
デトロイトをブリューする
文&写真 by ヤマトノオロチ
デトロイトで誇りを持ってビールづくりをしている、と自負するブリューワリーは数多いが、ひときわ光を放つのが Brew Detroit。Corktown と呼ばれるデトロイト西地区にある。ダウンタウンの日本国総領事館からは車で5分ぐらいのところで、M-10(Lodge Fwy.)とI-75に囲まれた地域。1840年代にアイルランドで起きた「ジャガイモ飢饉(The Great Potato Famine)」により、人々が流入した。 County Corkから移り住んだので、この地区をCorktownと呼ぶようになったという、歴史的背景を持つところだ。
Brew Detroitは「契約ブリューワリー(contract brewery)」と「自家タップルーム」という二つの側面を持つ。「契約ブリューワリー」とは、他社の製品を代わりに作ること。たとえば西海岸の大手会社のビールを同じレシピを作ってここミシガンで作っている、というようなことだ。68,000sqft.の巨大な施設は自動車の町デトロイトにあった元ベアリング工場を2014年に買い取り、醸造所に変えたもの。醸造、瓶や缶を詰め、ケグの冷蔵も有する現在の形になったのが2014年だ。醸造所内へのツアーに参加し、中を見てみると小売店でよく目にするミシガンのブリューワリーの缶がうず高く積まれている。7社の缶がすぐに確認できた。
Brew Detroitが契約を請け負う顧客の中で特筆すべきものが、1850年にデトロイトで醸造を始めたStroh’s。Stroh’sが最盛期だった1970年代にその門をくぐってビール醸造の道に進んだのが、Brew Detroitの現在のブリューマスターのJoe。Stroh’sは今世紀には業績が悪化し会社は解体。大手のPabst Brewing Companyがいくつかの製品を買い取った。その間、彼はアメリカ内のStroh’sや大手ビール会社のブリューマスターなどを経験した。そしてここ地元ミシガンに戻ってきた。2016年にBrew Detroitが「契約ブリューワリー」として、Stroh’sのフラッグシップBohemian-style pilsnerを醸造し始め、小売店やレストランなどでも販売されている。1850年代のStroh’sのレシピを使っている。ツアー中に彼と会話することができた。小柄でたいへん穏やかな感じがする人だった。日本にも来たことがあり、SuntoryやAsahiの工場を見学したという。
「契約ブリューワリー」という形はStroh’sビールの再興だけではなく、ミシガン全体のブリューワリーの可能性も広げる。それぞれのブリューワリーのレシピを尊重しながらJoeの経験がプラスされ、このBrew Detroitの中からそれぞれのブランド名で流通されていく。
Brew Detroitのタップルームでは、Customer Brewとして前述のBohemian-style pilsnerを提供している。1パイント(16oz.)が$3はうれしい。Saaz, MagnaホップとVienna moltはクラッシックな風味。独自のものとして、Cherveza Delray (ABV. 4.2%)。Bohemianに風味が似たところがあるが、Chervezaはラガー。Joeが誰にでも飲んでもらえるように、と経験を生かしたビール。何となく、日本で飲むようなラガーに近い気がするが、Cascadeホップを使っている。Chervezaはここでしか飲めないが、4缶入りは$5.99。そのほか独自のビールが19種類もラインナップしている。
Brew Detroit ― デトロイトの元ベアリング工場を改造してのブリューワリーから数々のビールが生み出されていく。
Brew Detroit
1401 Abbott Street, Detroit MI 48216
ツアー($10。試飲とお土産つき。要予約。)