
この11月、デトロイト美術館(以下DIA)に常設の日本ギャラリーがオープンし、その祝賀記念として多様な日本文化紹介のイベントがデトロイト日本商工会(JBSD)とDIAの共催により盛大に催された。この日のためにJBSD側はイベントの専任チームとしてジャパンチームを結成。現JBSD顧問の大光敬史氏がチームと責任者となり企画・実行し、美術館側との調整を進め、今回の成功に至った。
遡れば、2013年にデトロイト市破綻とともにDIAも破綻したが、その翌年にJBSD企業会員を中心とした日本コミュニティから$3.2ミリオンという多大な寄付金もあってミシガンが誇る美術館は存続。そして、その後DIAとデトロイト市救済のためにJBSD会員が寄付した一部をつかって、日本ギャラリーが開設された。同ギャラリーは日本コミュニティとデトロイト市の絆が形になったスペースと言えよう。大光氏はアメリカのメディア向けに「当地の日本コミュニティとミシガンの人々は長い間、共に成果と友情のつながりを享受してきました。この絆を築けたことに対して、私たちが働き暮らしている地域社会に還元したいと思いました」と支援の源にある思いを表明している。
11月4日の日本ギャラリーの一般公開に先駆けて11月2日には、DIAの大ホール:Great Hallに於いて、ミシガン州知事、在デトロイト総領事ほか政府関係者、大口寄付会社の代表者、さらに日本より滋賀県副知事、豊田市長など、約150人を招いて、Japan Galleryのテープカットとギャラリー見学、そして晩餐会が行われた。ミシガン州と姉妹県である滋賀県が晩餐会で供された白米と信楽焼の茶碗を用意したほか、文化紹介イベント中には滋賀産の煎茶の試飲や淹れ方実演を提供、当地総領事館は和菓子作りのブースを担当。デトロイトと姉妹都市である豊田市からは『棒の手』という農民の武術がもとになった武術の保存会グループが実演披露のために来訪した。
このイベントのために、高校生を主とする10名の着物ガールズと8名の法被(はっぴ)ボーイズのボランティアグループが結成され、着物ガールズは来賓客の誘導やテープカットの介添えなどを、法被ボーイズは御神輿かつぎなどを受け持ち、会場に華やかさや凛々しさを与えていた。
晩餐会では、DIAの理事長、和田総領事、シュナイダー州知事、滋賀県副知事、そして藤田JBSD会長が挨拶に上がり、それぞれが、日本ギャラリー開設の祝辞に加えて、日米の良好かつ強い絆を喜び、その継続を祈念する言葉を述べた。シュナイダー州知事が、滋賀県を訪れ交流したことに触れたあと、「市の破綻という困難な時に、日本の企業・人々という大切な友がいてくれた。乗り越えたことを誇りとし、祝そう」「“美”や“人”の意味するところと素晴らしさを子供たちに、その子供たちに伝えたい」と述べた言葉に多くの参席者が頷いていた。続いて、用意された三つの樽酒で鏡開きが行われ祝賀ムードが最高潮になり、豊田市長の音頭で参列者全員による乾杯が挙げられた。
会の終盤には、日本文化紹介のために日本及びロサンジェルスから来訪した6人の伝統工芸の匠と和菓子職人夫妻の紹介、そして、『棒の手』の武術実演、さらに、50か国以上で海外公演を行なってきたプロの舞踊集団『菊の会』による阿波踊りも披露された。そして最後に、一連のイベントの立役者である大光氏が閉会の辞として、日本ギャラリー開設が実現した喜びと週末の文化紹介イベントの成功を祈念することばに重ねて、文化を通した交流が続いていくことを願うことばなどを伝えた。
常設日本ギャラリーの展示品について、詳細は次号1月号に掲載する予定だが、ざっくり言えば“数より質”で、単なる展示ではなく、能の面や衣装などの隣には日本で作成された概説ビデオ上映があり、掛け軸は本格的な床の間に1点のみが収まっており、茶道具の横にはデジタルの“茶の湯体験コーナー”が設置されている。背景にある伝統文化や、生活の中での美術品の在り様を伝えることに重きを置いている。屏風や掛け軸は季節に合わせて展示を替えていくとのこと。伝統的な物ばかりでなく、入り口には現代作家によるセラミック作品が鎮座し、その奥に配置された兜と好対照をなしている。
日本ギャラリーの奥のスペースには特別展示の茶室が出現。一枚壁ではなく、籠のように外から見通せるデザインで、伝統的な形式とは異なるアート作品であるが、他の展示先では中で実際にお点前を供し、外部の自然とつながる特徴的なスタイルについて茶人からも称賛を得たという。
さらに奥の天井の高い大空間には御輿が飾られ、祭り風景の大画像が壁に投影されていた。この御輿は、本イベントのコーデュネーターを務めた伊東氏の父親である御輿職人が寄贈したとのこと。
多くの人々の関りと奔走・尽力があればこそ、ここに在る展示品の数々である。
4日と5日の午前10時から閉館時刻の午後5時まで終日、館内の6カ所の会場で披露された幅広い分野の日本文化紹介イベントは、日系コミュニティと当地とのかけがえのない絆を祝すにふさわしい、非日本人にとって、また、日本人にとっても貴重かつ多彩な内容で、両日ともに訪問者が溢れるほどの賑わいをみせた。
日本の伝統工芸や和菓子の師匠による実演や講演、そして舞踊や武道の披露のほか、アニメーション映画『君の名は。』の上映もあり、日本で大ヒットした作品を当地で鑑賞できる機会にも恵まれた。
多くの時と人力を投じて準備を進めてきた大イベントは盛況のうちに終了したが、何らかの形でDIAでの日本文化紹介の企画を催してゆくとの話である。今後の展開に目が離せない。