
ミシガンにも本格的な夏がやってきて、野外で過ごすことも多くなってきました。その時に気になるのが、蚊やダニなどの害虫に刺されることです。ミシガンは、比較的、蚊やダニに媒介される病気、例えば、マラリヤ、ジカ熱、デング病、黄熱病、日本脳炎、ウエストナイル病、ライム病、ツツガムシ病などは、比較的稀ですが、それでも、蚊やダニに刺された後は、痒みや腫れ、痛みなど不快な症状に悩まされることが多くあります。ある種のダニ(deer tick)に噛まれた後には、ライム病などの心配が起きることがあります。こうしたことを避けるためには、何よりも予防が一番ということになります。こうしたことから、アメリカでは、疾病予防局(CDC)や、環境保護局(EPA)などは害虫を近づけない薬(insect repellants)の使用を勧めています。こうしたお薬は、長袖、長裾の衣服の着用や、蚊やダニの多く出ている場所や時間帯を避けるといった方法と組み合わせることによって最も効果が上がると言われています。
こうした害虫よけのお薬は、市場にたくさん出回っており、どれがいいのか迷うことがあります。今月号のThe Medical Letter誌(July 12,2021, volume 63)には、医学的立場から見た、害虫よけのお薬のまとめが特集されており、もし興味がある方は、読んでみられるといいと思います。ここでは、その記事をもとに、日本語で、できるだけわかりやすく解説させていただきます。
Deet(ディート):
アメリカで、一番よく使われており、最も効果的と言われているのが、DEETという成分をもとにした、虫除け剤で、使用法を守って使う限りにおいて、妊婦にも、2ヶ月以上の乳児にも、安全だとされています。DEETを基にしたお薬にもいろいろあって、スプレーや、ローション、ワイプなどがあります。赤ちゃんの肌に向かってスプレイをかけるのは気になる、というもっともな心配に対して、ワイプを使うという方法は、良い方法だと思います。
DEETの成分がどのくらいの期間、肌にとどまって、虫除けの効果を発揮するかは、DEETの濃度の高いものほど、長期間その効果が持続すると言われており、また、汗や、雨風、プールなどでどのくらい皮膚から流れ落ちるかによって有効時間は変わってきますので、汗をたくさんかいた場合や、プールなどで水に入った場合は、薬を上塗りすることが必要になることもあります。またワイプの持続時間は比較的短く、2時間と言われていますので、ワイプを使用してのち、戸外に長くいる場合は、2時間後には再び塗布する必要があります。また、アメリカ小児科学会は、小児に使用するDEETの濃度の上限を、30%以下としています。ですから、濃度が高いもの程よいというわけではありません。市販のDEETの大部分は、こうした理由から濃度を30%以下に抑えてあります。
DEET以外には、ピカリヂン(picaridin)、IR3535, レモンユーカリ油(Oil of Lemon Eucalyptus)、PMD、2undecanon, Citronella Oilなどが市販されています。DEETはどうしても嫌だという人は、こうしたお薬を試してみられるのもいいと思います。
また、日焼け止めのクリームを使用される方も多いと思いますが、その場合、日焼け止めクリームを塗った上から、虫除けスプレーをかけるということが推奨されています。虫除けスプレーは、日焼け止めクリームのSPF効果を少し弱めると言われていますが、逆に、それを避けるために、DEETの上から日焼け止めクリームを塗ると、DEETを体内に吸収することを促進すると言われています。こうしたことから、日焼け止めクリームと防虫剤を混ぜて使うこと、および、防虫剤を日焼け止めの下に使うことは避けるべきだと言われています。防虫スプレーは、日焼け止めクリームの上から塗布してください。
Permethrin(パーメスリン):
今までに述べたお薬は、露出した肌に使用して効果を上げようとするものですが、衣服や帽子、テントや蚊帳、寝袋などに塗布して、虫除け効果ばかりでなく、接触した虫に対する殺虫効果をあげる薬剤があります。パーメスリン(Permethrin)というお薬で、スプレーで市販されています。また、このお薬をあらかじめ染み込ませた衣服も市販されており、製品によっては、数回の洗濯に耐え、
数週間は効果が持続すると言われているものもあります。このような、あらかじめ薬を染み込ませた衣服を買うのも一方法ですが、数度の洗濯で、効果がなくなってしまうことを考えれば、自分のお気に入りの服に、自分でスプレーするのが、良いように思われます。このお薬は、肌に塗布して使うお薬ではありませんので、肌に直接スプレーしたりすることは避けてください。
その他、DEETなどを、リストバンドや、貼付薬のようなものにつけて市販しているものもあるようですが、これは効果がないと言われています。
害虫による感染症
- Chaga’s disease(チャガ病)
南アメリカなどでkissing bugと呼ばれる害虫に噛まれることで起きる病気です。拡張性の心筋症、心不全を起こします。 - Lyme disease(ライム病)
アメリカ東北部などで、ダニ(deer tick)の一種によって媒介される病気で、循環器の領域では、伝導系の障害を起こし、不整脈を起こす可能性があります。 - Zika(ジカ熱)
中南米に流行っていた、蚊を媒介とした伝染病で、妊婦がかかると、胎児に、重篤な先天性奇形の危険が高まりますが、2021年現在では、アメリカ合衆国内部での感染は報告されていません。
このような病気は、ミシガン州では、ごく稀であると考えられており、害虫に噛まれることを過度に恐れて、夏の間の楽しい野外活動を避ける必要はないと思いますが、蚊やダニに噛まれた後での、痒み、腫れ、痛みなどの不快感を考えると、蚊やダニに噛まれることを最小限にすることには意味があると思います。
::おまけ::
私の生まれた山口県では、蚊に刺されることを、“刺す”と表現し、“蚊に噛まれる”という表現は聞いたことがありませんでした。大学生の時、関西に来て、“蚊に噛まれた”という表現を初めて聞いた時はずいぶん違和感がありました。蚊の口は、顎が退化して、一本の中空の管になっており、それを突き刺して、注射針のように、血を吸うわけですから、“刺す”が適当だと今でも思っています。しかし、時が経って、何度も“蚊に噛まれた”という表現を聞かされた後には、今では最初の頃の違和感は無くなりましたが、皆さんの故郷ではどうですか?“蚊に噛まれる”派ですか?“蚊に刺される”派ですか?言語学の先生に会う機会があれば、一度聞いてみたいと思っています。アメリカは、昆虫には全く興味がない国で、虫の全てをbugで済ましてしまう国ですから、“mosquito bite”と言いますが、これは、勘定には入らないと思います。
参考文献:The Medical Letter誌(July 12,2021, volume 63)
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筆者 プロフィール:
山﨑博
循環器専門医 日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
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