心臓病治療の最前線
心臓病治療の最前線

(JNC 2021年1月号掲載)

 みなさんお元気ですか? 最近アメリカでコロナウイルスに対するワクチンが
2種類承認され、コロナ大流行の終息が期待できるようになりました。これらのワクチンの有効性と安全性が確認されれば、やっとこの厄介なウイルスの問題を過去形で語ることができる日が近づいてきているのではないかと切に希望しています。

 私の患者さんの中にも、今、病院の集中治療室に入院中で、人工呼吸器を装着し、うつ伏せ体位でコロナと戦っておられる方がおられます。つい三年前までまで、手術室の看護師さんをしておられた方で、永年の勤務を無事終えられ、ここ2年ほどは、最近退職された集中治療室の主任看護師さんだった奥さんとともに、フロリダ州とミシガン州を行ったり来たりしながら、退職後の悠々自適の生活を楽しんでおられたのですが、コロナは人を選ばずで、コロナの犠牲者となられたようです。もう医療や病院の仕事とは、完全に縁を切られておられたはずですから、どこか市中で感染されたのでしょう。今日の血圧は70ミリ前後まで下がっていますから、敗血症を併発しておられるかもしれません。予断が許されないところです。過去に心臓バイパス手術をしておられ、虚血性心不全と、発作性心房細動の既往があり、私が外来で継続治療をさせていただいていたのですが、現在のところは、心臓が問題というよりは、コロナの感染が問題ということで、感染症、集中治療室の皆さんに主要な治療の決定はお任せしているところです。

 コロナの感染で厄介なところは、コロナに感染したからといって、そのほかの病気が消えて無くなるわけではなく、寧ろ、他の病気が悪くなる可能性がある点です。心臓病、糖尿病、腎臓病など、持病がある方は、コロナの最中にも、これらの持病が悪化しないように気をつけていなければなりません。また、心肺停止や急性心筋梗塞、急性肺塞栓症などで救急室に運び込まれた患者さんは、治療に分秒を競いますから、コロナのあるなしに関わらず、“コロナの可能性”という仮の診断名をつけて、コロナかもしれないとの態勢で治療に臨みます。PCR検査が広くまた迅速に行われるようになったおかげで、コロナかどうかの診断は、救急室からカテ室に運ばれている間の1時間ぐらいのうちには、結果がわかるようになりましたので、これは、今年3月ごろとの大きな違いです。全ての患者さんをコロナ可能性として診察治療するのは、大変な緊張と困難を伴います。

 ご存じのように、デトロイト地区は、アメリカの中でも、ニューヨークに続いて、COVID-19の洗礼を最も激しく、また早期に受けた場所で、3月の初旬には、私の関係する、ある病院で、448床のベッドでコロナの診断あるいは疑いで初旬に10数人だった患者さんが、一挙に一週間で150人を超えました。病院の取った処置は迅速適切で、全ての待機的手術を停止し、外来を全てオンライン化し、外来手術用の病棟を全て人工呼吸器を備えた、コロナ病棟に変えました。その頃、デトロイトにある全ての病院において、約3分の1の入院患者さんが、コロナの確診または疑いとなり、大変な状況でした。私の外来オフィスも、完全にオンライン診療となりました。こうした素早い、徹底的な対応が実を結び、病院も外来も閉鎖することなく、1日も休まず、患者さんの治療を続けた甲斐あって、6−7月ごろには、コロナの入院患者も減少し、外来も、本来の対面診療となりました。

 しかし、11月から12月にかけて、ここ数週間は、第二波がやってきて、またコロナ入院患者の急激な増加傾向があり、数日前では、448床のうち74人が隔離を要するコロナ患者さんで、そのうち10人は、人工呼吸器に繋がれている状態となりました。私の同僚医師7人のうち、2人が感染し、また、私の外来オフィスで働く数名の看護助手さんのうち2人、数名の受付のうち1人が感染しました。幸い、その全員が、現在では回復し、元気に職場復帰しています。

  私は週に、原則として2日半ほど外来患者を見ます。私の外来には、心房細動や心不全、虚血性心疾患の患者さん、高齢者(最高齢で96歳の元気なお婆ちゃん!!)の患者さんが多く来られます。外来の患者さんたちの中にも、最近のコロナ感染の診断、入院された方達も増えてきており、多くの人たちは、すっかり回復していますが、中には、コロナから2ヶ月経っているのに、まだ呼吸苦が取れず、少し歩いただけで、肩で大きく息を取っている人などもおられ、コロナの後遺症は、人によっては、大変重篤で遷延しているようです。

 そのほかの週に2日半は、病院の入院患者の診察治療と、カテーテル検査、及び治療を行います。最近の3週間ほどでカテーテル治療を行った例としては、急性心筋梗塞1件、急性深部静脈血栓症除去術1件、卵円孔開存症閉塞術1件、頸動脈ステント1件、亜急性浅大腿動脈閉塞症形成術1件、慢性冠状動脈閉鎖症治療2件、不安定狭心症冠動脈形成術3件、冠動脈診断カテーテル5件などで、これらを、主として卒後7年目の侵襲的循環器科フェローの人たちを教育しながら行います。今年は、卒後10年目の、“構造的“心臓治療のフェローがそれに加わり、あれこれ議論しながら、術式を改良して、少しでも良い治療ができるように、日々研究しています。

感謝祭の長い休日には、木曜から月曜の朝まで、4日連続で当直をしました。先週末の当直では、土曜日に8人、日曜日に12人、新規の入院患者さんを、すでに入院中の20人程度の患者さんに加えて診ました。当直の日には、夜もひっきりなしに看護師さんからの電話があるので大変です。クリスマスと新年には休暇が取れたので、少しゆっくり休むつもりです。

           皆様のご健康をお祈りします

 

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筆者 プロフィール:
山崎博
循環器専門医   日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
Roseville Office
25195 Kelly Rd
Roseville,  Michigan  48066
Tel: 586-775-4594     Fax: 586-775-4506

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