
男声合唱団『ホワイトパイン・グリークラブ』(以下「WPGC」)の第21回スプリング・ファミリー・コンサート(SFC)が,6月2日(日),改修されて間もないFaith Covenant Churchで開催された。WPGCは,1998年に日本人ビジネスマンにより創設され,以来,多忙なビジネスマンのオアシスとなり,多くの団員が,毎週金曜日の夜に予定されている練習を楽しみにすることで,平日の激務を乗り越えている。日米の文化交流の架け橋となることをその目的の一つとしているWPGCは,今回のコンサートで,日本語の曲はもちろん,英語の曲,さらにはドイツ語やフランス語,イタリア語の曲も披露した。また,コンサートには,例年と同様,女声合唱団「トリリアム」と混声合唱団「音もだち」が賛助出演した。
第1ステージは,WPGCが颯爽と壇上に入場し,オープニングソングとして恒例の『ホワイトパイン賛歌』を歌いあげて幕を開けた。指揮者である後藤恵子氏とピアニストも入場し,東日本大震災からの復興のシンボル曲ともいえる『こころようたえ』,世界各地で起こる問題に対する無力へのいら立ちを感じつつ,それを生きる決意に変えていく『きこえる』の日本語曲2曲を演奏した。続いて,キリスト教シェーカーズ派が賛美の際のダンスでも使用していた『Simple Gifts』,旧約聖書で描かれた1場面を基に作られた『There Is a Balm in Gilead』の英語曲を2曲歌った後,第1ステージ最後の曲目として,フランス語曲である『ラシーヌ賛歌』を披露した。『ラシーヌ賛歌』には,特別ゲストとしてチェリストの園田翔子さんが参加し,より美しく,深みのある演奏となった。
続く第2ステージには,女声合唱団「トリリアム」が登場。トリリアムは,今回の出演団体の中で,最も長い歴史を持つ合唱団である。まず,日本人にはなじみ深い『おぼろ月夜』を演奏し,続いて,『トゥーランドット』より『誰も寝てはならぬ』と,『カルメン』より『ハバネラ』のオペラ曲を2曲演奏。『ハバネラ』では,歌詞に合わせてバラを所持しながら演奏し,演奏終了後には持っていたバラを観客に手渡すという演出も注目を浴びた。さらに,指揮者でもある浅見江里奈氏によるソロから始まり,後半にそれを追いかけるようにコーラスが入る『Panis Angelicus』を演奏。最後に,壇上で体を動かしながら楽しそうに歌うトリリアムのメンバーにつられるように,客席から手拍子が起き,会場全体で盛り上がることとなった『Music Down In My Soul』を披露した。「トリリアム」の名にふさわしく,女声ならではのハーモニーにより,美しい花が会場を満たしているように感じさせるステージであった。
休憩を挟んだ後,第3ステージには,混声合唱団「音もだち」が登壇。音もだちは,他2団体の中から混声合唱曲を演奏したいメンバーを中心に7年前に結成され,今は男女で楽しく,美しい合唱をしたいという約20人の団員で結成されている団体である。今回のコンサートでは,まず,指揮者でもある稲村尚美氏が編曲した『I vow to thee, my country』,『Sacris Solemnis』の2曲を演奏した。続いて,イエス・キリストの苦難を描いた『ヨハネ受難曲』の中でも,イエス・キリストの死を悼む人々を描いた『ヨハネ受難曲39番』,音もだちが過去のコンサートでも数回披露したことのある『Sure on this shining night』,最後にスペイン人の男女の恋を描いた『El Vito』を演奏した。日本人合唱団ではあるにもかかわらず日本語曲は1曲もなく,合唱を楽しみながらもより難易度の高い曲にも挑戦したいというメンバーの思いが感じられるステージであった。
続く第4ステージには,再度,WPGCが登場。歌曲王とも呼ばれるシューベルト作曲のドイツ語曲『菩提樹』,『Heilig』の2曲,さらに,有名な『Unchained Melody』をイタリア語版で披露した。その後,シンガーソングライター森山直太朗の代表曲の一つである『夏の終わり』を,編曲者の特別許可を得て全米初披露し,さらに「海の男」としても知られる加山雄三の代表曲『海その愛』を男声合唱らしく堂々と演奏した。さらに引き続いて,東日本大震災からの復興支援曲でもあり,歌い手も聴き手も全ての人を幸せな気持ちへと導く『ほらね』を演奏した。
最後に,賛助団体であるトリリアム,音もだちの団員も参加し,ミュージカル『レ・ミゼラブル』で歌われている『民衆の歌』を演奏。自由と平和を求めて立ち上がる場面で歌われるこの曲を,コンサートの最後の曲目として,壇上を参加者全員であふれんばかりに埋めて盛大に歌い上げ,SFCは幕を閉じた。
コンサート当日は,前日まで数日間続いていた荒れた天気とは一転して快晴,絶好の行楽ないしゴルフ日和となったが,それでも客席を埋め尽くすほどの多くの観客に来場していただき,団員一同感謝の念は堪えない。
1年前に渡米してミシガンでの生活をはじめ,今回のコンサート直後に日本への本帰国が決まっていた私にとっては最初で最後のSFCであり,かつ,恐れ多くも司会という大役も仰せつかっていたことから,コンサート開演直後まで,かつてないほどの緊張感も味わったが,不思議と歌っているうちに緊張がほどけていき,最終的にはコンサートを思い切り楽しむことができた。合唱経験の全くない私を勧誘してくれ,団員として快く受け入れてくれた,WPGC及び音もだちの団員達と培った絆は,日本に帰国後も大切にしていきたい。
3団体ともに,多くの団員が日本からの駐在員あるいはその家族ということもあり,団員の入れ替わりも多く,新たな団員を常に募集している状況である。年齢や合唱経験を問わず,美しい合唱曲の練習と演奏を通じて、団員間の親睦・絆を培うことのできる場所である。これら素敵な各合唱団が,今後も,末永く積極的に活躍することを願っている。この記事を読んだ方にはぜひ気軽に各合唱団の代表者に練習、演奏に関する情報を問い合わせて頂きたいと思う。最後に,各合唱団体が,今まで以上に,合唱を通して団員たちのオアシスになるとともに,デトロイト近郊の日本人コミュニティや日米の文化交流の発展に貢献し続けることを切に願い,コンサートのレポートとさせていただきたい。