
この冬ミシガンは年明け後も妙に暖かいですね。私のように寒がりのシニアには暖かい方がありがたいですが、それにしても異常です。一時的に吹雪や氷雨の日もありましたが、例年に比べれば遥かに過ごしやすい冬です。まあ、噂をすれば何とやらで、北の方からいつまた突然冬将軍が押し掛けて来て長く居座るかもしれないので油断は禁物です。
先月半ばカレッジフットボール全米王者決定戦ではL S U(ルイジアナ州立大)がクレムソン大を破って優勝。第2クオーター半ばまでは接戦でしたがその後はL S Uが攻守に圧倒し、終わってみれば42−25の大差。L S U強かったですね。プロテニスでは新設の男子国別対抗戦A T Pカップ第一回大会がオーストラリアにて24か国参加で行われ、ジョコビッチ選手率いるセルビアが決勝でナダル選手率いるスペインを破り初優勝。エース錦織選手を欠いた日本は予選2試合で西岡選手が格上の相手を破る奮闘でしたが、あと一歩及ばず決勝トーナメントに進めず残念でした。シングルス2試合とダブルス1試合の構成ですが、国を代表しての戦いは選手も応援も熱かったですね。男子のデビスカップや女子のフェデレーションカップと異なり、同時期に全チームが集まって王者を決定する同様のカップ戦新設を女子のW T Aにも求める声があるようですが、一方では今でもきついレギュラーシーズン公式戦の他に各種カップ戦が多くなり過ぎて選手への負担増と怪我・故障のリスク増大を懸念する声もあるようです。ランキング上位の人気選手程試合過多でリスクもより大きくなりますから、主催者側の興業収入増思惑と選手側の心身両面の健康維持は相反するかもしれません。やはりチェック・アンド・バランスが必要ですね。また、つい先日幕を閉じた今年最初のメジャー大会であるオーストラリアン・オープンでは女子シングルスで連覇が期待された大坂選手が残念ながら3回戦で目下売り出し中の新鋭15歳の米国ガウフ選手に破れてしまい、昨年優勝で獲得した全ポイントを維持出来ず大幅減となり、大会後はランキングが9位以下になる見込みとのこと。思い通りのプレーが出来ずイラついて珍しくラケットを投げたり、それを蹴ったりと精神面の不安定さが見られましたが、彼女はまだまだ若い発展途上人、長い目で見て応援してあげましょう。
さて、今回は『2020年波乱の幕開け、先行きは?』というテーマです。先月『さよなら2019年、いい事あるかな?2020年』と題して今年は少しでもいい事があるように祈念しましたが、年明けいきなりイランと米国間で尋常でない緊張が走り、淡い期待は早々に裏切られました。
事の発端は、皆さんもご存知のように、正月3日イラン軍精鋭部隊のリーダーで対米軍事戦略の中枢であり実質的にイランのハーメネイー最高指導者に次ぐナンバー2であったソレイマニ将軍が軍用車で移動中に米空軍機による攻撃で暗殺された事です。トランプ政権前のオバマ、ブッシュ両政権時代から直接的な対米軍事行動の他、イラクなど中東地区の反米武装グループを支援して米軍関連拠点や米国権益に結び付く施設や要人を標的にした行動を取る最高度の要注意人物でしたが、暗殺など直接的で極端な軍事行動はその結果としてイランの報復行為やただでさえ複雑でキナ臭い中東地域の近隣諸国への影響や彼らの反応が読み切れずメリットよりもリスクが大き過ぎるとの判断で見送られていたようですが、トランプ大統領は後先考えずいともあっさりG Oサインを出し実行させ、前・元大統領がやれなかった事を「俺がやってやった!」と自慢げに発表したものです。
容易に予想された如く、直ちにイランから米国及びトランプ政権に対し猛烈な非難・糾弾声明と報復宣言が出され、イラン国内の米国領事館や周辺国の米軍関連拠点、石油関連など米国権益に繋がる施設では一気に緊張が走りました。イラン国内の反米デモも激しく、以前もあった「米国に死を!」のスローガンとシュプレヒコールが溢れ、お膝元の米国領事館がデモ隊に取り囲まれ投石や一部建物の破壊行為に見舞われ、館内人員の身の安全が大いに危惧されました。また、数日後「報復宣言は単なる脅しではないぞ!」とばかりにイラク内の米軍拠点にイランの中距離弾道弾と思われるミサイルが十数発着弾し、直後にトランプ大統領は「死傷者なし。施設被害も最小限で機能上問題ない」と速報しましたが、後日の米軍発表では実際は重傷者を含む35名(当初発表の11名を更に追加訂正)が負傷し、無責任な大統領発言に現地関係者は怒っていると報道されました。
軍事専門家の衛星分析では、少なくともイラク西部のアル・アサード空軍基地近辺で7箇所の施設が被害を受けた由。この中距離弾道弾は本来狙った標的への着弾精度が高いのが特徴であり、イラン政府としては国内の反米デモ感情の反映と国軍の権威を示す意味で攻撃したものの、米軍の反報復攻撃を危惧したイラン軍が米軍に重大な人的、物的被害が出ないようにわざと米軍中枢の標的を外す操作をしたのではないかという憶測もあります。不幸中の幸としてトランプ大統領も自重し、米軍が反報復攻撃に出なかったのとイラン軍がそれ以上の米軍攻撃を控えたので、報復合戦がエスカレートして最悪の場合第三次世界大戦が始まるかもしれないという懸念は一旦収まり今のところ小康状態が続いていますが、これも一時的な緊張緩和に過ぎず両国が事態収集で合意した訳ではないため、いつまた何時(なんどき)、何処で何が起こるか全く予断を許しません。
イラン政府としては先に米国が離脱したイランの核開発制限を巡る多国間合意契約破棄絡みで米国が実施した経済制裁の影響が深刻となり国内景気が冷え込み、国家財政の悪化、国民生活の窮乏から国内各地で頻発していた反政府デモが反米デモにすり代わり一息付きかけたのですが、彼らにとって不運だったのは上述のミサイル攻撃をした当日イラン国内をウクライナのキエフに向かって飛行中のウクライナ機が墜落し、乗客乗員176名全員が死亡した事件でした。後日イラン政府の公式発表で自国の防衛隊が同機をイラン軍の機密上重要な軍施設付近に飛来した敵性標的と誤認し、地対空ミサイルで撃墜した人的ミスと認めましたが、反米デモのお陰で国民の視線と感情が米国に向きかけたところに、同機に多数のイラン人も搭乗していたこともあり、デモ隊の怒りの矛先がUターンして反政府デモに逆戻りし、先の米国によるソレイマニ将軍暗殺がこの不幸な事態を招いたと米国を非難したものの、更なる国内の混乱を避ける意味で例外的に自国の非を認め誤射の責任者、当事者を追及・訴追すると声明しました。
両国間紛争のとばっちりでこの不幸な災難に遭遇した犠牲者とご家族、関係者の方々には全くお気の毒な事でお悔やみの言葉が見つかりません。ただ一つ素人目にも大きな疑問は、米国とイランが準戦時下のような緊張した状況の中、同機を何故イラン国内で飛行させたのか?です。空港発着の管理責任者、航空会社の運営責任者など誰一人として少なからぬリスクを察知して、リスク回避の手立てを講じなかった結果、罪のない多くの方が亡くなられた事が大いに悔やまれます。(合掌)
海外発の波乱のニュースとしてはこの他最近急展開している中国武漢から始まり既に海外数カ国に感染が拡大し、1次感染から3次感染まで罹患者が確認され、死亡者も急増しつつある新型コロナウィルスによる急性肺炎が初動対策の遅れから世界的なパンデミックに変容する恐れがあり、緊張が高まっています。また、英国王室ではヘンリー王子夫妻が正式に王位継承序列から外れ王室関連行事参加も限定し、王室からの財政支援も最小限に留めて独立度とカナダへの移住など行動の自由度を高めるという驚きの発表があり、世界を驚かせました。
一方米国内では年明け早々に予想されていた米国議会上院での大統領弾劾裁判が始まりました。昨年クリスマス前まで下院で民主党、共和党の面々がそれぞれ所属党の党利(あるいは個人のP R?)と(安っぽい?)プライドを掛けて激しく対立して凌ぎを削った後、ペロシ下院議長が4週間程上院への訴追状提出を保留していましたが、先月半ばに受け渡しが終わり、故キング牧師誕生記念日翌日の1/21(火)から弾劾裁判に突入しました。冒頭本件裁判長を務めるジョン・ロバーツ最高裁主席判事の宣誓式、それに続く上院議員全員の裁判員としての宣誓式は滅多に見る機会のない貴重な瞬間でした。
通常の上院集会と異なり本件裁判員を務める上院議員の宣誓文で最も重要な点は各裁判員はImpartial=インパーシャル(「偏りのない公平な」の意味)でなければならない責務ですが、その後の党利党略を前面に押し出した裁判の審議進行を見るにつけ、米国国旗に向かい右手を挙げてこの宣誓をした上院議員の内何人が所属党や次期選挙の事は忘れ、個々に本気でImpartialの裁判員の責務を貫き通す決意をしたか?と疑問を抱かざるを得ません。実際、弾劾裁判の議事進行役であり、公平な裁判員の一人であるべきミッチ・マコーネル共和党上院院内総務などは下院で訴追決議が採決された直後ホワイトハウスに出向き、被告に当たる大統領側近や弁護団と裁判実施ルールの事前打ち合わせをし、「完全に意見が一致している。私は公平な裁判員ではない」と公言して憚りませんでした。常識外れの厚顔無恥な言動で、部外者の外国人である私が観ても恥ずかしい気がしました。
弾劾裁判の進行は先ず訴追した下院民主党選出の弾劾担当マネージャー7名による現職大統領の職権乱用及び議会運営妨害行為の2件の訴追決議の詳細と罷免要求理由説明、続いて大統領弁護団8名による訴追決議のプロセス否認及び訴追内容の不当性反論で進行。大統領弁護団の反論の冒頭陳述では「弾劾担当マネージャー連による長時間プレゼンと違って(上院議員の)皆さんの貴重な時間を取らないように短く済ませます。」と言っていましたが、弁護団の立場からすると長引かせたくない真っ当な理由があります。
例えば、公判中にルーディ・ジュリアーニの助成協力者で選挙資金規制法違反で起訴された2名の一人であるパルナス氏がウクライナ絡みの公式外交ルートを飛ばしたジュリアーニとトランプ大統領及び側近の陰謀・極秘行動を暴露したり、前国家安全保障大統領補佐官の一人であったボルトン氏著作で近々上梓予定の暴露本では大統領との面談時にウクライナへの軍事・財政補助金の支給差し留め希望発言が直接あった事実やサウジアラビア及びトルコ首脳に個人的な便宜を図る行為が外交ルールや法律に違反する恐れがあるのではないかとウィリアム・バー司法長官に相談した事実など大統領に不利な新たな事実がボロボロと出て来ており、討論が長引けば長引く程、証人喚問請求動議可決や有罪・罷免決議に向かう恐れがあり、さっさと終わらせたい意図が見え見えでした。また、テレビ中継を観ている有権者と次期大統領選を大いに意識して、翌週に迫っていたアイオワ州民主党党員集会の予備選挙直前に民主党有力候補者であるバイデン前副大統領とその息子のウクライナ絡みの言動を標的にして次々と糾弾し、本題である大統領弾劾裁判から視聴者の視線を逸らそうとする試みにも力を入れていました。
先月最終週には弾劾担当マネージャー及び大統領弁護団に対する上院議員裁判員からの質疑応答へと進み、弾劾担当マネージャー達が入れ替わり立ち替わり指摘・要求しているにも拘らず、最終的に共和党上院議員の中から3〜4名の米国国家と憲法、民主主義を守る大義を最優先する良心的な離反者が出ない限り証人喚問請求動議も過半数に満たず否決されると、弾劾裁判のみならず裁判と名の付くイベントで一人として証人が呼ばれず、証拠書類も一切提出されないまま大統領の有罪、罷免が否決される前代未聞の結末になる見込み大です。本稿完成直前の情報では、マコーネル氏が共和党メンバーにまだ証人喚問動議を否決するに十分な票数が確保出来ていないと述べたとのことで、少数劣勢挽回で証人喚問が行われ、最終的に現職大統領の有罪・罷免採決が実現するわずかな望みと奇跡の実現を願っているのは私だけでしょうか?
波乱の幕開けで始まった2020年、果たして先行きは?良くなる事を祈るばかりです。Keep fingers crossed!!
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。