界から想像しきれない莫大な数の命を奪ったパンデミック到来の2020年も、幕を閉じました。もう何か月も非日常的生活が続く中、忍耐の緒が切れそう、また切れてしまったことを経験された方もいらっしゃるかもしれません。様々なレベルのストレスを抱える毎日は今も続いています。そんなストレス軽減化の一助として注目されている「マインドフルネス」とその応用をここでもう一度振り返ってみたいと思います。

 マインドフルネスとは、“今この瞬間の自分の状態に優しく気づくこと”です。そのような気づきの中から、新たな発見が生まれるのです。例えば、「もうこれ以上こんな状態が続いたら、私はダメになってしまう!」と悲鳴をあげたいその瞬間、それに気づいて、そっと注意を呼吸の感覚に向けます。圧力釜のようにパンパンになっていた自分の中の圧力がすうっと抜けるのを味わった方もいらっしゃるかもしれません。そして、次の瞬間も、自分の予想に反して、まだ大丈夫な自分を発見します。そして、その次の瞬間も…というふうに。

 頭の中で叫んでいる自分の思考・気持ちに少し距離を置いて接してみます。悲しい気持ち、焦燥感、憤り、そんな苦しい気持ちすべてに「つらいね。」と優しく接してみます。すると、心のどこかで何かがほんの少しですが動きます。ほんの少しのゆとりが生まれるのです。すると、今の状態にどのように対応したらいいか、以前は見えなかった選択肢が見えてくることもあります。もしかしたら、全部自分が解決しなくちゃ、と焦っていた自分が見えてくることもあります。「つらいね。ご苦労様」と自分をねぎらってあげることを忘れていたかもしれません。そんなねぎらいの中から新たな力が湧いてくる場合もあります。そんなねぎらいの声掛けで、自分にもっと優しくできるようになることもあります。そしたら、周りの人たちにも優しくなっている自分に気づいた、という経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 マインドフルネスの練習を通して、今の状態が自分が好むような状態でないときも、自らを批判せず、優しく気づくことができるようになっていきます。少しずつ、少しずつ。そして困難に新たに向かっていく勇気や希望が生まれます。

 フォーマルな練習としては、マインドフルネス瞑想があります。筆者の声で誘導した瞑想2つのリンクを下記に記しますので試してください。一日5分でも10分でも、できる範囲でいいのです。脳科学の研究では、たったの8週間のトレーニングの後に、実施前とくらべて脳のポジティブな変化 (ストレス耐性が増し、記憶や思考能力の向上)が出たという報告もあります。インフォーマルな練習としては、今していることに注意を傾けること。例えば、シャワーを浴びているとき、次のことを計画したり心配しながら、浴びるのではなく、シャワーのお湯が体に触れる感覚にゆったりと気づいてみます。お皿洗いをしているときは、手がお皿やお湯に触れる感覚に気づいてみます。すると、その体験そのものの質が変わります。歩くときも、たまには足の裏が地面に触れる感覚に気づきながら歩いてみます。以前マインドフルネス講習会に参加された女性が、子供と散歩した時、足が地面に触れる感覚に気づきながら歩いてみたら、子供の話を聞きながらも、心が安定している自分に気づいた、と語ってくれたのを思い出します。また、どんな時にでも気づけるものに呼吸があります。息を吸い胸やおなかが若干膨らむことに、息を吐くとき、若干しぼむことに、やさしく気づいてみます。ただそれだけでも自律神経の副交感神経が活性され、ストレスホルモンの分泌が減っていきます。気持ちも少し和らいでいきます。

 いろいろ予期せぬことが起こるのが人生というものですが、それへの柔軟性、レジリエンス(ストレスでへこんだものが元に戻る力)を培っていくことで、前には見えなかった命のすばらしさに気づくことも多々あります。読者おひとりおひとりにとって、どうぞ新年がよいお年となりますようにとの願いをもって、筆を置かせていただきます。

マインドフルネス練習法 こちらをクリック(音声)
呼吸のマインドフルネス こちらをクリック(音声)

筆者プロフィール

フォーク阿部まり子 (Mariko Abe Foulk, LMSW, ACSW)
ミシガン大学 Michigan Medicine 老年医学センター,日本家族健康プログラム 臨床ソーシャルワーカー。

関西学院大学社会学部社会福祉卒業。ミシガン大学ソーシャルワーク大学院修士。その後40年、精神科及び老年科臨床ソーシャルワーカーとして活躍。1993年から現職。高齢者と家族、在米日本人、駐在員家族への個人及びグループ心理療法提供。近年は、ストレス解消法やうつや不安の予防及び治療の一環としてのマインドフルネス心理療法の実践をしてきた。 日本では専門職及び傾聴ボランティア対象にマインドフルネスやセルフケアに関する講演提供。著書:「高齢者のマインドフルネスに治療法」(共著2018.誠信書房)、英語では全米ソーシャルワーク学術誌に実践成果を発表(2013.2017)。その他チーム医療など学術論文多数。アンナーバー在住。

ミシガン大学病院についての情報は、ウェブサイトで確認できます。

https://medicine.umich.edu/dept/japanese-family-health-program

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