今年5月3日号の The Medical Letter 誌によると、コロナの治療薬として有望な薬が見つかるかもしれないとの記事が出ていました。私だけの胸の内にとっておくのはもったいないので、皆さんとシェアすることにします。

 同誌によると、強迫神経症のお薬として市販されている(お医者さんの処方が必要ですが)フルボキサミンというお薬を使った2つの臨床治験で、軽症のコロナ患者さんに使ったところ、重症化するのを防いだとの報告がなされています。フルボキサミンというお薬は、セロトニンを細胞内に取り込むことを阻害する薬で、その薬理学的効果が、強迫神経症のお薬として使われている薬理作用です。セロトニンを細胞に取り込むことを阻害するお薬は他にもいくつかあり、この薬が他の薬に比べて特にその効果が優っているというわけではありません。

 この薬が特別なのは、そのセロトニン取り込み阻害剤としての働きの他に、この薬には、細胞内の小胞体と言う細胞内小器官のシグマ1受容体に強く結合する作用があることがわかっていることです。このシグマ1受容体結合が、実験室の中では、コロナウイルスの増殖を抑える働きがあると言うこともすでにわかっています。そしてまた、動物実験では、このシグマ1受容体結合が、敗血症の動物の炎症反応を抑えると言うこともわかっています。ですから、理論的にはこのものは、コロナウイルスに伴うサイトカインストームという現象を抑え、致死性の呼吸困難症候群を防ぐ可能性があるといえます。

 とは言っても、これだけでは、実験室の中だけの話で、それがどうしたと言われればそれまでの話です。ところが、最近、2つの臨床治験が行われ、どうやら、このものが新型コロナウイルス感染症治療の本物の決め手になるかもしれないということが予感されるようになってきました。

 一つの臨床治験は、軽症の新型コロナ患者被験 者152人を無作為抽出二重盲検治験で15日間の治 療群と偽薬群とに振り分けて、呼吸苦と低酸素症を主要終末結果として調べたところ、治療群では80人のうち0(ゼロ)人、偽薬群では、72人のうち6人が、呼吸苦または低酸素症を訴えていたという結果が出ました。 

 もう一つは、カリフォルニア州のとある競馬場の従業員寮で新型コロナのクラスターが発生した際、陽性者の希望者を募って、この薬を14日間にわたって投与した65人の治療群と、この薬を希望しなかった48人の人を対象群として、14日後に前向きコホート調査※2をしたところ、治療群では一人も症状がなかったのに比べて、非治療群では48人中29人に症状があり、6人が病院に入院治療が必要となり、2人が呼吸器装着を必要とし、1人が死亡しました。

 この2つの治験は、比較的被治験者の数が少なく、これらだけでは確定的な結論を出すのは難しいので、現在、アメリカで、二重盲検不作為抽出治験が進行中です。30歳かそれ以上で、新型コロナテストが陽性で、今まで新型コロナワクチンの投与歴がなく、発症後7日未満の人なら、インターネットを通じて治験に参加できます(https://stopcovidtrial.wustl.edu)。ここに申し込んで受け入れられれば、治験の薬と自己モニター用の検査器具が自宅に送られてくるそうです。この治験は、セントルイスのワシントン医科大学の研究者たちが中心となって実施しているようで、今年の9月ごろには受付締め切りの予定だそうです。もし身の回りに、30歳かそれ以上で、最近7日間以内に新型コロナ陽性となり、新型コロナワクチンの投与歴がなく、症状がある人がおられましたら、治験に申し込まれるのを考慮されることをお勧めします。

 このお薬の良いところは、すでに、アメリカ食品薬物局の承認を得たお薬であり、経静脈ではなく錠剤で、予期しない副作用がある可能性が低いことです。

 アメリカ国内でのワクチン投与も進んでおり、これに、このお薬のような有効な治療薬が加われば、予防と治療の両面で重大な進歩が見えてくるわけで、鬼に金棒、長かった新型コロナの世界的大流行の出口がもうそこに見えてくるかもしれないとワクワクしている今日この頃です。

 ブラジルと韓国でも、このお薬を使った臨床治験が進行中と聞いています。ワクチンの投与率のまだ低い日本ではこのような治験ができる絶好のチャンスと思っていますが、どうでしょうか。日本でもこのお薬はすでに1999年以降、うつ病の薬として臨床使用が承認されているそうです。誰か日本の厚生省か大学の医学部で新型コロナウイルス感染治療の臨床治験の音頭取りをする人が出てきてくれると良いのですが。

ワシントン医科大学 コンタクトレス 治験情報
https://stopcovidtrial.wustl.edu

<参加条件>

  • 30歳、または、それ以上
  • 最近7日間以内に新型コロナ陽性となった
  • 新型コロナワクチンの投与歴がなく、症状がある
  • その他の条件あり。詳しくは上記ウェブサイトから

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筆者 プロフィール:
山崎博
循環器専門医   日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
Roseville Office
25195 Kelly Rd
Roseville,  Michigan  48066
Tel: 586-775-4594     Fax: 586-775-4506

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