対面授業再開ー隣同士の距離を保って

デトロイトりんご会補習授業校はこの度、幼稚園部は4月17日、小学部は隔週で5月1日から、5月29日の授業日からは中・高等部を含む全学部で対面授業が再開された。補習授業校ですべての学部の児童・生徒が登校するのは2020年3月7日から実に14か月ぶり。安全対策スタッフは校舎入り口のチェックポイントで、一人一人から健康調査票の提出を確認、セキュリティーのガードマンも入り口に待機。駐車場には入校開始時間を待つ車でびっしりになった。隔週で一足先に再開した幼・小学部は昼食前に下校を数週間続けていた。中・高等部は再開初日から午後まで授業が行われた。感染防止のため、各机の配置は2メートル(約6フィート)のソーシャルディスタンスがとられた。昼食は教室で前を向いて摂った。授業も落ち着いた雰囲気で行われ、対面学習の良さが見られた。りんご会ではカナダなど遠方の在住者や当面はオンライン学習を希望する児童・生徒に授業をウエブカメラで同時配信する「ストリーミング」を提供している。コロナ禍においても一人ひとりのニーズに沿った配慮をしている。9月には大運動会の開催を予定している。


2021年度 林る美新校長先生 着任のインタビュー

デトロイトりんご会補習授業校は1973年に当地在住の日本人駐在員の方々が集まり創立された在外教育機関。現在は非営利団体「デトロイトりんご会」として、幼稚園部から高等部まで約710名が毎週土曜日の授業を受けている。文部科学省からの日本国派遣教員が校長・教頭として現地採用の講師の毎週の授業の指導、助言を行っている。帰任した井口豪校長を引き継ぎ、4月に林る美先生が校長に着任。デトロイト補習授業校初の女性の校長先生でもある。初夏、6月にインタビューにお答えいただいた。

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—教育者としての経歴をお願いします。

 大阪府の豊中市で小学校の教員として23年間学級担任等を務め、その後教育委員会でも勤務いたしました。豊中市は人口が40万人ほどの市です。生徒数が200人ほどの小規模校から1000人の大規模校まで勤務した経験を持ちます。日本での教員生活はとても恵まれ充実していたと思います。

—海外での教育経験とエピソードをお願いします。

 シンガポールの日本人学校に1987〜1989年まで赴任しました。初任校で5年間勤めた後、次は海外に行ってみたいと思ったのがきっかけです。シンガポールは面積こそ小さいですが、多民族国家、文化が豊かという印象があります。学校スタッフにも様々な民族の方がいらっしゃったのが印象に残っています。

—当時のユニークなエピソードをお願いします。

 校舎にコブラが出るので、コブラ除けに毎日硫黄をまく係の人がいました。捕まえたコブラを出没したところに吊るし、「ここにコブラが出るから気をつけなさい」と。これは怖かったことを覚えています。熱帯地域なので年間を通しての水泳指導はどの子も真っ黒に日焼けしたこと、6年生の修学旅行はジェット機で隣国マレーシアに行き、マラッカなどを訪れたのは懐かしい思い出です。当時は2000人近くの児童生徒が在籍しており、多くの日本人が集うナショナルスタジアムでの大運動会は、さながらオリンピックのようで壮観でした。

—二度目の海外赴任をご希望なさった理由と赴任してみての印象をお聞かせください。

 もう一度海外へという思いからです。チャンスをいただけて大変うれしかったです。アメリカ・ミシガン州に赴任するとは思ってもみませんでした。アメリカの印象は日本のメディアで見るよりも広いということです。日本では、治安や人々の暮らしの様子、コロナワクチンの対応など、この広いアメリカの切り取られた一部の情報しか伝えられていないと感じました。多様で豊かないいところが伝えられたらいいのに、と思います。ミシガンの自然豊かでありながら暮らしやすい環境は大好きになりました。

—着任してから約三か月目に迎えた学校再開についてお願いします。

 着任した時には、すでに再開への手順ができていました。その中で考えたことは、日本国内と補習校の違いです。国内の学校は、基本的に家庭と学校というベクトルの中で感染対策を行っています。補習校の児童・生徒は平日様々な地域の現地校に通っていること、借用校との関係も考えると、感染を広げず再開を進められるかは大変なことだと考えました。その中でワクチン接種が始まったこと、入校時に健康調査票を提出していただくことで保護者の皆様にも意識を高く持っていただいたこと、さらに安全対策スタッフの方々による入校時のチェックも加わり、大きなセーフティーネットになりました。

—再開時の印象をお願いします。

 対面授業の初日に登校してきた児童の嬉しそうな顔が良かったです。昨年度の一年間のオンラインでの授業を保護者の方々も子供たちも頑張ったからこそ、対面授業への喜びと期待を持って登校してきたのだと、昨年度一年間の姿がうかがえました。特に幼稚園部の子供たちは登校していろいろな活動をするのが楽しそうでした。この補習校が地域の人々にとって希望、心の支えとなり、児童・生徒たちが勉強したり友達を作ったりしながら心の支えの場であり続けていき、子どもたちの教育を軸に保護者の皆さまとも強くつながっていきたいと感じています。

—着任してお考えになったことをお願いします。

 補習校は設立の経緯から、保護者や駐在員の皆様の努力によって支えられています。特に本校は、保護者と駐在員の皆様という地域とのかかわりが深いと感じました。子供の教育という視点から考えると、日本の学校教育の原点の姿に近いと感じました。学校行事を地域の方が支え、子どもを地域の宝としてみんなで育てる力合わせが、補習校ではなされています。その中で、講師は日本国内の学校と違い毎日会って話し合うことはできません。質の高いコミュニケーションが大切だと思います。それぞれが何を願って、何のためにするのかをしっかりと考えることは大切です。講師一人一人が同じ願いをもって子供たちに向かう、何でも話せる聞き合える職場でありたいと考えます。

—今後の抱負をお願いします。

 現地校と補習校の両方の学校で学び続けることを支えたいと思います。ここで学んだことが自分の可能性や夢の広がりになるでしょう。中には日本語で学び続けることが難しくなる児童・生徒もいるでしょう。しかし、日本語で伝える力を持つことは自分の可能性を広げることにつながります。民族を越えていろいろな人がいることを知り、いろいろなことに興味を持つ大切さを学んでほしいと思います。現地校で学んだデトロイト補習校の子どもたちには未来を変える力があると思います。補習校が児童・生徒の学び続ける力になればうれしいです。

—最後に赴任中に成し遂げたいことなど、学校のお仕事以外の点についてお伺いします。

 まずは帰任までなんとか健康でやり切りたいと思います。

 アメリカにいる間は、アメリカで日本人がどのように生きているか、なぜここに住んでいて、何をしているのかを見たいです。またアメリカに来てアメリカという国にとても興味を持つようになりました。建国以来240年ほどの間にどうやってこの大きな国を作ってきたか、大きくて豊かでダイナミックな国がどのような歴史を作ってきたか、大統領の存在感の大きさにも興味を感じます。例えば、リンカーンが大統領になる前に勤めていた法律事務所を訪れて当時の様子を想像したりしたいです。

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 約1時間のインタビューを終え印象に残ったことは、林校長先生の大きな包み込むようなお人柄だった。学校再開で登校してくる子供たちの表情からそれまでの姿を思いやるお心、アメリカを「大きくて豊かでダイナミックな」と表現したところがそれを象徴していたと感じた。

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