
(JNC 2020年11月号 掲載)
新型コロナの世界的流行、特にアメリカ国内やミシガン州内の感染に伴い、私たちの生活は今年の春から大きく変わりました。新型コロナウィルスの感染を広げないように、職場、学校などすべての場所で対応を余儀なくされました。家族以外の人とはなるべく会わない、1.8メートル以内で人に近づくときや屋内ではマスクを着用する、などの政令に従って多くの人や会社が今までと違う生活を送っています。そうすることで、感染拡大を予防できるわけですが、それによる弊害もいろいろと出てきています。主な問題点を挙げると、
- 運動不足
- 社会との関わりが減ることによる弊害(ストレス、うつ、認知症など)
- 学校教育の質の低下、仕事の効率の低下
このどれも無視できない問題です。今後、有効なワクチンができて多くの人が接種できるようになるのには、おそらく1年近くかかると考えられ、その間に、これらの問題を無視して感染拡大防止対策だけに集中するのは、無理があります。ジム、学校、会社、レストランなどが徐々に開いていく中、しかも、冬に向けて寒くなっていく中、どのようにひとつひとつの選択をしていけばいいのか、とても難しい問題です。
最近のCDC(アメリカ疾病センター)によると、濃厚接触の定義は、「1.8メートル以内に24時間15分以上いた」とありますが、学校や仕事に行くと、そういう接触は避けられないです。ただ、マスクをしていれば、かなりの感染は予防ができます1)。マスクが予防できる飛沫の大きさはウイルスの大きさよりは大きいですが、どの大きさの飛沫がもっとも感染に関与しているかということはまだはっきりわかっていません。ただ、ミズーリ州の美容師2人が感染した際、マスクをしていない家庭内では感染者がでたものの、仕事中はマスクをしていて75人の顧客には全く感染がみられなかったという報告にあるように、マスクは感染拡大予防に効果的だという報告が多くみられます。
また、最近のミシガン州でのデータを見ると、感染者数は増えていますが、死者の数は横ばいです2)。この理由はおそらく、感染者の年齢が比較的若いこと、検査の数が増えたことと、治療法が改善してきたことが考えられます。今でも、年齢が高くなるほど、感染が重症化する確率は高くなります。また、人種によっても重症化しやすい人種と、アジア人のように重症化の頻度が少ない人種とがあります。それでも、コロナで亡くなった日本人は多くいるので、重症化しないということにはなりません。
では、マスクをしていれば、学校や仕事に行ったり、スポーツをしたり、ジムにいったりしても問題ないのでしょうか。
これは、感染リスクが多少上がっても、それをしないことによる問題点を天秤にかけて、決める必要があります。運動不足による健康の低下、人とのかかわりが減ることによるストレス、家族にどのようなリスクの人がいるか、などを考慮して、それぞれの状況に適した最も良い選択をすることが大切です。誰にでも当てはまる一つの答えというのはありません。以下に、具体的な問題を例に挙げ、それぞれの悩みの例に対する異なる解決方法の例を挙げてみました。
例1.
今までジムに行って定期的に運動していたのにジムが閉まってしまった、または、ジムが開いたけれども安心できない等の理由で運動量が減ってしまって、体重が増えてしまった。このままの状態をあと6か月続けるのはまずい。
解決例1 外を歩くのは寒すぎて、私にはできない。このまま体重が増えて、血圧も上がって きているから、運動はしないといけないけれど、ジムは怖い。だから、家でオンラインのJazzerciseを週3回することにした。
解決例2 やはり、ジムには行きたくない。たくさん着て、外を歩くことに決めた。
解決例3 家にいるとどうしても運動できないので、やっぱり好きなクラスがあるジムに行っ て、以前やって効果があった方法を再開しよう。マスクは全員しているので、感染リスクは少ないはず。ジムでシャワーを浴びるのはやめよう。
例2.
子供の学校をオンラインでするか、学校に行かせるか迷っている。
解決例1 子供も学校に行きたがっているし、集団生活や先生の言うことを守るということを
学ぶのは大切なので、学校に行かせることに決めた。周りには、お年寄りの家族はいないので、リスクは最小限だと思う。母親も子供がうちにいるとストレスが大きい。
解決例2 家族にかかると重症化しそうな人がおり、できるだけ子供がコロナを家に持って帰ることは避けたいので、オンラインの授業を選択する。子供もオンライン授業で特に問題なくやっているようだ。授業の後、一緒に散歩にいって運動はするようにしている。
例3.
子供のサッカーが、冬は屋内なのだが、参加させようか迷っている。
解決例1 全員マスク着用が義務だし、他に好きなスポーツで冬に屋外でできるものがないの で、ちょっと心配だが参加させることにした。
解決例2 屋内で多くの子供たちと一緒に運動するのは、感染リスクが高いように感じるので、 サッカーは夏になったら参加させて、冬は、毎日一緒に散歩に行くことにした。
例4.
子供が友達と遊びたがって、遊ばせるかどうしようか迷っている。
解決例1 外では遊ばせているが、マスクをしたまま遊ばせている。冬になったら、少ない人数だ けで、マスクをして遊ばせようと思う。ただし食事は厳禁で。
解決例2 外では遊ばせているが、マスクをしたまま遊ばせている。家に、高齢者がいるので、屋内での遊びは避けたい。冬でも外遊びに限定するつもりだ。
例5.
年老いた親に会うのは、万が一感染していたら移してしまいそうで怖いので会わ ないでいるが、孤立しているようだ。
解決例1 冬でも、外で会いに行こうと思う。なるべく、オンラインで会う機会を増やすようにするつもりだ。
解決例2 どうしても社会との関わりがないと孤立してしまうので、マスクをしてジムや集まりに行くのを手伝おうと思う。
例6.
日本に一時帰国したいのだが、どうしようか迷っている。
解決例1 現在は日本政府の方針で入国後のPCR検査と、2週間の待機と公共交通機関の利用 を控える要請があり、現実的ではないので、飛行機のキャンセルをした。
解決例2 仕事の都合上どうしても帰国したい、もしくは、病気の家族がおりしばらく会っていな いので心配で会いに行きたいので、一時帰国することにした。入国後はレンタカーで自宅まで帰り、2週間は自宅で(ステイホーム)することにした。
例7.
今まで一時帰国時に人間ドックを受けていたが、今年は一時帰国できずどうして 良いか分からない。
解決例1 今年は、アメリカ国内で人間ドックが可能な医療機関で受ける。
解決例2 日本の人間ドックに比べると項目は少ないが会社の了承ももらえたし、今年はアメリ カ流の健康診断を受けることにした。
このように、それぞれのご家庭での事情や、個人の健康状態などは異なるので、それを考慮して、最適な判断をしていただきたいと思います。最後に、誰にでも共通にいえることを挙げておきます。
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1. 屋内ではマスク着用が必須。屋外でも、1.8メートル以内に人がいる場合はマスクを着用すべき。
2. 食事会など、マスクを外すことになる状況はさけるべきで、なるべく家族以外の人とは一緒に食事をしない。または、1.8メートル以上離れた状態でのみ、食事をする。
3. 職場や学校でも、マスクを外すときは、他の人と、1.8メートル以上離れた状態をとる。
4. 家に帰ったらすぐ手洗いをする。手洗いをするまで顔や目に触らないようにする。
5. 自宅蟄居することによる弊害(運動不足、体重増加、ストレスや孤立など)は健康を脅かす問題なので、放置せずに、可能な方法で解決を図るべき。
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参考文献
1. Face Masks: what the data day. Nature 586, 186-189 (2020). doi: https://doi.org/10.1038/d41586-020-02801-8
2. https://www.michigan.gov/coronavirus/0,9753,7-406-98163_98173—,00.html
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筆者プロフィール:
医師 リトル(平野)早秀子 | ミシガン大学家庭医療科助教授
1988年慶応義塾医学部卒業、1996年形成外科研修終了。2008年Oakwood Annapolis Family Medicine Residency 終了後、2008年より、ミシガン大学家庭医療科でミシガン家庭健康プログラムで日本人の患者さんを診察しています。産科を含む女性の医療、小児医療、皮膚手術、創傷のケアに、特にちからを入れています。
医師 若井俊明 | ミシガン大学家庭医療科助教授
2005年弘前大学医学部卒業、2008年手稲渓仁会病院内科研修修了、2011年University of Pittsburgh Medical Center Shadyside 家庭医療研修修了後より静岡家庭医養成プログラム指導医、2013年より健康会おおあさクリニック院長、2017年よりミシガン大学日本家庭健康プログラムで診療。
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ミシガン大学についての情報は、ウェブサイトで確認できます。 https://medicine.umich.edu/dept/japanese-family-health-program