6月12日、デトロイト美術館(DIA)において、「美術館における日本美術や文化活動を通して日本と地域の絆の強化」にスポットを当てたシンポジュームが開催された。昨年11月の日本ギャラリー開設以降、協力関係を深めている当地の日本商工会(JBSD)とDIAが共催して実現した。

 シンポジューム前半のパネルディスカッションでは、数年前よりの日本コミュニティとDIAとの結びつきから、日本ギャラリーの創設と美術品、そして100年以上前に既にデトロイトの地で日本美術を高く評価していたチャールズ・ラング・フリーアの功績などをパネリストが紹介した。モジュレータはミシガン大学日本研究センター所長である筒井清輝氏が務め、

JBSD顧問でありDIAのボードメンバーでもある大光敬史氏、DIAの日本ギャラリー計画推進の担当者並びにアジア美術学芸員、ミシガン大学美術館アジア美術学芸員でありDIA日本ギャラリーの展示に関わっている及部奈津氏がパネリストを務めた。

 大光氏からはデトロイト市の破綻によりDIA存続が危ぶまれた中でJBSDが日本コミュニティに呼びかけて寄付金を集め、“アジアギャラリー”の再構築の実現に使う条件で寄付した件や、日本ギャラリー開設までの経緯などの説明がなされた。

 DIAの担当者からは選択した美術品をどう紹介するかを決めるにあたっては、地元の日本人を含める大勢の幅広い人々の意見を集めて吟味反映した旨など、また、DIAアジア美術学芸員からは同ギャラリー全体のテーマ「静と動」についてや「単なる美術品の展示ではなく実生活の中で生きづいた文化を紹介する工夫がされているとの解説があった。この11月には他のアジアギャラリーもオープンする喜びの声も付け加えた。

 及部氏はDIA日本ギャリーの展示品について一点ずつ解説した後、ミシガン大学美術館における日本美術収集品の規模や価値、そして近年行われた日本関連の特別展や招へいした芸術家について紹介した。また、今年70周年を迎えたミシガン大学日本研究センターが果たしてきた役割にも言及した。

 日本美術収集家として知られるフリーアの功績と収集品については、DIAの近くに現存するフリーアの元邸宅(通称フリーアハウス)の責任者(Mr.Colburn)が解説した。残念ながらフリーアのコレクションはワシントンDCのスミソニアン博物館群の一つであるフリーア美術館に収蔵されているが、フリーア自身が設計やデザインにこだわり関わった元邸宅には建築様式や内装に日本の影響が見られる。

「日米間の国交に波があったが、文化芸術を通じた交流は続いてきた証であり、貴重である」といったメッセージを述べた。

 DIAアジア美術学芸員は「政治的な関係がどうであれ、美術品にはリアルパワーがあり、人々やコミュニティに訴えるものがある」とまとめた。

 後半には、研究者として北米3拠点(デトロイト、ボストン、ニューヨーク)をご視察中の宮家三笠宮彬子女王様による特別講演が行なわれた。西洋人の日本画の鑑賞方法が19世紀から現在までどのように変わったのをテーマに、日本画がいかに外国に渡り評価を得るに至ったか、また代表的な日本画の外国人コレクターの果たした役割などについて、多数の画像やデータを映し出しながら進められた。彬子女王様は、オックスフォード大学で博士号を取得している日本美術学者であられるが、本講演は一般公開とあり、美術専門家ではない多くの聴講者にも分かりやすい内容で行なわれ、「日本美術に対する興味と理解が深まりました」など好評の声が多く寄せられた。

 並行してDIAの広間:グレートホールにおいて、昨年の日本ギャラリーオープンイベントの時にも渡米し講演や実演を行なった工芸師匠:日本手ぬぐい工芸師の川上千尋師匠、市松人形の藤村光環師匠のお二方による実演が行なわれた。藤村師匠は、デトロイト児童博物館所蔵の答礼人形(Friendship Doll)である「Miss Fukiko Akita(秋田蕗子)」のペアとなる男子人形を端午の節句の備品一式ともに制作し、今回、その人形をDIAに贈呈。会場には二つの人形が飾られた。

 この機に合わせてデトロイト補習授業校では、小学部5・6年生と中学部の生徒を対象に男子人形の名前を募集。この日、贈呈式が行われ、名付け親となった水井彩里奈さん(中1)も贈呈式に参加し、名前に込めた思いを伝えた。名前は友情が輝き続くようにと、「友輝(ともき)」。藤村師匠から、「素晴らしい名前を付けてもらえて嬉しい」との言葉が水井さんに 直に伝えられた。

 

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