台湾の伝統的な影絵芝居のグループ「永興楽皮影劇団」がミシガンを訪れ、11月10日から13日まで、スポンサーとなったデトロイト美術館のシアターをはじめ、アナーバーの図書館、オークランドコミュニティカレッジなど、4カ所で公演を行なった。数多くのレパートリーから今回選ばれた3つの演目のうちの一つ『桃太郎:Peach Boy』は当地の日本人とのコラボレーションで行なわれた。このコラボレーションはデトロイト美術館のアジアギャラリーのオープニングに合わせて同館のポランティアグループ:Friend of Asiaの台湾メンバーが、 「ぜひ、日本との合同で」との強い願いをもって橋渡しを務め、当地の台湾系団体の協力を得て実現した。

日本で影絵というと黒いシルエットのものを思い起こす人が多いと思うが、台湾の影絵は「皮影劇(ピーインシー)」と呼ばれ、極めて薄い牛の皮に彩色を施した人形や背景などに、背後から光を当てるもので、スクリーンを通してもなお鮮やかで美しい。着物柄などディテールの緻密さに目を奪われた。中国の伝統芸能に端を発し、一説によるとその起源は漢の時代にさかのぼるという。手足や腰などのつなぎ目に金具があり、後ろに付いている長細い棒によって動きを作り出している。「永興楽皮影劇団」は百年以上の歴史があり、家族代々受け継がれ、現在五代目が中心になって、時代に合わせたアレンジを加えつつ国内外で公演を行なっている。拠点である台湾南部の高雄で博物館も運営しているとのこと。

今回の遠征公演では、レパートリーの中から、セリフのない『サンドバッグ
3部:The Sandbag Trilogy』という猿・人間そしてパンダがサンドバッグと戯れる滑稽物、そして、孫悟空が登場する西遊記から火焔山の火を消す扇を手に入れるための対決や化け合いがエキサイティングな『火焔山』、最後に、日本の昔話『桃太郎』を披露。『火焔山』、『桃太郎』は台湾語で演じられ、別スクリーンに英語字幕が映し出された。

『桃太郎』の演目は、おばあさんが川で拾った桃から生まれた赤子を育て、力持ちの男の子になるところまでを台湾の影絵で上演。そして後半、キビ団子をもって鬼ヶ島に向かうところから、道中で供を増やし、戦いに勝ち宝を得る
エンディングまでを、映し出された挿絵に合わせた英語のナレーションの読み聞かせで行われた。このナレーションを務めたのは、国際交流基金日米センターと米国非営利団体ローラシアン協会が共同実施している日米草の根交流コーディネーター派遣(JOI)プログラムに参加し、現在、ランシングを拠点に活動している森下加那子さん。前述したように台湾流の粗筋は日本の昔話とほぼ変わらないが、衣装や家具が台湾風であるだけでなく、老夫婦のキャラクターが一般的な日本の昔話にみられる‘仲睦まじく穏やかな’夫婦とはかけ離れた設定。老夫は遊び惚け、老婦は口うるさく文句を言い、、、といった具合。それなりに仲は良く、桃から生まれた子を天からの授かりものだと共に喜ぶのだが、大きくなった桃太郎に拳術を教えてやろうとしてどちらも体を傷めると「私を先に助けて!」「いやいや、こちらが先!」と桃太郎を競って取り合う始末。桃太郎は公平に二人を一度に担いで家に運び、人並外れた力持ちに育ったことを言下に示して、めでたく(?)皮影劇団の担当部分はエンディングした。

元々の演目ではさらに日本の話とはそぐわない点があり、加那子さんが調整を頼んだとのこと。台湾側は、その意向に快く対応し、ストーリー的に無理のないコラボレーションが出来上がった。『桃太郎』は同劇団の通常のレパートリーの一つだが、日本人とのコラボレーションは初めてのことだという。加那子さんはナレーションのバックグランド音楽を日本的な琴の曲などから音源を調達。また、当地の台湾メンバーと頻繁にミーティングややり取りを重ね、本番に至った。日本人の鑑賞者から、「台湾のグループが桃太郎を演じてくれて嬉しい」「(後半に)紙芝居風に日本の昔話を伝えてくれて有難かった」との感謝の声が多く寄せられた。

それぞれの会場での上演のあとに、Q&A時間が設けられ、人形や蛇などの動きを披露したり、舞台の裏側を見学し人形を操作する体験も提供され、子供も大人も目を輝かせて楽しんでいる姿が見られた。今回の3演目のために、30体に上る人形を持参。1つのキャラクターに対して動きの異なる複数の人形を駆使。1体の人形を1人か2人で動かすそうで、その他、ナレーター、照明、そして今回は小さな太鼓と銅鑼と鳴り物(チャッパ)の生演奏も添えられた。7人だけの団員が様々な担当をこなして創り上げていることに感心させられた。

先月には同じデトロイト美術館のシアターで滋賀県の文化遺産『冨田人形浄瑠璃』の公演があり、こちらも現地の人々の高い関心と称賛を得たが、異国の文化を直に見聞きすることで異文化への理解、そして人種を超えた尊敬の念が根付くことを願いたい。

尚、森下加那子さん(右上写真)の交流活動内容について、以下、ご自身より紹介をして頂いた。

日米草の根交流コーディネーター派遣(JOI)プログラムと通じての活動

私はJOIプログラムを通じ、2017年8月からミシガン州立大学内にあるJapan Center for Michigan Universities (JCMU)に配属されています。ミシガン州の方々が日本に対する興味や関心、そして友好的な認識を持てるよう、日頃から様々な場所で文化的なプレゼンやアクティビティーを行っています。ミシガン州へ来て約1年半弱、人や地域のネットワークが確立されて、環境や仕事にも慣れたきた反面、残り後7か月という任期を強く意識し始めました。「何か形になるような、多くの人々に貢献できるような活動をしなければ」と考えていた矢先、この影絵人形芝居のお話を頂きました。
桃太郎を台湾側と日本側の2部構成で伝える事になったのですが、台湾の物語には彼らの文化的な要素が既に多く反映されていました。それを、話の流れを無理なく日本の桃太郎へと移行できるように、譲歩できる点や修正すべき点を双方で確認しながら作り上げました。

日本人として、本来あるべき桃太郎を先方に説明し修正すべきなのかと当初は考えましたが、1番大切な事は、アジアの文化を通じて、大勢のミシガン州の方々に楽しんでもらうことであった為、なるべく彼らの意向を尊重しようと決めました。その結果、台湾の桃太郎と日本の桃太郎の違いを敢えて表面に出すことで、同じアジアではあるが、違う国が個々に存在しているのだという事実も1つの物語を通じて、観客に伝えることが出来ました。

今回参加させて頂き、台湾の歴史や人に興味を持ちました。訪問した事はまだありませんが、今では親近感さえも抱いてます。これこそ草の根活動の醍醐味なのではないでしょうか。残りの任期でも、1人でも多くの方に、日本そしてアジアとの親近感を覚えてもらえるよう、日々活動していきたいと思います。