戌年の2018年もいよいよ最後の月になりました。10月から先月に掛けては米国内外で世間を騒がす本当に色々な事件や話題となるトピックがありました。10月半ばの最大手小売チェーン店シアーズの倒産からトルコ・イスタンブール市内サウジアラビア領事館内での米国ワシントンポスト紙記者の殺人疑惑、米国ペンシルバニア州ピッツバーグのユダヤ教礼拝所で起きた銃乱射事件、MLBワールドシリーズでボストン・レッドソックス優勝、NPB日本シリーズで福岡ソフトバンク・ホークス優勝、11月上旬の米国中間選挙とジェフ・セッションズ司法長官辞任(実質的には解任)、MLBアリーグLAエンジェルス『二刀流』大谷選手の新人王受賞、男子テニスATPファイナルズでドイツのアレクサンダー・ズベレフ選手初優勝、カリフォルニア州でほぼ同時に発生した複数の山火事、ホンジュラスやグァテマラなど中南米からメキシコ経由で米国を目指す難民キャラバン隊、2016年大統領選絡みのロシア疑惑調査中のムラー特別検察官からトランプ大統領への質問状送付とその回答書返送、クリミア半島近海のケルチ海峡でロシアの監視船がウクライナ海軍艦艇3隻を拿捕、NPBセリーグ優勝の広島東洋カープの中心打者で2年連続年間MVPを受賞した丸選手の読売ジャイアンツ移籍、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されたG20会合、ジョージ・H.W.ブッシュ元米国大統領の死去など、息つく間もなく次々とありました。

どの事件か話題を取り上げてもそこそこの分量の記事になりそうですが、今回は『戌年の幕切れは如何に?』と題して本欄では幾つかについてオムニバス風にコメントしてみます。

1.シアーズ倒産

これは私自身もショックでした。ここ数年経営難で毎年のように店舗数・人員削減が続いていましたが、遂に倒産となってしまいました。私が26歳の時、米国独立200年祭の熱が冷めかけた1977年1月にロスアンゼルス経由で初めてニューヨーク郊外の米国子会社に赴任した頃、シアーズ(当時はシアーズ・ローバック)と言えば『カタログ販売』が直ぐに頭に浮かぶ超有名小売チェーン店でした。とにかく生活必需品、日用雑貨品なら大物・小物を問わず何から何まで揃っており、何処の店に買いに行けばいいか分からない場合はシアーズのカタログを調べて店に行けば用が足りる程でした。カタログも薄っぺらい半端なものでなく、昔の電話帳分くらい厚くて重い代物でした。商品写真も盛り沢山でカタログだけでも制作費に当時で少なくとも1冊数十ドルは掛かっていたのではないでしょうか?今隆盛を極めているアマゾンがデジタル版だとすればシアーズはアナログ版の何でも屋小売店でしたね。2年2ヶ月後に日本帰任後も日本版シアーズのカタログを見ると懐かしく思ったものです。シアーズだけでなく店舗経営の小売店は多かれ少なかれ年々巨大化、強大化するアマゾン(オーナー経営者の個人資産額は今年あのマイクロソフトのビルゲーツを抜いてトップに躍り出ました)の脅威に晒されて店舗縮小や廃業に追い込まれています。シアーズやKマートなどの大手グループでも生き残れないのですから、品揃えや購買力、価格競争力の弱い中小店舗や個人営業の小売店では適切な対抗策、延命策がなく閉店・終業は時間の問題です。子供の頃見慣れていた昔ながらの商店街の小さなお店がどんどん消えて行きますね。

2.中間選挙

大方の事前予想通り1/3改選の上院は共和党が改選前とほぼ同じ過半数を維持し、全議員改選の下院は民主党が40席近く議員数を伸ばしマジョリティー政党となりました。年明け1月には下院議長や下院の各委員会(分科会)の委員長は民主党から指名出来ることになり、共和党主導で進められ民主党には不満が残る形で打ち切られたロシアによる選挙介入妨害疑惑やトランプ候補支援キャンペーングループ幹部およびトランプファミリーメンバーのロシア要人との違法な接触、選挙資金管理法違反疑惑問題に関して下院として調査再開、証人喚問、更に大統領弾劾の提議も可能な形となりました。同時に実施された36州の知事改選では前回2016年の大統領選で当時のトランプ候補当選の起爆剤となったミシガン州、イリノイ州、ウィスコンシン州を含む7州で民主党が共和党から州知事職を逆転奪取し、2年後の大統領選に向けて前進したように見受けられます。但し、上院は引き続き共和党がマジョリティーを維持するネジレ状態のため、今後下院で民主党主導で新たな法案が可決・通過しても上院で否決されたり、運良く可決されても大統領が拒否権を発動して署名しなければ正式に立法化・施行されず『絵に描いた餅』になってしまいます。民主党としては有権者から「下院民主党候補に投票して過半数議席を取ったのに何も変わらないじゃないか!」と非難され、2年後の大統領選、上下院議員・州知事改選でまた民主党離れが起きないように対策要です。2020年の戦いは既に始まっています。勝利の凱歌を上げるのは誰か?

3.中南米からの難民キャラバン隊

トランプ大統領はこのキャラバン隊を多くの犯罪者がいるインベーダー(侵入者)と決め付け、米国民の恐怖心を煽り、キャラバン隊がまだTEX/MEX国境まで1000マイル以上離れていたにも拘らず中間選挙前に米軍15,000人(戦闘部隊ではなく橋梁施設・物流支援部隊)をメキシコ国境沿いに配置し、必要あれば国境警備隊を守るために武力行使しても良いとの大統領令を出して政治的に利用しました。また、直近ではティファナと繋がる国境警備所を一時的に閉鎖して難民キャラバン隊のメンバーだけでなく、通勤や出張訪問目的で日常的に国境を通過するビジネスマンも遮断して多大のビジネス機会を奪う暴挙に出ました。また、命懸けではるばる何千マイルも徒歩で移動して来た難民の一部が米国への難民許可手続きさえ受け付けてもらえない状況に絶望感を抱き暴徒化したところに国境警備隊が催涙弾を打ち込んだり、立ち往生したキャラバン隊が宿泊施設や上下水供給・処理手段、食料・衣類、医療品が十分でない非衛生的環境の場所に仮テントを張り寝泊りしている映像がTVで放送されていました。一時的な通過キャラバン隊と思って各種支援をしていたメキシコ市民も滞在が長引けば、継続支援が困難になり安全・健康面の不安も増大し、双方感情的になって衝突する懸念がありますが、通常の状況下でも一日に数十人の難民申請手続きしか処理出来ないレベルらしく、この非人道的な扱いが一体いつまで続くのでしょうか?

4.サウジアラビア領事館内殺人疑惑

被害者となったワシントンポスト紙の記者はサウジアラビア出身で同国の国王や王子の専横政治や性差別、非人道的な行為に反対抗議する言動から『危険人物』として睨まれ随時監視されていたようです。事件のあった当日はトルコ人の女性フィアンセとの結婚許可取得手続きに領事館に出向いたものですが、単身入館したまま出て来なくなり音信不通、行方不明となりました。その時外で待っていたフィアンセの気持ちを考えたら何とも言えない憤りを感じます。トルコ政府の抗議に対してサウジ側は当初事件関与を否定し、被害者は領事館を立ち去ったと言い張りましたが、当人が入館した映像はあるものの、退館した証拠を示す映像がなく、後から被害者と同じ服装をした替え玉を使った映像がネットに流れましたが、替え玉が履いていた靴が被害者の入館時のそれと違う事、替え玉がサウジ政府関係者である事が暴露され、事件のもみ消し工作であると判明。未だに計画的殺人行為があったとは認めておりませんが、サウジ政府関係者で事件に関与したと思われるメンバーが十人以上がサウジ政府から処罰を受けております。トルコ政府および米国CIAは独自の入手ルートからの機密情報、周辺情報から今回の事件はサウジの略称MBSと呼ばれる国王世襲王子の指示によるものと断定しておりますが、トランプ大統領は「決定的な証拠はない。」としてCIAの結論を無視してサウジとの関係維持と既に契約を取り交わしているサウジ向け武器輸出の売買供給契約を履行すると表明しております。トランプ大統領は「米国が契約履行断ればロシアや中国がその武器輸出をしてしまい、米国は何千億ドルのビジネス商機と雇用機会を失う」と説明していますが、娘婿のクシュナー氏がトランプ大統領就任以前から頻繁にサウジを訪問し国王や王子と面談しており、国対国の武器取引だけでなくサウジとのトランプファミリーの私的ビジネスも取り込もうとしているのは火を見るより明らかです。実際にフロリダにあるトランプホテルには前回大統領選挙キャンペーン中も当選後もサウジからの宿泊客、利用客が大挙して押し寄せ、部屋代やホテルの各種サービス料も跳ね上がり収入増でウハウハの状況のようです。トランプファミリーがオイルマネーを原資とするこの泉のように湧き出る金づる、『金のなる木』を手放す訳がありません。計画殺人を指示した疑いが濃厚な容疑者でもトランプファミリー(米国と言っているのは表面的な体裁上のみ)を潤す大事な金づるであれば、無罪放免して見逃すようでは米国内や同盟国、友好国はもちろん世界中の国々から倫理道徳観に欠けた単なる『金の亡者』と見做され、「金さえチラつかせれば何をしても許される」と模倣犯が続出する心配もあります。この2年間で既に急速に失いつつある米国に対する敬意と畏怖の感情はますます縮小し、先日亡くなったブッシュ元大統領他歴代大統領や政府関係者、米国民が営々として築き上げて来た信頼と信用と共に求心力を失った米国は世界中から軽蔑され、ますます孤立して行く恐れ大です。

“America First”は“America Alone”になりますね。

果たして、上述の話題の続きで「戌年の幕切れは如何に?」ムラー特別検察官から正式レポート提出が近いと噂されている注目のロシア疑惑とブッシュ元大統領についても書きたかったのですが、今回コメントするにはとても紙面が足りません。また、次回以降に致したくお楽しみに!では、少し早いですが、皆さん健康で安全な年末年始をお過ごし下さい。

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。

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