
昨年11月にデトロイト美術館(以下、DIA)に常設の日本ギャラリーが開設された。オープニングの週末の日本紹介のイベントに訪れた者の一人として、アメリカの地にいながら、身近にしかもこれほどまでの素晴らしい展示やパフォーマンスを目にすることができたのは心に深く残っている。そして、今年5月にその感動がまた深まった。
「会わせたい人がいるから」と、日曜日の昼過ぎ我が子と訪れた場所はデトロイト児童美術館。その前の日には、JBSDの顧問の方が我が子が毎週通っているりんご会補習授業校の小学部で「答礼(とうれい)人形」のお話をなさった。くしくもそれは5月5日こどもの日だった。日米の関係が悪化し始めた1920年代に、子どもたちのお互いの国の関係を育んでいこうという志のある方々の提案で、アメリカ側から約1300体の青い目の人形、それに応える形で日本から58体の市松人形が贈られ「答礼人形」と呼ばれている。その1体は「デトロイト児童美術館」が所蔵しているという。偶然にもDIA日本ギャラリー開設の際に招かれた人形師藤村光環氏の師匠のそのまた師匠が製作したことが確認されている。縁の深さを感じて、ダウンタウンよりも少し北のWayne State University近くの
「デトロイト児童美術館」に思い切って行ってみた。
美術館はデトロイト公立学校区(DPS)所有なので、平日以外は休館している。この日偶然仕事に来ていた係員の厚意で拝見できた。「秋田蕗子(あきた ふきこ):Miss Akita」は、美術館の一角のガラスケースの中に展示されていた。水色の地に桜が描かれた振袖に、朱色の帯には亀の甲文様と白い大輪の菊。人形が贈られてから90年ほど経っているのに見事な存在感があり、当時の鮮やかさが偲ばれる。さまざまな外部サイトによると、「お嫁入り道具は老舗デパートのもの」、「お人形は日本の商船会社の船に乗りパスポートも持参していた」と書かれている。確かにガラスケース内にはお嫁入り道具のたんすや茶道具のほか、高島屋の商号のついたぽっくり下駄、パスポートや奥付のようなカードもあった。
To All Young Friends in the United States:
You are Kindly requested to accept the pretty bearer of this Passport of Goodwill as a messenger sent by your young friends in Japan to convey to you their sentiment of warm regard and friendship. Please be good to her, and she will stay with you all her life, always a pleasant companion and a true friend.
All the people of the Land of Cherry Blossoms. October 30, 1927
当時の日本の子どもたちの気持ちをのせて、横浜からサンフランシスコまで日本郵船の一等席で旅立った。当時の旅客運賃は$300ドルだが、「その半額の$150」という記述も乗船券にあった。普段は美術館にはあまり興味がなさそうな我が子も英語で説明の書かれた日本とアメリカの架け橋のお人形についてはじっくり見ていた。
Miss Akitaの隣りには、答礼人形が贈られてから88年経ったことを記念するPeace Cupが贈られた説明と、妹分に当たる市松人形もあった。説明の中に、日本では88年は人生にとって重要な年、と書かれており、米寿のことを指しているのだ。係員の方によると妹は「ゆきこ」と言う名前だそうだ。
美術館自体は、デトロイト・エジソンの建物を改修した建物で、1917年に開館。90万点にも上る展示物は、ミイラのレプリカからCrazy Bullと呼ばれたLakota Sioux Chiefの戦闘用のこん棒とバラエティーに富んでいる。140人までのフィールドトリップ収容可能人数だが、DPSの学校日に限る。
彼女とは全く反対の立場のアメリカからの「青い目の人形」が日本の実家近くの小学校に寄贈され、保管されていることも、今回知った。また、前述の藤村光環氏が秋田蕗子: Miss Akitaの相方をDIAが縁で作成なさっているそうだ。さらに、Miss Akitaの弟の人形もいる、との情報も聞こえてきた。
「Miss Akita」のことを身近に感じつつ、90年もの間日米の友好の証としてこの美術館の一角にお人形がたたずんでいることは同じアメリカに住む日本人として感慨深い。人形に思いを託した方々とその思いをコミュニティーへと引き出してくださる方々。こどもの日のサプライズが思いがけず、大きな夢を思いを膨らませる日となった。
Detroit Children’s Museum
6134 Second Avenue
Detroit, MI 48202