
前任者分も含めて本号で連載200回になります。読者の皆さんと編集発行者である政田さんのお陰です。この場を借りて改めて御礼を申し上げます。
今年も残り3ヶ月を切り、ミシガンもこのところ朝晩めっきり涼しくなりました。自宅コンドミニアムの芝刈りや植え込み、雑草のトリミング頻度も減り、今月末のハロウィーンの頃には打ち止めとなり、スプリンクラーも活動停止となるでしょう。街路樹の木葉も色付き始めて、人間界の雑多な、また時として稚拙な出来事にお構いなく秋から冬へと季節は巡って行きます。趣味のテニスもアウトドアからインドアへ移り、寒さが苦手な私にはミシガンの冬がまたやって来ると思うとやや気分が沈みます。その沈みがちな気分を元気にしてくれているのが日本で目下開催中のラグビーワールドカップです。アメフト天下の米国では地元TV局の実況放送がなく、ジャパンテレビも契約していないのでネットニュースが情報源ですが、日本代表チーム『ブレイブ・ブロッサムズ』は初日開幕戦で開催国のプレーシャーから固さがあったもののロシアに勝利。本紙が発行される頃には第2、3戦の結果も出ているでしょうが、前回イギリス大会ではプールラウンドで代表史上初めて優勝候補であった対南アフリカ戦のスーパーミラクルウィンを含む3勝しながら勝ち点差でプール内3位となり、決勝トーナメントに進めなかった悔しさを今回地元ファンの前で晴らせるでしょうか?この続きはまた後の段落で。
さて、上述の人間界の雑多な出来事ですが、米国政界では先月末から月替わりのこのタイミングで以前にも何度か話題になったトランプ大統領の弾劾正式審議の可能性が一気に再浮上して来ました。事の発端は現政権周辺に接点を持つ内部通報者からの「トランプ大統領が外国リーダー(複数)に対して不適切な言動をしており、米国の信頼を損ねている」という苦情でした。遅ればせながら議会に提出された実際の苦情書はあるCIA従業員が作成した去る8月12日付で上下院の情報委員会の委員長宛のもので、具体的にはトランプ大統領が今年7月にウクライナのゼレスキー大統領に電話した際に民主党のバイデン前副大統領とその息子のウクライナ絡みの行動に関して調査依頼した事が大統領の国家安全保障上の違反行為に当たり、2020年次期大統領選挙の有力対抗馬候補である政敵を陥れる違反選挙活動に該当するのではないかという疑惑です。本来ならば直ちに宛先人に届けられ委員会の緊急議題として諮られるべきでしたが、当初苦情書を受け取った国家情報局の初期対応が悪く、内部通報者が報復を受けないように慎重に対処すべきところを事もあろうにトランプ自身または政権幹部に真っ先に報告してしまったようで、政権幹部(複数)や本件で中心的役割を果たしたと苦情書に書かれたトランプの個人顧問弁護士である元ニューヨーク市長のルディー・ジュリアニが揉み消し工作や内部通報者探しに動いて当人の身の安全が脅かされる状況に至ったようで、助けを求める声がメディア経由で議会メンバーの耳に入り、当然ながら民主党議員が動き始めたものです。苦情書にはウィリアム・バー司法長官(皆さん名前を覚えていますか?)の関与もあったと記されているようです。
先月末には今まで大統領弾劾には慎重であった下院のナンシー・ペロシ議長が正式に弾劾審議開始を宣言し、事前票読みでは共和党を含む下院議員総数425名の内過半数の222名が賛成投票する意志ありと伝えられています。また、前後して実施された現国家情報局局長代行ジョゼフ・マグワイアの議会証言では議会への苦情書提出が遅れた理由を詰問されたものの回答をはぐらかし、「内部通報者は誠実に行動した」と認めたものの苦情書で訴えた疑惑については結論を避けました。余りに急に進展し始めた弾劾審議手続きに対し、以前一度弾劾審議議案が民主党多数の下院で同党内の反対票もあって否決された事実もあり高を括っていたトランプ大統領と政権幹部・関係者は顧問弁護士自身も当事者である事もあり対応準備が遅れ、確かな対抗策が見出せていないようです。今月から来月の予備選に掛けてどのような進展になるか見ものです。
他にもイラン国内から発射されたと疑われるドローンかミサイルによるサウジアラビア油田攻撃、イランの核開発拡散防止を巡る米国との対立、北朝鮮の断続的飛翔体発射、米中貿易戦争での報復関税の応酬、トランプ大統領が政権の命綱としている景気の先行き懸念、日韓国交関係の悪化、オピオイド・クライシスに代表される鎮痛剤薬禍の被害者補償および懲罰的ペナルティー支払いで大幅赤字や破産に追い込まれている薬メーカー・販売業者、健康に無害と虚偽の宣伝で未成年者や若年層に販売拡大しているEシガレットおよびヴェイピングの一部販売禁止やフィリップ・モリス社に代表される多額の補償金支払い問題、バミューダ他カリブ海諸国を連続して襲ったハリケーン被害の復旧対策など人間界には多くの問題が山積みです。
そうした悲しいニュース、暗い話題が多い中で嬉しいニュースと明るい希望を提供してくれたのが前述したラグビーワールドカップです。今回はそれが本題の『巡る季節と心地良い秋の風』です。
各国代表の試合結果そのものももちろん気になりますが、私を元気にしているのは各地でキャンプを張り、試合をしている外国代表チームメンバーや同行メディアからの日本の『おもてなし』に対する感謝・感激、賞賛のコメントです。来訪チームの国歌や聖歌を受け入れ側の少女合唱隊やマスコットボーイの少年や会場に詰めかけた日本人ファンが原語で歌ったり、ニュージーランド代表オールブラックスのハカに代表される試合前のチームを鼓舞する踊りを練習を積んだ地元の小・中学生が歓迎式でサプライズ披露したり、練習だけに1万5千人も見学者が詰めかけたり、日本代表がプレーしない試合中に大雨が降っても退場せずに最後まで両チームを応援してくれたファンなど話題は尽きません。
そうした報道を読む度に嬉しくなり、自画自賛、手前味噌ではないですが、日本人で良かったと思ってしまいます。押し付けや押し売りではなく、小さな親切=大きなお世話にならぬように、ビジネス対応でも良く言われる「痒い所に手が届く」細かい気遣い、見返りを求めない心からのおもてなしですね。特に海外から来日している各国代表チームは生活の基本となる衣・食・住を始め日頃慣れ親しんでいる生活環境がガラリと変わる訳で、不安や疑問が少なからず有るはずです。そうした中でいく先々でラグビーファンのみならず普通の日本の人々から想像もしなかった熱く温かな歓迎を受け、母国で聞き慣れた応援歌や見慣れたハカや自国の言語を目にして嬉しくないはずがありません。心からのおもてなしは「表なし」ではなく裏表(うらおもて)のない真摯でひたむきな行為です。形式的、画一的なマニュアル対応、マニュアル人間ではそうは行きませんからね。
更にラグビーの素晴らしい所は試合終了のホイッスルが鳴った後の『ノーサイド』です。フィールドの選手もスタンドのファンも敵味方ではなくなり、お互いの健闘を讃え合い、相互にリスペクトする。他のスポーツにはないラグビー独特の素晴らしいものです。サッカーなど他のスポーツでは試合終了後も両チームの選手同士が口論やつかみ合い、酷い場合は乱闘にまで発展して罰金・出場停止処分を受けたりします。観客も場内または場外で喧嘩してけが人が出たり、最悪の場合は死亡する人が出たケースもありました。
ラグビーは他のスポーツの国別代表チーム構成とは異なり、国籍重視ではなく他の国代表になった事がなくその国に3年以上居住していれば国籍に関係なく代表になり得る資格がある居住地重視で選考されるシステムが幸いしているようです。色々な国籍のメンバーが集まって国家の対立、政治問題を抜きにして力を合わせ「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」の精神で戦うのです。観客も他のスポーツではホームチームとアウェイチームの観客席が指定され、そこに座る事になる場合が多いですが、ラグビーはそうではありません。すぐ隣に対戦相手のファンがいて、相手チームでも良いプレーには拍手し、試合が終わればノーサイドとなり、選手同様にお互いに健闘を讃え、労をねぎらい握手をして別れるのです。直ぐに自宅や宿に帰らず、近くのバーで両チームのファンが交じり合ってビールを楽しむ光景も見られます。これもノーサイドですよね。まあ、多少は例外もあるかもしれませんが、「巡る季節に吹く心地良い秋風の如し」です。
無茶振りかもしれませんが、選挙前も選挙後も常にキャンペーンモード全開で、選挙後は国民の友和と融和を進めるべき立場にも拘らず、むしろ対立を深めはっきり敵味方を二分してしまい、マイサイド一辺倒のトランプ大統領にもラグビー関係者の爪の垢を煎じて飲ませ、少しはノーサイドの意味を会得して欲しいものです。
住人が入れ替わり、1日でも早くホワイトハウスの風向きが良い方向に変わるのを願うばかり。では、筆を置いてラグビーワールドカップのニュースを見る事にします。
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。