(JNC 2020年8月号掲載)

メリカ合衆国でコロナウイルスの大流行を警告する緊急事態宣言が出されたのは、今年2020年の3月13日でしたが、合衆国疾病予防および管理局発表の疾病および死亡率週間報告の今年6月26日号によると、その日の二週間ぐらい前から、コロナウイルス疑い以外の救急室利用が全米で急激に減りました。

急性心筋梗塞で23%、脳卒中で20%、危機的高血糖症で10%の減少が起きたと報告されています。(参照:CDC.gov (https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6925e2.htm?s_cid=mm6925e2_w))

これは、コロナウイルスの流行を恐れるあまり、急性心筋梗塞などの生命に関わる可能性がある病態においても、救急室に行くことをためらう人が23%もいたということです。その後、この傾向は徐々に改善されてきていますが、未だに、元の状態に戻ってはいないようです(2020年5月23日までの時点で)。この時期、全体として、救急室の利用率が42%減少したと報告されていますから、それに比べれば、減少率は少ないものの、急性心筋梗塞という生命に関わる病態において、生命予後を改善する唯一の方法は、早期診断早期治療で、そのためには、一刻も早く救急室で診断をつけ、一刻も早く詰まった環状動脈をステントなどを使って再疎通させること以外にはありませんから、23%の減少は、おそらく急性心筋梗塞のその時期の死亡率を高めた可能性があります。そのデータはここには報告されていませんが、細かく調べれば、その結果が確定される可能性があります。

また、脳卒中の治療においても、最近10年ほどの間に、早期診断早期治療によって、非出血性の脳梗塞であれば、予後が改善されることが示されています。急性心筋梗塞のように、脳卒中も、早期再疎通療法を行うことにより、血栓によって閉塞した血管を開き、脳細胞の壊死を最小限にすることができるようになりました。従って、急性脳卒中においても、一刻も早く救急室に行き、頭部CTなどで診断をつけ、脳細胞が不可逆的な壊死をする以前に一刻も早く薬剤や血管内治療で再疎通を行えば、症状が改善し、脳卒中の後遺症を最小限にすることができます。脳卒中患者の救急室受診の20%の減少は、このような機会が失われていることを意味します。

糖尿病の患者さんで、危機的高血糖症は、生命に関わる緊急事態です。体の全器官が、高血糖による不可逆的なダメージを受ける可能性があります。危機的高血糖症の患者さんは、直ちに経静脈補液と経静脈インスリン治療を行い、血糖を下げ、脱水を治療し、全身状態の改善を直ちに行わなければなりません。危機的高血糖患者の10%減は、これらの患者さんの生命危機が治療されないまま放置された可能性を意味します。

 コロナウイルスの感染を警戒される気持ちはよくわかります。コロナウイルスの患者さんを毎日のように見てきた経験からすれば、そのような感染の危険のある場所には行きたくないという気持ちもよくわかります。しかし、コロナウイルスの大流行を経て、今の救急室は、コロナ感染の疑いのある患者さんとそれ以外の患者さんのゾーニングには最大の注意を払っていますし、感染の拡大を防止するための様々な工夫がなされています。無症状のコロナウイルスの患者さんが存在する以上、何事も100%というわけにはいきません。しかし、コロナ以外の生命危機の状況では、コロナの危険よりは、救急室に行かないことの危険の方が大きくなります。

皆さんの中で、胸が苦しい、重い、痛い、冷や汗が出る、息が苦しい、腕や足が思うように動かない、言葉のろれつが回らない、ものが二重に見える、血糖値が非常に高い(あるいは低い)、などの生命危機の兆の症状がある方は、迷わず、コロナの危機のあるなしにかかわらず、救急車を呼び、一刻も早く救急室での診断を受けてください。

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筆者 プロフィール:
山崎博
循環器専門医   日米両国医師免許取得
デトロイト市サントジョン病院循環器科インターベンション部長
京都大学医学部循環器科臨床教授
Eastside cardiovascular Medicine, PC
Roseville Office
25195 Kelly Rd
Roseville,  Michigan  48066
Tel: 586-775-4594     Fax: 586-775-4506

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