
(JNC 2021年3月号掲載)
もう少しだけコロナの話をさせてもらいます。
一つは良い話でもう一つは少し気になる話です。
良い話といえば、アメリカ全体およびミシガン州で、コロナの新規感染者数、同死亡数、同入院患者数、など、コロナの活動性を表す数値がいずれもはっきり減少傾向を示していることです。医療従事者から始まって、65歳以上のハイリスクの人たちや、警官や消防士、教師など、その職業上感染を予防する必要の高い人たちに対するワクチン投与がすでにかなり行き渡っており、多くの人たちがすでにワクチンの投与を受けています。これから、ワクチンの供給が改善するに従って、65歳以下の人たちにもワクチン投与が開始されるのも間近なようです。私の関係する複数の病院でも、コロナ専用病棟が次々に不必要となり、コロナ専用病棟から、一般病棟への衣替えが進んでいるのを見るのは、大変喜ばしいことです。また海の向こうの日本でも、緊急事態宣言が延長され、東京、大阪をはじめ、全国で、新規感染者の数が、この原稿を書いている時点で、減少傾向になっているのは喜ばしいことです。この傾向が続いて、一刻も早くこの世界的大流行が収まってくれることを願っています。
気になる話は、コロナの変異株の出現です。コロナウイルスがインフルエンザなどと同じように、RNAウイルスであることから、変異株が一定の確率で出現することは予想されていましたし、現に観察されていましたが、これまで観察されたほとんどの変異は、病毒性や感染性にはあまり影響がなく、ウイルスの流行がどのような経路をとって広がっているかを研究する、いわば疫学的な研究のマーカーのような役割としての意味があるだけで、それがウイルスの性質そのものに影響することはないと考えられていました。それが、少し変わってきたのが、最近の、感染性の高い変異株(VOC; Variant Of Concern) です。現在このVOC に挙げられているのは、B.1.1.7(いわゆるイギリス型)、B.1.351(いわゆる南アフリカ型)、P.1(いわゆるブラジル及び日本型)の3種です。B.1.1.7は、最初イギリスで観察され、従来のコロナウイルスより感染性が高いと言われましたが、あれよあれよというまに、イギリス内で従来株に取って代わって、最も優位な株になりつつあります。この変異株の問題点は、感染性が強いということのほかに、従来の診断検査キットの一部をすり抜けて、偽陰性になってしまう可能性があることです。実際、ThermoFisher TaqPath COVID19 assayという検査で偽陰性になるということが、このB.1.1.7変異株の診断基準になっています(SGTF; S-gene target failure)。この3つのうちで、アメリカで感染が確認されているのは、B.1.1.7(いわゆるイギリス型)のみです。このB.1.1.7は、2021年
1月現在で、アメリカ国内で76人、全世界で15,369人の症例数が診断されています。現在はアメリカ国内では少数ですが、CDCの予測によると、2021年の5月までにはこの変異株が、アメリカ国内の優位株になるだろうと考えられています(下図参照)。
良いニュースは、現在米国で接種が始まったファイザーとモデルナのワクチンは、このB.1.1.7の予防にも有効だと言われていることです。
悪いニュースは、もし世界的流行が長引くようだと、その長引いている間に、また別の病原性や感染性の高い変異株が出現してくる可能性が高いことで、ワクチンの成功は、時間との戦いでもあるということです。
流行を早く終わらせることができるほど、変異株の出現の確率を減らすことができるわけで、ワクチンの接種とともにマスクの着用、社会的距離の励行、手洗いを頻繁に行うことなど、今まで以上の努力をすることで、変異株の出現を抑え、せっかく勝ち取ったコロナ患者の減少という成果を無駄にしないようにしたいものです。
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筆者 プロフィール:
山崎博
循環器専門医 日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
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