
今年の独立記念日ですが、皆さんはどのようにお過ごしですか?
ご家族やご友人と昨年より少しは楽しく幸せな時間を持てたでしょうか?拙宅の近所では花火の音が聞こえたり人家越しに遠目の花火も見えたりしますが、世間の喧騒を他所に我家は今年も代わり映えのしない連休です。古典『徒然草(つれづれぐさ)』の著者吉田兼好ではありませんが、「つれづれなるままに日暮らし、硯に向いて心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば・・・」と毎月原稿締切りでご迷惑をお掛けしている本紙の発行責任者の方に喜んでいただけるように、原稿下書きの書き溜めでもやっておけばいいのですが、締切り直前まで何が起こるかわからないご時世を言い訳にして話題のトピック、テーマのネタ探し、確認作業、取捨選択などをしております。まあ、独断で「日々是好日」特に悪いことがなければ善(よし)としましょう。
トピックと言えば、海の向こうの本国日本では東京オリンピックの開催日が目前に迫っているにもかかわらず、ワクチン接種の実施も拙速感が否めない中でコロナ禍の緊急事態宣言や蔓延防止法の適用解除に二の足を踏んでいます。日本国内だけでなく海外諸国でも各競技の代表最終選考会と代表役員・選手団の決定が終わり、予定通り開催ならば続々と日本に派遣・入国するばかりとなっています。(既に一部入国したグループでコロナ感染者や濃厚接触者が発生し残念です。)日本国内でも開催賛成派と反対派で意見が二分されているようですが、実際に開催となれば、会場観客の有無を問わず、日本代表団や一般国民は元より海外から来訪する代表役員・選手団、オリンピック運営委員会関係者、ボランティアの皆さんの安全と健康を第一に考えて会場、宿泊施設、移動経路、緊急対応策など全体から細部まで細心の注意を払って最善の方策を取っていただきたいと願っています。なお、テニスの大坂選手は現在開催中のウィンブルドン大会を欠場し、公式会見義務のないオリンピックには出場予定と発表されました。先月号原稿締切り直前のフレンチオープン開催中に起きた公式会見拒否、2回戦棄権については当時十分な情報がなくやや短絡的なコメントをしましたが、その後彼女は2018年のU.S.オープン優勝後ずっとウツ状態が続いて精神的に苦しんでいたと自ら公表しました。選手の精神的健康に配慮しない公式会見での辛辣な質問の繰り返しにも苦痛を感じていたとのこと。その当時も義務違反となる会見拒否は「プロとしての自覚が足りない」、「自分勝手なわがまま」、「今の地位につけたのはメディアとファンのお陰なのに恩を仇で返すのか」などなど厳しい批判コメントがありましたが、外からは見えない心の病は本人でさえ揺れ動く心の実態、実情を正確に把握し、分かりやすく言葉で表現して他人に伝えるのは至難の技、ましてや他人にはとても理解できないことです。批判するのは簡単ですが、彼女の真のファンならば(ファンでなくても)今は批判や叱咤激励するのではなく、彼女が心の健康を取り戻すまで温かくそっと見守り、優しく応援してあげるのがベストではないでしょうか?(閑話休題)
一方当地米国では、コロナワクチンの接種件数、接種率の伸びが頭打ちとなり、バイデン大統領が力説していた独立記念日までの達成目標に至らず。イギリス型ベータ変異株に続くインド型デルタ変異株の新規感染が世界各国・各地で急増、急拡大しており、米国も例外ではありません。国民全体が気を引き締めず安易な対応をしているとワクチン未接種の若年層や接種反対・拒否・不可能な人達が感染、重症化したり、更に凶悪な変異株の発生を助長したりする恐れがあり、既にワクチン接種済みの人達も決して安心できません。
明るいトピックとしては、引き続きMLBエンジェルスの大谷選手の活躍が連日のように話題となっています。開幕から先月末まで先発投手を兼務しながら量産した本塁打数がチームメイトのトラウト選手やドジャースに移籍したプホルス選手が持っていた球団記録を更新しました。(本原稿執筆中には未然形だった6月末日の結果次第では更に2、3の記録更新可能性もあり。)また、今月中旬開催のオールスターゲーム前日恒例のホームランダービーに日本人として初めて参加を予定しており、対抗馬と目された現役スラッガーも彼の優勝を予想すると同時にファン投票でDH(指名打者)として選出される可能性が濃厚。おまけにア・リーグの監督采配次第ではレギュラーシーズン同様に二刀流で投手としても出場するかもしれない期待感もあり、まるで漫画の世界のように大いに盛り上がっています。
逆に暗いトピックとしては、今回のテーマ「アメリカンドリームか?アメリカンナイトメアか?」にも関連する出来事が挙げられます。
連日の報道でご存じのように、先月下旬フロリダ州サーフサイド市で高層コンドミニアムビルの部分崩壊事故がありました。夜中の1時半過ぎにビルの約半分近くが突然崩壊、翌朝のニュース報道で見た現場の悲惨な光景には息を飲みました。事故発生が日中ならば外出中で難を逃れた人も多かったと思われますが、運悪く夜中の就寝時に起きたため先月末時点で身元確認ができた11名の犠牲者と150名以上の行方不明者という最悪の事態となってしまいました。崩壊した瓦礫に閉じ込められた生存者の緊急救出作業が最優先事項ですが、作業中に瓦礫が滑落したりビルの残存部分が崩壊する2次災害の危険性や不安定な瓦礫上・中で作業する救出部隊の安全確保も難しい状況のところに火災が発生し、消火用散水で作業が一時停止されたりで、1分1秒も待っていられない犠牲者のご家族や関係者の切望を知りながらも作業が遅々として進んでおりません。時間が経てば経つほど生存者の発見救出の望みが薄れてしまうため、ニュース報道を見る度にいたたまれない気持ちになります。一人でも多く奇跡的に生存者が発見救出されることを願って止みません。
救出作業と並行して原因究明と現場周辺や近隣で懸念される同じような設計構造のビルの崩壊リスク確認調査と崩壊防止・回避策の策定が進められています。
ニュース報道によると、3年前の2018年に実施されたコントラクター(建物保全管理下請け業社)による点検でプールデッキの構造設計が悪く排水を助ける傾斜がないため溜まり水が発生し、浸透した水による直下のパーキングガレージの鉄筋コンクリートの鉄筋のサビ付き、膨張(錆びが進行すると元サイズの7倍にもなる由)、コンクリートのひび割れ、劣化・欠損指摘と改修の必要性報告が出ていたものの何も具体的な改修処理がされないまま放置されており、その後更に劣化が進んだことが崩壊に繋がった原因のようです。天災ではなく明かに人災です。実際に今年4月にコンド経営管理理事会から住人宛にリスク警告兼改修予算(総額$15百万)の分担予想金額通知書の配布があった由。
また、地元マイアミヘラルド紙がコントラクターから入手した崩落発生36時間前に撮影した現場(崩壊した南側ではなく北側ですが、加速した構造物の劣化は同レベルと推察される)のビデオとインタビュークリップを見るとそんな所に人が住んでいたのか!?と驚くばかりです。従って、今回の崩壊は上層階から雪崩現象的に下層階に順々に崩れ落ちたものではなく、プールデッキ下の最下層が先に崩れ、支えの無くなった上層階が積み木落としかダルマ落としのように次々と崩れ落ちた可能性が大です。また、別の専門家の速報コメントでは同じような設計構造の建物が近隣に100件ほどあるようで、同じ悲劇を繰り返さないように緊急点検実施と場合によっては住人の暫定避難、早期改修工事実施が急務となると推察されます。
目を移して米国議会を見ると、民主党ジョー・マンションおよびキルステン・シネマ両上院議員の党内抵抗と共和党議員の挙党一致的な反対行動で遅々として進まない連邦政府・民主党主導による雇用確保・創出のためのインフラ投資法案および連邦投票権保護法案(共和党による各州レベルの投票権及び投票行為の制限・制約州法を無力化、無効化するためのもの)というバイデン政権の次なる二つの目玉政策承認・実施が頓挫しておりますが、今回のビル崩壊事件を『天の声』的に活かして共和党の協力的少数議員の票数も加えてインフラ投資法案を突破口として投票権保護法案も抱き合わせまたは前後して何としても議会通過、大統領署名、立法化・実施に漕ぎ着けて欲しいものです。銃規制強化や難民・移民受け入れ問題の改善対策も後に続いていますので、時間を無駄にできません。
国民の生活保護、経済復興、雇用創出よりもバイデン政権潰しと次期中間選挙、大統領選挙での勝利を党利党略として最優先する共和党メンバーは民主党政権に協力して政策が上手く行ってしまうと主役である民主党の手柄となり、更に国民の評価と支持を得て次期選挙での挽回、失地回復が困難になるとの目算があるのか、全く非協力的で超党派案の検討・交渉をしている少数派議員もひょっとすると国民へのジェスチャーだけで何処まで本気かわかりません。平気な顔で嘘や虚偽のストーリーをAlternate truth(オルタネイト・トゥルース=別の真実)と言い換えてさも真実のように思い込ませて自分たちに有利になるように群衆を扇動操作しようとしている面々の巣窟化している現在の共和党では、彼らが提案、提言する政策案や法案も所詮虚構の世界の産物、砂上の楼閣であり、本当の真実や正確なデータに基づいた確固たる基盤を持たない怪しげで不安定なものになるため超党派での合意、法案審議・通過は極めて望み薄(ほぼ絶望)のようです。
その間にもQAnonなどの右翼過激派保護主義グループや白人至上主義者グループの多くは大統領在職中に自己中心で自分の野望実現のために勝手気ままに振る舞えた甘い思い出が忘れられないトランプ前大統領がこの8月末までに復職するとか、復職が実現されないと米国は内戦状態となり、今でも全米各地で多発している銃乱射事件や暴力事件があちこちで更に増加すると発言するトランプ信者、トランプ支持層が現実に存在し、良識派の国民の日常生活を不安と不信で脅かしています。最近では各種教会のイベントにも政治論争が持ち込まれ、信者や参列者たちを正しく導くべき神父や牧師自身が政治的かつ偏向的な発言をして反対する者を追い出し排斥する傾向まで表面化しており、神を崇め祈りを捧げに来る敬虔な信者たちは「教会に神の居場所が無くなってしまった」と嘆いている由。
他方では、トランプの愛娘であるイバンカと娘婿のジャリッド・クシュナー夫妻が負け戦となった前回大統領選挙は不正投票があったために本来勝利すべき自分が当選しなかったといつまでもMove on(次に進む)しようとせず、負け惜しみタラタラの嘘八百を並べてグズついているトランプ親父に愛想を尽かしたのか、最近は前回選挙に関する公のコメントなしで距離を取り始めており、まだ先の長い野望たっぷりの若夫婦はトランプの動向とは別に自分達の人生シナリオの次章に入ろうとしているようです。上手く行ったら、それも怖いですね。
米国生まれの若者や子供たちだけでなく海外から移住してくる難民・移民の中には『自由な国』米国でアメリカンドリームの実現を夢見て来米し、実際に夢を実現した例もTVやネットのニュース、ブログなどで時々紹介されていますが、単に政情や経済が不安定で身の危険や生活不安のある中近東、中南米、アフリカなどの開発途上の祖国を離れて安全で将来の望みもある米国に来たという人々も多く、なけなしの財産を現金化して渡航費用にしたり、密航業者に手数料として渡したりして、生まれ育った祖国に戻らない一大決心をして文字通り命懸けでこの地を目指して来たわけです。中には密航業者に騙されて金品だけ奪い取られ、同行帯同または子供だけ送り込んで米国に入るはずが、途中で山賊や盗賊に襲われ、携行品や命を奪われたり、子供や女性が誘拐されたり、国境越えや河川横断中の事故で離れ離れや行方不明になったり、不慮の事故や病気で亡くなったりする人も跡を絶ちません。
しかもやっとの思いで米国に着いたと思ったら、国境管理・警備部隊による入国審査で受け入れ拒否されたり、生命の危険さえある本国に強制送還されたり、メキシコ側の路上キャンプでいつまでも当てどなく待機させられたり、多少運が良くても米国側の収容所暮らしと失望に包まれる事例も多く耳にします。晴れて入国審査に合格し(あるいは密入国で)、米国生活が始まっても雇用や生活保証はなく、食料や飲料水、衣服、生活用品を物乞いし雨露をしのぐ寝ぐら探しは元よりその日暮らしの生活苦に喘ぎ、場所や環境によっては人種差別や暴力を受けて大怪我をしたり、一命を落とす人まで出ております。運良く仕事が見つかっても密入国や公式な滞在資格証明書がない弱みにつけ込まれ、最低賃金以下の給料で半ば強制的に3Kの極めて悪い職場環境で長時間の重労働を課せられたり、人間らしい扱いをされないケースも耳にします。そうなると、アメリカンドリームではなくアメリカンナイトメア(悪夢)ですね。
少しまともな仕事と職場環境に恵まれても、いつ何処で何が起こるかわからない今のご時世では自分と家族を含めて食料品・生活必需品の不足、輸送・配達の遅延とコスト増、インフレによる継続的物価高、戸建て・リース・レンタルとも住宅費高騰など通常の生活不安だけでなく銃乱射事件、国内テロ、交通事故、住まいや職場・学校での管理監督ミスによる不慮の事故、薬物中毒、医療ミス、地球温暖化と環境破壊により頻発する大規模自然災害・人災など心配の種は尽きません。
海外からの難民・移民に限らず、米国生まれの米人にとっても生きづらい、暮らしにくい世の中になってきていますが、バイデン現政権には粘り強く継続的な効果が望める政策を一つ一つ実施して、着実な成果を出すように誘導してもらい、少しでもまた規模は小さくてもアメリカンドリームを夢見て実現できる人が増えますように祈っております。(合掌)
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。