喧喧諤諤 ケンケンガクガク
喧喧諤諤

ミシガンでは9月下旬に一日だけ最高気温が30℃を超える日がありましたが、10月に入りさすがに20℃台に落ち着いてきました。朝方の最低気温は9月最終の週末に一度10℃を割る寒い日がありましたが、概ね15℃前後といった感じです。晴れた日は今が一番気持ちいいですね。そんな短い秋の日を楽しむ頃でもジェット気流の関係で北から寒風がサッと吹き込むと一気に10℃位気温が下がることがありますので、米国赴任間もない方や日本からの出張者、旅行者の方は重々ご留意下さい。私も大昔ゴルフのラウンドプレー中のわずかの間にそんな経験があり、戒めとしております。

ミシガン在住が長い方や生活に慣れている方でも日々の天気予報の確認は“Must”です。冬場のスノー・ストーム(雪嵐)やフリージング・レイン(氷雨)などは大袈裟でなく命に関わりますので、油断は禁物です。先月半ばに南・北カロライナ両州を中心に襲ったハリケーン『フローレンス』の被害が深刻です。カテゴリー(規模・強度)としては左程ではなかったものの、降雨域の広い巨大な雨台風の様相で上陸前も後も移動が遅く、同地域に長く停滞気味となり、大量の雨を降らせて諸都市に洪水または浸水・冠水の被害をもたらしています。上陸前と直後は海側から強風で煽られた海水が河口や河川を逆上し大量に降った雨を排水する逃げ場がなくなって氾濫するパターンでした。全て道路が遮断され完全に孤立して陸の孤島化した町もありました。未だに洪水の危険が続く地域もあるようですが、これ以上被害が広がらないことを祈るばかりです。亡くなられた方々、被災された方々には慎んでお悔やみ申し上げます。

さて、今回のテーマは『スポーツ選手の光と影』です。

日米ともプロ野球はレギュラーシーズンの大詰めからプレーオフに差し掛かる時期となりました。日本では広島東洋カープが一足早くセリーグ3連覇を達成、常勝軍団化・ダイナスティー(王朝)化の道を力強く進みつつあります。パリーグは本稿作成時点で埼玉西武ライオンズが10年ぶりの優勝まで後1勝のマジックナンバー1で足踏み状態ですが、こちらも時間の問題でしょう。一方当地米国ではアリーグ、ナリーグとも地区優勝、プレーオフ出場権獲得チームが次々と決まりつつあり、それぞれワールドシリーズの栄冠を目指して最後の追い込みの最中です。プレーオフ出場の有無に拘わらず、現役選手達は日々努力を続けている訳ですが、見た目は華やかなスタープレーヤーでも光と影が交差する選手生活を送っています。

地元タイガースは既にシーズン半ばのオールスターゲームの頃には早々にプレーオフ進出の望みを断たれ、今は来シーズンに向けた若手育成、素材発掘に目を向けている状態です。長年ミゲル・カブレラ選手と共に打線の中軸を担ってきた私の好きなヴィクター・マルティネス選手が優勝から遠ざかったまま今季限りで現役引退を表明したのは寂しい限りです。引退後の新たな人生に幸あれと祈念します。三冠王やMVPを取ったことのあるカブレラ、マルティネス両選手や昨年シーズン終盤にアストロズに移籍していきなりワールドチャンピオンチームの一員となったサイヤング賞、MVP経験者のバーランダー投手のような才能豊かなスタープレーヤーがいても、監督・コーチを含めた全体のチーム力、競合チームとの力のバランス、タイミングとモメンタム(勢い)、それに多少の運がないと優勝は難しいですね。カブレラ選手も近年は怪我が多く、シーズンを通して安定した力を発揮出来ていません。彼も後何年現役としてプレー可能か分からず、世代交代と次代のスタープレーヤー探しは喫緊の切実な問題となっています。彼らスタープレーヤーの過去の栄光が光の部分ならば、近年の怪我や体力の衰えは影の部分ですね。

余談ですが、今シーズンだけでなく、タイガースは絶対的なクローザー(抑えのエース)と信頼出来るブルペン(中継ぎ投手陣)の不在、年間10~15勝が計算出来る複数の先発投手不足、投手戦・僅差の勝負になった際に極端な場合たとえ安打なしでも

1点を取れる足を絡めた緻密な野球の欠如が長年続く問題点ですね。来年もハードルは高いですが、楽しみな若手も数名出て来たので、投手陣の強化が急務と思います。

今年華々しくMLBデビューしたアナハイム・エンゼルスの『二刀流』大谷選手も若くしてMLB1年目で光と影を体験した一人です。べーブルース以来の本格的『二刀流』として投手でも打者でも試合に出れば、いや出ない日でも、毎日のように紙面やメディアを賑わし、我々日本人だけでなく米人やプロ、アマ問わず野球を愛する人々の衆目を集めましたが、オールスターゲーム前に右肘の靭帯に損傷が見つかり、しばらく投球を見合わせ、自然治癒を目指した後最初の先発ゲームで3回もたずに降板し、直後の検査で同じ右肘靭帯の別の箇所に新たな損傷が発見され、担当医からはトミージョン手術を勧められると同時に残りの今シーズンは投球を断念、打者としてのみの出場となったのはご承知の通りです。日本でも怪我による休場が毎年のようにあった彼ですが、MLBでも一番心配していた怪我が現実の物となってしまい、シーズン初めの熱狂と称賛に酔っていた野球ファンは大いに落胆しました。投手としての大谷選手は見られなくなりましたが、打者として見る機会はほぼ毎試合のように増え、特大のホームラン、高初速の矢のような安打、俊足で稼ぐ内野安打、盗塁などで我々の目を楽しませてくれているのは不幸中の幸いです。周囲の落胆を意に介さず、大谷選手自身は一切ネガティブな態度を示さず、『塞翁が馬』、「災いを転じて福と成す」の言葉通り、常に前向きなポジティブ思考で相変わらず試合に出れば全力でプレーし楽しんでいるように見えます。一時は全く可能性がなくなったかに思われた新人王の最有力候補に再浮上した今は、強烈な光に影が差しかけたのを振り払って再び光輝く状態に戻したような感じです。TV解説の張本さんではないですが、「あっぱれ!」と言いたいですね。

また、男子プロゴルフのフェデックスカップではプレーオフ最終4戦目のツアー選手権でタイガー・ウッズ選手が5年ぶりの公式戦優勝、総合優勝はジャスティン・ローズ選手の手になりましたが、ゴルフファンが半信半疑で復活を待ち焦がれていた強いタイガーが復活しました。女性問題、度重なる腰痛治療・手術などで復活を疑う向きも少なからずありましたが、ゴルフ界にとっては朗報でしょう。日本の松山選手は優勝争いに絡めず、今シーズンは未勝利で終わりましたが、来シーズンに強いタイガー他を打ち負かして悲願のメジャー初優勝を実現する活躍を期待しましょう。

タイガー・ウッズ選手を見てもアマからプロに転向後の10年程は破竹の勢いで出れば連戦連勝、「向かうところ敵なし」状態で一緒にプレーする選手達は優勝は諦め2位狙いという感じでした。年間最多勝・賞金王・最優秀スポーツ選手賞、MVPなどありとあらゆるタイトルや名誉ある賞を総なめし、ジャック・二クラウスのメジャー勝利数記録を抜くのも時間の問題と思われましたが、お父様が亡くなられた頃から自己抑制、自己管理に破綻を来たし、女性問題、離婚、腰痛、背痛など次々と大きな問題に直面し人生一気に暗転。身から出た錆とはいえ、彼も光から影への凋落と苦渋を体験しました。長いトンネルを抜けた先日の復活優勝は影から再び光へ転じる吉兆でしょうか?

プロテニス男子の錦織選手も『怪我のデパート』と言ってもいい程ありとあらゆる怪我を経験し、その都度諦めずに復活して来た一人です。2014年の全米オープンで準優勝し、メジャー大会制覇に手が届くかもと思わせた頃は光が一番強かったですが、その後はプレーの調子がいい時に限って脇腹や背中、太腿、手首など次々に怪我をして影が差しました。直近の手首の怪我は一番大きな怪我で長引き、今でもフォアハンドのショットを恐々打っているように見える時があって、100%は完治していないのかもしれません。フェデラー選手、ナダル選手、ジョコビッチ選手、ワウリンカ選手、ロニッチ選手も皆怪我から復活しております。足腰の怪我で長期離脱していたマレー選手もここ数回トーナメントに出ましたが、好調時のプレーには程遠く、先日出場したトーナメントで今シーズンは打ち切り、来期に期することになり、影の期間が長引いています。彼にも再び光が差しビッグ4の復活が実現することを願っています。

日本人男女を通じて初のメジャー大会制覇となった今年の全米オープン女子シングルス優勝者の大坂なおみ選手は目下最も注目を浴び光り輝いているプレーヤーですが、疲れが溜まったり、怪我をしたりして影が差さないことを願いながら応援しましょう。『スポーツ選手の光と影』、我々にも当てはまるかもしれません。

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。

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