今年4月に文部科学省の在外教育施設派遣制度によってデトロイトりんご会補習授業校の校長として着任された井口豪校長先生に、インタビューさせていただいた。

 井口校長先生は、岐阜県高山市(飛騨高山)の出身。岐阜県内の小・中学校11校に37年間勤務され、2018年度末に退職するまでの13年間は、教頭、校長の管理職として学校経営に尽力された。在外教育施設派遣は2回目で、前回は1994年度より3年間、南米エクアドルのキト日本人学校に勤務されている。

 小学校と中学校という幅広い指導経験があり、海外赴任も経験された校長先生に、海外帰国児童生徒の特長や日本での適応などについてお話を伺った。

Q. 小学校と中学校で勤務されたとのことですが、ご担当は?

A. 私は勤務した全11校中9校が中学校で、小学校は2校のみの経験しかありません。小学校では、音楽と家庭科、生活科以外は指導した経験があります。また、新任のときに小学校で体育主任を3年間担当しました。その間連続して運動会を雨で延期にしたことがあり、それ以来「雨男」を自認しております。中学校での専門教科は英語です。また、生徒指導主事も10年間担当していました。この仕事は生徒には疎まれることが多いのですが、たくさんの問題を抱える生徒たちと真剣に向き合う中で、私自身が多くのことを学ぶことができました。こうした生徒指導主事の「厳しい」教師のイメージと、誰もが楽しくワクワクしながら英語を学ぶ、「優しく楽しい」教師像とのギャップをいかに埋めるかに四苦八苦していた頃のことを懐かしく思い出します。

Q. 海外育ちの子ども達の良さをどのようなところに感じられますか。

A. よく「井の中の蛙、大海を知らず」とか、「日本の常識は世界の非常識」とか言われますが、海外での生活を経験した子どもたちは、既成概念にとらわれない柔軟な見方・考え方ができたり、自分とは違う人種や肌の色、意見や考え方などを素直に受け入れられたりなど、日本だけで生活していてはなかなか身につけられない資質や感覚が備わっているように感じます。同調圧力の強い日本では、他と同じことがいいことだという意識が強いですが、海外育ちの子どもたちは、他人の目をあまり気にせず、自分の個性を遺憾なく発揮しようとします。自分の考えや思いを臆せず伝えようとします。「みんな違って、みんないい」という中学校の道徳資料がありますが、まさにこの考え方が海外での生活を通して根底に培われているように強く感じます。

Q. 6月に、デトロイトりんご会の一大行事である運動会が催されましたが、どのような感想を抱かれましたか。

A. 正直、とても驚きました。当日までほとんど練習もなくて、本当に大丈夫かと心配していたのですが、千人ほどの子どもたちがテンポよく、またルールをちゃんと守りながら一生懸命競技している姿に、心から感動しました。また運営面では、たくさんの企業の方々や保護者の皆様に多大なご協力を頂き、支えていただいていることにも感動しました。運動会の会場全体が、「主役」である子どもたちを中心に、一体感で満ち溢れているように感じました。こんな運動会は、生まれて初めての体験でした。

Q. 運動会では、校長先生も高校生のリレー競技の教職員チームに加わって、みごとに疾走されました。かなり体を鍛えていらっしゃるとお見受けしましたが。

A. スポーツは見るのもやるのも好きで、これまでに野球やサッカー、バレー、スキー、ゴルフ、テニスなどをしてきました。中学校の部活動では、バレーボール部の顧問を長い間担当しました。常に全国大会出場を目指して指導してきましたが、結果は県大会ベスト4止まりでした。でも、校長になってから2回、全国大会へ出向いて自分の学校の生徒を応援する機会に恵まれました。1回目は2014年の愛媛での女子ハンドボール、2回目は2017年の沖縄での男子ハンドボールと熊本の陸上です。子どもたちからのビッグなプレゼントでした。アメリカに来てからは、移動は車ばかりで歩くこともほとんどないため、敢えて運動する機会をもつことが必要だと感じていました。そこで、5月からジムに通い始め、ウォーキングや筋トレをして体力の維持増進に努めているところです。

Q. 学習時間が限られている補習授業校で日本の学校行事を行う意義は?

A. 42日間という少ない授業日数の中では、どうしても教科指導が中心になります。教育課程には、教科指導の他に学校行事や児童・生徒会活動、学級活動などを総括した「特別活動」、そして道徳の大きく3つがあり、これらを組み合わせて教育課程を編成します。子ども

たちの自発性やリーダーシップ、人間関係形成力、協調性などといった「生きる力」は、この特別活動の中でこそ培われる部分がたくさんあります。本校では

特別活動にあまり時間を割くことはできませんが、運動会や入学式、卒業式のような行事への事前と事後の指導を充実させることで、子どもたちの「生きる力」を少しでも伸ばすことができたらと考えます。

Q. 子ども達が日本帰国後にスムースに適応するために、家庭で心がけておくと良いことや、認識しておくと良いことなどの助言をいただけますか。

A. 教科の学習は、帰国後の学校生活に適応するためには大変重要です。補習校の授業だけでは十分な定着は難しいと思われますので、家庭での学習が継続できるよう、保護者の皆様には励ましたり背中を押したりしていただきたいと思います。それよりも、この海外での生活が、子どもたちの今後の生き方に大きな影響を与えられるよう心がけることが大事だと思います。それは、親の姿勢にかかっています。日本人のコミュニティも大事ですが、積極的に現地の方々と触れ合い、現地に溶け込もうとする姿勢が、子どもたちにも大きな影響を与えると思います。私は、25年前にエクアドルのキト日本人学校に3年間赴任していました。休日は現地のサッカーチームに入り、リーグ戦を戦ったりはしましたが、帰国後連絡を取り合ったりできるエクアドル人が一人もいないことを、今でも後悔しています。多種多様な人たちと触れ合い、この地でしかできないことを子どもたちに体験させてあげること、そのことが子どもたちの今後に大きな影響を与えます。豊かな体験を通して子どもたちの見方、考え方がより広く、深くすることを大切にしていただきたいと思います。

Q. 話題を変えますが、校長先生のご趣味は? アメリカ滞在中にぜひしたいと思っていらっしゃることは?

A. まだ若い頃の趣味は、キャンプや釣りといった、アウトドア全般でした。特にキャンプは、中学校や高校時代の悪友たちと長年続け、日本のあちこちへ毎年出かけて行っていました。そしてこのキャンプが高じ、また倉本聰のドラマ「北の国から」の影響もあり、30歳の頃に自分たちでログハウスを建て始めました。テントの延長形ですね。みんな仕事があるため、建てるのは休日です。土、日に集まって、チェンソーで丸太を削り、一本一本組み立てていきました。使用したログは、アメリカ産のダグラスファー、米松です。トータルで100本使用しました。そしてやっと完成したときには、10年が過ぎていました。この夏は、ミシガン湖をグルッと回ってきたのですが、旅行中たくさんのキャンピングカーを目にしました。中にはボートや自転車を積んで走っているのもありました。そんな光景を目にしながら、昔真剣にキャンピングカーを買おうとしていたことを思い出し、私もこのアメリカ滞在中に、キャンピングカーで旅をしてみようと思うようになりました。また、五大湖が近いので、開高健のように、大きなサーモンを釣り上げてみたいとも思います。そして、何より帰国後もずっと連絡を取り合える現地の知人を一人でも多くつくりたいと思います。

Q. 最後に、学校長としての抱負を伺わせてください。

A. 学校は、そこに通う子どもたちのためにあります。子どもたちが夢や希望をもち、無限の可能性に満ちた未来を、仲間と共に力を合わせながら切り拓いていく資質や能力を培うことを願って、これまで校長として学校経営を行ってきました。そうした思いは、今でも変わりません。それぞれの教科の確かな力を付けることはもちろん大切ですが、これからの未来をどう生きていけばよいか、その生き方の

「軸」をより確かなものにできればと思っています。そのためには、最も身近な大人である私たち教師が、子どもたちにとって「あこがれ」となり、「あんな大人になりたい」と思えるような存在でありたいと思います。そして、大人になって社会に出ていくことにワクワク感を感じられる、そんな子どもたちを育てたいと思います。幸い本校には、様々な分野の職業で活躍されている先生が多数みえます。「教師」という職業の者しかいない日本の学校とは全然違い、これだけ豊富な人材のいる環境は、日本の学校では望めません。だからこそ、それぞれの方の生き方、考え方、夢、希望を子どもたちに伝えながら、どう生きるべきか、何を大切に生きるべきかを子どもたちなりに考えさせることが大切だと思います。日本とは違う環境の中で生活している今だからこそ、たくさんの人の生き方や考え方に出会いながら、自分自身を見つめ、生き方の「軸」を少しでも固めていってほしいと思います。

 また、本校には「りんご会」という頼もしい組織があり、多くの日系企業や保護者の方々にご支援、ご協力をいただいて学校が運営されています。保護者の中には、かなり遠方から通われている方もいらっしゃいます。本校に対する期待の大きさを痛感します。こうした想いや願いに、精いっぱい応える努力をすることを通して、本校の魅力を高めていくこと、それが私に課せられた使命だと思います。常に「子どもたち」に判断の軸足を置き、子どもたちが来てよかった、次もまた来たいと思える学校を目指していきます。今後とも、デトロイトりんご会補習授業校へのご支援、ご協力を、どうぞよろしくお願いします!  

JNC:お忙しい中ありがとうございました。