスは、今や、日本や米国を含めて世界中に広がり、2020年の7月に世界的大流行という宣言が、世界保健機構より出されて以来、もう1年以上経ちますが、いまだに先行きの不透明感が必ずしも払拭されていないのが残念ながら現状のようです。日本では東京オリンピックが無観客の中開催され、日本を含めて世界中の人に多くの感動を与えてくれましたが、その直後ごろから、東京をはじめ日本の各地で、感染者が増加するなど、予断を許さない状況が続いています。

 このような中で、良いニュースといえば、ウイルスの発生が2019年12月31日世界で初めて武漢で報告されて以来1年以内という驚異的スピードで、新型コロナウイルスに対するワクチンが開発、実用化されたことで、これには、メッセンジャーRNAをワクチンとして使うという、技術上の、大きなブレークスルーが貢献しており、この技術を開発した研究者が、近い将来ノーベル賞を受賞するのは間違いないことと思われます。メッセンジャー RNAを使ったワクチンには、ファイザー社とモデルナ社の2つのワクチンがありますが、どちらも、有効性と安全性は、極めて高いことが示されており、医学的な観点からは、12歳以上(ファイザーワクチンの場合)、モデルナは18歳以上、の全ての人々に、これらのワクチンを接種することが、推奨されています。従来型のアデノウイルスを使ったワクチンも実用化されており、これらを含めて、この原稿を書いている2021年の8月の時点で、全世界で、48億9千万回のワクチン接種が行われたと言われています。これは、単純計算で、100人につき、64回の接種が行われたことになります。米国では、3億6千万回の接種がなされました。これは、全人口の50.8%、ワクチン対象の人口の59.4%に相当すると言われています。日本では、これまでに1億1千万回接種されたと報告されています。アメリカでは、免疫不全疾患がある人には、三回目のワクチンを推奨するとの発表が本年8月3日にあり、また、8月18日には、本年9月20日から、全人口を対象としてファイザーとモデルナのワクチンの三回目の接種(二回目の接種から8ヶ月を超えた人に対して)ブースター接種を開始するとのニュースが発表されました。これは、ワクチンの効果は時が経つにつれ減少し、8ヶ月後には、十分な防御作用に必要なレベルを下回るとのエビデンスが出てきたためと言われています。また、これらのワクチンについては、近い将来、緊急使用許可(EUA)という規定を解除し、通常の使用許可に切り替える可能性があると報道されています。通常使用許可になれば、現在接種をためらっている人にさらに説得性を持ってワクチン接種を薦めることができる可能性があります。

◆ ブレークスルーがあると聞いたけど本当?

 ファイザーかモデルナのワクチンの二回の接種を終えた後に新型コロナに感染することがあるという話を聞いて、ワクチンは効かないと思っておられる方がおられるのですが、それは、事実ではありません。色々な理由で、免疫力が低下している人、例えば、ステロイドなどのお薬を使用していたりすれば、当然、ワクチン接種後の抗体生成能力は低下しているわけで、これらの人に、正常免疫能力のある人と全く同じワクチン効果を望むのは無理があります。また一度新型コロナウイルスに感染したことのある人が、再度新型コロナウイルスに感染した例も報告されています。こうしたことから、ワクチンを接種したから、自分はもうコロナに感染したことが過去にあるから、マスクをしないで良い、社会的距離を取らなくて良いという議論は成り立ちません。

 ワクチンの効果は、身体がウイルスに遭遇したのち、感染を防ぐという効果だけではありません。米国疾病管理局の発行する、疾病死亡率及び病態率週報の本年7月9日号によれば、ファイザーおよびモデルナのワクチンは、30歳以上の男性について、百万回の接種につき、1万5300のコロナ感染を防ぎ、4598のコロナによる入院を防ぎ、1242の集中治療室入院を防ぎ、700のコロナによる死亡を防ぐ効果があると報告しています。つまり、これらのワクチンには、感染を防ぐという効果ばかりでなく、症状の発症を防ぎ、入院の必要を低下させ、集中治療室治療の必要性を低下させ、コロナによって死亡することを防ぐという、何層にもわたる多重の効果があるのです。ですから、ワクチン接種後に、不幸にして感染したとしても、症状を軽くし、入院を必要とせず、重症化したり、死亡したりする危険を低下させるという効果が高いということです。また、ワクチンが、コロナ感染後に、長期にわたって、呼吸苦や、倦怠感が持続する、コロナ感染後症候群を減少させる効果も見逃せません。ワクチンは、新型コロナ感染の全ての段階に影響する、欠かせない武器です。

 実際、私の勤務する病院で、最近2週間の間にエクモ(対外循環式酸素交換装置)治療を必要とする3例の重篤コロナ患者さんが搬送されてきましたが、その3人すべてが、ワクチン未投与の患者さんでした。ワクチン投与によっておそらく防げたであろうこのような悲劇を見るにつけ、ワクチンの重要性を日々の病院勤務で肌で感じています。私の経験では、今までにワクチンを接種された人でコロナで死亡した症例は一度も見たことがありません。

◆ ワクチンの副作用が心配です

 先ほど述べた、疾病死亡率および病態週報7月9日号によれば、ファイザーおよびモデルナのワクチン接種後に、ごく稀に心筋炎、心囊膜炎が起きることが報告されています。これは、若い男性に多く、12歳から29歳の男性100万回の接種で39から47例の率で発生すると言われています。女性には少ないようです。症状としては、胸痛や呼吸苦が起きると言われています。その多くは、安静と保存的治療で寛解すると言われています。死亡に至る例は今のところ報告されていません。それ以外は、他のワクチン同様、接種箇所の軽度の痛みや腫れ、頭痛、発熱などがありますが、そのほとんどは、数日以内に寛解すると言われています。ギランバレー症候群の発生は報告されていません。

 ヤンセン ジョンソンアンドジョンソン社のワクチンは、ごく稀に血小板減少症を伴う血栓症や、ギランバレー症候群(四肢の麻痺)などの副作用の発生が報告されており、前者による死亡例も報告されています。米国食品薬剤管理局は、今年7月、ジョンソンアンドジョンソン社のワクチンによるギランバレー症候群の可能性に対する警告書を発行しました。

 アストラゼネカ社のワクチンは、現在のところ米国では承認されていません。

◆ デルタ変異株って何?

 コロナウイルスは、RNAウイルスで、RNAウイルスは、増殖するときに、コピーエラーが発生しやすいことで有名です。これらのエラーは、ランダムに起こり、その多くは、ウイルスをむしろ弱めてしまう効果があります。ところが、たまに、ウイルスの病毒性を強める変異が起きることがあり、その結果ウイルスの間での生存競争により、その変異株が優勢種になります。デルタ株は、感染力の強さを示すRoという数字が6で、既存のウイルスのRo=2.5の3倍近くあり、こうして、2020年の12月にインドで初めて報告されたデルタ変異株は、瞬く間に世界中を席巻し、今ではアメリカで流行しているコロナウイルスの90%はデルタ変異株であると言われています。しかし良いニュースは、現在アメリカで使われているファイザーとモデルナのワクチンは、デルタ株にも有効であり、重症化や死亡を抑える効果があるということが示されています。実際、現在アメリカのコロナウイルスのホットスポットは、アラバマ州などのワクチン未接種率の高い地域で、このような州では、未接種者の重症化や死亡が報告されています。デルタ株は、ワクチン既接種者に対しても感染を起こすことが稀にあり、ワクチンの作用によって発症が抑えられて本人が気づかないまま他人にデルタ株を伝染してしまう可能性が稀に起こりうることが報告されています。ワクチンを接種した後も、人混みでのマスクの着用や、社会的間隔保持の必要性は当分なくなることはなさそうです。

◆ コロナは子供達にも感染するの?

        子供から大人への感染リスクは高いの?

 コロナの流行の発生した初期の頃は、重症化や死亡率の高い老人や既往疾患のある人の感染に、関心が向けられてきました。しかし、高齢者へのワクチン接種が一応ひと段落ついた最近になって、若い成人や青年、そして子供達のコロナの感染に関心が向けられるようになってきました。JAMAアメリカ内科学会小児科分会雑誌の最新号によれば、0歳から3歳の赤ちゃんと14歳から
17歳の青年を比べると、赤ちゃんからの家庭内感染のリスクは、年齢の高い子供たちに比べて1.43倍高いという結果が出たそうです。赤ちゃんにマスクをさせることは至難の業ですし、赤ちゃんは、抱っこされたり、あやされたり、涎を垂らしたり、オムツを換えてもらったりと、大人との濃厚接触を避けることは不可能です。家庭内でのコロナ感染を防ぎ、重症化を防ぐためには、家庭内でワクチンの対象となる全ての人がワクチンを接種することが、唯一の方法です。赤ちゃんからもらったコロナが、病原性が少ないというデータはどこにもありません。現在、アメリカでは、6歳から12歳の児童に対してのワクチンの治験が進行中で、専門家によれば、その治験の結果が今年末にも判明する予定で、その治験でワクチンの安全性と有効性が確認されれば、6歳以上の児童にも、2022年初頭にはワクチン接種が開始される可能性があります。さらにその先には乳幼児を対象としたワクチンの治験がなされることでしょう。

◆ コロナワクチンの職場や学校での義務化について

 現在、軍隊や学校、病院などでは、そこに属する全ての人たちに、コロナワクチンの接種を義務化する動きが進んでいます。私の働く病院でも、医師や看護師だけではなく、全ての従業員に、ワクチンの接種が義務化されることが告知され、今年11月1日までにワクチン接種をしていない人は、職を失うことになります。ミシガン大学では、全ての学生にワクチンが義務化されました。新型コロナという病気の脅威と、ワクチンの有効性、安全性のデータを突き合わせてみれば、これらの動きは妥当であるように思えます。学校における感染を防ぐことは、家庭内感染を防ぐことにつながります。

◆ 妊婦とワクチン

 新たに承認される薬剤やワクチンの治験において、妊婦が含まれることはごく稀です。それは妊婦や胎児に未知の副作用があるかもしれないということで、ファイザーやモデルナのワクチンの治験にも、妊婦は含まれていませんでした。したがって、昨年末にワクチンが承認された時には、妊婦に関する安全性は不明のままでした。しかし、ワクチンが承認されたのち、世界中で多くの妊婦さんにもワクチン接種がなされ、その安全性が確認されました。したがって、現在、アメリカ疾病管理局は、12歳以上のすべての成人(妊婦、授乳中の母親、将来妊娠を予定している若い女性なども全て含めて)に、コロナワクチン接種を勧めています。授乳中の母親がワクチンを接種した場合、その抗体が、母乳を通じて赤ちゃんに伝えられることもわかっています。妊娠中の女性や授乳中のお母さんが、コロナにかかって重体になったり死亡したりすれば、死亡率は1人ではなく2人(以上)となりかねません。妊婦さん、若いお母さんは、ぜひワクチンを接種
してください。

  “ゼロ・コロナ” から “ウイズ・コロナ”へ

 このウイルスの震源地、中国では、今でも一人でも患者が見つかれば、そのマンション全体、村全体を閉鎖したり、ゴーストタウンにすることで、感染を封じ込めようとしているとの報道がされていますが、民主主義の国では、このような乱暴な手法を取ることは可能であるとも、適切であるとも考えられてはいません。一方で、世界で一番コロナワクチンの接種が進んでいると言われているアイスランド;そこでは16歳以上の女性の96%、男性の90%が少なくとも一回の接種済みだと言います。そのアイスランドでも、デルタ変異株の影響で、コロナ患者の数が最近上昇してきたと言われています。しかし、コロナでの死亡率は上昇しておらず、大半の感染は軽症に終わっています。つまり、ワクチンが効果を顕しているということです。現在の世界の状況を見ると、コロナの流行がすぐにも終息することはなさそうですが、ゼロコロナではなくウイズコロナ、ワクチンと社会的距離、マスクの使用などを適切に組み合わせることにより、人間らしい生活を取り戻していける日が1日も早く来ることを希望しています。

参考資料:JAMA September 18,2021. “Confronting the Delta variant of SARS-COV-2, Summer 2021.”
JAMA Pediatrics September 16,2021. “Association of age and pediatric household transmission of SARS-COV-2 infection.”
JAMA pediatrics September 16, 2021. “Yes, Children can transmit COVID, but we need not fear.”
Morbidity and Mortality Weekly report July 9, 2021.: Centers for disease control and prevention

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筆者 プロフィール:
山﨑博
循環器専門医   日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
Roseville Office
25195 Kelly Rd
Roseville,  Michigan  48066
Tel: 586-775-4594     Fax: 586-775-4506

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