グローバル社会で活躍できる資質を育むために~「サマーキャンプ in ぎふ」を振り返って 3

楽しかった「いかだ川下り」と川遊び米日教育交流協議会(UJEEC)・代表 丹羽筆人

日本の里山で毎年実施している日本語・日本文化体験学習プログラム「サマーキャンプ in ぎふ」(米日教育交流協議会主催)は12年目の実施を無事終了しました。12年間の総参加者数は237人。内訳は、男子が118人、女子が119人。小学生が88人、中学生が1127人、高校生が22人。また、アメリカからの参加者は約80%の195人で、カリフォルニア州が77人と最も多く約40%です。次いでニューヨーク州18人、ワシントン州が15人、ニュージャージー州とテキサス州が各10人で、その他幅広い州から参加しています。また、アメリカ以外の国や地域では、カナダ、メキシコ、イギリス、アイルランド、ベルギー、トルコ、中国、香港、台湾、タイ、シンガポール、ナミビアから参加しました。また、日本にあるインターナショナルスクールやアメリカンスクールの生徒の参加もありました。この多くはアメリカの出身で、父親の転勤のため日本に在住しています。

また、参加者の多くは母親のみが日本人という子どもですが、父親のみが日本人、両親ともに日本人という子どももいます。

いずれも英語など現地の言語が第1言語で日本語が第2言語という子どもですが、最近は両親ともに日本人ではなく、日本での在住経験もなく、現地の学校で日本語を学習している子どももいます。

ここで、「サマーキャンプ in ぎふ 2017」の実施概要を記します。

目的―海外に暮らし日本語学習中の子どもが日本の自然、文化、歴史に触れ、地元の人々と交流することによって日本語・日本文化を心と体で体感し、積極的に日本語を学習し、日本の生活習慣を習得しようとする意欲を芽生えさせる。

SONY DSC主な体験内容―古民家の生活体験、農作業体験、ものつくり・食つくり体験、自然の中での遊び(川遊び、ハイキングなど)体験、寺院での座禅体験、史跡の見学、伝統工芸・芸能体験、スポーツ交流、地元民家でのホームステイ *第1期では学校体験、第2期では「いかだ川下り」体験もある。

活動拠点―岐阜県山県(やまがた)市内の里山

参加対象―海外に暮らす日本語学習中の小学4~6年生、中学生、高校生

*第1期は小学5年生以上、第2期は小中学生のみ

古民家での薪割り体験実施期間―第1期:7月8日から17日(9泊10日)、第2期:7月25日から8月1日(7泊8日)

「サマーキャンプ in ぎふ2017」の活動内容

次に、実施した体験プログラムのいくつかを紹介します。

●古民家生活体験

築140年の古民家にて、薪割りをして、かまどでご飯を炊き、カレーライスを作りました。昼食後には、古民家の脇を流れる源流近くの川で泳いだり、水鉄砲をしたりしました。水はとてもきれいですが、とても冷たく寒くなるほどです。冷えた体は、薪で沸かした五右衛門風呂に入って温めました。親の世代でも経験がない昭和初期以前の生活を体感しました。

●寺院体験

寺院にて座禅と習字、写経を体験しました。座禅では、いつもおしゃべりの多い子どもたちも、住職の話にしっかり耳を傾け、真剣に取り組んでいたのが印象的でした。座禅の後は、好きな字や言葉を筆で書く練習をし、最後はうちわに清書をしました。第2期では写経をし、難しい漢字にチャレンジしました。

●ホームステイ

地元の民家にて2泊3日でお世話になりました。家族構成や家庭での過ごし方は様々ですが、海外や都会とは異なる里山の住居やそこで暮らす人々の日常生活の体験は新鮮なものだったようです。

●学校体験(第1期のみ)

地元の公立小学校、中学校、高校に3日間の体験入学をしました。同年齢の子どもたちとともに授業を受け、給食や掃除をともにしました。特に休み時間は一緒に遊んだり話したりして交流を深められました。

●スポーツ交流(第1期のみ)

元小学校を改修した「北山交流センター」の体育館にて、地元の青年たちとドッジボールや玉入れ、大縄跳びなどを楽しみました。

●伝統芸能体験(第1期のみ)

伊自良地区に伝わる十六拍子という和太鼓を体験しました。保存会の方々の演奏を聞いた後、皆さんの指導の下、太鼓の演奏にチャレンジしました。

●史跡見学(第1期のみ)

戦国時代に美濃国を治めていた土岐氏の本拠の大桑地区にて、寺院や神社を見学しました。また、旧家にお邪魔して、火縄銃も見せていただき、戦国時代を実感することができました。

●いかだ川下り体験(第2期のみ)

鵜飼で有名な長良川の支流の武儀川で29年間にわたって行われているイベント「美山いかだ川下り」を主催するYACCの青年たちの指導の下、いかだを作り川下り体験をしました。途中で転覆したり、破損したりというトラブルもありましたが、岐阜の自慢の清流を肌で感じることができました。川下りの後は、バーベキューを楽しみながら、心行くまで川遊びをしました。

●農作業&食つくり体験(第2期のみ)

地元のおばあさんやおじいさんの指導の下、地元で収穫した、なす、ピーマン、オクラなどを収穫し、炒め物や天ぷらなどの料理を作りました。日常では感じられない野菜のおいしさを実感できました。

●ものつくり体験(第2期のみ)

自分で選んだ木で箸作りをしました。指導者は、岐阜大学の先生と学生さんです。かんなを使って形を整える作業は難しいのですが、子どもたちは集中して取り組みました。

●伝統工芸体験(第2期のみ)

山県市特産の渋柿を利用した柿渋染めを体験しました。柿渋独特のにおいにもすぐになれ、思い思いの作品(箸袋)を仕上げました。指導者は、地域起こしのために都会から移住した方です。子どもたちのオリジナリティーあふれる作品を高評くださいました。

神主さんの神社の説明さらに広がった参加者の在住国

参加者数は第1期、第2期ともに11人で内訳は以下の通りです。第1期は高校生1人、中学生9人、小学生1人。男子8人、女子3人。アメリカ在住が9人で、カリフォルニア州が5人、ニューヨーク州が3人、アリゾナ州が1人、また中国とナミビアから各1人です。第2期は中学生が8人、小学生が3人。男子6人、女子5人。アメリカ在住は9人で、ニューヨーク州が3人、カリフォルニア州が2人、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ワシントン州、ハワイ州が各1人、またシンガポールと日本が各1人です。日本在住の子どもはニューヨーク出身です。

今年もアメリカ以外からの参加者がいましたし、最多のカリフォルニア州に加え、ニューヨーク州からの参加者が目立ちました。

「サマーキャンプ in ぎふ」の成果と課題

12年目を迎えた今年のキャンプは、4年前に山県市に活動拠点を変更し、方向転換をしましたが、山県市での実施も、地元のスタッフたちの受け入れ体制もかなり整ってきたのを感じています。その分、子どもたちはこれまで以上に楽しめましたし、有意義なものとなっています。

また、地元の人々の関心も高まっており、ホストファミリーの希望者は年々増加しています。学校も児童生徒たちが貴重な体験ができたと高評くださっています。さらに山県市や教育委員会も歓迎の機運が高まっています。

このような成果の一方で、日本語学習のモチベーションをより向上させること、日本文化、特に礼儀作法をいかに習得させるかなどの課題もあります。

サマーキャンプ参加の子どもたちの日本語力は様々ですが、多くの子どもたちは、家庭内での日常生活を送れる程度の必要最低限の会話力はあるものの、日本の学校の授業に参加するのは難しいという子どもが目立ちます。また、日本の学年相当の読み書きの力がある子どもは、ごく少数です。将来、日本の社会と関わる仕事に就くということであれば、会話だけではなく、読み書きの力も向上させてほしいと思います。また、敬語も使えるようになってほしいです。サマーキャンプが日本語学習意欲の高まりに影響することを期待しています。

農家の料理を教えてくれた皆さんと一方、日本語力の向上だけではなく、日本文化の理解も推進したいと思います。特に、礼儀作法は日本社会と関わっていくためには重要です。子どもの時なら許されるような不作法は社会人になってからは通用しません。サマーキャンプでは、食事の作法、あいさつの励行、目上の人との接し方なども指導しています。ただし、限られた日数で徹底することはなかなか難しいです。

いずれにしても、サマーキャンプ参加の子どもたちが、将来、日本の文化も十分理解しているバイリンガルとしてグローバル社会で活躍する社会人となれるよう導いていくことが、サマーキャンプの大きな課題だといえます。

執筆者のプロフィール:河合塾で十数年間にわたり、大学入試データ分析、大学情報の収集・提供、大学入試情報誌「栄冠めざして」などの編集に携わるとともに、大学受験科クラス担任として多くの塾生を大学合格に導いた。また、全国の高等学校での進学講演も多数行った。一方、米国・英国大学進学や海外サマーセミナーなどの国際教育事業も担当。米国移住後は、CA、NJ、NY、MI州の補習校・学習塾講師を務め、2006年に「米日教育交流協議会(UJEEC)」を設立し、日本での日本語・日本文化体験学習プログラム「サマー・キャンプ in ぎふ」など、国際的な交流活動を実践。また、帰国生入試や帰国後の学校選びのアドバイスも行っており、北米各地で進学講演も行っている。河合塾海外帰国生コース北米事務所アドバイザー、名古屋国際中学校・高等学校アドミッションオフィサー北米地域担当、名古屋商科大学アドミッションオフィサー北米地域担当、デトロイトりんご会補習授業校講師(教務主任兼進路指導担当)

◆米日教育交流協議会(UJEEC)  Website:www.ujeec.org

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