
去る9月末、ミシガン大学日本研究センター(通称CJS)の主催によるデトロイトそして日本のコミュニティ再建に関するイベントが実施された。CJS創立70周年の記念として企画された特別シンポジウム・シリーズの一つである。
農業 ~ 9月27日には、デトロイトにあるPLUM STREET MARKET GARDENを会場に農業起業に関するコンファレンスが開かれた。PLUM STREET MARKET GARDENはKeep Growing Detroitというデトロイトを発展させる使命を持つ団体の運営。デトロイトの食に関する産業や食文化を向上させるための研究施設を兼ねたガーデンで、適した品種や生産方法を栽培を通して模索しつつ、地元の農業従事者や新参を考えている人々に教授している。子供たちが作物について学ぶ場にもなっている。MGMグランドホテル&カジノが間近に見える都会の中心地であり、広大とは言えないスペースだが、温室も備え、膨大な種類の作物や花を栽培している。非雇用者が多く、また荒廃によって空地も多いデトロイトで、近年、都市近郊農業が伸びつつあるが、知識提供などのバックアップは不可欠である。
また、野菜の購買者である人々の食に対する意識:ジャンクフードから野菜へのシフトという変化も必要であり、この企画をに協賛したFoodLab Detroitは食関連のビジネス推進のみならず、そういった知識の普及も行っている。デトロイト市も様々な形で支援し、コミュニティを健全化・活性化しようと努めているということである。
日本から共催参加したのは、宮城県を拠点とする農業生産法人GRA inc。代表である岩佐大輝氏は東京でIT関連の会社を設立していたが、東日本震災後、郷里に戻り、ITなどの技術を駆使した先端施設園芸による「東北の再創造」に尽力。地元のイチゴビジネスに構造変革を起こし、ひと粒1000円で売れる「ミガキイチゴ」を生み出したことで注目を集めた。土が被害を受けたため、従来どおりの栽培は難しくなり、画期的な栽培方法を模索。熟練生産者から学びつつも、ITを駆使し、経験に頼らない管理システムを構築し、成功にこぎつけた。被災地での活路であったばかりでなく、日本の若い後継者もシステムを学んだり、さらには人出不足で悩むカルフォルニアのファーマーも関心を寄せているという。既にインドでは企業とNPOの協業でオペレーションを展開しており、ハウスでの日本品種のイチゴ栽培をしているという。岩佐氏は「被害による土の汚染がなければ、新しい方法は受け入れられなかったと思う」と話す。ちなみに、カルフォルニアでは、移民などが農作業の大きな担い手であるが、地味な土いじり作業が多い農業には就きがらない人が増え、労働者の確保が難しくなっているフォームもあるのだそうだ。IT管理という技術重視の栽培方法や安定性が注目と期待を集めている。
デトロイトと日本の被災地で、どちらも、いってみれば“負”または“無”から、復興ではなく新興を目指している。デトロイトにおけるビジネスとしての農産物生産はまだまだ道半ばであるが可能性は十分にあることがデータも元に語られた。新参者でも生産管理ができる加藤氏のシステムに大いに関心が集まっていた。
イベント中には、デトロイト産のハーブティーやここで採れた作物で作ったマリネサラダ、さらにはミシガン産のイクラの握りずしもサンプルに出され、当地における地産の広がりを知ることができた。
家具 ~ 9月28日から30日まで、東日本大震災による津波の被害を受けた石巻で「地域のものづくりの場」としてスタートした家具メーカー『石巻工房』の米国初の展示会がデトロイトのダウンタウンで開かれた。展示会に出展されたのはシンプルな台やベンチなど、規格サイズの木材で簡単にDIY:自作ができるものばかり。椅子にもテーブルにもなるストール(右上写真の手前)は、組み立て後は重ねることができるため多機能かつコンパクト収納という優れものである。技術と物資が限られた中、仮設住宅での利用を考慮して一流デザイナーたちが考案した製品であるが、石巻工房を立ち上げ、プロダクト第1号となる「石巻ベンチ」をデザインした芦沢啓治氏の説明を受けてさらに驚いたのは、床面がスムースでなくとも加重が掛かることによってガタつかなくなること。接点に遊びを設けてある故との話。これらの機能的で美しい家具、そして工房の一連の取り組みは国内外のメディアに広く注目されている。
制限が多い中から優れたものが生まれた。前述のイチゴ栽培に通じるものがある。芦沢啓治氏はミシガン大学で『Community Building and DIY Design』 のタイトルで講演も行なった。
一連の企画として他にも、コミュニティー・デザイン、空き家・空き店舗など不動産問題などのコンファレンスも催された。