
4月になりました。例年通り花を咲かせた首都ワシントンD.C.ポトマック河畔の桜も日本各地の桜も既に見頃は過ぎてしまいましたが、これからは芝生の緑と新緑の季節ですね。今回はいきなりスポーツの話題ですが・・・、何もありません!(注記:現時点では全てのプロ並びにアマスポーツのイベントが中止されており、一度遅らせたMLBの開幕も更に遅れるか最悪キャンセルになる可能性もあり、二刀流大谷選手の復活を見たいのに残念。)では、早速本題に入ります。
今回のテーマは「新型コロナウィルス:トランプにとって吉か、凶か?」です。
それにしても井上陽水の歌の一節ではないですが、「今年の春はいつもの春と何だか少し違った」ものになりつつあります。皆さん「百も承知、二百も合点」の世界的大事件で文字通り朝から晩まで新聞もテレビもラジオもネットも「コロナ、コロナ、コロナ・・・」だらけです。昨年末(実際は10月)中国武漢に端を発し今年1月、2月は中国、韓国、日本、香港などアジア圏を中心に拡散。その後いきなりイラン、イタリア、フランス、スペインなど欧州圏に飛び火したと思ったら、先月初めには西海岸ワシントン州で米国最初の感染者が見つかり3月第2週以降一気に全米に拡散しています。オリンピック開催延期となった母国日本も心配ですが、今現在ニューヨーク州、ニューヨーク市内が世界中で最大・最悪のホットスポットとなり、感染者数、死者数で連日不名誉な新記録を更新中です。アンドルー・コモ、ニューヨーク州知事の連日の記者会見や各地からのニュース報道を見る限り、各都市及び全米レベルでまだ上昇カーブの頂点を打っておらず、拡散・増加に歯止めが掛からないため医療用の防護服・マスク・手袋・用具が大量に不足し、患者を受け入れ可能な病院、医療施設、病床数、人工呼吸装置なども大幅に不足し、最前線で奮闘している医療関係者の安全すら保証できない劣悪な環境のため、このまま患者数増加が続くと医療崩壊になりかねない瀬戸際の状況です。当初「パンデミックは作り話だ」と意に介さず余所事か他人事のようにのんびりしていたトランプ大統領も先月第2週末を挟んで始まった株価の急落を見て慌てて動き始めました。何と言っても現職大統領の就任直後の大幅減税と並んで最大の目玉で売りである好景気=株価高騰=支持率確保=次期大統領選挙で再選シナリオの大前提が崩れたので慌てたわけです。既に感染者の数が増え始め死者まで出たので人命尊重・救済の意図からではなく、株価の急落で重い腰を挙げたのです。過去3年余り全米各地で度々起きた銃乱射事件や国内テロ事件で何人もの人達が亡くなっても、口先だけのお悔やみだけで済ませ、新たな銃規制など何もしなかったどころか「学校の教師にも銃を持たせれば悲劇が防げる」とうそぶいてNRAの営業マンかと思ってしまう程、更に銃販売を助長するような人物ですから外国や西海岸で死人が出ても屁とも思わないのでしょう。こんな輩が米国大統領なのですから、呆れるばかりです。最初に打った手がFRBの金利下げでしたが、見通し不透明と先行き不安から景気減速・衰退を懸念した投機筋、機関投資家の売りで株価が急落したのにいくら金利を下げても積極的に投資する団体も個人もいませんよね。せいぜい、近々資金ショートが見えて繋ぎ資金が必要な企業か現行借入金を割安のものに借り換えたい企業位で積極的な投資に結び付く大きなニーズは見込めません。トランプの景気振興策は減税と利下げしかアイデアがないのかと思いました。実際先月だけで2度も利下げを実施したにも拘らず株価は下げ止まらずダウ平均は一時2万ドルを割り込み、トランプの大統領就任時のレベルまで落ち込みました。
その後、泥縄的に編成したホワイトハウス特別対策チーム(タスクフォース)のメンバーと臨んだ幾度かの公式会見では実際の数字やデータに基づいた発言ではなく、とにかく株価の下落を止めたい一心で自分の個人的、楽観的、気休め的なコメントが多く、同じ会見で後からコメントや質疑応答した長年の実績と信用のある感染症医療研究の専門家で世界的な権威でもあるDr.Fauci(ファウチ)の発言内容と食い違いがあったり、会見直後のコロナ関連ニュースで直ぐに嘘がバレるような本当にいい加減な会見でした。今回に限らず、何故直ぐに嘘と分かる話を平然と繰り返すのか全く理解不能です。何せ地球温暖化や環境破壊など事実と信頼できる確かなデータに基づく科学的知識や論理に理解もリスペクトもなく、理解もできない現職大統領ですからね。彼は政権幹部の軍事専門アドバイザーや経済問題アドバイザーなどを批判した際に”Go back to school.”(学校に行って勉強し直せ)と言っていましたが、自分自身は学校嫌い、勉強嫌いで成績も悪かったようで、何故か彼の高校時代の成績表が何処をどう探しても見つからない、手に入らなくなっているらしく、隠蔽が得意なトランプが裏から手を回して隠したか、閲覧不能にしたかと思われます。また、ありとあらゆる手段を講じて軍役を免れ、米国軍部関連の役務に就いたことがなく、そのコンプレックスがあるためか輝かしい軍歴や受勲を誇る現役・退役軍人や軍事専門家に対して、あからさまな対抗心を示し「自分は将軍たちよりISISに関して良く知っている」と前国防大臣や国家安全保障顧問達を軽視した発言をしたり、「POW(戦争捕虜)になった者は英雄ではない」と自分の意に反して議案に反対投票した故マケイン共和党上院議員を公式の場で卑下、中傷したりしました。
そう言えば、今月4月1日はエイプリル・フールで午前中は悪気のない嘘をついても良い日でしたが、彼の場合はせめてこの日だけは嘘をつかず、本当の事を言う日でしょうか?その日ではなかったですが、先月実施した一つの記者会見の中で国家非常事態を宣言し、感染テストの能力向上準備完了と自慢気に話した後、ある女性記者から「もしテスト(方法)が失敗したら責任を取るのか?」と質問され、反射的に「責任は取らない」と即答したのは唯一嘘でなく、本当(本音)だったと思われます。国家非常事態宣言をした国家の最高責任者が責任を取らないなどと言うことがあり得ますか?あり得ません。あってはならないことです。彼こそ第33代米国大統領であったハリー・トルーマンのホワイトハウス執務室の机上に置かれていたプレートの言葉“The buck stops here.”の意味を勉強し直す必要がありますね。その意味するところは「責任のたらい回しはここが終着点」とでも言いましょうか、要するに米国大統領が最終決断をし、究極的責任を持つと言うことです。 トランプは彼の爪の垢でも煎じて飲まないといけません。
記者会見と言えば、タスクフォースのリーダーに指名されたペンス副大統領の影は薄く存在価値も低いです。ひたすら大統領の腰巾着、お世辞屋、お追従屋、太鼓持ち、おべっか使い、金魚のフンとしか思えないゴマスリ発言が多く、毎回吐き気がしそうです。他に行先がない彼はもう副大統領の職位にしがみつき、トランプの顔色を伺いながらご機嫌を取るしか生き延びる道がないのですね。話はちょっと横道にそれますが、腰巾着となって金魚のフンのようにボスに付きまとい、太鼓持ち、おべっか使いすることを英語ではBrown-nosing(ブラウン・ノージング)と言います。ブラウンは茶色でノージングは鼻のノーズから来ていますが、ボスの尻を追い掛けて付きまとっていると鼻先にボスの排出物が付いて茶色くなるからです。(閑話休題)
皆さんも連日のニュース報道や日本領事館、JBSDなどからの関連情報及び勤務先または通学先からの通知連絡でご存知の如く、新型コロナウィルスによる経済的、社会的、文化的被害は1990年代のオイルショック、2005年のハリケーン・カトリーナショック、2008年のリーマンショックを遥かに凌ぐ規模となりつつあり、トランプ政権と上下院議会が超党派で取組み、史上最大2.2兆ドルの連邦緊急救済・復興予算を可決承認、大統領署名しましたが、その前週わずか1週間の失業保険申請件数が前例のない3百万人超となり翌週はまた上乗せで百万人単位の新規申請者が出ると予想され、今後の動向次第では更に悪化する恐れがあるため引き続き追加救済・復興予算を作成・審議となりそうです。
新型コロナウィルス対応の初動が遅く、対策も後手後手を踏んでいるトランプ大統領と政権幹部ですが、ここに来て少しずつではあっても色々と前向きな対策が取れ始め、民主党の協力も得て超党派の超大型緊急救済・復興予算も議会承認、署名出来た事でトランプへの批判と風当たりもやや弱まり、逆にプラス評価する国民もあり、低下を続けていた支持率に回復の兆しが出て来ました。トランプの大統領就任以降国民間の分裂と反目が悪化し、外交面でもNATO体制を始め国際的な安全保障問題や環境問題で友好関係が崩れ多国間の国際協力姿勢が弱まっていたところでしたが、トランプ再選阻止、トランプ下ろしを目指していた民主党及びその支持層は、この緊急事態に際し、国全体が支持政党に関係なく超党派で団結しまとまり掛けて動き出したため、トランプ政権が出遅れている内に民主党主体でコロナ対策を考え、打ち出そうとしていた目論見が外れ、次期大統領選の戦い方が難しくなってしまいました。近い将来ウィルス感染拡大がピークを過ぎて下降線を辿り、終息に向かって行くと経済復興がより大きな課題となるため、連邦政府政権を握っている現職大統領と上院過半数の基盤を持った共和党が『塞翁が馬』的にピンチをチャンスに代えて出だしのミスを帳消しにして「危機を救い、良くやった!」と評価されたりすると次期選挙でトランプ再選、共和党過半数維持がまた現実味を帯びて来ます。
新型コロナウィルス騒ぎは早く収まって欲しいし、経済復興も少しでも早く実現して欲しいので悩ましいところですが、やはりトランプ再選となってまたこの先4年間朝から嫌なニュース報道を聞きたくないです。果たして新型コロナウィルス騒ぎがトランプにとって吉と出るか、凶と出るか? 賽の目に任せますか?
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。