何と早9月になってしまいました。Labor Dayの連休が終わり、現地校は新学期の始まりです。日本の学校より夏休みが長い米国では休み中に遊び呆けた学生・生徒が休み前に学習した事をすっかり忘れたり、うろ覚えの状態で授業を受けるケースがあるため、後戻りして先ず復習に時間を割かねば先に進めないという話を耳にした事がありますが、最近はどうなんでしょうか?先月は日本で集中豪雨やゲリラ豪雨被害のニュースがありましたが、こちら米国では8月最後の週末にテキサス州が10年振りに来襲した大型ハリケーン『ハーヴィー』の直撃を受け、大雨と大洪水に見舞われました。ロックポート付近に上陸後は熱帯低気圧に勢力が衰えたものの、その後も連日の雨で行き場を失った雨水が州内多数の都市や町に溢れ、交通網を遮断して浸水・半水没した家屋に閉じ込められたり、孤立した人々の救助活動や飲料水・食料などの救援物資の運搬輸送も今なお悪戦苦闘の状況です。被害に遭われた方々に心よりお悔やみを申し上げると共に一日でも早い復旧を願うばかりです。

スポーツの世界では、プロ野球日米ともリーグ優勝、プレイオフ進出を目指したレギュラーシーズン最後の追い込みに入りましたが、最後に笑うチーム、涙を飲むチームはどこになるでしょうか?ファンにとっては毎週どころか毎日日替わりで一喜一憂するホームストレッチの時期ですね。当地MLBでは、期限ぎりぎりにアリーグのテキサス・レンジャースからナリーグのロスアンゼルス・ドジャースにトレード移籍したダルビッシュ投手始め日本人選手のプレイオフでの活躍に期待と応援をしましょう。テニスでは

現在ニューヨークで開催中の今年最後のメジャー大会USオープンは上位トップ10ランク者7名の負傷欠場が相次ぎファンにとっては物足りない大会になってしまいました。日本のエース錦織選手も右手首腱の裂傷で今期残りのシーズンは完全休養と怪我の回復に努める由。過密な年間試合スケジュールと厳しい練習による疲労の蓄積と体への負荷・負担で肉体が悲鳴を上げた結果と思います。金属疲労ならぬ

『勤続疲労』ですね。春先とは別な箇所の怪我とは言え、クレーシーズンの頃から心配していた懸念が現実となってしまい、過去3年連続出場していた年間成績上位8名によるATPシーズンフィナーレロンドン大会出場も途切れてしまい大変残念です。短絡的に彼やコーチ陣を非難するのではなく、男子のATPツアー、女子のWTAツアー、各メジャー大会主催者・運営管理者に過密スケジュールの見直し調整を願うと同時にこれまで頑張り続けて来た彼の努力と実績に敬意と感謝を示すと共に、今はゆっくり休養し全ての怪我を完治した上で来期の完全復活、捲土重来を静かに待ちましょう。TV放送観戦の興味は半減ですが、USオープンと残りのシーズンはレジェンド的なフェデラー選手、ナダル選手と台頭著しい若手選手の新旧対決や若手同士の競り合いを見届ける事にします。

さて、今回のテーマは『トップの役割と責任』です。

今回のテーマも先月号のテーマ『政権運営とリスク管理』と大いに関係しますが、先月中旬にバージニア州シャーロッツビルで南北戦争時に南軍を指揮したリー将軍の銅像撤去・移転に反対する極右団体・白人至上主義者グループの集会が開催された際、それに抗議する人種・性差別反対、権利平等・機会均等促進グループのデモ行進の列に前者支持派の白人男性一人が運転する車が突っ込み、後者支持派の白人女性一人が亡くなり負傷者も多数出た事件がありました。その事件の直後のトランプ大統領の対応と複数の会見談話が極めて拙速で要領が悪く、しかも見解の論理性、一貫性を欠き、大きな物議を醸しました。

先ず第一に、事件が起きてから即日出すべき大統領談話が出るまでに2日も間が空いた事。第二に、最初の会見談話では加害者である犯人とその支持団体を形式的にしかも曖昧に非難したものの、具体的に国粋主義的極右団体(ネオナチス)や白人至上主義者グループ(KKK)を明確に名指しでは非難しなかった事。第三に、次の会見談話では加害者の支持団体・グループだけでなく死者が出た抗議デモグループにも暴力的行為があり、双方とも非難されるべきと修正発言し、それが暗に前者を容認・擁護する発言と受け取られても仕方なかった事。(実際に当該団体・グループのリーダーは大統領のその発言に感謝する旨の声明を即日発信。)第四に、大統領談話後の大統領報道官の記者会見での質疑応答もその都度内容が変わって一貫性、整合性を欠き、ホワイトハウス政権内の足並みの乱れ、対立政党である民主党からの非難だけに留まらず、身内の共和党内からも非難の声が出た事。これら全てが絡み合って全米を騒がす問題となり、既に史上最低レベルのトランプ政権支持率に加えて、政権の存続さえ揺るがす程の一大事となっています。

グローバルなニュースでは、先月号でも触れた北朝鮮問題が8月の上旬にトランプ大統領の扇動的かつ高圧的なツイートや会見談話とグアム島周辺へのミサイル発射計画をちらつかせた北朝鮮側の反発で一気に加熱し、米朝関係は今にでも軍事衝突かと思わせる過去最悪レベル、一触即発の緊張状態になりました。幸いその後中旬にはやや沈静化してグアム島周辺へのミサイル発射や恣意的あるいは偶発的な軍事衝突などは起こらず事なきを得ていましたが、下旬に実施された恒例の米韓合同軍事演習に対抗して北朝鮮が同期間中に日本海に近距離ミサイル数発を発射、続いて8月28日には日本の北海道襟裳岬上空を越えて太平洋側に落下する長距離ミサイルを発射しました。今月9日の北朝鮮建国記念日前か当日には更なるミサイル発射の示威・挑発行為の予想もあり再び緊張が高まる恐れがあります。米朝共に冷静な判断と大人の対応を心掛け、軽率な言動は切に自重して欲しいものです。

会社企業のトップと同様に民主国家のトップである米国大統領の役割は色々ありますが、民主主義に則り、憲法・法律を遵守し、国民の平和と基本的人権を守り、国民の融和を図り、国民に安全・安心を提供する大きな責務があります。上述のシャーロッツビル事件での対応や談話、北朝鮮問題に関する軽率で身勝手なツイートや談話はそれに逆行するように差別や暴力を容認・擁護し、国民の対立・反目・分裂を招き、不安と危機感を煽る言動と言わざるを得ません。

シャーロッツビル事件については当日の内に出来る限り早く大統領談話を出し、被害者への哀悼と加害者およびその支持団体・グループに対する明確な非難を表明し、暴力・差別追放を断固たる態度で示し、国民の融和を図らねばならなかったのに、そうしませんでした。

また、北朝鮮問題では無用なリスクを避け、局面の打開策を講じて国民や関係国の緊張と不安を取り除くか、少なくとも軽減する方向に持って行かねばならないところ、逆に自らリスクを増大し、唯でさえ険悪な米朝関係をこじらせ、局面を更に悪化させ緊迫化する過激な発言を繰り返し、徒に米国や関係各国の国民の不安を煽ってしまいました。国家のトップ、国の最終意思決定者かつ国軍の最高指揮権を持つ者としてあるまじき事です。軍事の専門家である軍幹部や政権幹部、アドバイザーとも緊密に連絡を取り合い、正確な最新情報入手、慎重な検討、意見交換もろくに行わず、自分の思いつきや生の感情の赴くままに発信・発言を繰り返し引っ込みがつかなくなってしまった感があります。

本来ならば実務ベースのプロの専任担当者が先ず相手国側と接触、交渉し、言うべき事、要求すべき事をはっきり伝え、意見の相違や利害関係を明確にし、双方メリットがあるように可能な限り摺り合せ、変更、調整するのが常道であり、仮に対立するような場面があったとしてもその上司、更にその上の上位者へと問題を持ち上げて行き最終的に双方合意可能な結論に平和的に収めるのが筋ですが、本来難しい状況を予め避けたり、起きてしまったら丸く収めるべき立場の最上位者である大統領が最初に事を荒立てる言動で動いてしまうと、部下や下位者も出番がなく、何をやっても調整や取りまとめようがなくなってしまう状況に陥ります。トランプ大統領が振り上げた拳の納め所がなくなり、自分の面子を潰す事も出来なかった直近の北朝鮮問題のエスカレートは正にそのケースでした。幸いにもと言うべきか、北朝鮮側が自重したのか過激な声明をややトーンダウンし、グアム島向けミサイル発射などの暴挙に出なかったので、やや平静化してトランプ大統領も静かになりましたが、あのままエスカレートが続いていたら全くどうなっていたか分かりません。

米国大統領としての役割と責任を改めて自己認識し、内外共に慎重かつ論理的思考に基づいた実効ある政策の作成・選択・決定・実施を願って止みません。

追伸:先月も残念ながら将棋に関しては何方からもご連絡が頂けませんでした。「家に篭らず外に出て活動せよ」との啓示と考え、将棋の虫はまだしばらく封印することにします。

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。