~受験生と保護者の疑問にお答えします。
帰国予定の方にとっては、お子さんの帰国後の学校選びは大きな課題の一つです。
帰国後の住所や帰国時期(学年や学期)によって受け入れ校の状況が異なりますし、在外年数や在外生活開始年齢などによって、お子さんの日本語力や英語力が国内の子どもたちと異なりますので、それに合わせた学校選びや受験対策が必要になります。ここでは、帰国後の学校選びをする際によく聞かれる質問について回答します。
Q.帰国するタイミングはいつがよいのでしょうか。
A. この質問については、小学生、中学生、高校生の場合に分けて説明します。
≪小学生の場合≫
住所地の公立小学校であれば、いつでも編入できますが、学校の様子について、事前に調べることが大切です。茨城、栃木、千葉、東京、神奈川、富山、静岡、愛知、大阪、福岡の一部の市区には、帰国生受け入れ校があります。
一方、国私立小学校は編入時期が年2~3回(4月、9月、1月)と限られている学校も目立ちます。したがって、帰国時期が限定されてしまいます。
中学校への進学は、国内生は90%以上が公立中ですが、帰国生の場合は35%ほどが私立や国立の中学校を選択します。ただし、国私立校への進学が目立つのは東京、神奈川などの大都市のみです。国私立校では入学試験が課され、帰国生入試の場合は、国語、算数の2教科の学校が多く、社会や理科を課す学校もあります。
また、英語を課す学校も増えています。英語以外のテストは、国内生と同じ問題が課されることも多いので国内生と同様な受験対策が必要です。
このため、父親を海外に残し小学4年生や5年生で帰国し、日本で早めに受験対策をする方も目立ちます。帰国生中学入試の出願資格は在外年数が1~2年以上で、帰国後1~2年以内が多く、中には在外年数と帰国後の年数が同数、つまり、在外年数が3年ならば、帰国後3年経っても受験できる学校や、帰国後の年数は無制限という学校もあるからです。小学6年生まで海外に在住し、中学受験に臨むという受験生は、最近では少なくなりました。このような状況を考えると早めに帰国したほうがよさ
そうです。
ただし、作文や面接のみで選考するような負担の軽い入試を行う学校もあります。
中高一貫校では、帰国生の英語力や異文化体験を重視して受け入れ、6年間かけてじっくり育てようという方針の学校もあります。受験対策が準備できていない場合は、このような学校を選ぶとよいでしょう。
≪中学生の場合≫
住所地の公立中学校であれば、いつでも編入できます。しかし、学校の様子について、事前に調べることが大切です。茨城、栃木、千葉、東京、神奈川、富山、静岡、愛知、大阪、福岡の一部の市区には、帰国生受け入れ校があります。
一方、国私立中学校では、編入時期が年2~3回(4月、9月、1月)と限られている学校も目立ちます。編入時期に合わせて帰国できない場合には、公立中学校に編入しなければなりません。もちろん、随時受け入れる学校もあります。
中高一貫校や中等教育学校の場合は3年生での受け入れも概ね柔軟ですが、そうでない場合もあります。また、高校の履修内容を先取り学習している学校もあり、3年生への編入試験でも高校1年生相当の問題が課されることもあります。編入試験がどのような範囲から出題されるのかを確認することも必要です。
高校への進学には、必ず入学試験が課されます。私立高校では、国語、数学、英語の3教科という学校もありますが、多くは社会や理科も加えた5教科型です。帰国生入試では、国語、数学、英語の3教科という学校が主流ですが、自宅の近くに帰国生入試実施校がなければ、国内生と同様に5教科型での受験が必要です。帰国生入試実施校を受験できない場合には、できるだけ早く帰国したほうがよいともいえます。
また、現地校の9年生を修了していないと、ほとんどの公立高校や一部の私立高校では入学が認められません。9年生修了前に高校に入学をする場合には、遅くとも中3の冬休み前に帰国して、公立中学校に編入し、卒業する必要があります。私立高校の場合には、9年生修了前でも入試に合格すれば入学できる学校が目立ちます。
≪高校生の場合≫
帰国生の編入を実施する高校は決して多くはなく、定員に欠員が生じた場合のみ行われるのが一般的です。また、編入時期も4月、9月、1月などに限る高校も目立ちます。また、編入できる学年も2年生までという高校が多く、3年生に編入できる高校はわずかです。
編入するためには入試が課されます。入試は編入時期の2か月ほど前に実施する学校が多いので、3か月ほど前には受験校を決定し、出願せねばなりません。急に帰国が決まり、帰国までの期間が短い場合には、入試や出願の時期を逸してしまうこともあります。もちろん、随時受け入れる学校もあります。
編入試験の出題教科は高校によって異なりますが、国語、数学、英語の3教科が目立ちます。国語には古文や漢文も含まれ、理科(物理、化学、生物など)や地歴公民(日本史・世界史・政治経済など)が課されることもあります。出題範囲は編入する高校の進度によって異なります。編入後に授業についていけるかどうかを確認するために、直近に実施された定期テストが入試問題として使われることもあります。数学は高校によっては進度が異なり、例えば、1年生でも2年生の履修科目が課される場合もあります。
このように高校生が帰国する場合には、帰国予定時期の志望校の編入実施の有無、学年、入試日や出願期間、入試科目や出題範囲などを早めに確認する必要があります。志望校が帰国のタイミングで編入を行わないことも踏まえ、多めに選定しておきましょう。
なお、日本の高校では、履修したすべての科目の単位を取得しないと卒業できません。また、日本の高校に編入すると、ほとんどの国公立大と早稲田大、慶應義塾大など一部の私立大は、帰国生入試で受験できません。また、1年生で編入した場合には、帰国生入試で受験できる大学が少なくなります。
Q. 帰国生入試のための対策を教えてください。
A. できるだけ早く受験予定校を決定し、各校の入試教科や出題傾向に合わせた学習
をすることが大切です。帰国生中学入試では、国語と算数の2教科を課す学校が目立ちますが、社会や理科も加えた4教科を課す学校や英語、作文を課す学校もあります。また、帰国生高校入試では、国語、数学、英語の3教科を課す学校が多いのですが、社会や理科を加えた5教科を課す学校や作文または小論文を課す学校もあります。また、ほとんどの学校で面接を課します。
国語、数学・算数、英語の3教科は、多くの学校で入試科目として課されますので、入試問題集を使って、問題を解く練習を積むことが大切です。社会や理科は、入試教科ではないとしても、教科書での学習はしておきたいです。以下に、国語、数学・算数、英語の学習方法についてご説明します。
国語は、課題文が入試で初めて読む文章であることが多いので、日頃から幅広いジャンルの文章を読むことをお勧めします。小説は読み慣れていても、論説文や随筆は読み取れないということもありますし、苦手意識のある歴史小説や古典も学習しておきましょう。古典は難問が少ないため、得点しやすいともいえます。また、ことわざ、慣用句、四字熟語、文学史などは、覚えれば得点を稼げますので予め練習しておきましょう。
数学・算数は、問題を早く解けるようにする練習が必要です。計算も日頃から計算機に頼らず学習を進めましょう。計算問題の途中式を書き込むことや証明問題の日本語での説明も大切です。中高一貫校や進学校では、当該学年より先の学年の履修内容が出題されていることもあります。過去の入試問題を入手して練習を積んでおきましょう。
英語は、英会話が問題なくできても、入試で得点できるとは限りません。日本の受験英語は、相変わらず文法重視の出題が目立ちます。現地で普通に使っている言い回しでは不正解になることもあります。また、英語といえども、和文英訳や英文和訳もあり、日本語での学習も必要です。なお、中学入試でも英語を課す学校はあります。
中学・高校ともに、日本式の英語ではなく、TOEFL形式で出題する学校もあります。
この場合には、現地校での英語の学習が対策に直結します。
入試において安定した得点力を身につけるためには、問題演習を繰り返すことが大切です。また、時間内にスピーディーに問題を解く練習を積むことも必要です。模擬試験は海外では受験機会が少ないですが、一時帰国の際に受験するとよいでしょう。
Q. 帰国生の公立高校入試は国内生とどう違うのですか。
A. 公立高校では、調査書(中学校の成績など)と学力検査(国語、数学、社会、理科、英語)を総合的に評価して入学者が選抜されます。ただし、帰国生への対応は都道府県によって様々です。
まず、次の17の都道府県(北海道、福島、千葉、東京、神奈川、富山、石川、静岡、愛知、三重、京都、大阪、兵庫、奈良、岡山、福岡、大分)では帰国生受け入れ高校を特定校に定めているので、それら以外の高校では特別な配慮はないといえます。
その他の30県ではすべての高校において特別な配慮がされることになっています。
ただし、入試での負担軽減がほとんどで、入学後のサポートはあまり期待できません。
全国で帰国生が10人以上いる公立高校は30校ほどですし、ほとんどの高校では帰国生がいないとか在籍したことがないというのが実態だからです。一方、帰国生在籍数の多い高校では、ある程度のサポートは期待できそうです。ちなみに帰国生在籍数が20人以上の公立高校は次の通りです。東京都立:国際、三田、竹早、日野台、神奈川県立:横浜国際、神奈川総合、鶴嶺、新城、横浜市立:東、静岡県立:浜松北、愛知県立:千種、豊田西、刈谷北、大阪府立:住吉、千里、神戸市立:葺合 次に、入試の教科数に目を向けると5教科が23道県、3教科が17都府県、2教科が3府県で、それ以外が4県です。3教科の都府県の多くでは国語、数学、英語が課されますが、長野は数学、理科、英語の3教科ですし、山梨と熊本では5教科のうち3教科を選択できます。栃木、東京、神奈川、新潟、長野、岐阜、三重、奈良、広島、福岡、熊本では学力検査の他に作文または小論文が課されます。学力検査を課さない4県の内、兵庫は適性検査と小論文、岡山は調査書と面接、福島、長崎は作文のみです。また、札幌市立の4校は英語のみ、東京都の9月入学は英語の作文のみで受験できます。
このように公立高校の帰国生入試は都道府県によって様々ですし、仕組みが変わることも多いので、各々の教育委員会や受験予定校に問い合わせて情報を収集することをお勧めします。
米日教育交流協議会・代表 丹羽 筆人
執筆者のプロフィール
河合塾で十数年間にわたり、大学入試データ分析、大学情報の収集・提供、大学入試情報誌「栄冠めざして」などの編集に携わるとともに、大学受験科クラス担任として多くの塾生を大学合格に導いた。また、全国の高等学校での進学講演も多数行った。一方、米国・英国大学進学や海外サマーセミナーなどの国際教育事業も担当。米国移住後は、CA、NJ、NY、MI州の補習校・学習塾講師を務め、2006年に米日教育交流協議会(UJEEC)」を設立し、日本での日本語・日本文化体験学習プログラム「サマー・キャンプ in ぎふ」など、国際的な交流活動を実践。また、帰国生入試や帰国後の学校選びのアドバイスも行っており、北米各地で進学講演も行っている。河合塾海外帰国生コース北米事務所アドバイザー、名古屋国際中学校・高等学校アドミッションオフィサー北米地域担当、名古屋商科大学アドミッションオフィサー北米地域担当、デトロイトりんご会補習授業校講師(教務主任兼進路指導担当)
◆米日教育交流協議会(UJEEC) Website:www.ujeec.org