
5.アメリカの健康保険
(2) 保険のプランを選ぶのに必要な用語について
アメリカの健康保険は日本と違い保険会社の数もプランの種類も多いうえ、転職や転勤の直後に じっくり考えたり相談する時間がない中で選ばないといけないことも多く、よく理解しないまま プランを選んでしまったことで、思わぬ出費につながることもよくあります。前回は、保険の種類を大ま かに説明しましたが、今回は、健康保険のプランを選ぶ際に知っておいたほうがいい用語の意味につい て説明します。
保険のプランがいくつか提示されて選ぶ際に、つい、毎月の支払の少ないものを選びがちです。 ただ、今まで健康で特に医療機関にかかる必要がなかったとしても、この先今までなかったような 思わぬ事態が起こる可能性は十分あります。例えば、交通事故でケガをしたり、急に具合が悪くなって 救急外来受診をしたり、などの起こりうる状況を考えて、プランを選ぶ必要があります。
1. Deductible
プランを選ぶ際にはDeductible に注意しましょう。日本語訳は、「控除対象」ですが、自動車保険でも健康保 険でも、deductibleというのは、その額までは自分が負担する、という意味です。自動車保険でdeductible $1000 というのは、1000ドルまでの出費は自分が負担し、それを超える分は保険会社が払う、という意味です。健康保 険でも、例えば、deductible $4000 という保険に入ると、4000ドルまでは、すべて自費で、それを超えたら保険が カバーする、という意味です。自己負担であるdeductibleを超えたら、保険がカバーしてくれるのは100%なのか、 80%なのか、ということも確認する必要がありますが、最低限その額に達するまでは保険は一切支払われない、と いうことを意味します。Deductibleが高い保険に入ると、医療を受けた場合の自費分が増えますが、入院や手術な どの高額な医療を受ける際には、一定額以上は保険が支払ってくれるので、何万ドル以上の医療費を支払わなくて はならない可能性は、かなり減らせます。また、deductibleが高いプランは、deductibleの低いプランと比べると、 月々の支払いは少ない仕組みです。
D e d u c t i b l eが 高い 保 険も、予 防 的な検 診( p r e v e n t i v e c a r e)は10 0 %支 払わ れるプランが 多い です。そのため、毎年のがん検診や、健康診断で勧められる検査は概ね支払われ、本人に請求が来ることはほ とんどありません。ただ、具合が悪くなって受診した場合の受診料は、このdeductibleの額に到達するまでは、自 費となります。風邪をひいたくらいでは、医者にかかる必要はありませんが、ひどい腹痛が起きれば、救急外来に 行くこともあるかもしれませんし、その請求が2000ドルを超えることはまれではありません。 普段健康で、病院にかかることはめったにないから、毎月の支払いが安い、deductibleが高いプランを選ぶこ とはよくあります。それで、高額が請求が来る例をあげてみます。
<高額請求が来る例>
例1. 大腸癌検診のためにやった大腸カメラで、将来癌にな る可能性があるポリープが見つかり、カメラの時に同 時に切除された。一度に取ってもらったことはよかっ たが、3000ドルの請求書が来た。
☞ 解説:ポリープを見つける前までは検診でも、将来癌になる ポリープを取り除くという治療は検診ではなく、病気の治療とみ なされるので、自己負担が発生します。
例2. 乳がん検診のマンモグラムを受けたら、怪しいとこ ろがあるから、詳しいマンモグラムを受けるように勧 められ、詳しいマンモグラムと超音波を受けたら、 800ドルの請求が来た。
☞ 解説:詳しい検査は、検診ではなく、問題を診断するための 検査なので、自己負担が発生します。さらに、乳癌が疑われれ ば、生検(組織を一部取る精密検査)が勧められ、このような検 査も治療も、deductibleに達するまでは、保険が支払われない 契約になっています。癌検診をする目的は、早期に癌または前 癌病変をみつけて治療することなので、もし、癌かもしれない病 変が見つかった場合に、その検査や治療を支払わない保険は、 保険としての役割をあまり果たしていませんし、deductibleが高 い場合、その額に達するまでは、個人で払わないといけない、と いうことを理解しておく必要があります。
例3. 腹痛で救急外来を受診し、急性虫垂炎と診断さ れ、盲腸を取る手術をうけて3日間入院した。入院 費は4万ドルだったが、自己負担分はdeductibleの 5,000ドルだった。
☞ 解説:こういうdeductibleが高いプランを、catastrophic planとも呼びますが、これは、「とんでもないことが起こったとは、 多額の負債にはならないように、一定額以上は保険が払う」という意味です。保険がまったくないのに比べると、緊急入院や 手術などになった場合の医療費による、高額の負債のリスクを減らしてくれます。
Deductibleは、1年間に個人でいくら、家族でいくら、というように決まっていることが多いです。例えば、妻が入院 してdeductibleをすでに払った場合、その年内で夫が検査や治療を受ける場合、すでにdeductibleに達しているとみな されて、保険が支払われることが多いです。保険の年度は、benefit periodといい、多くの場合は1月から12月ですが、保険 によっては違う場合もあるので確認が必要です(4月から3月、等)。例えば、年度初めにdeductibleに達すると、その 年のうちに別の検査をしても保険が払ってくれます。そのため、もし必要な検査が高額だから伸ばしていたような場合 は、deductibleに達した年のうちにやっておくと保険が支払ってくれるので、いい機会と思って受けるといいでしょう。 逆に、年末にせっかく自費分を払っても、年度が替わると、昨年度の自費分はdeductibleには加算されず、またゼロか ら払わないといけなくなります。
2. Copayment または Copay
Copayment または Copayとは、一度に払う患者 負担分、という意味です。例えば、医者を受診する際 に、保険が効くことはわかっていても、かかるたびに Copayを払うことが決まっていることも多いです。プ ランに明記されているはずですが、主治医にかかる Copayが20ドルの場合、3回かかると、60ドルを診 療所に払う計算になります。また、アージェントケア (Urgent care)にかかる場合のCopayや救急外来に かかる場合のCopayもそれぞれ異なります。また、 かかる医療機関がネットワーク内か外かによっても、 Copayは違うことが多いので、自分がかかる医療機関 がネットワーク内なのか、外なのか、知っておくほう がいいでしょう。理学療法(リハビリ)なども、保険が カバーしても、Copayが25ドルとすると、10回行くと 250ドルの請求が来る計算になります。
このように、健康保険のプランを選ぶ際には、注意 すべき点がいくつかあります。毎月の支払いだけでな く、万が一の事も考慮して、最もご自身やご家族に適 したプランを選びましょう。
例えば、deductibleが高いプランと低いプランを比 べた場合、deductible が5000ドルのプランが、毎月 の支払いが500ドル少ないとすると、年間で6000ドル 節約できるので、その分、多少自己負担分を払って も、概ね節約したことになり、たとえ何かあって5000 ドル払っても、十分おつりがくる、という計算になりま す。ただ、アメリカの医療費は高いので、全体の20% を自己負担する、というようなプランは極力避けるこ とをお薦めします。
医師 リトル(平野)早秀子(ひらのさほこ)
家庭医学科助教授
リボニア・ヘルスセンター
1988年慶応義塾医学部卒業
1996年形成外科研修終了。
2008年Oakwood Annapolis
Family Medicine Residency 終
了後、2008年より、ミシガン大学