米日教育交流協議会・代表 丹羽 筆人
2020年度は、学習指導要領の改訂や大学入試センター試験に代わる大学入学共通テストの実施という日本の学校教育における大きな変化のある年です。大学入学共通テストは、初年度の改革の特徴であった外国語での民間テストの結果の導入、国語と数学の記述問題の実施が見送られたため、大学入試センター試験との違いが不明確なものとなってしまいました。しかし、学習指導要領の改訂は2020年度に小学校から始まり、2021年度には中学校、2022年度には高等学校が改訂されますし、おそらく2024年度までには、大学入学共通テストも大学入試センター試験とは、外国語の民間テストの結果や記述式問題の導入のみならず、出題教科、出題内容なども異なる試験となるでしょう。また、帰国生入試もこれから数年で様変わりすることも予想されます。
新指導要領で学校教育はどのように変わるのか。
では、学習指導要領の改訂により、学校教育には、どのように変わるのでしょうか。
文部科学省のウェブサイトでは、学習指導要領の改訂に込められた思いを、以下のように説明していますので、原文をそのまま掲載させていただきます。
学校で学んだことが、子供たちの「生きる力」となって、明日に,そしてその先の人生につながってほしい。
これからの社会が、どんなに変化して予測困難な時代になっても、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい。
そして、明るい未来を,共に創っていきたい。
2020年度から始まる新しい「学習指導要領」には,そうした願いが込められています。
これまで大切にされてきた、子供たちに「生きる力」を育む、という目標は、これからも変わることはありません。
一方で、社会の変化を見据え、新たな学びへと進化を目指します。
生きる力学びの、その先へ
新しい「学習指導要領」の内容を、多くの方々と共有しながら、子供たちの学びを社会全体で応援していきたいと考えています。
また、新学習指導要領の特徴についての説明も、文部科学省のウェブサイトの原文をそのまま掲載させていただきます。
◆何ができるようになるの?(資質・能力の三つの柱)
新しい時代を生きる子供たちに必要な力を三つの柱として整理しました。「何のために学ぶのか」という学習の意義を共有しながら、授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していけるよう、すべての教科でこの三つの柱に基づく子供たちの学びを後押しします。
・実際の社会や生活で生きて働く知識及び技能
・未知の状況にも対応できる思考力、判断力、表現力など
・学んだことを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力、人間性など
◆どのように学ぶの?(主体的・ 対話的で深い学び)
主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点から「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視して授業を改善します。
・一つひとつの知識がつながり、「わかった!」「おもしろい!」と思える授業に
・見通しをもって、粘り強く取り組む力が身に付く授業に
・周りの人たちとともに考え、学び、新しい発見や豊かな発想が生まれる授業に
・自分の学びを振り返り、次の学びや生活に生かす力を育む授業に
このように新学習指導要領に基づく授業では、自ら課題を見付け、学んだ知識を使って課題の解決方法を考え、判断し、リポートとしてまとめたり、グループで話し合った結果を発表したりする活動が行われるようになります。アメリカの現地校では、このような学習方法が導入されているので、帰国生にとっては、ある意味で馴染みやすいのではないかと思われます。
また、新学習指導要領では、高度情報化に対応するために、小学校にプログラミング教育が導入されます。また、グローバル化に対応するために、小学校中学年で「外国語活動」、高学年で「外国語科」が導入され、高等学校で「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り・発表)」「書くこと」の力を総合的に育成する科目「英語コミュニケーションⅠ、Ⅱ、Ⅲ」や発信力の強化に特化した科目「論理・表現Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」が新設されます。
新学習指導要領で外国語教育が充実することは、帰国生にとって歓迎すべきことです。ただし、日本の子どもたちの英語力も徐々に向上していくことになり、帰国生としてのアドバンテージが薄れてくることも予想されます。
今後、帰国生入試はどのように変わるのか。
では、学習指導要領の改訂により、帰国生入試はどのように変わるのでしょうか。
まず、すぐに影響が及ぶのが帰国生中学入試です。帰国生中学入試では、すでに入試科目として国語や算数に加え、英語を課す学校もありますが、国内生入試でも英語を課す学校が増加傾向にあり、帰国生入試では、さらに加速化することが予想されます。また、帰国生受け入れ中学校では、より高度な英語力を求めてくる可能性もありますので、アメリカ滞在中に、より一層英語力を向上させることが必要です。英検なら2級や準2級合格を目指すと良いでしょう。
帰国生高校入試には、大きな変化は見られないと思われますが、国内生の英語力が向上してくれば、帰国生に求められる英語力がより高くなる可能性はあります。英検なら準1級や2級合格を目指すと良いでしょう。
帰国生大学入試は、学習指導要領の改訂そのものの影響は受けないと思われます。しかし、帰国生大学入試を廃止する大学・学部が目立っており、その動きが気になります。特に、2021年度入試から、早稲田大学が文学部、文化構想学部、人間科学部、スポーツ科学部の帰国生入試を廃止することになったことは、他大学の帰国生入試廃止の動きに波及する可能性もあります。早稲田大学は、すでに政治経済学部と社会科学部で帰国生入試を廃止しています。
このような帰国生入試廃止の動きがある一方で増加傾向にあるのがAO入試です。AOはアドミッションオフィスの略称で、AO入試はアメリカの大学の入試方法のように、高校の成績やエッセイなどの書類選考で合否判定を行います。そして、AO入試の一種ですが、増加傾向にあるのが、早稲田大学でも実施しているグローバル入試です。グローバル入試では、高校の成績に加え、TOEFLのスコアなど英語力を証明する書類が求められます。また、高校時代に行った活動(部活動や課外活動、ボランティアやインターンシップなど)を活動記録報告書として提出する必要があります。グローバル入試では、書類選考によって、国際社会のグローバル・リーダーとなり得る資質があるかどうかを判断しようとしているのです。
また、帰国生入試ではありませんが、英語で行われる授業のみを受講して卒業できる英語プログラムを行っている大学・学部も続々と登場しています。約10年前に文部科学省のグローバル30(国際化拠点整備事業)が始まり、その後のスーパーグローバル大学創成支援事業に引き継がれた、日本の大学に留学する学生を増やそうという動きによるものです。これらの中には、帰国生でも受験可能な大学・学部もありますが、帰国生入試を実施していない大学・学部もありますし、英語プログラムの導入が帰国生入試の廃止や縮小につながっている傾向もあります。英語プログラムの入試は、書類選考のみで合否が判定されますが、SATやAPテストのスコアなどが重視されており、外国人留学生と同様な英語での学力が求められています。
このように、日本の大学に進学する帰国生は、従来の帰国生入試のように、現地校卒業後に帰国してからの受験勉強で合格できる道が狭くなりつつありますので、グローバル入試や英語プグラムの入試を意識して、現地校での優秀な成績、TOEFLやSATなどの高スコア、現地校の部活動や課外活動などの実績などを収める必要があるのです。
執筆者のプロフィール:河合塾で十数年間にわたり、大学入試データ分析、大学情報の収集・提供、大学入試情報誌「栄冠めざして」などの編集に携わるとともに、大学受験科クラス担任として多くの塾生を大学合格に導いた。また、全国の高等学校での進学講演も多数行った。一方、米国・英国大学進学や海外サマーセミナーなどの国際教育事業も担当。米国移住後は、CA、NJ、NY、MI州の補習校・学習塾講師を務め、2006年に「米日教育交流協議会(UJEEC)」を設立し、日本での日本語・日本文化体験学習プログラム「サマー・キャンプ in ぎふ」など、国際的な交流活動を実践。また、帰国生入試や帰国後の学校選びのアドバイスも行っており、北米各地で進学講演も行っている。河合塾海外帰国生コース北米事務所アドバイザー、名古屋国際中学校・高等学校アドミッションオフィサー北米地域担当、サンディエゴ補習授業校教務主任。
◆米日教育交流協議会(UJEEC) Website:www.ujeec.org