
(JNC 2020年12月号掲載)
ジャパンニュースクラブ10月号の本稿にて、マスクについての病院の在庫の点からお話をしましたが、今日は、マスクの効用についてお話をします。
数ヶ月前、日本の記事に世界最高速のスーパーコンピューター¹富岳²を使った、マスク着用者が咳やくしゃみをした際に、どのように飛沫が拡散するかの
シュミレーションが報告されたことがありましたが、感染をしていない、健康な、マスク着用者が、どの程度、空中に浮遊している飛沫やエアロゾルから自分の身を守ることができるかについての報告がないのをいつも不思議に思っていました。
マスクを着用する意味は、発生源のコントロール(他人を守る)と、環境中のウイルスから身を守る(自分を守る)ことの二つの意味があると思います。特に、今般の新型コロナウイルスのように、感染性が極めて強く、また、感染しても全く自覚症状のない人から、人工呼吸器を必要とするほど重症化する人、死亡
する人と、症状に大きな差があり、しかも、症状が軽い人からの感染が、必ずしも他の人にとっての軽い症状に終わるわけではない感染症においては、症状のあるなしにかかわらず、全ての人がマスクをすること、少なくとも2メートルの社会的距離を取ることは、大変大事なことだと思います。
研究の結果³によれば、病院でよく使用される紙製のいわゆる「外科用マスク」では、着用時と非着用時とを比べると、ウイルス保有者がマスクをした場合、保有者から飛散される飛沫やエアロゾルが3分の1から4分の1(67%から75%の保護効果)に減少し、他の人に感染を広げることを防ぐ効果があるという結果が発表されています。
また、同じ外科用マスクを健康者が着用した場合、周囲から入ってくる飛沫やエアロゾルを6倍程度(83%の保護効果)減少する効果があると言われています。
布製のマスクや、スカーフ、バンダナなどの場合は、外科用マスクと比べると、効果が少なく、生地や目の細かさ、幾重にも重ね合わせられているかどうかにもよりますが、周囲から入ってくる飛沫やエアロゾルを2から4倍程度(50−75%の保護効果)減少させる効果があると言われています。つまり、ないよりマシということです。
また、特に感染の危険の高い状況、たとえば、コロナ患者さんの入院病棟などで使用される、N95と呼ばれるマスクは、95%保護効果があると言われていますが、これは、正式な着用試験を経て、それぞれの着用者にフィットするサイズを選んで使用されるもので、このような厳格な試験を経ずに使用されるものは、おそらく95%の保護効果には達しないと思われます。
さらに、防毒マスクのように、本体がゴムなどで作られていて、顔に密着し、両脇に、高い保護効果のあるフィルターを装着したものは、フィットテストが適正に行われている限り、さらに高い保護効果があると考えられていますが、病院内などを除けば、一般市民の方が使用される場面はあまりないと思います。
男性で、濃い顎髭などが生えている人については、マスクが顔面に密着せず、その保護効果が減少する可能性があります。高度の保護機能が必要な病院などでは、マスク着用時には、顎髭などを剃ることを勧めています。
私は、外来では、高齢の患者さんが多く、聴覚障害を持った患者さんが多いため、マスクで口を隠してしまうと、コミュニケーションが取れなくなってしまうため、透明性のあるマスクを使用していますが、このマスクをした後、咳やく
しゃみなどを全くしていないにも関わらず、ただ、静かに話していただけで、いかにたくさんの唾液の飛沫が内壁についているかが分かり、改めてマスクの大切さを感じています。
また、不幸にして、ウイルスを吸い込んでしまった場合にも、その量が少なければ、症状が軽くなる可能性が指摘されています。ですから、できるだけ、
・保護効果の高いマスクをし
・社会的距離を保ち
・密室を避け、こまめに換気すること
などに十分気をつけられて、コロナから身を守り、健康な冬をお過ごしください。もちろん手洗いも重要です。
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筆者 プロフィール:
山崎博
循環器専門医 日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
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