
オークランド大学 廣川 眞子(Special Lecturer/Japanese)
足早に去り行く秋の夕の11月8日(金)、オークランド大学で “Japan Art Appreciation Day”が開催された。
このイベントはGen-Jの活動の一つであり、オークランド大学の学生団体のJapan Clubが主催し、在デトロイト日本国総領事館からも支援を受けた。国際交流基金がアメリカの非営利団体のローラシアン協会と共同でGen-J(Grassroots Exchange Network-Japan)、名の通り草の根活動としての文化理解の活動を行っている。オークランド大学はミシガン州立の総合大学で、日本語を専攻とするプログラムを提供、州内でも日本語受講者の多い大学でもある。イベントの司会は同大学のJapan Clubの学生がリードした。学生や一般参加者と幅広い年代の約50名が来場した。
イベントは、Ferris州立大学のKendall College of Art and Design の講師であるTatsuyuki Hakoyama氏とミシガン州在住の書家藤井京子氏の講演とデモンストレーションののち、両講師のコラボ作品作りのデモンストレーションの3部形式で行われた。藤井氏はデトロイト美術館(DIA=Detroit Institute of Arts)等のデモンストレーションでも活躍。両氏のコラボレーションは初の試みでその話題性も大きかった。
“Culturally-hybrid”と自らを称するHakoyama氏は日本的なもののイメージを取り込みつつ、現在のリアリティを盛り込み、空間を生かしながら作品を四角のフレームの中に収めていき、観た人が考えてほしい、と語った。アクリルに色を塗ると速く乾く性質があるので、デモンストレーションではミシガンの象徴の鹿をかたどったアクリル板に着色をするプロセスを説明していった。そして、日本の長寿の象徴の鶴と、カンバスにオイルで描かれたミシガンの地図とを組み合わせ3つのモチーフをフレームで囲み、清新な作品を披露した。同氏は会場からの参加者からのアイデンティティ―に関する質問に対して、「8歳の時にアメリカに来た自分がどのように世界を見ているのか、どうやってCulturally-hybridの自分の存在を作品に盛り込んでいくかを考えている。どこの出身なのか、と聞かれたら、I am originally from Japanと答える」と語った。
藤井氏はデモンストレーションに入る前に、漢字の成り立ちについて絵を用いてアメリカ人にもわかりやすく説明、日本の書道の歴史を中古の黎明時代から現在の学校教育にわたるまでも詳細に語った。広島県出身の同氏は、日本で書道の師範免許を取得。机上に置いた画仙紙ではなく、架けた画仙紙に揮毫(きごう)するのはアメリカで書を披露していくうちに、伝統文化を押し付けるのではなく楽しむ意味もアメリカ人に共感してもらえるものを、という考えからだったと語った。「紅葉」の歌詞の一節を書いていくデモンストレーションでは、会場は完全な静寂に包まれ、藤井氏の筆遣いと呼吸に注目していた。
その後のコラボレーションは藤井氏が、「月、風、舞、輝、雲、花、喜、鶴、神」の文字を一つ一つ書きあげる間合いに、Hakoyama氏が木版画を思わせる紅葉の葉の型を押していく、というアートの形態、素材を越えた空間と、二人の呼吸の見事さを会場は楽しんだ。
同大学の現代語・文学科(Department of Modern Languages & Literatures)のフィラー主任教授はHakoyama氏に対して、「日米の両方の文化が表れていた」と語った。同大学で日本語を受講している学生からは「ミックスした芸術に触れ、改めて伝統芸術への理解を深められた」、「豊かな経験になった」という感想が聞かれた。